高出力レーザーシステムに革新を ついに実現した「大型ガラス製ファラデー素子」大型光アイソレーターに対応

レーザーシステムに欠かせない光アイソレーターの世界を大きく変える技術が登場した。日本電気硝子は、既存の光アイソレーターを大幅に小型化するガラス製ファラデー素子を開発。さらに、110mm角の大口径ガラス製ファラデー素子の開発にも成功した。先端医療や宇宙開発、核融合などに必要とされる高出力レーザーシステムに大きな変革をもたらす可能性がある。

PR/EE Times Japan
» 2025年03月31日 10時00分 公開
PR

レーザーシステムを変える期待の素材「ガラス」

 産業分野や通信分野、医療分野など、さまざまな分野で活用されているレーザーシステム。近年は、精密な加工や計測、先端医療、宇宙デブリの除去や回収、核融合などの分野で、より高精度、高出力のレーザーシステムが求められるようになっている。そうしたレーザーシステムの発展に大きく貢献すると期待されている素材が「ガラス」だ。

 ガラスにさまざまな性能や機能を付加した「特殊ガラス」を70年以上にわたり手掛ける日本電気硝子は、レーザーシステムの光アイソレーター向けに、従来は難しいとされていたガラス製のファラデー素子を開発した。既存の単結晶を使うファラデー素子の課題を解決し、これまでは実現できなかったサイズや特性の光アイソレーターを開発できるようになる。

 日本電気硝子 常務執行役員 研究開発本部長である角見昌昭氏は「ファラデー素子用のガラスの開発は古くからさまざまな企業が挑戦してきた。だが、既存品に用いられている単結晶よりも優れた特性は出せないといわれていた。われわれはそこを解決するガラスを開発し、大きなブレークスルーを果たした」と強調する。同社は、高出力レーザーに対応する大型ガラス製ファラデー素子の提供と、従来に比べ大幅に小型化した光アイソレーターの提供という2軸の戦略で、ガラス製ファラデー素子事業を加速させていく。

日本電気硝子 常務執行役員 研究開発本部長 角見昌昭氏

さまざまなサイズが要求される光アイソレーター

 光アイソレーターは、照射されたレーザーが対象物などに反射し、戻ってくる「反射戻り光」から光源を保護するためのデバイスだ。反射戻り光がレーザーシステム内に入ってしまうと、レーザー発振が不安定になる他、光源の破損やノイズの発生にもつながる。光源を守り、レーザーシステムの安定性を維持するためには欠かせない部品である。

 ファラデー素子は、光アイソレーターの中核を担う。光アイソレーターは、磁石とその中に置かれたファラデー素子および、その前後に配置された2つの偏光子で構成される。磁石で磁場をかけ、その磁場中にあるファラデー素子を入射光が通ると、入射光の偏光面が45度回転。あらかじめ45度に傾けた偏光子を光が通過する。反射戻り光が対象物から戻ってファラデー素子を通るとさらに45度回転。入射光に比べると90度回転していて、偏光子に対し垂直になるので光は通過できない。このようにして戻り光を遮断する。

光アイソレーターの構成 提供:日本電気硝子

 一般的なレーザーシステムでは、シードレーザー(種光)をファイバ増幅器で増幅し、さらにそれを固体増幅器で段階的に増幅することで、高出力レーザーを作り出す。これらの増幅器の前後には必ず光アイソレーターが使われる。増幅されて大きくなっていくビーム径に合わせて光アイソレーターの口径(有効径)も大きくしていく必要がある。日本電気硝子は、ファイバ増幅器に対応するファイバアイソレーターの他、さまざまな有効径に対応するフリースペース型の光アイソレーターも開発し、展開中だ。

 さらに、核融合などに必要とされる100Jクラスの高出力レーザーシステムでは、レーザーのビーム径が非常に大きくなるので、それに対応できる大型のファラデー素子が求められている。日本電気硝子は、既存の単結晶ファラデー素子では困難だった大型化を実現し、110mm角という大口径のガラス製ファラデー素子の開発にも成功した。

日本電気硝子の光アイソレーターのラインアップ。小型・中型の光アイソレーターはカスタム対応が可能だ 提供:日本電気硝子

 日本電気硝子 研究開発本部 開発部の鈴木太志氏は「ガラス組成を設計し、用途に合わせて特性を調整したガラスを開発することは、われわれの得意領域だ。ファラデー効果を大きくする、大型化に適したガラスを作る、といったさまざまなニーズに対応できる」と述べる。

光アイソレーターを大幅に小型化

 そうした強みを生かし、日本電気硝子は光アイソレーターを大幅に小型化するファラデー素子用ガラスの開発に成功した。ベルデ定数が大きいガラス「FM-02」だ。

 偏光面の回転角(ファラデー回転角)は「V(ファラデー素子の材料のベルデ定数)×H(磁場)×L(ファラデー素子の長さ)」で表せる。ベルデ定数が大きい材料を使うほど、磁場が小さくて済む。つまり小型の磁石を使えるので、光アイソレーターも小型化できる。

 従来、ファラデー素子にはYIG(イットリウム鉄ガーネット)やTGG(テルビウムガリウムガーネット)などの単結晶が用いられてきた。YIGは、ファラデー効果は大きいが、鉄が光を吸収するので、高出力レーザーには対応しにくい。一方のTGGは、可視〜近赤外の波長で光吸収が無いTb(テルビウム)の磁性を利用しており、光を吸収する鉄などの材料がないので高出力レーザーに対応できるという利点を持つ。そのため、既存の高出力レーザーシステムではTGG製のファラデー素子が主流になっている。

 日本電気硝子が開発したFM-02はTb含有量が60mol%以上と多く、ベルデ定数はTGG単結晶の1.7倍も高い。FM-02をファラデー素子に使うことで磁石を小型化でき、TGGを使った従来品に比べ、光アイソレーターを大幅に小型化した。

