“音を聴くクルマ”が切りひらく自動運転の次なるステージ ―― インフィニオンのIVSが示す可能性「穴」の問題を根本から解決!

自動運転の精度向上には“聴覚”の実装が不可欠だ。インフィニオン テクノロジーズの新センサー「IVS」は、MEMSマイクの課題を克服し、クルマに“音を聴く力”を与える。

PR/EE Times Japan
» 2025年07月22日 10時00分 公開
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クルマに求められる聴覚の再定義──視覚センサーの限界を超えるために

 ドライバーは視覚情報だけなく、“音の変化”も捉えている――。先進運転支援システム(ADAS)の高度化、そして、高度な自動運転システムの実現に向けて努力を続ける自動車開発の最前線で「聴覚」の再定義が始まっている。

 これまで、ADAS/自動運転を実現するため自動車にはカメラ、ミリ波レーダー、LiDARといったセンサーの搭載が進んできた。いずれのセンサーも、技術革新や生産量の拡大で課題であったコストもずいぶんと下がり、高級車だけでなく、大衆車にも複数個のセンサーが搭載されるようになった。こうしたことから、レベル4やレベル5といったより完全な自動運転に向けたセンシング技術の基盤は整っているように思える。しかし、現状のセンシング技術だけでは、足りないことがある。

 カメラ、ミリ波レーダー、LiDARは、いずれも車外の情報を光や電波で直接捉えるセンサー。見通しが利く、目に見える範囲の情報を捉えるいわば“視覚系センサー”である。逆を言えば、見通しが利かないところはセンシングできない。遮蔽物の向こう側など車体の死角に存在する対象をリアルタイムに検知できないのだ。

 一方で、ドライバーは視覚情報だけでなく、音の変化や気配も運転の一助にしている。緊急車両のサイレン音や近接車のクラクション、異音による車両の不具合検知、路面の水たまりを踏んだときの音、雨音の強弱などだ。従来のADASや自動運転システムは「音」をセンシングデータとして取り込めていない。音をセンシングして見えない先から接近する緊急車両や歩行者、バイク、さらには路面の状態変化までも予兆して捉えられれば、完全な自動運転の実現に近づくはずだ。自動運転システムに限らず、緊急車両の音がどの方角から聞こえるかがドライバーに伝わるだけでも安全運転の助けにもなるだろうし、さまざまな音の変化をクルマが捉えられれば聴覚に特性のあるドライバーもより安心して運転を楽しめるはずだ。

 クルマが音を捉えるためには、センサーとしてマイクを取り付ければ済む。マイクは、カメラ、ミリ波レーダー、LiDARに比べ、古くから存在する“こなれたセンサー”であり、簡単に搭載できるように思える。クルマの電子化、ADAS搭載が始まったころにはマイクの搭載が検討された。しかし、現在のクルマに搭載されるマイクは、ボイスコントロール用や雑音を低減するノイズキャンセリング用といった主に車室内の快適性を高める用途に限られている。運転に役立つ車外の聴覚情報を取得する運転支援用途での利用はほぼ皆無だ。それほどに、車外の音を拾うということは難しいのだ。

 マイクで音を拾うだけなのに、なぜできないのか。「穴」と「音を拾いすぎてしまう」という2つの大きな課題が存在するのだ。

車外の音をどう拾うか──MEMSマイクに立ちはだかる物理的課題

MEMSマイクの構造 MEMSマイクの構造。音波を直接検知するため「穴」がどうしても必要になる[クリックで拡大] 提供:インフィニオン テクノロジーズ

 マイクは、空気中を伝わる振動を振動膜(ダイアフラム)で検知し電気信号に変換する。そのため、振動膜を空気に触れさせる必要がある。この構造はコンデンサーマイクだけでなく、半導体製造技術を応用しシリコンなどで微小な振動膜を形成するMEMSマイクも例外ではない。MEMSマイクのパッケージには、振動膜を空気に触れさせるための「穴」が必ずある。

