マルエム商会が、炭化ケイ素(SiC)ビジネスに本格参入する。同社のパートナーである国内外企業のSiCパワーデバイス関連技術/製品を、日本企業の要求に合うよう組み合わせ、ソリューションとして提案する。特に、近年著しく成長している中国/台湾のSiC関連企業の技術や製品を活用できるようになることが大きな利点だ。
技術商社のマルエム商会(以下、マルエム)が、炭化ケイ素(SiC)パワー半導体のソリューションを提供するビジネスに本格参入する。SiC基板からエピタキシャル工程、チップおよび関連装置まで、マルエムが代理店を務める国内外企業のSiC関連技術と製品を組み合わせた最適なソリューションを日本の顧客に提案する。2026年5月13〜15日に開催される「第2回関西ネプコン ジャパン」(インテックス大阪)に出展し、ソリューションの事例として、SiCウエハーおよび関連技術を紹介する予定だ。そこで、12インチのSiCエピウエハーも日本で初めて公開する。
マルエムのSiCビジネス参入の背景にあるのが、SiCパワー半導体分野における中国の台頭だ。中国は2015年ごろ、電気自動車(EV)の普及に舵を切り、巨大なEV市場を築いてきた。SiCパワー半導体の採用も増え、EV向けSiCパワー半導体の市場は急成長し続けている。フランスの市場調査会社であるYole Groupが2025年6月に発表した予測によれば、SiCパワーデバイス市場は2024年から2030年まで年平均成長率(CAGR)20%で成長し、2030年には103億米ドル規模に拡大する見込みだ。現在はEV市場が停滞しているものの、MetaがSiCを拡張現実(AR)グラスに応用するための研究開発を発表するなど、SiCはパワーデバイス以外にも用途を見いだしつつある。
それに伴い、従来は欧米や日本が強いこの分野でも、中国プレイヤーが登場し、日米欧の企業を猛追している。中国では既に、SiCの各工程において強力なプレイヤーが登場し、ビジネスを成長させている。マルエムは、複数のこうした主力プレイヤーとパートナーシップを締結し、SiCのトータルソリューションを提案していく。
マルエムで取締役を務める横伸二氏は、TDKの元取締役常務執行役員で、中国・浙江大学のMBA客員教授を約10年にわたり務めている人物だ。上海大学の名誉教授でもある。そのため、日本のエレクトロニクス業界のみならず、SiCパワー半導体を含め、中国の製造業全般やビジネスに精通している。
横氏は「中国ではSiCパワー半導体技術と関連ビジネスが飛躍的に成長している」と語る。「SiCインゴット/ウエハーメーカーだけで20社以上が存在する。デバイスの分野でも、垂直統合企業(IDM)とファブレス、ファウンドリー、パッケージテストメーカーがそれぞれ数社以上ある。これでも一定以上の淘汰(とうた)が進んだ結果だ」
コロナ禍での半導体サプライチェーンの混乱やハイテク産業における米中貿易摩擦、そして中国プレイヤーの台頭を背景に、日本のパワー半導体メーカーは経営戦略を見直し、業界再編に向けた動きも見え始めた。だが横氏は「日本メーカーが思っている以上に中国ではSiCのプレイヤーがすさまじい勢いで成長し、強力なシステムが既に構築されている」と強調する。
そうしたエコシステムにおいて、マルエムは現在、4社のパートナーを抱える。SiC基板を手掛けるJSG、SiCエピウエハーを提供するTYSiC(Guang Dong Tianyu Semiconductor)、SiCダイ(チップ)を製造するファウンドリーであるUNT(United Nova Technology/旧SMEC)、そしてパワーモジュールのヒートシンクを手掛ける台湾Iron Force Industrial Co, Ltd.(以下、Iron Force)だ。
SiCを含め単結晶を専門に手掛けるJSGは2006年に設立され、2012年に上場した浙江大学発の非政府企業だ。約6000人の従業員を抱え、2024年の売上高は約3700億円。浙江省に本社を構え、高い研究力で知られる浙江大学出身の技術者が多く在籍している。LED用などのサファイア基板ではトップクラスの世界シェアを持ち、SiCインゴットの主力工場を中国・銀川市に構える。SiC領域では、SiCウエハーおよびSiCエピタキシャル成長装置を販売する。
