MPS(Monolithic Power Systems)はトラクションインバータやオンボードチャージャにおいて、実装面積や部品コストを大幅に低減する車載用の絶縁電源ICを開発した。多くの機能をわずか10mm角のパッケージに搭載した高耐圧DC/DCコンバータICや、絶縁機能を内蔵した24V入力/24V出力のゲートドライバ向け電源モジュールだ。いずれも、得意とする高度な集積技術を生かしている。
「100年に一度の変革期」を迎えている自動車業界。自動車の電動化が進み、ソフトウェア定義型自動車(SDV)向けの技術や先進運転支援システム(ADAS)などの車載システムが高度化するにつれ、自動車のE/E(電気/電子)アーキテクチャは大きく変わっている。機能ごとに電子制御ユニット(ECU)を配置する従来の分散型アーキテクチャから、機能が近いECUを統合して配置するドメインアーキテクチャや、物理的に近いECUを統合してセントラルECUで集中制御するゾーンアーキテクチャへの移行が本格的に始まっている。さらに、バッテリーシステムでは、航続距離の延長や急速充電時間の短縮、配線の細径化を実現すべく従来の400Vアーキテクチャだけでなく800Vアーキテクチャの導入が、主にハイエンドの車種で進む。こうしたE/Eアーキテクチャの変化により、1台の自動車に搭載される半導体や基板などのコンポーネントの数は右肩上がりに増加し、省スペース化のために小型化、高集積化がますます求められるようになっている。
そうした課題に応えるべく、車載向け電源ICのラインアップを拡充しているのが、ファブレスのアナログ半導体メーカーであるMPS(Monolithic Power Systems)だ。高度な集積技術を生かしたパワー系ソリューションを長年手掛けるMPSは、車載向けでもその強みをいかんなく発揮している。今回は絶縁電源ICの中から、耐圧1200VのフライバックDC/DCコンバータIC「MPDQ11510」と、絶縁内蔵のゲートドライバ向け電源モジュール「MID1W2424A」を紹介する。いずれも高い集積技術を用いていて、トラクションインバータやオンボードチャージャ(OBC)などにおいて、実装面積やBOM(Bill of Material)コストの削減に大きく貢献する製品だ。
MPDQ11510は、400V/800Vバッテリーから12V/24Vを生成するフライバックDC/DCコンバータICだ。400V/800Vバッテリーの最も近くに配置され、車載システムの起動時から12Vの鉛蓄電池が充電されるまでに、12Vを使用するさまざまな回路に電源を供給するICとなる。20V〜1200Vという非常に広い入力電圧範囲を備える製品で、最大の特徴は、炭化ケイ素(SiC) FETをはじめ、コントローラや電流検知(センス抵抗)など、必要な機能を1パッケージに集積していることだ。そのため、従来の回路に比べて実装面積を大幅に削減できる。
トラクションインバータ向け回路の例でみてみよう。従来の回路ではSiC FETに加え、コントローラやドライバ、電流検知、1kV起動回路、高電圧絶縁、出力フィードバック用の半導体や電子部品が必要になる。MPDQ11510は、これらの機能をわずか10mm角の1パッケージに集積しているのだ。とりわけ、多くの受動部品を削減でき、設計がシンプルになる。部品点数を削減できれば、調達面も容易になり、システムの信頼性の向上にもつながる。
FETには定格電圧が1700VのSiC FETを採用した。前述した通り、ハイエンドの車種では2020年ごろから800Vバッテリーの導入が始まっている。MPSの日本法人、MPSジャパンでフィールドアプリケーションエンジニア(FAE)を務める岡野力氏は「SiC FETの耐圧が1700Vあれば、800Vバッテリーアーキテクチャにも十分対応できる」と述べる。「一般的にFETでは、耐圧が上がると損失も上がってしまう。SiC FETであれば低損失にできるので、SiCを採用した」。これまでMPSの製品ではSiC FETを搭載したラインアップがあまりなく、MPDQ11510は、SiC FETを搭載した初期の製品の一つになる。今後はSiC FET搭載品を少しずつ増やしていく計画だ。
高電圧でのスイッチングを想定していることもあり、ノイズ対策も十分に施した。疑似共振制御や周波数ディザリングを採用することでEMIを低く抑えている。
