バッテリー搭載機器の進化に伴い、バッテリー管理システム(BMS)の重要性が増している。MPS(Monolithic Power Systems)は、電源IC技術で蓄積したノウハウを生かしてBMS用ソリューションの拡大を強化している。多様な保護機能を統合してBMS設計の負担を減らすアナログフロントエンド(AFE)ICなど、“MPSならでは”の製品を提供している。
小型のモバイル機器から電気自動車(EV)、ドローン、エネルギー貯蔵システム(ESS)といった大型機器まで、マルチセルバッテリーを搭載する機器は増加の一途をたどっている。それに伴い、バッテリー分野ではバッテリーの大容量化や安全性の向上、低価格化などにつながる技術開発が進んでいる。中でも重要性を増しているのがバッテリー管理システム(BMS:Battery Management System)だ。
BMSはバッテリーを安全かつ長期間使用できるようにバッテリーの状態をモニタリング/制御するシステムだ。バッテリーのSOC(State of Charge:充電状態)やSOH(State of Health:健康状態)を正確に把握して制御することは、バッテリーの劣化を抑え、バッテリー性能を引き出すことにつながる。リチウムイオンバッテリーは適切に管理しないと熱暴走などが発生し、爆発や発火を引き起こす可能性もある。バッテリー搭載機器において、適切なBMSの搭載はバッテリーの大容量化や安全性の向上と並ぶ重要な要素になっている。
BMS用製品を強化しているのが米国のアナログ半導体メーカーMPS(Monolithic Power Systems)だ。同社はDC/DCコンバータをはじめとする高効率の電源ICソリューションの印象が強いが、近年はBMSソリューションのラインアップ拡充にも力を入れている。MPSジャパンでシニアFAEマネージャーを務める岩本純一氏は、「マルチセルバッテリーを使用するアプリケーションの急速な発展に伴い、バッテリーの長寿命化が以前にも増して求められている。バッテリー寿命を延ばすには、アプリケーション内部での電力バランスを考慮した製品設計が重要だ。当社が長年手掛けてきた電源ICの技術を生かせる分野だと判断し、BMS用ICの開発に着手した」と語る。
MPSが提供するBMSソリューションの一例が、マルチセルバッテリーの保護やセルモニタリング用のアナログフロントエンド(AFE)ICだ。モバイルバッテリーや電動アシスト自転車などをターゲットにしている。直列7〜16セルのバッテリーパック用ICである「MP279x」ファミリは量産中で、車載規格に準拠する「MPQ2797」はサンプル出荷中だ。他に電池残量計やアクティブバランサーもそろえている。
MPSのAFE ICの特徴は、さまざまな保護機能を搭載している点だ。競合品にはあまりみられない「DSGソフトスタート」「ランダムセルコネクション」「オープンワイヤプロテクション」といった保護機能を備えている。「MPSは、Monolithicと社名にある通り集積を強みとする。必要な機能をICに集積し、設計をシンプルにして開発者の負担を減らすことを開発の基本方針として掲げている。AFE ICに多様な保護機能を搭載していることもその表れだ」
DSGソフトスタートは、バッテリーパックに接続された保護用FETの故障を防止する機能だ。ゲート電圧を段階的に切り替えてゆっくりと上げることで、バッテリーパックからの電流が急増するのを防ぐ。加えて、ピーク電流を超えないように制御する。そのため最大定格電流が比較的小さい低コストのFETでも十分に保護の役割を果たせる。「ソフトスタートの設計によってはFETの電力損失が大きくなるので、定格電流が大きい高コストのFETを使うケースもある。MP279xは小型で安価なFETを使えるのでコスト削減に貢献できる」(岩本氏)。これはBMSの実装面積の削減にもつながる。
「DSGソフトスタートの他にも、電流をモニタリングしながらクローズドループ制御で実現する方法など、ソフトスタートには幾つかの方式がある。システムによって適している方式は異なるため、メーカーによってはあえてソフトスタート機能を搭載しない場合もある」(岩本氏)。MPSは設計の簡素化を優先し、DSGソフトスタート機能の搭載を選択した。
