700℃以上の耐熱性を発揮する「新接合材料」 次世代パワー半導体の接合技術に革新をもたらす260℃でも強固な接合強度を発揮

次世代パワー半導体の製造を革新する可能性を持つ接合材料が登場した。千住金属工業が開発した「NFTLP接合材料」だ。接合中に融点が上がり、最終的に接合温度以上の耐熱性を発揮する。耐熱温度は700℃以上と極めて高く、260℃でも十分な接合強度を維持できることを確認している。どのような接合材料なのだろうか。

PR/EE Times Japan
» 2025年03月04日 10時00分 公開
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あらゆる電子機器の製造に欠かせない「はんだ」

 スマートフォンなどのモバイル機器から自動車、データセンターまで、あらゆる電子機器に欠かせないエレクトロニクス技術。AIが急速に普及する中、高性能なGPUやCPUが注目されがちだ。しかし電子機器の進化を支えているのはそういった最先端半導体だけではない。さまざまな半導体や電子部品、それらを実装するプリント基板(PCB)、そして実装に使われる接合材料も、電子機器の進化を支える存在だ。

 はんだなどの接合材料がなければ電子機器は完成しない。電子機器がその機能を発揮するためには接合材料が不可欠であり、接合材料は、電子機器の動作を支えているのである。

 そうした接合材料を開発しているのが千住金属工業(SMIC)だ。はんだ付け材料事業を中核に据え、はんだ付け用装置、すべり軸受事業も展開する同社は、国内外に50カ所を超える拠点を持つグローバル企業だ。1955年に国産初のやに入りはんだを量産して以来、はんだ付け材料の技術革新に取り組んでいる。2023年には、カーボンニュートラルに貢献すべく、汎用的な鉛フリーはんだに比べ融点が約80℃低いはんだを用いて低温実装を可能とする画期的なソリューション「MILATERA(ミラテラ)」を発表した。

 近年、サーキュラーエコノミー(循環経済)への注目度が急速に高まっているが、千住金属工業は既に1990年代から本格的に取り組んでいる。はんだの回収や分別を行う企業をグループ内に持ち、自社で発生したはんだ端材のリサイクル率は既に100%を達成している。また、クライアントの使用済みはんだも回収するなど、独自の「はんだリサイクルシステム」を構築し、リサイクル率向上にも積極的に取り組んでいる。はんだの開発、製造、リサイクルまで含め、「はんだのプロフェッショナル」ともいえる企業なのだ。

 その千住金属工業が、パワー半導体の接合に大きな革新をもたらす可能性のある接合材料「NFTLP接合材料」を開発した。最大の特徴は、「はんだ付けに近い温度で接合でき、接合中に融点が上がり700℃以上の耐熱性を発揮する」という点だ。特に動作温度が高いSiC(炭化ケイ素)パワー半導体の製造を大きく変える可能性がある。

 千住金属工業は2025年1月22〜24日に開催された「第17回 国際カーエレクトロニクス技術展」(東京ビッグサイト)に最大規模のブースを構え、NFTLP接合材料などを展示した。展示コーナーには多くの来場者が集まり、NFTLP接合材料を解説する技術セミナーは立ち見が出るほど盛況だった。

「第17回 国際カーエレクトロニクス技術展」の千住金属工業のブース[クリックで拡大] 提供:千住金属工業 「第17回 国際カーエレクトロニクス技術展」の千住金属工業のブース[クリックで拡大] 提供:千住金属工業

 大きな関心が寄せられたNFTLP接合材料とは、どのような材料なのだろうか。

700℃以上の高耐熱性を発揮

 NFTLP接合材料は、ベース材であるSn(スズ)とNiFe(ニッケル-鉄)を混合成形したものだ。NFTLPのNFは「NiFe」、TLPは「Transient Liquid Phase Diffusion bonding(液相拡散接合)」を意味する。接合する際に250℃で加熱すると、SnとNiの熱拡散反応により金属間化合物であるNi3Sn4(融点794℃)を形成する。Snの融点は232℃だが加熱中(接合中)にNi3Sn4が形成されることで接合温度以上の耐熱性を実現する。260℃という高温環境下でのシェア強度試験でも35.9MPaと高い強度を発揮していることが確認された。

NFTLP接合材料の概要。接合するために加熱すると、SnとNiの反応が進み、金属間化合物であるNi3Sn4を形成する。このNi3Sn4の融点が794℃と非常に高い[クリックで拡大] 提供:千住金属工業

 フィラー金属としてAg(銀)やCu(銅)を用いる方法もあるが、「NiFeを使うと金属間化合物の融点が圧倒的に高くなる上に、フィラー量(Snと混合する量)も少なく済む。金属間化合物中におけるSnの比率が多く、接合性に優れかつ高い耐熱性を実現できる」(千住金属工業)

SiCパワー半導体の接合を変える

千住金属工業 営業一部 瀬戸事業所 成田 圭佑氏 千住金属工業 営業一部 瀬戸事業所 成田 圭佑氏

 NFTLP接合材料によって、特に大きな恩恵を受けると想定されるのが、SiCパワー半導体など次世代パワー半導体の接合だ。

 パワーデバイス分野では、半導体材料として優れた性質を持つSiCを用いたパワー半導体の採用が増えている。EVや電車はSiCパワー半導体を搭載したインバータが既に使われており、今後より多くの製品でSiCパワー半導体の採用が見込まれる。SiCパワー半導体はSi(シリコン)パワー半導体に比べて低損失、高耐圧、高スイッチング特性といった特徴を持ち、パワーモジュールの小型化と軽量化を実現できる。一方で動作温度が200〜400℃と、Siパワー半導体の150℃以下に比べて大幅に高くなる。そのため、SiCパワー半導体を接合する材料には、高い耐熱性と、モジュールの放熱性を上げるため高い熱伝導率が求められている。「特に車載分野で、こうした接合材料へのニーズが非常に高まっている」(千住金属工業 営業一部 瀬戸事業所 成田 圭佑氏)

