AIの普及は、データセンターの消費電力急増という新たな課題をもたらしている。日本テキサス・インスツルメンツは「TECHNO-FRONTIER 2026」の主催者講演で、AIインフラが直面する電力課題を解説するとともに、その解決に向けたTexas Instruments(TI)の基盤技術や製品群を紹介した。
AIの急速な普及は、社会や日常生活の生産性、利便性を大きく向上させている。一方で、深刻化しているのが、データ処理量の急増に伴うデータセンターの消費電力だ。日本テキサス・インスツルメンツ合同会社 東日本エリアディレクターの初山翔星氏は「TECHNO-FRONTIER 2026」(2026年7月15〜17日、東京ビッグサイト)の主催者セミナーに登壇。「AIインフラの未来を切り拓く〜 電源・熱設計における包括的アプローチ〜」と題する講演で、AIインフラにおける電力問題の背景を説明するとともに、その解決に向け、Texas Instruments(TI)が「グリッドからプロセッサまで」のシステムレベルでソリューションを展開していることを紹介した。
講演の冒頭で初山氏は、AIの普及に伴い、データセンターの消費電力が急増している現状を示した。2000年ごろ、データセンターの1ラック当たりの標準的な消費電力は3kW〜5kW程度で、これは東京の一般家庭約8世帯分に相当したという。それから約25年が経過した現在では、わずか1ラックで約1500世帯分の電力を消費するようになった。初山氏は「特に生成AIの登場は業務の生産性を飛躍的に向上させ、プログラミングのように、従来は数日から数週間かかっていた作業が、わずか数分から数時間で完了できるようになっている。だが、その生産性と引き換えに、消費電力の増大という大きな代償も生み出した」と語る。
「将来的には、さらに多くの電力が必要になる。そのため、電力供給アーキテクチャや電力の利用方法を含めたエコシステムの再構築が非常に重要になっている」(初山氏)
初山氏は、こうした課題への対応を考えるには、まずプロセッサの消費電力が増加している要因を理解する必要があると説明する。
要因は大きく2つある。1つはプロセッサ自体の消費電力の増加だ。ハイエンドプロセッサの消費電流は、3〜4年前は500A程度だったが、現在は既に2000Aに達している。今後数年以内に1万アンペアを超えるという予測もある。
もう一つは、ラック当たりに搭載されるプロセッサ数の増加だ。数年前までは約40個が一般的だったが、現在は500個以上にまで増えている。これら2つの要因によって、データセンターの消費電力は指数関数的に増加し、ラック当たりの消費電力は1MW(メガワット)を超える勢いだ。
プロセッサの高性能化に伴い、チップ自体のサイズも拡大している。ラックのフォームファクターは変えられないので、実装スペース面での制約は一段と厳しさを増している。「電力管理回路やその周辺に割り当てられるスペースは、さらに小さくなるだろう。限られた面積でアーキテクチャを最適化し、電力密度を向上させていく必要がある。大きなチャレンジではあるが、TIにとっては新たなビジネスや技術進化のチャンスももたらすと考えている」(初山氏)
初山氏は省電力化の有力な解の一つとして、垂直方向への電力供給を挙げた。
従来は、電源からプロセッサに水平方向に電力を供給するLPD(Lateral Power Delivery)が主流だった。だがこの方法だと、大電流になるにつれ、プロセッサ周辺に大型レギュレーターを多数配置する必要があり、プロセッサよりも電流供給回路の方が大きな実装面積を占めるケースもある。「AIの進化を支えるプロセッサよりも、電力供給の方が広い面積を占めるケースもある」と初山氏は説明する。
こうした背景から、電源をプロセッサの真下に配置し、垂直方向に電力を供給するVPD(Vertical Power Delivery)の導入が進む。この方式の大きな利点は消費電力の大幅な削減だ。「プロセッサの電流を1000Aとすると、VPDを導入した場合、1000A当たり約75Wの電力を削減できる。ラック単位では50kWもの削減効果につながる」(初山氏)
デバイスレベルだけでなく、電力供給インフラ全体で省電力を図ることも不可欠だ。
従来、データセンターの電力供給アーキテクチャは、グリッドからAC480Vで受電した後、AC/DC変換とDC/DC変換を繰り返し、12Vのバックプレーンを介してプロセッサなどに電力を供給するという複雑な経路をたどる。ラック当たりの消費電力がキロワットオーダーであれば大きな問題はない。だが1MWに達した場合、48V/50Vのバスバーでは2万アンペアもの大電流を供給しなければならなくなる。
そこで検討が進んでいるのが800V DCアーキテクチャへの移行だ。この方式ではグリッドからの数十キロボルトの電圧を800V DCに変換後、ラックまで直接配線する。ただし、ここでも課題が発生する。800V対応のコンバーターが必要になり、そのための実装スペースを確保しなければならないのだ。「スペースが貴重だと言いながら、それに逆行するような要求も生まれている」(初山氏)