 当然、この穴がふさがってしまうと、音の検知能力は低下し、マイクとして機能しなくなる。雨や泥、土ぼこりにさらされるクルマの外装にマイクを取り付けた場合に、この穴がふさがらないように対策することがいかに難しいかは想像できるだろう。デザイン性の観点からも、外装に穴を空けることは好ましくない。メッシュ状のフィルムカバーで穴を保護したり、デザイン性を損なわずかつ雨などの影響を受けにくいサイドミラーの隅に配置したり、対応策はいくつか存在するものの、高圧洗浄なども行われるクルマにおいて、穴がふさがるという可能性を完全に排除することは、難しい。安全を担保するADAS/自動運転システムのセンサーとしては致命的な課題だ。

 さらにもう1つの課題がある。音を拾いすぎるという問題だ。これも想像にたやすいだろう。クルマが静寂の中で走行することはまずあり得ない。都会の騒がしさ、雨音などだけでなく、自車の走行音、さらには、風切り音。クルマが走行する限り絶対に逃れられない音が存在する。以前にマイク搭載が検討されたADAS導入初期に比べると、プロセッシング能力の向上やAIの登場で音声処理技術は進歩した。その結果、さまざまな音の中で任意の音だけを抽出、認識できるようになっており、音を拾いすぎるという課題は小さなものになっているが、極めて高度な技術が必要だ。

 こうした課題に突破口を見いだし、ADAS/ADに聴覚を加えようとしているのが、MEMSマイクベアチップでトップシェアを誇る*)インフィニオン テクノロジーズだ。

*)Omdia MEMS Microphone Report 2024

音の方向まで捉える──高精度マルチマイクアレイで広がる可能性

 インフィニオンは、ノイズキャンセリングヘッドフォン/イヤフォン、スマートフォンなど民生機器をはじめとした幅広い用途にMEMSマイクを、ベアチップ形状の他、ベアチップとASICを混載したパッケージ品として提供している。車載用途への展開も積極的で、それまでコンデンサーマイクが主流だったボイスコントロールなどの用途に対し、小型で耐環境性に強いMEMSマイクの普及拡大をリードしてきた。

 2021年には、MEMSマイクの車載信頼性品質試験規格「AEC-Q103」に準拠しADAS用途での利用にも対応する製品「XENSIV IM67D130A」を製品化した。−40℃から105℃の動作温度範囲に対応し、130dB SPL(音圧レベル)という高い音響オーバーロードポイント(AOP)により、大音量の環境下でも歪みのない音声信号を取り込める性能を持つ。感度のマッチングが優れ、複数のマイクを使用して音の方向を割り出しながら特定方向の音を強調するマルチマイクロフォンアレイのビームフォーミングも構成しやすくなっている。

「XENSIV IM67D130A」の開発キット 「XENSIV IM67D130A」の開発キット[クリックで拡大] 提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン
近藤良樹氏 インフィニオン テクノロジーズ ジャパン オートモーティブ事業本部 テクニカルマーケティング フィールドアプリケーション エンジニアリング 近藤良樹氏

 インフィニオン テクノロジーズ ジャパンの近藤良樹氏は「最小で3つのマイクを平面に並べることで、前後左右どこから音が鳴っているか判断できるようになる。さらに、垂直、高さ方向にマイクを加えれば、前後左右、上下も判別できる。どの方角で緊急車両がサイレンを鳴らしているのか、それが、高架道路の上かどうかまでを認識できる」とする。

 「XENSIV IM67D130Aの発売後、車室内向けでの採用が進むと同時に、外装に取り付けADAS/自動運転にマイクを応用できないかという検討、開発を進める自動車メーカーが再び現れ始めた。XENSIV IM67D130Aと音声処理技術を組み合わせることで、緊急車両の検知システムがほぼ実現できるということも確認できつつある」という。だが「実用化に向けては、マイクの“穴”の問題が残った。フィルターや取り付け場所の工夫といった対策で、どうにか実用化できる見通しはあるが『抜本的な対策があれば……』という声もあった」(近藤氏)とする。

MEMSマイクの限界を超える──“穴”のない新センサーIVSの登場

 ADAS/自動運転システムでのマイク搭載を実現するための抜本的な課題解決が求められる中で、インフィニオンはマイクに不可欠な“穴”のない新たな聴覚センサーを開発した。それが、振動センサー「IVS(Infineon Vibration Sensor)」だ。