AFE ICの次世代品には、電力損失を一定に抑えつつスピーディーに起動するソフトスタート機能が搭載される予定だ。「DSGソフトスタートはゲート電圧をゆっくりと増加させるので時間がかかる。次世代品では一定の電力を維持するゲート駆動方式を取り入れて、より短時間でのソフトスタートが実現する」
DSGソフトスタートは、電源ICメーカーであるMPSの強みを生かした機能でもある。「きめ細かなゲート駆動ができる技術を持っているからこそDSGソフトスタートが可能になり、外付けFETも小型化できる。MPSが長年、電源IC技術として蓄積してきたノウハウを活用している」
AFE ICの制御自体は決して難しくはないと岩本氏は説明する。「ただし、バッテリーシステムには多数のワイヤが接続されているので浮遊インダクタンスによる発振などを考慮した設計を強いられる。回路設計のノウハウは必要なのでMPSにぜひ相談してほしい」
ランダムセルコネクションは、任意のバッテリーセル順に接続できる機能だ。アクティブな多セルバッテリーをすべて同時に接続するのは困難なため、バッテリーセルが任意の順番に活線接続されても破壊しない耐量をAFEに持たせている。
オープンワイヤプロテクションは、回路内で不具合が発生するとアラートを発してシステムを停止させる保護機能だ。MP279xに搭載されているマルチプレクサ(MUX)スイッチで各チャネルのセル電圧をモニタリングし、異常を検知する。
バッテリーのエネルギーの不均衡を調整するアクティブバランスは、特に大型のバッテリーシステムで不可欠になる。MPSのアクティブバランサーIC「MP2640」は、降圧バランスモード/昇圧バランスモードという2種類の動作モードで隣接するバッテリーセルのエネルギーを再配分する。降圧バランスモードの場合、不整合エネルギーを上部セルから下部セルに移動する。昇圧バランスモードではエネルギーを下部セルから上部セルに移動する。これによって高い効率でアクティブバランシングできる。
アクティブバランスで一般的な双方向フライバックトポロジーは部品点数が多く構成もやや複雑だが、降圧バランスモード/昇圧バランスモードは構成がシンプルなので設計の手間とコストを削減できる。「モード端子で昇圧か降圧かを選択するだけで、細かい設定は不要だ。こうした使い勝手の良さもあり、当社のアクティブバランサーは引き合いが強い」
新しいアクティブバランサー「MP2643」はバランス電流が最大2Aと大きいので、キロワットクラスのESSでも高速にアクティブバランシングを実行できる。
BMSに必要な回路や機能を統合したMPSのAFE ICにより、低電圧BMSも高電圧BMSもBOMを抑えて低コストで実現できる。
低電圧(24〜60V程度)のBMSは、直列16セル程度までのバッテリーパック、MP279x、電流センス抵抗、起動用と保護用の外付けFET、マイコンで構成できる。MPSは、これに電池残量ICやDC/DCコンバータなどのMPS製品を搭載したリファレンスボードや評価ボードも提供する。
高電圧のBMSは、複数のバッテリーセルとMP279x、マイコンから成るバッテリー管理ユニット(BMU)をスタックして構築できる。その際、各BMUのマイコンから信号を取り出す構成にも、MP279xは対応できる。また、デイジーチェーン構成はデータ送信用のインタフェースが1本で済む半面、コストは高くなるが、マーケットによっては配線を削減させるなどの強い要望があるため、ロードマップ品として開発に着手している。
MPSは、エンジニアに日本語で相談できるサポート専用サイト「MPS Now」を設けている。マルチセルバッテリー搭載機器のBMS設計に悩むエンジニアにとって、MPSはソリューションとサポートの両面で心強い味方になるはずだ。
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提供:MPSジャパン合同会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2024年12月17日