CAE×最適化技術でパワエレの「最適解」を迅速に導く オムロンが挑むデジタルデザイン設計力の源泉

カーボンニュートラルや工場の自動化といったメガトレンドを背景に、オムロンがパワーエレクトロニクス(パワエレ)の技術開発を加速している。CAEと最適化技術を巧みに組み合わせ、蓄積されたノウハウだけでなくAI技術なども柔軟に取り入れながら、スピーディに設計の最適解にたどり着くことが同社の強みだ。

PR/EE Times Japan
» 2025年10月29日 10時00分 公開
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省エネの要、パワエレ

 生成AIの爆発的な普及もあり、エネルギー消費の問題は年々深刻化している。省エネに大きく貢献するパワーエレクトロニクス(以下、パワエレ)の重要性が高まる中、オムロンはその技術開発を加速させている。

 パワエレは、太陽光発電用パワーコンディショナーや蓄電池システム、工場のサーボドライブ、各種センサー用の電源など、オムロンが展開するさまざまな製品に不可欠な技術だ。オムロン 技術・知財本部 パワーエレクトロニクスセンタ長の西川武男氏は「カーボンニュートラルにつながる省エネに対する意識の高まりや、工場の自動化が進んでいることから、パワエレ分野は今後大きな成長が期待できる領域です。その分競争も激しいため、パワエレに先行投資し、技術開発を強化しています」と語る。

 オムロンにおいて、パワエレの技術開発を加速する“源泉”となっているのが、CAEと最適化技術を組み合わせるアプローチだ。

CAE、AI、データ解析の「三位一体」で開発を加速

オムロン 技術・知財本部 パワーエレクトロニクスセンタ長 西川武男氏 オムロン 技術・知財本部
パワーエレクトロニクスセンタ長 西川武男氏

 オムロンは1990年代にシミュレーション技術を導入して以来、社内の開発現場におけるCAE活用の推進に取り組んできた。2022年4月には、全社のセンター・オブ・エクセレンス(CoE)として技術・知財本部に「デジタルデザインセンタ(現・デジタルソリューションセンタ)」を設立している。CAE、AI、データ解析を組み合わせ、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの両方の観点から開発生産性の向上を図るためだ。オムロン 技術・知財本部 デジタルソリューションセンタ CAE・最適化グループの佐藤一樹氏は「全事業を対象に、各アプリケーションの開発生産性向上に挑戦しやすくなりました」と語る。

 デジタルソリューションセンタは、CAEの要素技術開発を推進する上で大きな強みとなっている。CAE技術を発展させていくためには、AIやデータ解析の技術との融合が不可欠だと佐藤氏は続ける。ただし、これらの分野は学術的に見れば離れている領域だ。「CAE、AI、データ解析の全てに精通した人材や組織は、世の中でも非常に少ないのではないでしょうか。その点、『疑問点をすぐに聞ける環境が隣にある』というデジタルソリューションセンタの存在は、オムロンにとって大きなアドバンテージだと考えています。実際に私も、AI担当者に協力を仰ぐことが多々あります」(同氏)

“カンコツ”頼りの設計を変える、CAE×最適化

オムロン 技術・知財本部 デジタルソリューションセンタ デジタルデザイン部 CAE・最適化グループ 主査 佐藤一樹氏 オムロン 技術・知財本部
デジタルソリューションセンタ デジタルデザイン部
CAE・最適化グループ 主査 佐藤一樹氏

 デジタルソリューションセンタが推進するCAE×AI×データ解析の“三位一体”の取り組みは、オムロンがこの6〜7年にわたり開発現場で強化してきた、CAEと最適化技術を組み合わせるアプローチを後押しする。最適化技術は、設定した目的(例えば軽量化や電力変換効率向上)を達成するために、設計パラメータの最良の組み合わせをデータから探索する方法論だ。代表的な例として「限られた容量に、価値を最大化する品物を詰め込む」ナップサック問題が挙げられる。佐藤氏は「ここ数年で、産業界でもCAEと最適化技術を組み合わせるアプローチがようやく浸透してきました」と語る。