磁石にくっつくほど高い磁性を持つ「FM-02」 提供:日本電気硝子

 日本電気硝子は、FM-02をファラデー素子として用いたファイバ型光アイソレーターの量産を開始。サイズは20×20×53mm(ファイバ接続部分を除く)となっている。光を一方向に循環させる機能を持つ光サーキュレーターへの応用展開も始めている。「既存の光アイソレーターは大き過ぎて、機器への搭載が難しいケースも多い。性能を向上させつつ小型化してほしいという根強いニーズがあった」(角見氏)

 日本電気硝子の光アイソレーターは、形状やサイズだけでなく、レーザーの波長(色)に合わせたガラスを用いるなど、ファラデー素子の特性もカスタマイズできる。

 こうしたカスタマイズは、ガラスの課題である“割れやすさ”の解消にも貢献する。レーザーの波長に対して完全に透明なガラスを作ればエネルギーを吸収しないので、耐熱衝撃性を高められるからだ。顧客が使用するレーザーの波長に合わせてガラスをカスタマイズし、熱衝撃に強い光アイソレーターを提供できる。これも、日本電気硝子が持つ大きな利点だ。

大口径に対応した光アイソレーターも開発

日本電気硝子 研究開発本部 開発部 鈴木太志氏

 光アイソレーターの小型化とともに日本電気硝子が注力しているのが、大型の高出力レーザーをターゲットにした大口径ファラデー素子の開発だ。特にターゲットとしているのが、レーザー核融合である。核融合発電はクリーンな発電技術として注目されている。2022年には、米ローレンス・リバモア国立研究所がレーザーによる核融合点火に成功したというニュースが発表され、大きな話題を呼んだ。核融合発電を実用化できる可能性が一気に高まったからだ。

 レーザー核融合で発電するには、シングルショットではなく高速にレーザー照射を繰り返し、核融合反応を起こし続ける必要がある。反射戻り光はレーザー照射のたびに発生するので、その対策に光アイソレーターは欠かせない。ただし、核融合に使われるレーザーシステムは1ユニットでトレーラー1台分ほどにもなる巨大な装置であり、レーザーの最大ビーム径もφ90mmと非常に大きい。これに対応できる光アイソレーターにはφ100mm以上の大口径ファラデー素子が必要だが「われわれが知る限り、現時点では存在していない」(鈴木氏)。それを実現する材料として、ガラスが期待されているのだ。

 YIGやTGGのような単結晶を大型化するのは非常に難しい。結晶に1カ所でも欠陥が入ると使えなくなってしまうからだ。欠陥のないきれいな結晶を成長させるには時間がかかり、従ってコストも高くなる。「TGGのセラミックスも開発されているが、φ100mmの大口径を作ることは難しく、現在はφ50mm程度が限界とされている。それとは対照的に、ガラスは大型化しやすい素材なので、大きな期待が寄せられている」(鈴木氏)

 日本電気硝子は、FM-02とは異なる組成のガラスを用いて、110×110mmという大口径のガラス製ファラデー素子の開発に成功した。「ベルデ定数を高くすると、ガラスを大型化しにくくなるというトレードオフがある。そのため、ベルデ定数はTGG単結晶と同程度だが、大型化に適した組成のガラスを設計した。現在、大型光アイソレーターへの応用を進めている」(鈴木氏)

110×110mmの大口径ファラデー素子 提供:日本電気硝子

 大口径ファラデー素子については、日本電気硝子が素子を提供し、光アイソレーターの開発は他の機関/企業とパートナーシップを締結して進める予定だ。

「材料を100%生かし切る」ためにアセンブリまで行う

 小型/中型の光アイソレーターについては、日本電気硝子がガラス製ファラデー素子を含めて自社で設計し、アセンブリまで行って販売する。角見氏は「材料を100%生かし切るには、その材料をよく知っている企業が光アイソレーターまで設計した方がよい」と語る。「光アイソレーターの設計やアセンブリまで手掛けると、課題を見つけやすくなる。そうした課題をガラス製ファラデー素子の設計に即座にフィードバックできるので、光アイソレーターの改善がスピーディに進む」

 角見氏は「レーザー核融合は日本にとって極めて重要な発電技術だ。われわれの材料で、この分野に貢献するためにも、光アイソレーターやファラデー素子の課題をできるだけ早く把握し、解決することが必要だ。ファラデー素子単体だけでなく光アイソレーターの設計とアセンブリまで手掛ける意義はそこにある」と強調する。

これまで諦めていたレーザーシステムを実現できる可能性も

 ガラス製ファラデー素子の開発の歴史は古く、長年にわたり、さまざまな企業が開発に挑戦してきた。だが、結晶よりも優れた特性をガラスで実現するのは基本的には難しく、耐熱衝撃性などガラス特有の課題の解決が困難だったことから、多くの企業が撤退していった。「そうした中で、当社は特殊ガラスの開発で蓄積した技術力を生かし、多くの課題を乗り越えて大口径ガラス製ファラデー素子の開発に至った」(角見氏)

 ガラス製ファラデー素子の存在は、少しずつ知られるようになっている。加工装置や半導体製造装置では強い引き合いがあり、カスタマイズの要望も増えてきた。「『要件に合う光アイソレーターがないから、レーザーシステムの開発を諦めた』という開発者の方に、ぜひわれわれのガラス製ファラデー素子や光アイソレーターを知ってもらいたい。何でも気軽に相談してほしい」と角見氏は力を込める。

 ガラスを知り尽くした日本電気硝子が開発したファラデー素子は、レーザーシステムの発展に大いなる貢献を果たすはずだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:日本電気硝子株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2025年4月29日

関連リンク