RAMXEEDは、サイズが1.04mm角と超小型のFeRAM搭載チップセットを開発した。シードが展開するスマートコンタクトレンズプラットフォーム向けの製品で、当初から「サイズは1mm角」という厳しい制約がある中、RAMXEEDはFeRAMとアナログ半導体技術をかけ合わせた高い設計力で、そのニーズに応えた。そこにはどのような技術革新があったのか。RAMXEED 設計統括部 第二設計部 部長の伊藤慎也氏とシード デバイス技術部 部長の木下卓氏が対談した。
電子デバイスを内蔵したスマートコンタクトレンズは、次世代のヘルスケアや医療、MR(Mixed Reality)などのエンターテインメントなどを実現する手段として、数十年前から開発が進んでいる。コンタクトレンズを製造、販売するシードは2025年2月、スマートコンタクトレンズを低コストで開発し、製造を加速するための汎用プラットフォームを公開した。その中核となる、コンタクトレンズに搭載する制御LSIの開発を担ったのが、RAMXEED(ラムシード)だ。RAMXEEDは制御LSIとして、わずか1mm角のチップセットを開発。そこには、RAMXEEDのFeRAM技術やアナログ回路技術のノウハウがつまっている。RAMXEED 設計統括部 第二設計部 部長の伊藤慎也氏とシード デバイス技術部 部長の木下卓氏が、スマートコンタクトレンズ用プラットフォームの実現と、それを可能にしたアナログ半導体技術について語った。
――今回公開したプラットフォームでは、スマートコンタクトレンズに制御LSIが搭載されています。制御LSIの要件は、どのようなものだったのでしょうか。
木下卓氏 コンタクトレンズは医療機器なので、開発から販売までの巨額の投資が市場規模に見合わないことが多い上に、販売までの承認取得にも長い時間がかかります。わずかなバージョンアップのために、電子部品を設計し直すとなると、さらに投資と時間が必要になります。こうした投資を少しでも抑えるために、スマートコンタクトレンズの開発はプラットフォームベースで実施したいというコンセプトが、そもそもありました。
ここでキーデバイスになるのが、「ターゲットデバイス」を制御したり、外部の周辺機器と通信したりするIoTチップです。ただ、特定用途向けに半導体を開発するのは、コスト的にも時間的にも現実的ではありません。そのため、汎用性のある通信チップや制御用LSIが必要だったという背景があります。今回、ウェアラブルデバイスなど向けの技術開発や商品企画を手掛けるセンチュリーアークスを通じて、RAMXEEDにそのチップ開発を委託することになりました。
伊藤慎也氏 RFIDチップのカスタム開発の話があるというのは聞いていました。それがスマートコンタクトレンズ向けだと知ったのは少し後だったのですが、RFID機能を備えた極めて小さいチップが求められているという要件は知っていました。
今回開発したASSPチップセットは、RF通信チップ「MB97R7100」と16ビットADコンバーターチップ「MS97R5430」で構成されています。どちらも1.04mm角という超小型サイズで、FeRAMを搭載している点も特徴です。
RF通信チップには、UHF帯のEPC準拠RF通信機能と、電波から電力を作り出す機能を搭載しています。ベースバンドチップに加え、センサーやADコンバーターチップと通信する機能、生成した電力をこれらのセンサー/ADコンバーターチップに供給する機能も備えています。
木下氏 電力や周波数などいくつか重要な仕様はありましたが、何と言ってもサイズが非常に重要でした。コンタクトレンズは、球面に囲まれた狭い範囲に平面のチップを搭載する必要があります。機械的な制約もあって、1mm角以内でないと難しいと考えていました。
伊藤氏 1mmを超えると機械的強度が弱くなってしまうそうですね。それを超えないサイズで基本機能を必ず入れるという仕様になりました。
木下氏 RFIDではなくてターゲットデバイスへ電力供給とSPI通信したいという要望もお伝えしていました。それに電圧の設定機能が加わるとなると、やはり難しいですよね。
伊藤氏 確かに要件としては厳しかったですね。単純なIDのみのRFID、つまりバーコードの置換えのようなチップであれば1mm角以内のサイズはあります。ですが、今回は、1mm角以内にRF通信とターゲットデバイスへ電力供給とSPI通信機能まで搭載が必要なため、非常に難しい挑戦でした。
木下氏 そしてADコンバーターチップも欲しいという話もしていたんですよね。スマートコンタクトレンズではやはりセンシングの応用は多いと想定しています。ですから、ADコンバーターはあって損はない。あれば電圧計測などもできますから。RF通信チップに続く2チップ目をこれほど早く立ち上げていただけるとは思っていませんでしたが。
伊藤氏 当社はRFだけでなく、アナログセンシング技術も手掛けています。そのため、もともとADコンバーターの技術は持っていました。ただ今回は、小型で省電力なADコンバーターを実現しなくてはならなかったので、そこはノウハウを生かして、1mm角に収めました。
――不揮発メモリとしては、FeRAMが使われています。
