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続報・3MのPFAS生産停止、今は「嵐の前の静けさ」なのか湯之上隆のナノフォーカス(50)(1/5 ページ)

3Mのベルギー工場がPFASの生産を停止した。今回は、その影響についての続報として、代替品の調達状況や、PFAS生産停止に至った背景、今後想定される事態を論じる。

» 2022年05月18日 11時30分 公開

代替品を巡る水面下での調達合戦

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 2022年4月11日に、「3Mベルギー工場停止、驚愕のインパクト 〜世界の半導体工場停止の危機も」を寄稿した。この記事は、タイトル通り、驚愕的なインパクトを各方面にもたらしたようだ。

 というのは、この記事が掲載された後、筆者の元には、この件に関する問い合わせが絶え間なくあったからだ。また、毎年2回、セミナーを行っているサイエンス&テクノロジー社にも、筆者への講演のリクエストが多数寄せられたと聞いている(セミナー予定は文末を参照ください)。

 そこで、本稿では、この続編を報じたい。その前に、簡単に前掲記事の内容を振り返る。

 2022年3月8日に、3Mのベルギー工場がドライエッチング装置の冷媒に使うフッ素系不活性液体(PFAS[パーフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物]の一種、登録商標「フロリナート」)の生産を停止してしまった。そのフロリナートの世界シェアは、約50%あると推定している(図1)。

図1:ドライエッチング装置のチラー用冷媒の世界シェア[クリックで拡大] 出所:筆者の調査による推測値

 ドライエッチング装置では、ウエハーの温度を一定に保つために、チラーという装置を使ってフロリナートなどの冷媒を、静電チャックと呼ばれるウエハーステージに流し、循環させている(図2)。その際、冷媒がリークするため、リークした分を補充しながら冷媒を循環させている。

図2:ドライエッチング装置における温度制御の原理[クリックで拡大] 出所:野尻一男(Nanotech Research) 『はじめての半導体ドライエッチング技術』(技術評論社)、90ページの図4-16

 半導体工場では、最大3カ月程度の冷媒の在庫があるという。しかし、その在庫が底をついた場合、生産停止になったフロリナートの代替品を調達できなければ、ドライエッチング装置が稼働できなくなる。それはつまり、半導体工場が止まることを意味する。

 そのため、世界中の半導体メーカー各社およびドライエッチング装置メーカー各社は、フロリナートの代替品を求めて、激しい調達合戦を繰り広げている模様である。その代替品としては、3Mが米国工場で生産している「ノベック」(世界シェア約30%)と、ベルギーに本社があるソルベイがイタリア工場で生産している「ガルデン」(世界シェア約20%)がある。

 本稿では、まず、この代替品の調達の状況について報じたい。そこでは、日本メーカーが不利な立場に直面していること、日本以外の半導体メーカーも決して安泰ではないことを述べる。次に、なぜ3Mのベルギー工場において、突如フロリナートの生産が停止したのかを説明する。筆者が調べた限りでは、かなり根が深い問題であることが分かってきている。

 さらに、フロリナートの生産停止によって、今後、どのような事態が想定されるかを論じたい。最悪のケースとしては、クルマを含む各種電機製品が生産できなくなるだけでなく、社会インフラの維持が困難になることも想定される。大げさでなく、人類の文明が危機に直面していることを警告したい。

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