大電力を供給できるUSB PD(Power Delivery)に対応したUSB Type-Cポートは、利便性の高さから自動車でも採用が進んでいる。だが、USB Type-C/USB PDは60Wや100W、240Wなどのさまざまな出力が存在する上、搭載ポート数の増加や各種スマートフォン向け充電規格への対応も不可欠で、USB Type-C/USB PDポートの設計には課題がある。MPSが提供するマイコン搭載のUSB PDコントローラーは、こうした課題を解決し、USB PDポートの設計に柔軟性を与えるものとなっている。
USB Type-Cが登場して10年以上が経過した。裏表のないリバーシブルのコネクターや最大40Gbps(USB4 Gen 3の場合)のデータ転送速度、そして最大100Wの電力供給が可能なUSB PD(Power Delivery)あるいは最大240WのUSB PD EPRにも対応する――。こうした仕様は利便性が高く、特にUSB PDに対応するUSB Type-Cの用途は多くの分野に広がっている。
スマートフォンやノートPCではほぼ標準搭載になりつつあるUSB Type-Cは近年、自動車でも普及が進んでいる。特に車内でスマートフォンなどを充電するニーズの高まりから、USB PD対応のUSB Type-Cポートを標準装備する自動車が増えてきた。
市場調査会社のSpherical Insightsが2024年8月に発表した予測によれば、車載用USB PDシステムの世界市場規模は2023年に22億米ドルに達するという。今後も、年平均成長率18%で成長し2033年には116億米ドル規模に成長すると予測している。MPS(Monolithic Power Systems)の日本法人であるMPSジャパンでフィールドアプリケーションエンジニア(FAE)を務める岡野力氏は「グローバルでは、2025年あたりからUSB PDに対応したUSB Type-Cポートの搭載が主流になってくるだろう。2〜3年後には、車載のUSB Type-CポートはUSB PD対応が占めるとみている」と語る。車載用USB Type-CポートのUSB PDの出力については、現在は45Wが主流で、中国では先行して60Wの普及が進む。「2027年ごろからは100W対応が始まると、MPSはみている」(岡野氏)
一方で、車載用USB PDポートの設計においては課題もある。1つ目は、USB PDというグローバルな標準規格以外にも複数の充電規格があることだ。Qualcommが開発した「Quick Charge」、Appleが開発した「iOS」デバイス用の独自仕様など、プロセッサメーカーやスマートフォンメーカーなどが独自の充電規格を開発し、採用しているケースも多い。そうするとホスト側(給電側)とスマートフォンなど受電側のネゴシエーションがうまくいかず、充電できないケースもある。もう一つが、車載用バッテリー電圧の高電圧化だ。自動車では、12V電源システムから48V電源システムへの移行も進んでいて、車載バッテリー電圧の変化にも対応する必要がある。そのため、ひとくちに「USB Type-C/USB PDポートの設計」と言っても、さまざまな仕様に対応しなくてはならないという課題があるのだ。
この課題を解決すべく、車載用USB Type-C/USB PDポートやチャージャー向けのソリューションを強化しているのがMPSだ。
ファブレスのアナログ半導体メーカーであるMPSは、豊富なラインアップを誇る昇降圧DC/DCコンバーターと、USB PDコントローラーを組み合わせたソリューションを、民生機器や車載用のUSB PDポート設計向けに提供してきた。数年前には、マイコンを搭載したUSB PDコントローラー「MPF52000」シリーズを開発。USB PD向けの製品群をさらに拡充している。
MPSのソリューションの最大の特徴は、DC/DCコンバーターとMPF52000シリーズを組み合わせることで、幅広い仕様があるUSB PDのあらゆる出力とポート数に対応するという点だ。低出力から高出力まで、ポート数もシングルポートからデュアルポート、トリプルポートまで、幅広くカバーしている。「特に60Wや100W、140Wなどにも対応できることが今後の鍵になる」と岡野氏は述べる。上述した通り、中国では60W対応のUSB PDが先行して普及が進んでいる。出力電力は、ここからさらに100Wや140Wに増加していくと予想されている。そこで鍵になるのが、数年前にポートフォリオに加わったMPF52000シリーズだ。
MPF52000シリーズはCPUコアとしてArm「Cortex-M0」を採用し、128Kバイトのフラッシュメモリと12KバイトのSRAMを搭載する。マイコンを搭載しているので、USB PDの今後の仕様変更にも柔軟に対応でき、設計工数の削減にも貢献するという大きなメリットがあると岡野氏は強調する。