伊藤氏 FeRAMは高速かつ低消費電力で書き込めるという特徴があります。今回のような、無線給電のアプリケーションでは、電力が不安定であっても書き込めるFeRAMは最適な不揮発メモリです。一般的なメモリのEEPROMでは書き込みに昇圧が必要で、数ミリ秒の時間と電力が必要となるため、書き込みが間に合わないこともあり得ます。また、当社のようにFeRAMとアナログ回路技術の両方を持っているメーカーは少ないですから、FeRAMは重要な差別化要素の1つです。
木下氏 しかも、RF通信チップから、1.8V、2.2V、3Vという3種類の電圧で電力供給できる仕様にしていただきました。これがもう本当に素晴らしいと思います。今後はさらなる省電力化に伴い、チップの動作電圧も1Vレベルになっていくと思われます。それを考慮すると、複数の出力電圧を選択できれば、プラットフォームにおける設計の自由度がさらに高まるでしょうから。
こういった設計方針は、RAMXEEDやセンチュリーアークスと多くの議論を交わしながら決めていきました。エレクトロニクスメーカーとの連携で進められ、本当によかったと思っています。
伊藤氏 ターゲットデバイスに複数の電圧を安定して精度よく出力できる点も重要になります。特にADコンバーターは安定した基準電圧が求められました。この点に関しても、われわれは、メモリ制御用に複数の電圧を高精度に出力する技術を持っていました。さらに、今回の開発では無線給電の不安定な電力供給においても、安定した電圧を供給できるレギュレータを、サイズと消費電力のバランスをとりながら最適な設計をしています。センチュリーアークスを介し、仕様から一緒に練っていきましたので、長年のメモリ開発で培ったレギュレータ技術を融合させて提案できた点でも、当社の強みを生かせたと思っています。
RAMXEEDは富士通の半導体部門だった1999年から、FeRAM搭載チップをカスタムで開発してきました。FeRAM単体の汎用製品のラインアップもありますが、最初はFeRAMの特長を生かしたLSIを、ユーザーとさまざまな仕様を検討し、カスタムで設計していました。今回開発したチップセットは、当社が培ってきた技術の結集でもあるのです。
木下氏 私がRAMXEEDの技術力を感じたのは、ファウンドリーと非常によく連携している点でした。設計会社がファウンドリーに製造を委託するときは、そのファウンドリーが扱っているマクロをどれだけ理解しているかが鍵になります。両者の情報交換が不十分だと、今回のようなプロジェクトは、まずうまくいきません。それから、開発においてバグはつきものだと思っていますが、RAMXEEDはその修正がとても速くて驚きました。
伊藤氏 マクロはほぼ自社で設計やカスタマイズを行っています。サイズが決まっている中で、回路設計やレイアウトをどう最適化すれば、要求仕様を実現する機能を実現できるのか。それはファウンドリーと長年連携してきた当社の強みだと自負しています。バグや不測の事態は開発にはつきものです。弊社では、常にバックアッププランを考えながら開発を進めています。
木下氏 試作品を見たときには、純粋に達成感を覚えました。プラットフォームの中核となる汎用的な制御LSIが出来上がったことは、プラットフォームの実現性に直結します。RAMXEEDのおかげだと思っています。
スマートコンタクトレンズは20年以上、AIと同じように、ブームが到来したり去ったりを繰り返してきました。そういう歴史の中で、われわれもようやくプラットフォームという形でこのマーケットの形成に貢献できるようになります。実は、医療機器の国内市場は非常に小さいのです。3兆円から4兆円程度※)で、“産業の米”である半導体の市場規模に比べると本当に小さい。そうした中で、1つ1つの眼用デバイス向けにチップを初期設計することは非常に難しく、だからこそ汎用的なシステム基盤は不可欠になると考えています。今回、制御LSIが開発されたことは、スマートコンタクトレンズの開発が加速する大きな一歩になると確信しています。
※)日本医療機器産業連合会 2025年3月のデータ
伊藤氏 当社はもともとFA(ファクトリーオートメーション)や産業機器の分野で、FeRAM搭載ASSPのビジネスを拡大してきました。今回のプロジェクトで、医療機器分野にも可能性があることが分かったのは、新たな可能性を実感する機会になりました。
今回開発したチップセットは、ターゲットデバイスによって機能を追加できるので、高い拡張性も備えています。そのため、スマートコンタクトレンズ以外においても活用が期待されます。FeRAMとアナログ回路技術を組み合わせ、最適化しながら、お客さまの要求仕様を実現していく高い設計力は、われわれの大きな強みです。FeRAMを使ってみたい、RFIDや無線給電の機能を搭載したいなどの要望があれば、ぜひ気軽にご相談いただければと思っています。
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提供:RAMXEED株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2025年8月31日