SiCパワー半導体は動作温度が高いため、高耐熱かつ高熱伝導率の接合材料が求められている[クリックで拡大] 提供:千住金属工業 SiCパワー半導体は動作温度が高いため、高耐熱かつ高熱伝導率の接合材料が求められている[クリックで拡大] 提供:千住金属工業

 SiCパワー半導体用の接合材料には、Ag焼結ペースト、Au-Sn系はんだ、Sn-Ag-Cu系はんだ、Sn-Sb(アンチモン)系はんだ、Sn-Sb-Ag-Cu系はんだなど複数の候補がある。融点が高いのはAg焼結ペーストとSn-Sb-Ag-Cu系はんだだが、貴金属を使用しているので環境負荷が高く、Agの添加量によってコスト高になる可能性があり、耐熱性、熱伝導率、環境負荷の面においてバランスが取れた新たな接合材料へのニーズが高まっている。

 千住金属工業のNFTLP接合材料は、そうした背景の下で開発された。「700℃以上の耐熱性と、260℃の環境下でも高い接合強度を備えたNFTLP接合材料であれば、冷却機構を簡素化でき、インバータの小型・軽量化に貢献できる」(成田氏)

Cu添加で熱伝導率を改善、Pb系高温はんだの置き換え可能に

 さらに、NFTLP接合材料にCuフィラーを添加することで熱伝導率を改善。35W/m・K以上と、Pb系高温はんだと同等レベルの熱伝導率を実現した。「熱的特性を向上させ、ダイボンディングやCuクリップボンディングに使われているPb系高温はんだの代替として使用できる。環境負荷を削減できることも大きなメリットだ」(千住金属工業)

 NFTLP接合材料をシート状に加工したNFTLPシートは、工法・厚み・熱伝導率などの要望を確認し、適した工法・製品を提案できる。

 ペースト状のNFTLP接合材料(NFTLPペースト)も開発した。開発当初はボイドやぬれ性の課題があったが、NiFe粉末に適切なめっき処理を施すことで改善した。

接合材料の耐熱温度/熱伝導率の比較[クリックで拡大] 提供:千住金属工業 接合材料の耐熱温度/熱伝導率の比較[クリックで拡大] 提供:千住金属工業

材料の配合と接合条件を提案

 はんだ付けは接合温度を超えれば再溶融する。それこそがはんだ付けのメリットであり、修理がしやすいという特徴を持つ。一方、NFTLP接合材料は加熱中(接合中)に融点が上昇し、接合時の温度まで加熱しても基本的に溶融することはない。

 NFTLP接合材料を使いこなすには、Sn/NiFeの配合や接合条件が重要になる。千住金属工業は、顧客の要件に適したNFTLP接合材料および接合条件を提案する。「提案内容で課題が見つかった場合、顧客と協力して課題を解決する。ユーザーにとって最も気になる要素の一つが再溶融の温度なので、しっかりとサポートする」(成田氏)

 NFTLP接合材料は、リボン、ペースト、ペレットでの提供を予定している。サンプルの提供も可能だ。実装温度は250℃で、リフロー雰囲気は窒素雰囲気、還元雰囲気のいずれにも対応している。「はんだと同様に扱えて、特殊な装置も不要なので大規模な追加投資は必要ない」(成田氏)

NFTLP接合材料や接合事例を展示したNFTLP接合材料や接合事例を展示した 第17回 国際カーエレクトロニクス技術展のブースでは、NFTLP接合材料や接合事例を展示した。写真左はNFTLP接合材料。リボン、ペースト、ペレット(写真左奥)の形状に対応する。写真右は接合事例で、試験用DBC基板にSiチップを接合したもの(写真右側の黒い部分がSiチップ)と、接合していないものも展示した[クリックで拡大]

NFTLP接合材料は「ノウハウの結集」

 NFTLP接合材料には、千住金属工業のノウハウが詰まっている。「SnにNiFeを添加すると言うと簡単に聞こえるかもしれないが、まずNiFeの微細な粉末を作ることだけでも難易度が高い。NiFeは融点が高いので、それを均一に微細粒子にすることは難しいからだ。粒子一つ一つにめっきを施す技術も、われわれに蓄積したノウハウがあるからこそ実現できることだ。さらに、粉同士をシート状に形成するところも難しい。NiFe粉末の製造、粉末へのめっき、そしてシート状への加工。これら3つにおいて高い技術力がなければNFTLP接合材料のような材料を開発することは難しい」(成田氏)

 半導体の性能進化には、動作温度の上昇や発熱の増加など、実装上の課題を伴うことも少なくない。接合材料も、そうしたデバイスの進化に沿って、着実に進化している。千住金属工業が開発したNFTLP接合材料は、SiCパワー半導体の接合に革新をもたらし、次世代パワーモジュールの普及を支える重要な材料になるはずだ。

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提供:千住金属工業株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2025年3月10日

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