マイコン搭載が特に力を発揮するのが、大電力の対応だ。USB PDは、消費電力が大きいノートPCなどにも給電できる。電力供給能力は、最新規格であるUSB PD 3.2では最大100W、USB PD EPRでは最大240Wに引き上げられた。だが、大電力だとデバイスが発熱しやすくなり、誤動作や故障につながる。マイコンが搭載されているMPF52000であれば、ソフトウェアを書き換えるだけできめ細かい電力制御が可能になり、こうした不具合を防止できるようになる。「複数ポートに適切に電力を配分したり、発熱を検知したら電力供給を抑えたりといった、細かい調整が可能になる。これから先、USB PDの規格が更新されてさらに大電力を供給できるようになった際にも、MPF52000シリーズであれば柔軟に対応できる」(岡野氏)
受電側デバイスの急速充電仕様のばらつきにも、容易に対応できるようになる。前述したように、スマートフォンやタブレット端末などではメーカーが独自の充電規格を採用している場合があり、機種によって異なる電力要求命令が送信される。ホスト側となるUSB PDコントローラーとのネゴシエーションがうまくいかないと、充電できないなどのトラブルが発生する。MPF52000であれば、マイコンのソフトウェアを書き換えるだけで、そうしたメーカー間/機種間の仕様のばらつきにも対応できるのだ。
しかもMPF52000に搭載されているマイコンは、USB PDの機能を実現するために必要なファームウェアが既に構築されている。そのため、メーカーや機種の違いにより生じる仕様のばらつきを修正する部分のみ書き換えるだけでよい。比較的容易にソフトを書き換えられるのは、ハードウェア設計者にとっても利点だろう。
MPF52000シリーズとしては、シングルポート対応の「MPF52001」、デュアルポート対応の「MPF52000/52000-A/52000-B」、トリプルポート対応の「MPF52003」のラインアップをそろえている。MPF52000-Bは、マイコンとして使用したいアプリケーションに備えてGPIO端子数を増やした品種になる。
MPF52000と組み合わせる昇降圧DC/DCコンバーターは、PC向けなどで十分な市場実績を持つ製品の車載対応品だ。MPS独自のプロセス技術を用いることで、高い電力効率を実現した製品でもある。「USB PD専用のDC/DCコンバーターではないが、PC分野で培ったノウハウを生かしつつ、MPF52000シリーズと組み合わせることで、USB PDポート設計向けに最適化されたソリューションとなる」(岡野氏)
回路構成もシンプルになるので、設計工数も削減できる。デュアルポートで出力60WのUSB PDポートを設計する場合、MPF52000と昇降圧DC/DCコンバーター2個に加え、周辺部品として抵抗器とコンデンサー、インダクタで構成できる。BOMコストを低く抑えられる。
100W/デュアルポートの設計であれば、昇降圧DC/DCコンバーターを置き換えればよい。ただし、100Wだと電力が高いので、DC/DCコンバーター1個当たり2個の外付けFETが必要になる。「DC/DCコンバーターにFETが内蔵されているので、外付けFETが2個で済む。ディスクリートで構成する場合、外付けFETは4個必要になるところが半分になるので、実装面積の削減に貢献する。出力100W向けのソリューションを6.7×6.0cmと小さいサイズで実現できている。変換効率も98%と高いので発熱も抑えられる」(岡野氏)
現時点で最大電力となる240W向けでは、4個のFETを全て外付けにして構成する。12V電源システムで出力240Wでは、上記の100W出力よりもさらに発熱が大きくなるので、熱設計の難易度が上がる。「そこも、変換効率が高いMPSのDC/DCコンバーターを使うことで熱を抑制できる。大電力である240Wにも対応できる」(岡野氏)
USB Type-CにはDisplayPortで映像を転送できるDisplayPort Alt(Alternate) Modeがあるが、MPF52000シリーズは全てDisplayPort Alt Modeにも対応している。
使い勝手のよい開発ツールも準備している。ドングルボードを介してPCに接続すれば、GUI(Graphical User Interface)を使って簡単に開発することが可能だ。さらに、サポートサイト「MPS Now」では、MPSジャパンのエンジニアに日本語で相談できる。
MPSでは、24Vおよび48V電源システムに対応するソリューションも用意している。
USB PD対応のUSB Type-Cは、使い勝手の良さから自動車への搭載がますます進むだろう。ポート設計に柔軟性と拡張性を与えてくれるMPSのマイコン搭載USB PDコントローラーは、エンジニアの力強い味方になってくれるはずだ。
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提供:MPSジャパン合同会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2025年7月18日