IVSの構造 IVSの構造。音波による車体の振動を音として捉えるため穴が必要ない[クリックで拡大] 提供:インフィニオン テクノロジーズ

 IVSは、従来の音波を直接受け取るマイクとは異なり、音波を受けた金属板やガラス板の微小な振動を捉え音として認識する。音波を直接受け取るための「穴」は不要だ。クルマで外音をセンシングする場合、フロント/リアなどのガラスやボディーパネルに固定することで音を検知できる。しかもその取付位置は、車室内側で良く、車外の過酷な環境にさらされることはない。

 MEMSマイクの致命的ともいえる「穴」という課題を根本的に解決するセンサーではあるが、振動膜の代わりに、ガラスや鋼板といった車体を使って、音を捉えることが果たしてできるのだろうか。センサーの基本的な構造はMEMSマイク同様であり、サイズも3×2×0.8mmと小さいが「十分にマイクとして、機能する」(近藤氏)と言い切る。

実証実験が示す性能差──MEMSとIVS、どちらが車載に適しているか

 インフィニオンでは、クルマの車体にIVSとMEMSマイクを配置し、強風が吹く状態で人の声を収録、解析した実証実験結果を公表している。この実験で収録されたままの音を聞くと、IVSで収録した音はかすかに人の声らしき音が聞き取れるかどうか程度で、その音は極めて小さく十分なマイク性能を発揮しているようには思えない。MEMSマイクで収録した音は大きな音で感度良く音を捉えているが、風切り音が支配的で声が良く聞き取れない。

 音声データを増幅させ、ノイズキャンセリングなどの音声処理を加えるとIVSの印象は大きく変わる。風切り音などのノイズがなく声がハッキリと聞き取れるのだ。一方のMEMSマイクでの収録データの声はロボットのような不自然な音声で多くのノイズを除去するために処理が破たんしていると分かる。

実証実験結果 実証実験結果。IVS収録の場合、加工前のRawデータでは波形の振幅が小さいもののフロアノイズが小さいことが分かる。一方、MEMSマイクは、Rawデータでも十分な振幅が得られているが、ノイズ風切り音が支配的で声の抽出が難しいと分かる[クリックで拡大] 提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン

 IVSは骨伝導的に振動のみを検知するため、フロアノイズを拾わないという利点を備え「音を拾いすぎる」という課題も抜本的に解決するセンサーになっているのだ。

IVSが実現するクルマの“耳”──応用領域と将来展望

 2025年内にもリリースを予定する最初のIVS製品の対応周波数帯域は100Hz〜4kHzとなる見込み。ほぼ電話音質域をカバーし、800Hz〜1.5kHzにピークを持つ音として規定されている緊急車両のサイレンであれば高い感度を発揮できる性能だ。

IVS製品の概要 2025年内にもリリースを予定するIVS製品の概要[クリックで拡大] 提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン
夏目雅弘氏 インフィニオン テクノロジーズ ジャパン オートモーティブ事業本部 VAC&VUEアプリケーションセグメント アプリケーションマーケティング 夏目雅弘氏

 インフィニオン テクノロジーズ ジャパンの夏目雅弘氏は「緊急車両のサイレン検知用途では十分な実用化レベルにある。自動運転レベル2相当のADASを搭載するクルマに新たな安全支援機能を付加できるテクノロジーとして、さまざまな自動車メーカーから期待いただいている。他にもタイヤ空気圧センサーユニットに、IVS/MEMSマイクを追加して走行音をモニタリングしたいという要望もいただいている。IVSはその原理上、やや低周波/重低音の検知が難しいという課題はあるが、今後改良を加え100Hz以下の音にも対応させることで走行音などもより十分に検知できるようにしていく」とする。

 IVSは、車載向け以外にも、よりクリアに音声だけを検知できるセンサーとしてワイヤレスヘッドフォン/イヤフォンなどの民生機器や、予知保全センサーとして産業機器分野での応用も見込まれているという。インフィニオンでは、MEMSマイク同様のベアダイからパッケージまでの一環生産体制を敷いて、高品質のIVSを長期安定供給していく方針だ。

 視覚センサー全盛の中、音という情報の価値がいま、見直されている。クルマが“耳”を持ち、目に見えない危険を先取りし、より人間的な判断を下す――それがインフィニオンの提唱する次世代モビリティの姿だ。

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