JSGの強みはとにかく改善が速いことだと横氏は述べる。「JSGの工場を訪問するたびに改善されている。JSGの8インチSiCウエハーの結晶欠陥は現在、製造するウエハーの約7割で基底面転位(BPD)が100/cm2以下になっている。8インチSiCウエハーでここまでBPDを低く抑えられる企業はなかなかいない」
JSGは、2024年までにSiC結晶の成長炉を1000基以上設置した。その後、市場が減速した2025年の1年間は歩留まりの向上と生産の自動化を進めた。「8インチのSiCインゴットの厚みを1年間で約2倍にまで成長させることに成功。同時に、ウエハー切断も含め、工程の全自動化を進めているので低コスト化を実現できたのだろう」(横氏)
さらにJSGは現在、マレーシアにも工場を建設中だ。工場は2026年内に完成し、2027年第1四半期に試運転が始まる予定になっている。
TYSiCは現在、中国国内の2カ所の工場でSiCエピウエハーを製造している。2025年の生産能力は80万枚だった。TYSiCはエピタキシャル成長装置を約200台所有していて、そのうち半分が中国産(大半がJSG製)になっている。TYSiCはSiCエピウエハーの生産能力を2026年は年間110万枚、2028年には200万枚に増加する計画だ。
2018年に設立されたUNTはシリコンやSiCのファウンドリーを展開する企業だ。IGBTやSiC MOSFET、アナログICやMEMS、シリコン(Si)MOSFETなどのチップに加え、デバイスやモジュール(完成品)の受託製造まで手掛ける。中国の大手自動車メーカーであるBYDをはじめ、多くの欧米の自動車メーカーおよびティア1サプライヤーを顧客に持つ。自動車産業に注力し、AIを駆使した工場を運営しているメーカーでもある。生産能力は12インチSiウエハーが月産3万枚、8インチSiウエハーで同20万枚、8インチSiCウエハーは同1万枚。SiCチップの受託製造では中国でトップクラスとなっている。モジュールの生産能力は月産50万個に達している。
Iron Forceは台湾と中国に工場を持つ。世界中の半導体メーカーやモジュールメーカー、ティア1サプライヤーを顧客に持ち、特に欧州で強みを持つ。クーリングデバイスは水冷式をはじめ、さまざまなタイプを手掛ける。
マルエムのパートナーに共通しているのが、市場での確かな実績に加え、潤沢なリソースと驚異的なスピードでの技術進化だ。それは、中国経済特有の仕組みによるところも大きい。「中国では、多くの企業が参画して苛烈な競争を繰り広げる。1年間で約1万7000社も起業する世界だ。その分淘汰も早く、3〜4年後にはほとんどの企業がなくなり、2〜3社の寡占状態になる。だが、こうした“多産多死”の状況を分かった上で果敢に挑戦し、トライ&エラーを繰り返す。それが異次元の進化の原動力となっている」(横氏)。SiC分野も例に漏れず、多くの企業が誕生し、激しい競争を続けながら淘汰が進んでいる。その分、生き残って成長している企業の研究開発力や競争力は底堅い。
横氏は「中国のこのようなカルチャーを、日本企業はうまく活用すべきだ」と強調する。「日本では失敗を恐れてできないような実験も、中国メーカーであれば躊躇(ちゅうちょ)なく進める。中国市場は『巨大な実験場』だと思えばよい。日本は、中国企業に実験をやってもらい、データをどんどん集めて“いいとこ取り”をし、日本流に手直ししていけばいい。それにより、開発効率を大幅に向上させられるのではないか」
先述した通り、マルエム商会は「第2回関西ネプコン ジャパン」(2026年5月13〜15日/インテックス大阪)に出展し、12インチSiCエピウエハーをはじめ、パートナーが手掛けるSiC関連技術と製品を披露する。中国のSiC技術の現状を肌で感じられる貴重な機会になるはずだ。
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提供:株式会社マルエム商会
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2026年5月29日