機器設計が複雑になる中、設計者にとって「いかに最適な半導体ソリューション」を選択するかが、ますます重要になっている。日本テキサス・インスツルメンツ(日本TI)は、都内で開催した「TI組み込み製品セミナー」で豊富なマイコン/プロセッサ群を紹介。さまざまなアプリケーション用に最適化したソリューションで、開発の加速に貢献したいと強調した。
産業用IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)技術の普及が進むにつれ、機器の設計はますます複雑になっている。高度な処理能力やセンサーフュージョン、無線通信機能など、要件はアプリケーションによって多岐にわたり、許容できるコストや消費電力も大きく異なる。一方で開発期間の短縮は常に求められている。そうした中、設計者にとって開発するアプリケーションに最適化された半導体ソリューションをいかに選択するかが重要になっている。
こうしたニーズに応えるべく、Texas Instruments(TI)の日本法人である日本テキサス・インスツルメンツ(日本TI)は2024年11月7日に都内で開発者向けイベント「TI組み込み製品セミナー」を実施した。TIのマイコンやプロセッサ、センサー、コネクティビティなどの最新製品や、設計者の課題解決につながるトータルソリューションを紹介するとともに、パートナー企業のデモを通じてTI製品の採用事例を多数展示した。
日本TIは、「日本市場におけるTIの組み込み製品のブランド認知拡大とともに、顧客とのエンゲージメントを深めることが狙いだ」と語る。
セミナーのオープニングセッションでは、日本TI 営業・技術本部 インダストリアルエリアFAEマネージャの小西学氏が登壇し、TIの特徴や組み込み製品における事業戦略を語った。
TIは、ソフトウェアで駆動するマイコンやプロセッサを「組み込み製品」と位置付けている。同社の2023年の売上高は175億2000万米ドルで、そのうちアナログ製品の売上高は130億4000万米ドル、組み込み製品は33億7000万米ドルだった。現在は組み込み製品の売上高比率は少ないが、小西氏は「今後は組み込み製品への投資も強化していく」と述べる。
用途市場別では、産業と車載が売上高全体の74%を占める。約15年前は通信市場などが売上高の7割ほどを占めていたが、そこから大きく変化した。
TIの特徴は、広範な製品群と自社工場での製造だ。製品群の多様さについては自らを「半導体のデパート」と称し、「TIの製品で全てのシステムを構築できるほどだ」(小西氏)と述べる。そうしたさまざまな製品を、IC単体ではなくシステムソリューションとして提供していくことがTIの基本的な戦略になっている。
組み込み製品でも豊富なラインアップをそろえる。マイコンでは動作周波数だけを見ても20MHzから数ギガヘルツまでを用意する。ソフトウェアのサポートにも注力しSDK(ソフトウェア開発キット)を共通化し、資産を再利用しやすくしていることも特徴だ。
TIの組み込み製品は、プロセッサとマイコンに大別される。分け方はシンプルで、Arm「Cortex-A」コアを搭載しているのがプロセッサ、それ以外のコアを使用しているのはマイコンになる。
マイコンでは、長く市場に展開している「MSP430」「C2000」など、独自コアベースのファミリもそろえる。価格帯も幅広く、「MSPM0」ファミリの安価な製品では0.16米ドルの品種もある。「ここまで低価格化を実現できると、簡単なロジックの代替として活用するなど、これまでの一般的なマイコンとは異なる使い方も考えられる。このように、多種多様なマイコン群を提供できるのは、われわれの強みだろう」(小西氏)
今後、拡張していくラインアップとして、Cortex-M0、Cortex-M33(動作周波数は160MHz/300MHz)、Cortex-R5の各コアを使用するファミリを挙げた。「Cortex-Rコアをカタログ製品として展開している半導体メーカーは意外にも少ない。だが、リアルタイム性を追求するにはCortex-Rコアが適しているので、同コアのラインアップが増えていくことは、ユーザーにとっては魅力的ではないか」(小西氏)
さらなるリアルタイム性を追及するユースケース用には、C2000ベースのマイコンという選択肢もある。2024年には、C2000ファミリの新しいコア「F29」を搭載したマイコンも登場した。「Armコアを好む顧客もいるが、C言語でプログラムを記述するなら、独自コアベースのマイコンとArmコアベースのマイコンにそれほど大きな差はない。安心して使ってほしい」(小西氏)
自社で工場を所有していることも強みになる。自社工場であれば、品質や生産能力を自社で確実にコントロールできるからだ。ファウンドリーへの製造委託が増加する中、「われわれのような存在は、まれになりつつあるのかもしれない」と小西氏は語る。