 CAE×最適化は、パワエレでもその効果を大いに発揮する。パワエレ分野では従来、設計者の“カンコツ”(経験やノウハウ)に基づいて設計するケースが多かった。しかし、CAEと最適化を組み合わせることで、CAEで作成したデータを元に最適化によるデジタルデザインが可能になる。

 佐藤氏は「パワエレの技術開発は、最適化が奏功しやすい領域」だと述べる。電気回路、磁気特性、ノイズ、熱特性、機械特性と多岐にわたる要素が絡むアナログ技術の集合体だからだ。これらを総合的に評価し、最適解を導くことは難しい。

 レストラン選びに例えるなら、価格や味に加え、営業時間や場所など、多くの評価基準が入ってくるようなものだ。評価基準が多くなるほど、ベストな解を選ぶ難易度は上がる。「最適化のメリットの一つに、多数の評価基準を扱える点があります。人間の場合、おおよそ三次元程度の情報までは扱えますが、それ以上は困難です。最適化ではそれを総合的に評価し、ベストな解を探索できます」(佐藤氏)

 パワエレの技術開発では、システムや性能のキー部品においてデジタルデザインを実現している。開発生産性向上の観点では、既に取り扱っている商品だけでなく、新規アプリケーションの開発期間の短縮効果もある。「新しいアプリケーションでは、画一的な設計手法や指針が未確立な場合が多い。最適化を適用することで、設計の方向性が見えてくる点は非常に有意義です」(佐藤氏)

CAE×最適化で「最適解」に導く

オムロン 技術・知財本部 パワーエレクトロニクスセンタ パワーエレクトロニクス1グループ 主査 伊藤勇輝氏 オムロン 技術・知財本部
パワーエレクトロニクスセンタ
パワーエレクトロニクス1グループ 主査 伊藤勇輝氏

 CAE×最適化を適用し、設計を加速しているパワエレの一例がワイヤレス給電(Wireless Power Transfer、以下WPT)だ。

 オムロンは、主に電源向けに開発した共振回路技術をWPTにも応用している。24時間稼働する工場での自動搬送モバイルロボット(Autonomous Mobile Robot、以下AMR)の効率的な運用支援を目指して開発を進めている。今後は小型モビリティやシェアサイクル、電動車椅子など、給電技術の向上が求められている分野に広く展開することも視野に入れている。

 AMRの給電では、一般的に接触式充電(受電部に電極を直接当てる方式)が多く採用されている。しかし、この方式には金属同士の接点によるスパークや粉じん発生といった課題がある。一方、WPTは非接触で給電できるため安全性に優れるが、既存技術では厳密な位置決めが必要であり、使い勝手の向上を妨げている。位置がずれると給電できないため、AMRの停止精度を高める必要がある。しかし、今度はAMRの停止に時間がかかり、生産タクトタイムに影響する。さらに、位置検出用センサーを追加で搭載すればコストは上がる。オムロン 技術・知財本部 パワーエレクトロニクス1グループの伊藤勇輝氏は「われわれは、約70mmの長距離伝送により、位置ずれの許容範囲が広いWPTを開発しています」と話す。従来のWPTは伝送距離が30〜40mm程度と短く、位置ずれの影響を受けやすい。70mm程度あれば給電エリアが広がり、位置ずれの許容範囲が大きくなり、効率的な充電を実現する。これにより、予備機の削減、ROIの向上が図れる。

自動搬送ロボット(デモ機)が無線給電している様子 提供:オムロン

 オムロンのWPTで重要になる部品の1つがコイルだ。オムロンのWPTは、コイルのインダクタ(L)とコンデンサ(C)の共振回路を用いた独自の磁界共鳴方式を採用しており、コイルの設計と共振回路の設計が機能を左右する鍵となる。