初山氏は、現状では、800Vから12Vなど、高電圧から一気に降圧する変換ステップはまだ確立されていないと語る。「一般的に、電力変換の回数が少ないほど損失を抑えられる。800Vから6Vに直接変換できれば、従来よりもはるかに高効率な電力供給を実現できるが、そのための技術がまだそろっていない。電力変換をどれだけ少なくできるか、そこに取り組み、解決していくのがわれわれの仕事だ」
初山氏は、こうしたデータセンターのトレンドを支えるTIの製品をいくつか紹介した。電力段向けでは、小型、高効率、高密度を実現したパワーソリューションをそろえる。
パワーFETでは、ドライバーを1つのダイに統合したモノリシック製品を提供する。寄生成分や効率、熱特性など、あらゆる面でMCM(マルチチップモジュール)より優れているため、TIは2019年にモノリシック製品へ全面移行した。さらに、モノリシックのパワーFETではダイの表面に直接コールドプレートを取り付けられるので、熱設計も容易になる。
3年前には、磁気素子(インダクタ)を統合したパワーモジュール「MagPack」も開発した。トランスやインダクタなどの磁気部品と電源チップを1パッケージに集積する技術で、出力電力を維持したままモジュールを小型化できる。磁気を100%活用できるので、磁気部品を電源チップの横あるいは真上に置く従来のモジュールに比べ、2%以上の効率向上および30%以上の高密度化を実現できる。
サーバ電源の高密度化に大きな効果を発揮するGaNパワーデバイスにも注力する。設計のしやすさとGaN FETの性能を両立するため、GaN FETとドライバーを一体化した製品を開発した。この統合型GaNを用いたパワーステージは、ディスクリートで構成する場合に比べ、実装面積を65%削減し、供給電力を33%向上させられる。
800V DCアーキテクチャに向けては、高耐圧GaNパワーデバイスのラインアップ拡充に加え、絶縁バイアス電源の小型化/高密度化も進めてきた。絶縁バイアス電源では、2019年に発表した「UCC12050」が出力500mWだったのに対し、2025年に発表した「UCC34141」は実装面積を半減しながら最大1.5Wの出力を実現した。高電圧センシング向けソリューションの開発も進めていて、ディスクリート構成に比べ実装面積を約15分の1に小型化できるとする。
TIのデバイスは、実際のアプリケーションで使用しても、しっかりと効果を発揮すると初山氏は強調する。例えば4×6電力段では、パワーFETをMCMからモノリシックに置き換えるだけでリンギングを約10V低減できたという。6Vのデュアルフェーズ構成のパワーモジュールを使うと、12Vの同製品に比べて変換効率を3.2%向上させられる。MagPackを採用した新製品として9×10×5mmの4相モジュールも発表している。単一デバイスで280Aの出力電流に対応する。初山氏は「これまで紹介したTIのAIインフラ向け基盤技術は、既に実際の製品として提供できる状態にある」と強調した。
データセンターの消費電力が急増する中、冷却技術も転換点を迎えている。ラック当たりの消費電力が15kWを超えると、従来の空気対空気冷却では対応が難しくなり、空気対液体冷却の採用が不可欠になりつつある。
液体冷却では、外部チラーとの熱交換によって冷却を行うため、熱管理に求められる精度も一段と高くなる。リニアバルブをどれだけ高精度に制御できるかが、データセンター全体の性能を左右する重要な要素になるという。
こうした要求に対し、TIはスマートコントロールAFE(Analog Front End)を提供している。柔軟なリニアバルブ制御を可能にする1チップの製品で、外部チラーから供給される冷却水の水流監視に適した超音波センサーAFEのラインアップもある。TIは、次世代冷却システムに適用できる製品群を既に取りそろえているのだ。
初山氏は「当社は、次世代のAIインフラを、グリッドからプロセッサまで支える幅広いソリューションを展開している。加えて、高い信頼性を備えた供給体制という強みも持つ。顧客の成長を、技術、サポート、供給まで含めて支えられるサプライヤーであると自負している」と述べ、講演を締めくくった。
なお日本テキサス・インスツルメンツは2026年11月12日、東京・秋葉原で「TI 組込みラボ」を開催する。TIの最新技術や、さまざまな組み込みトピックに対応するシステムソリューションを取り上げるほか、エッジAI、サイバーセキュリティ、コネクティビティソリューションなどの最新情報や、TIの製品・取り組みについて幅広く解説する。詳細および参加登録はこちらのサイトを参照いただきたい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:日本テキサス・インスツルメンツ合同会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2026年10月3日