そうした中でTIは、継続的かつ積極的な投資によって生産能力を拡大し続けている。2023年には、米国ユタ州リーハイの300mmウエハー工場「LFAB1」を稼働させた。同工場では、65nm/45nmプロセスノードを用いて組み込み製品を製造している。さらに、リーハイでは2つ目の300mmウエハー工場となる「LFAB2」の建設も始まった。LFAB1に連携する工場で、2023年11月に着工し、2026年初頭に量産を開始する計画になっている。
「最先端プロセッサでは3nm世代、2nm世代といった最先端のプロセスノードが適用されているが、われわれが手掛けるアナログ混在の組み込みチップは、45nmプロセスが主流になる。45nmは成熟したプロセスであり、性能、コストの両面で“スイートスポット”でもある。このボリュームゾーンの生産能力増強に向けて投資を加速させていく」(小西氏)。TIの次期プロセスでは、フラッシュメモリの高密度化とコストの最適化、そしてアナログ/RFの性能向上などを実現する。
ただし、数ギガヘルツのより先端のプロセスを用いるプロセッサ製品については外部ファウンドリーでの生産になるが、サプライチェーンのリスク分散やBCP(事業継続計画)を踏まえ、外部ファウンドリーを利用する場合でも複数ファブで製造可能なデュアルソース戦略をとる。
小西氏は、「われわれが提供する価値とメリットは、製品の多様性と長寿性だ。顧客が使い続ける限り、製品を継続していく」と強調して講演を締めくくった。
オープニングセッションには、続いてパナソニック インダストリー社が登壇。TI製品を採用したサーボシステム「MINAS A7」を紹介した上で、次世代プロセッサへの期待として、1個のプロセッサで複数のアプリケーションを実現できるといったハードウェアの簡素化や、低レイテンシなどを挙げた。
セミナーでは、リアルタイム制御やエッジAI、セキュリティ対策、車載レーダー、Bluetooth Low Energy(BLE)/Wi-Fi6といった旬のテーマを取り上げたセッションを9つ開催した。以下に、簡単な概要を紹介する。
セッション3ではPRU-ICSSを解説した。
PRU-ICSSは、プログラマブルなRISCコアを持つ産業通信向けのサブシステムのこと。メインのArmコアとは別に搭載されているコプロセッサで、EtherCATやPROFINETといった産業用通信をサポートする。GPIOなどのペリフェラルも制御できる。このPRU-ICSSを搭載する組み込み製品としては、Cortex-R5Fコアベースのマイコン「AM2x」ファミリや、Cortex-A53コアを搭載したプロセッサ「AM6x」ファミリなどがある。実績としては20年ほど手掛けている。
AM2xの一つである「AM243x」は、セキュリティアイランドとしてCortex-M4Fも搭載し、ギガビットイーサネット(GbE)をサポートするPRU-ICSSを2つ備えている。「ここに興味を持ってくれる人も多い」(日本TI)。1つのPRU-ICSSには2つのスライスがあり、各スライスは動作周波数が333MHzのPRUコアを3個備えている。つまり、AM243xはPRUコアが合計12個(3コア×2スライス×2ユニット)搭載している。これら12のPRUコアは追加料金なしで自由にプログラムして使えるので、「使えば使うほどコストパフォーマンスを発揮する」と日本TIは述べる。
アプリケーションとしては、EtherCATやPROFINETといったオープンな産業用イーサネットから、カスタム/独自のプロトコルを活用したネットワークまでサポートする。EtherCATやIO-Link、PROFINETなどの産業用プロトコルについては、TIが既に認証を取得している。
セッション後には、より実践的なレベルでPRU-ICSSを理解できるハンズオンワークショップも開催された。
セミナー会場では、TIとパートナー16社がTI製品を用いたソリューションや、TIデバイスをサポートするソフトウェア、開発環境を展示した。
TIは、最近発表したディスプレイ用チップセットや、PRU-ICSSを搭載したAM243x、車載用SoC「AM62A3-Q1」を用いたデモを披露した。ディスプレイ用チップセットは、わずか9mm角のディスプレイコントローラICやDMD(デジタルミラーデバイス)などで構成され、4K UHDの高精細な映像を対角表示サイズ100インチ(2.54m)で投影できる。デモでは、スクリーンのゆがみに合わせて補正した画像を投影する様子も示した。
アプリケーションがこれまで以上に多様化する中、要件に合わせて最適化された半導体ソリューションを使用することは、設計者の負担軽減に大きく貢献するはずだ。「さまざまな市場のニーズに対し、TIの豊富な製品ポートフォリオをベースに最適化したソリューションを提供することで、ユーザーの開発を加速させ、早期市場投入に貢献したい」(日本TI)
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提供:日本テキサス・インスツルメンツ合同会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2024年12月31日