自動車の電装化やソフトウェア定義型自動車(SDV)の推進などによって車載システムが進化し続け、インタフェースICを効率的に活用したシステム構築がますます大きな課題となっている。日本テキサス・インスツルメンツは、カメラやディスプレイ接続に使用する高速映像伝送インタフェース「FPD-Link」でこの課題を解決する。
Texas Instruments(TI)の日本法人である日本テキサス・インスツルメンツ(日本TI)は2024年10月、「車載システムで増え続けるインタフェースをどう扱うのか!?」と題したウェビナーを開催した。同社の東日本エリア車載事業部アプリケーションエンジニア辻 慎治氏、結城 靖夫氏が、カメラやディスプレイ接続に使用できる高速映像伝送インタフェース「FPD(Flat Panel Display)-Link」製品の最新技術および、進化する車載システムの課題に対応するための特徴などを紹介した。
FPD-Linkは、高帯域幅データを圧縮せずにリアルタイムで通信する目的で開発された、TI独自の車載SerDes技術だ。ビデオやセンサーのデータだけでなくオーディオ、クロック、双方向の制御信号をツイストペアまたは同軸ケーブル1本で伝送できる。SoC(System on Chip)やASICとのインタフェースはRGBやOpenLDI、MIPI CSI-2およびDSI、HDMI、DisplayPortなどに対応。車載インフォテインメントおよびクラスタにおいてはECU(電子制御ユニット)とディスプレイ間のデータ転送、ADAS(先端運転支援システム)ではイメージャーやレーダー、その他のセンサー間とECUとのデータ転送に用いられている。
車載ディスプレイではSoCがOpenLDIやDisplayPortなどで出力したビデオデータやI2Sのオーディオデータ、I2C、GPIO経由で送信された制御信号をシリアライザーが受け取る。それをFPD-Link信号に変換してツイストペア経由でデシリアライザーに伝送する。この際、制御信号などのデータは双方向で通信している。デシリアライザーはシリアライザーの逆の処理を行い、ディスプレイに搭載されたタイミングコントローラーにデータを渡す。ADASでは、カメラやレーダーなどのセンサーからデータをシリアライザーが受け取り、同軸ケーブルを介してデシリアライザーにデータを伝送する。ここでは同軸ケーブルを介して電源をセンサーに供給するPoC(Power Over Coax)も実用化されている。
ケーブルが長くなると、ケーブルの信号損失特性によって伝送信号のアイパターンが閉じてくる(信号の品質が下がる)という課題があるが、FPD-Linkデシリアライザーは複数のイコライゼーション機能によって高周波信号を回復できる。
自動車のE/E(電気/電子)アーキテクチャは、物理的な位置に関係なく特定の機能に基づいてECUをドメイン(技術領域)ごとに配置するドメインアーキテクチャが主流だ。しかし自動車の新機能採用やソフトウェア定義型自動車(SDV)推進の流れを受け、機能ではなく場所に基づいてECUを配置するゾーンアーキテクチャが注目を集めている。ゾーンアーキテクチャでは、通信/電力配線が効率化するからだ。FPD-Linkは、車載ディスプレイやカメラ/センサーなどの進化によるデータ量の増大に対応しつつ設置や配線の自由度がより高くなるように進化している。
車載ディスプレイ向けSerDesとしては、現在主流の「FPD-Link III」が2Kや3K、最新世代の「FPD-Link IV」は4Kおよび8Kという高解像度に対応する。8K対応品はサンプルを提供中で、圧縮技術「DSC」対応品を2026年以降にリリースする予定だ。「圧縮なしで真の4K以上の解像度をサポートするより高いデータレート(13.5Gbps)」を実現する。インタフェースはSoCのトレンドに沿って製品化しており、FPD-Link IVからはDisplayPortに対応する。
FPD-Link IVでは、デイジーチェーンやDisplayPort MST(Multi Stream Transport)を標準でサポートする。FPD-Linkの接続トポロジーは基本的にポイントツーポイントで、2チャンネル出力のシリアライザーを用いることで2画面に画像を伝送するスプリッタディスプレイが可能だ。デイジーチェーン接続すれば複数のディスプレイに画像を伝送できる。異なる解像度/コンテンツをデイジーチェーンで伝送する際は、DSI Virtual ChannelsやDisplayPort MST、Multiple DSI Ports、1枚のイメージに2枚の画像を埋め込むSuperFrameなどのマルチイメージ機能を用いることでシステムBOM(部品表)やケーブルコストを削減できる。4K以下の通信でもこうした要求が増加していることから、低解像度(2K)用のFPD-Link IV製品も提供する。
FPD-Link IIIの「94x/92xファミリー」に対する下位互換性がある他、システムレベルでASIL-Bに準拠している点も特徴だ。
車載カメラ用SerDesでは、FPD-Link IIIは解像度1Mピクセル(1.2Gbps)のサポートからスタートし、2Mピクセル(2.5Gbps)、4Mピクセル(3.9Gbps)とラインアップを拡充。FPD-Link IVおよびVでは8Mピクセル以上に対応する。カメラ側に搭載されるシリアライザーはCSPやBGAなどの小型パッケージを採用。解像度によらず完全ピン互換で、載せ替えやすい。デシリアライザーは複数のカメラ/レーダーを集約するECU用に複数の入力を1パッケージ化した製品を用意する。
ゾーンアーキテクチャにおけるADASの場合、デイジーチェーン機能を備えたFPD-Link IV製品を用いればエッジのカメラおよびセンサーからのデータをゾーンECUに搭載されたデシリアライザーがまとめ、セントラルECUのADASユニットにデータを伝送するシステムを構成できる。下位互換性もあるので「1M〜12Mピクセルのカメラ最大16台を単一のCSI-2ポートまたはデイジーチェーンに接続可能だ」という。
辻氏は、ADASでFPD-Linkを用いるメリットとして「レーン当たり最大10.8Gbpsかつエンコードオーバーヘッドはわずか3%と伝送効率が非常に高い技術であり、デイジーチェーンと下位互換性によってFPD-Link IIIよりも自由に構成できる。さらに、強力なイコライザーや伝送品質の管理機能など、伝送がより堅牢(けんろう)になっている」と強調した。
車載システムが進化を続ける中、データ量増大と配線効率化という2つの要件を両立する必要性が高まっている。FPD-Linkは、こうした課題に悩むエンジニアにとって有効な解決策となるだろう。
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提供:日本テキサス・インスツルメンツ合同会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2024年12月13日