このようにノイズを低く抑えるトポロジーや機能の採用により、変換効率は最大89%を実現した。1000Vの高い入力電圧でも、極端に低い負荷でなければ80%以上の高い効率を達成できている。さらに、MPSの同期整流IC「MPQ6990」を2次側に設置することで電力損失をさらに削減でき、93.5%と高い効率を実現できる。負荷安定度についても、大きな変動がなく安定した出力電圧を維持できる。
「MPS独自のプロセス技術によって、高耐圧と高集積を両立したDC/DCコンバータICを実現できた」(岡野氏)
もう一つの製品が、絶縁内蔵の電源モジュールであるMID1W2424Aだ。絶縁しながら安定した電圧を生成するICで、入力電圧範囲は5〜30Vで出力は1.5Wである。絶縁トランスを内蔵していることが特徴だ。「一般的にトランスは大型でコストも高い。本製品は絶縁トランスをワンパッケージに内蔵しているので、実装スペースとコストを両方削減できるようになる」(岡野氏)
絶縁耐圧は3kVrms、5kVrmsで、強化絶縁を実現している。「一般的に車載用システムで求められる3kVrmsの他、5kVrmsにも対応しているので、より厳しい絶縁要件にも応えられる」
MID1W2424Aは「2424」という品番からも読み取れる通り、入力電圧と同じ電圧を、絶縁して出力するICになる。特にターゲットとしているのが15〜24Vにおける1:1の絶縁入出力だ。ゲートドライバ向けバイアス電源に使用されるイメージで、トラクションインバータやOBCで使われるIGBT/FETをスムーズに駆動できるようになる。「スイッチングに高い電圧を必要とするIGBT/FETは、5Vよりも15Vや24Vなどの高い電圧の方が、よりスムーズに駆動できる。MID1W2424Aは、こうした用途に向く」
岡野氏によれば、絶縁機能を内蔵した24V入力/24V出力の絶縁モジュールは、現時点ではほとんどないという。絶縁モジュール自体は市販されているが、5V入力/5V出力が主流で、高くても12V入力/12V出力だった。従来は、そこまで高い電圧が必要ではなかったという背景もある。そのため、高い電圧に対応できる絶縁ICが必要な場合、設計者が既存のソリューションを用いて何とか回路を工夫して対応していた。「今後はアプリケーションのさらなる大電力化が想定される中、われわれは24Vという高い電圧を絶縁、供給できる電源モジュールが不可欠と考えMID1W2424Aを開発した」と岡野氏は述べる。
MID1W2424Aに最も近い競合品(絶縁モジュール)も存在はするが、その製品は容量が大きな入力セラミックコンデンサが必要になる。「セラミックコンデンサの実装スペースが必要になるので、省スペースとBOM(Bill of Material)の点ではMID1W2424Aの方が、競争力があると自負している」(岡野氏)
MID1W2424Aは、40mAや60mAといった軽負荷でも56%以上の効率を実現している。「MID1W2424Aは非常に小さな負荷電流で動かすICになる。そのため高い効率を確保するのがなかなか難しい製品だが、一般的な既存ソリューションよりも高い効率を確保できている」
MPDQ11510、MID1W2424Aともに現在、サンプル出荷中だ。
岡野氏は、MPSはEV向け車載電源ICのラインアップを順調に拡充していると語る。「これまでは、EV向けでは必要最低限のICを市場に投入してきたが、今回追加した2製品により、EV用の車載電源ICにおいてもMPSが強みを生かせるICがそろってきた」
今回紹介した2製品の「高耐圧で高集積」「絶縁機能内蔵で高い入力/出力電圧」というそれぞれの特徴は、車載用のみならず、太陽光発電システムのインバータシステムやサーバ用電源の要件も満たす。これらに共通するのは、大電力化だ。自動車をはじめ、さまざまな産業用アプリケーションにおいて、高性能化や省電力のために大電力化が進む今、「MPDQ11510やMID1W2424Aは息の長い製品になるのではないか」と岡野氏は強調した。なおMPSジャパンは、日本語でエンジニアに相談できるサポートサービスも提供している。ぜひ気軽に「MPS Now」に問い合わせてほしい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:MPSジャパン合同会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2026年2月28日