DMP×iCatch:エッジAIカメラ開発を加速する ハードウェアとソフトウェアをワンストップで提供、開発者の負担を大幅削減エッジAI

ディジタルメディアプロフェッショナル(DMP)と台湾iCatch TechnologyはエッジAIカメラソリューションで協業を開始した。DMPのAI認識モデルとiCatchのイメージングSoCを組み合わせ、ハードウェアとソフトウェアをワンストップで提供する。これにより、開発者はハードとソフトの個別調達や動作検証の手間を大幅に削減でき、開発期間の短縮とコスト削減が可能になる。自動車、セキュリティカメラ、ロボティクスなど幅広い分野での活用が期待される。

» 2024年10月01日 10時00分 公開
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AIの普及と課題

 生成AI(人工知能)をはじめ、爆発的に普及が進むAI。それに伴い、AI向けソリューションがハードウェア、ソフトウェアともに続々と市場に投入されている。ハードウェアについては、大手半導体メーカーだけでなくAI専用アクセラレーターを手掛ける著名な企業も市場に参入している。ソフトウェアも日進月歩で進化している。

 だが課題もある。ハードウェアベンダーとソフトウェアベンダーがそれぞれAI向け製品を出しているので、「両者を密に連携させて目標性能を出す」のが難しい。最先端のAI半導体を使っても、ソフトウェアの性能が不十分ではチップの性能を引き出せない。逆もまたしかりだ。

 ディジタルメディアプロフェッショナル(以下、DMP)の代表取締役会長兼社長CEOである山本達夫氏は、「今必要なのは、ハードウェアとソフトウェアをしっかり連携させ、一気通貫でAIソリューションを提供できるベンダーだ」と強調する。それを実現し、拡張しようとしているのがDMPだ。DMPは、同社が開発したAI認識モデルとカメラ用ISP(Image Signal Processor)に強みを持つ台湾iCatch Technology(以下、iCatch)のビジョンプロセッサーを組み合わせたビジョンAI向けソリューションを本格展開する。

GPU IPとAIモデルを20年以上手掛けるDMP

DMP 代表取締役会長兼社長CEO 山本達夫氏

 DMPは、大学発のファブレスベンチャー企業として2002年に設立された企業だ。「Making the Image Intelligent(画像を知能化する)」をパーパスに掲げ事業を展開している。主な事業内容は、GPUやAI関連のIPコアのライセンス提供、半導体/モジュールなどの製品提供、ADAS(先進運転支援システム)/自動運転用ソフトウェアなどの画像認識用ソフトウェアの提供だ。DMPは、AI推論用プロセッサIPとAI認識ソフトウェアの両方を展開。これらを組み合わせた総合的なAIソリューションの提供により、顧客のニーズに柔軟に対応し、画像の知能化というパーパスの実現に取り組んでいる。大手企業との協業も積極的に推進しており、その一例としてデンソーテンとの取り組みがある。両社は共同でADASのヒヤリハット画像解析技術を開発し、ドライブレコーダーの映像から危険な運転状況を自動抽出する技術の実用化に成功した。さらにDMS機能として「ながら運転」「居眠り運転」を自動検出する技術も開発し、ドライブレコーダーメーカーにライセンス提供している。こうした実績が評価され、2019年にはヤマハ発動機と業務資本提携を締結。この提携を通じて、AI機能を搭載した陸・海・空向けのモビリティ製品のハードウェアおよびソフトウェアの両面で開発協力を進めている。これらの取り組みは、DMPのパーパスである「画像の知能化」をさまざまな分野で実現する具体例となっている。

 これらの多様な実績からDMPは、ハードウェアからソフトウェアまでを包括的に理解し、最適なAIソリューションを提供できる稀有(けう)なベンダーといえる。

DMPの沿革 DMPの沿革 提供:DMP

10年以上日本市場向けにISP技術、SoCを提供してきたiCatch

 iCatchは2009年の創業以来、高性能なISPやイメージングSoC(System on Chip)技術を専門に開発してきた。その高い技術力と製品品質により、日本の大手デジタルカメラメーカーや大手自動車メーカーなど、画像処理技術に厳しい要求を持つ顧客からの信頼を獲得している。

