コネクタ大手のヒロセ電機が、事業多角化の一環としてセンサの開発を加速させている。材料から自社開発したという同社の回転カウンタは無電源で動作し、自動化が進む製造ラインの管理に貢献するものだ。
ヒロセ電機が、センサの開発を加速させている。さまざまな用途に向けたコネクタ製品群で知られている同社。これまで民生機器/自動車/産業機器向けのコネクタを製品ポートフォリオの「3本柱」として成長させ、2024年度には過去最高売上を更新したが、今後は事業多角化の一環としてセンサ製品群を強化し、「4本目の柱」とする考えだ。
「材料の選定や加工などコネクタの知見を生かせる部分もあったが、センサの設計や開発はほとんどゼロから進めてきた」と語るのは、ヒロセ電機でセンサの開発を担う小山昌二氏だ。ヒロセ電機は約30年前からセンサの研究開発を始め、2016年に製品化に至った。その1つが無電源回転カウンタ「LB2シリーズ」だ。
LB2シリーズは、外部磁界の変化に応じて磁化方向が急反転する現象である「大バルクハウゼン効果」の原理を利用したものだ。ヒロセ電機はセンサコアにコイルを巻きつけた磁気センサを「LBeS(Large Barkhausen effect Sensor)」と称している。N極に磁化したLBeSにS極の磁石を近づけると、大バルクハウゼン効果が生じ、LBeSはS極に磁化。この瞬間にパルスが発生する。自転車のダイナモライトなどと似た電磁誘導の仕組みだが、ダイナモライトは回転が遅くなると発電量が小さくなるのに対し、大バルクハウゼン効果を利用すると回転速度に依存せず安定した電力を発生させられるという利点がある。
この仕組みを利用すると、3個のLBeSを三角形を描くように配置し、その三角形の内側に4極の磁石を配置して(下図)、1回転あたり12カ所のパルス発生点を形成できる。磁石がLBeSを通過するたびに各LBeSからパルスが発生するイメージだ。LB2シリーズは、これに回転数/回転方向を計算するASICとそのデータを保存する強誘電体メモリ(FeRAM)を組み合わせてモジュール化し、回転カウンタとしたものだ。LBeSから発生するパルスを電力および制御信号として利用するので、電源は一切必要ない。
小山氏は「LB2シリーズは、シンプルな構造で直感的に理解しやすいものだ。顧客からは『無駄を排した設計は使いやすさと安心感につながる』と高く評価してもらっている」と説明する。
LB2シリーズは、磁気センサを3個用いる独自の構成で高信頼性を確保していて、特許も取得している。また、磁気の流れを制御する磁気回路を搭載して効率的にセンシングし、モジュール(図版の灰色の筐体)の直径は約36mmと小型化も実現した。
モジュール内の多くの部分をヒロセ電機社内で開発していることも特徴だ。LBeSのセンサコアは材料から自社で手掛けていて、ASICも独自に開発したものだ。小山氏はセンサコアについて「もともとは一般的な金属材料を購入し、加工して使っていた。しかし、求めている性能や安定性がなかなか実現できず、それを追求しているうちに自社で手掛けることになった。単純な組成比だけではなく、溶解などの工程からこだわっている」と強調する。ASICについても「LBeSの小さな発電力で計算やデータの保持まで行うために、細かな仕様を考えて専用のASICを設計した」(同氏)といい、パルス信号の補正機能やエラー検出機能も盛り込んでいる。「多くの部分を自社内で開発することで、モジュール全体として最適化できていることが強みだ」(同氏)
LB2シリーズの主な用途としてヒロセ電機が想定するのは、主に産業機器のサーボモーター内のエンコーダーだ。
製造現場のロボットなどの動作を停止させた後で再起動する際には、各モーターの状態を正確に把握する必要がある。実際の状態と制御上で想定している状態がずれたまま再起動すると、予期せぬ動作で製品や装置を破損させたり、周囲の作業者を危険にさらしたりしかねないからだ。
こうした背景から、自動化が進んでいる製造ラインでは従来、1日の終わりに仕掛品を残さずに部品を全て消化し、ロボットの動作も完全に終わらせてから稼働を終了していた。この場合、翌日はまたゼロから部品を供給して製造ラインを稼働させることになるので、効率が悪い。
そのため現在では、稼働終了時に動作中のロボットや仕掛品もそのままで製造ラインを停止し、翌日全く同じ状態から再スタートしたいというニーズが高まっていて、モーターの状態を把握できるエンコーダーの重要性が増している。
小山氏によると、現在使われているエンコーダーの回転カウンタは電池式のものが多いという。電池は2年に1回程度交換する必要があり、メンテナンスの手間やコストが生じる。一方、LB2シリーズは完全に無電源で利用できるので、そうした手間やコストを削減し、万が一の際に動作しないというリスクも低減できる。
ヒロセ電機でセンサ事業を担当する渋谷和成氏は「スマートファクトリーや省人/無人化のトレンドの中で、サーボモーターの制御の重要性は高まっている。電源不要という大きな強みを持ったヒロセ電機の回転カウンタがますます貢献できる領域だろう」と説明する。
メモリ保持期間が最終アクセスから最長10年間と長いのも特徴で、毎日の製造ラインの管理だけでなく、機器の搬送や長期保管の際にも役立つ。小山氏は「産業機器メーカーでは、機器の調整やティーチングを行った後、海上輸送で国外に搬送する場合も多い。海上輸送は数カ月かかることもあるうえ、搬送後にすぐ稼働させずに倉庫で保管し、実際に稼働するまでに2年以上経過することも珍しくない」と説明する。無電源で動作するLB2シリーズは、搬送の途中でモーターの位置が変わっていないかなどの状態監視に利用できる。また、長期間保管した機器を稼働させる際、従来の電池式エンコーダーでは電池切れで内部の状態が把握できず、再度調整が必要になってしまうが、10年間データを保持できるLB2シリーズを用いればその手間が省ける。
電源が不要であることから、既に稼働している製造ラインに後付けする際にも配線などを新設する必要がなく、導入も容易だ。
LB2シリーズのラインアップは現時点では回転カウンタのみだが、同じ仕組みを利用して直線動作もカウントできるといい、ヒロセ電機は現在スライドカウンタの開発を進めている。また、「カウントしたデータを無線通信で簡単に取り出せるようになればより使い道が広がるのではないか」(渋谷氏)として、将来的にはそうした方向性での開発も検討しているという。
モジュールとしての販売だけでなく、部分的な販売にも対応している。「LB2シリーズはそのまますぐに使えるような製品として開発してある。ASICやFeRAMも一緒に使った方が圧倒的に使いやすいものの、カスタマイズしたいというニーズがあればそれに応える」(小山氏)
さらに、産業機器以外の用途も探っている。電源不要であることからインフラ機器や、信頼性の高さから医療機器なども想定する。小山氏は「LB2シリーズは独自の構成で信頼性や精度も高く、販売実績もある製品だが、『コネクタのヒロセ電機がセンサも手掛けている』ということを知らない顧客も多い。LB2シリーズを広く知ってもらい、顧客の声を聞きながらさらに活用方法を考えていきたい」と語った。
長年のコネクタ事業で材料の知見や加工技術を培ってきたヒロセ電機は、センシング分野でも新たな価値創出を目指す。LB2シリーズをはじめとする独自のセンサ製品群で、今後ますます加速する製造現場のスマート化やグローバル化を支えていくだろう。
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提供:ヒロセ電機株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2026年1月20日