 従来は、回路シミュレーションを用いてインダクタとコンデンサの値を決定し、高効率な共振回路を設計していた。しかし、実際の効率は部品の形状やサイズによっても大きく変わる。そこでオムロンでは、CAEと最適化技術を組み合わせ、回路シミュレーションと電磁界シミュレーションを連携させることで、コイルの形状を含めた最適設計を可能にした。「回路シミュレーションのみでは、回路特性が良くても、実際にコイルを作るとサイズが大きすぎることがあります。最適化技術を取り入れることで、形状とサイズを含め、システム全体の最適解を網羅的に得られるようになりました」(伊藤氏)

産業応用部門大会_ワイヤレス給電回路における多目的最適化
産業応用部門大会_ワイヤレス給電回路における多目的最適化
産業応用部門大会_ワイヤレス給電回路における多目的最適化 WPTの送受電コイルの設計を最適化する様子 提供:オムロン

 この“最適解”を出せること自体が大きな進歩だと伊藤氏は語る。設計者のカンコツに依存していた従来手法では「本当にベストな設計なのか」が不明確だったからだ。

 WPTは、給電対象が小型のモバイル機器からロボットまで多岐にわたり、バッテリーのサイズや種類もアプリケーションによって異なる。さらに、送受電コイルの位置関係も複雑だ。これらの要素を一つ一つ検証するには膨大な組み合わせが発生し、非常に難しい。しかし、最適化技術を適用すれば、限られた時間で要件に適合する設計を効率的に探索可能になる。「最適解を見つけにくいWPT設計で、ベストな解を導きやすくなりました」(伊藤氏)

 さらにオムロンは、磁気部品を対象にトポロジー最適化も導入している。これは、物体の形状を表現するときに寸法といった幾何学的パラメータではなく、材料の分布とすることで、形状の表現自由度を飛躍的に高めて最適化する技術だ。「トポロジー最適化を適用すると、従来は磁性体コアを使っていた部分が不要であることが分かったり、逆に必要な箇所が明確になったりします。実際に製造可能な形状に落とし込み、より性能の高いコイルを設計できるようになりました」(伊藤氏)

 前述の通り、WPTはアプリケーションが幅広く、給電要件も変化する。しかし、CAEと最適化技術を活用すれば、設計の横展開がしやすくなる。「現在はAMR向けに回路設計と電磁場解析を連携させたシステムを最適化していますが、小型モビリティなどの要件に合わせてパラメータを変更すれば、同様の最適化を迅速に適用できます。アプリケーションの横展開を加速させることが可能です」(伊藤氏)

パワーエレクトロニクス開発の新拠点

 オムロンは2025年10月1日、パワエレの新たな研究開発拠点として、「パワーエレクトロニクスセンタ」を桂川事業所(京都府向日市)の敷地内に開設した。フロア面積は1000m2で、その半分を実験室が占める。従来の研究開発拠点である「京阪奈イノベーションセンタ」(京都府木津川市)と、商品開発および生産拠点である草津事業所(滋賀県草津市)の中間に位置し、研究開発と事業部門の橋渡し役を担う。「パワーエレクトロニクスセンタでは、パワエレの先行開発に加え、必要に応じて商品開発に近い領域にも携わります。3拠点で連携することで全体の開発効率を向上させ、人材育成も加速させていきます」と西川氏は強調する。オムロンは2025年度からの3年間で、約50億円の追加投資を行い、100人規模のエンジニア採用を計画している※)

 ※オムロン キャリア採用情報

 カーボンニュートラルや工場自動化といったメガトレンドにおいて中核を担うパワエレ。オムロンの「CAE×最適化技術」というアプローチは、デジタルソリューションセンタの取り組みに支えられ、パワエレの発展に大きく貢献するはずだ。


 お問い合わせ先:オムロン 技術・知財本部 PR-RnD-Tech@omron.com



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提供:オムロン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2025年11月28日