 DMPは10年以上にわたってiCatchにIPライセンスを提供しており、両社の協力関係は長期にわたる。

カメラ向けSoC×AI認識モデル 実績のあるソリューションを組み合わせる

 両社が協業したAIソリューションの第1弾が、DMPのAI認識モデルとiCatchのイメージングSoCを組み合わせたカメラソリューションだ。AI認識モデルのSoCへの実装をサポートするDMPの開発サービスを追加することもできる。自動車、セキュリティカメラ、ロボティクスを主要ターゲットに、国内外の市場を狙う。DMPの取締役テクノロジー製品事業部長を務める梅田宗敬氏は、「両社の実績のあるソリューションを組み合わせている。ハードウェア、ソフトウェア、実装をワンストップで提供することで、最適なコストパフォーマンスを実現できると確信している」と語る。

DMPとiCatchが共同で提供するAIソリューションのイメージ DMPとiCatchが共同で提供するAIソリューションのイメージ 提供:DMP

 梅田氏が述べる通り、最大の利点はワンストップでソリューションを提供できる点だ。「さまざまなベンダーの製品調査からハードウェアとソフトウェアを組み合わせた後の動作検証まで、顧客自身で行っているのが現状だ。AI用ハードウェアを納品すると『AI認識モデルはどうすればいいのか』と尋ねられることもある。ハードウェアとソフトウェアをワンストップで提供できるベンダーは極めて少ない。今回の新しいAIソリューションはユニークなビジネスモデルなのではないか」(梅田氏)

DMP 取締役テクノロジー製品事業部長 梅田宗敬氏 DMP 取締役テクノロジー製品事業部長 梅田宗敬氏

 製品開発では試作を繰り返す。これは時間がかかる上に、特にAIソフトウェアは進化が非常に速いのでキャッチアップするのは簡単ではない。DMPのソフトウェアの強みについて梅田氏は、「ハードウェアを理解した上でソフトウェアを開発している点」だと述べる。

 日本国内のAI開発プロセスは、著名なGPUを使ってPoC(Proof of Concept)を作ることが多い。「GPUやシステム性能が良いので、AIモデル最適化やメモリアクセス量など細かい部分を気にせずにPoCを作ることができる。だがそれを最終製品に反映させると目標通りの仕様を実現できないことも多々ある。消費電力とコスト、性能をより高いレベルで最適化しなければならない組み込み機器では、特にこの課題が顕著に現れる」

 梅田氏は、エッジAIカメラ開発におけるDMPの独自の強みについて次のように説明する。

 「エッジAIカメラ開発では、コストや消費電力の制約下で高性能を実現することが求められる。われわれDMPの強みは、選択されたSoCに最適なAI認識モデルを提供できる点にある。これは、自社でNPU(ニューラルプロセッシングユニット)やGPU SoCを開発しているため、SoCやNPUの内部ハードウェア構造を深く理解しているからこそ可能と考えている」

 また梅田氏は「この知見を生かし、SoCハードウェアの特性を最大限に引き出すAIソフトウェアを開発している。最適なSoCの選定から、AIソフトウェアの最適化、軽量化、効率的な実装まで、一貫したアプローチを取れることがわれわれの強みである。これにより、高性能、省電力、コスト効率の高いソリューションを実現し、顧客の多様な要求に柔軟に対応していく」と自信をのぞかせる。

 「特にADAS(先進運転支援システム)や自動運転のような人命に関わるアプリケーションでは、処理速度も精度も必要になる。AIモデルの軽量化と精度を両立させ、いかにハードウェアを駆動してAI処理を高速に行うか――。われわれはそうした細かい最適化技術のノウハウを持っている。この技術が商用化され、市場実績があることも、お客さまにとって大きな安心材料になるのではないか」(梅田氏)

 今回のソリューションは、DMPがアプリケーションごとにAI認識モデルを最適化して提供する。「ベースのAI認識モデルの技術は共通化しておき、用途に合わせて最適化する方針だ。エッジ側でLLM(大規模言語モデル)を駆動するなどのトレンドも見据えて、技術的にキャッチアップしながら組み込み機器でLLMを動作させられるソリューションなども展開する予定だ」(梅田氏)

AIソリューションのデモボードの外観中央にはiCatchのSoCが搭載されている AIソリューションのデモボードの外観(左)。中央にはiCatchのSoCが搭載されている(右)[クリックで拡大]
デモボードに搭載されたカメラモジュールiCatchのSoC上でDMPのAIモデルを動かすデモの様子 左=デモボードに搭載されたカメラモジュール/右=iCatchのSoC上でDMPのAIモデルを動かすデモの様子。顔の輪郭や目、鼻などを正確に検知していることが分かる[クリックで拡大]

より良いAIにはより良い画質が不可欠

 ただし、今回のAIソリューションは「DMPの技術だけでは成立しない」と山本氏は述べる。ビジョンAIは、画質が良くなければ物体検出や人物検知はできない。AI用ハードウェアとソフトウェアの性能を生かすには“高品質な画作り”が必要になる。

 「iCatchの一番の強みであるISPは、端的に言えば画像の品質を上げる技術だ。当社のパーパスである“画像を知能化する”上でも、iCatchのISPの技術は不可欠だ。iCatchのISPとDMPのAI技術を組み合わせることで、画像の知能化のレベルをさらに引き上げられると確信している」(山本氏)

iCatch CEO Tony Lo氏 提供:iCatch Technology

 iCatchにとっても、DMPと協業してAIソリューションを提供できる意義は大きい。iCatchのCEOを務めるTony Lo氏は、「海外企業にとって、日本市場に参入するのは容易ではない」と語る。「商習慣も異なる上に市場実績を気にするので、日本市場参入の障壁は高い」。どれほど優れた技術を持っていても、海外メーカーにとっては「最初の一歩」を踏み出すこと自体が困難なのだ。DMPと協業してソリューションを提供できれば、日本にiCatchのISP技術を訴求しやすくなる。「iCatchは、SoCの設計および実装、顧客ベース、供給網などにも強みがある。DMPと組むことで、ISP以外の強みを打ち出しやすくなる」

 サポート体制も堅牢(けんろう)だ。AIソリューションは海外ベンダー製が多く、日本のユーザーはサポート面で不安を抱えていることも多い。「DMPは、数億台の顧客製品に搭載実績があるGPU IPだけでなく、GPUの自社製半導体製品も手掛けていて既に数十万個を出荷済みだ。実績に裏打ちされたハードウェア/ソフトウェアのサポートを今回の協業でも生かしていく」(梅田氏)

 「車載やセキュリティ、ロボティクス、ドローンなどの分野で手応えを感じている」(梅田氏)と言い、交渉が進んでいるプロジェクトもある。

 梅田氏は「われわれは、お客さまとの長期的なパートナーシップを重視している。AI機能は製品の重要な要素だが、あくまで全体の一部。われわれの使命は、AI技術の提供を通じてお客さまの製品価値向上に貢献していくことだ」と語り、顧客に寄り添う姿勢を強調した。

高まる半導体ビジネスの機運 日本×台湾で挑む

 コロナ禍による半導体不足をきっかけに、国内外で半導体業界への投資熱が高まっている。日本政府も例外ではなく、積極的な半導体政策を打ち出してきた。山本氏は「日本の半導体業界が再び盛り上がる機運が高まっていて、台湾メーカーも日本でのビジネス機会は大きいという感触を持っている」と語り、Lo氏も「台湾と日本が長期にわたって構築してきたパートナーシップを一段と深めることができる」と期待を寄せる。

 生成AIの普及で、テキストだけでなく画像の重要性が高まっていることも両社を後押しする。「画像は処理が重いなどの理由から取り扱いが難しかった。だが最近は音声や画像を入力に利用するマルチモーダルAIの活用も進んでいる。『画像を知能化する』というDMPのビジョンに技術がようやく追い付いてきた」(山本氏)

 今回のAIソリューションでは、まず汎用(はんよう)向けを狙う。ただし、「大きな流れとしては特定用途に合わせて最適化したいというニーズが強く、独自の半導体ソリューションを使いたいというケースも多く見受けられる」(山本氏)という。「汎用向けからスタートするものの、さまざまな産業の顧客に最適なAIソリューションを提供できるデザイン(設計)サービスを強化する。第1弾をプラットフォーム化し、各産業やアプリケーションに特化した個別ソリューションに最適化するデザインサービスにつなげるという構想を持っている」

 DMPとiCatchの強みを掛け合わせて生まれたAIソリューションは開発者の負担を削減し、AI搭載機器やシステムの開発を大きく変える可能性があるだろう。

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提供:株式会社ディジタルメディアプロフェッショナル
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2024年10月31日