瞬停や停電時の安全確保、システム保護に欠かせないバックアップ電源。用途に応じてさまざまなデバイスが使われる中、VishayのEDLC「ENYCAP」は、高出力密度と長寿命に加え、AEC-Q200認証やUL810Aへの準拠、85/85試験をクリアした高い信頼性を強みに、自動車や産業機器での採用が拡大している。AIの導入が進むにつれて、その需要はさらに増加すると見込まれる。
設備やシステムでは、瞬間停電(瞬停)や停電が発生した際にも、安全性やデータ保護、システムの継続動作を確保することが求められる。そのため、一時的に電力を供給するバックアップ用デバイスは、設備やシステムの信頼性を支える「生命線」ともいえる重要な存在だ。産業機器や自動車、医療機器に加え「AIインフラ向けPCS(パワーコンディショニングシステム)」などでは、用途に応じて最適なバックアップ電源を選定することが、システム全体の安全性や可用性を左右する。
バックアップ用デバイスには、用途に応じて幾つかの選択肢がある。それぞれエネルギー密度や電力密度(単位容積当たりで取り出せる電力の大きさ)、充放電特性、サイズなどの特性が異なるため、目的や場所に合わせて選ぶことが重要だ。例えばエネルギー密度が大きいバッテリーは、一定以上の電力が必要な機器/システムに長時間、電力を供給する用途に向く。一方、ハイブリッドアルミ電解コンデンサは、バッテリーよりもエネルギー密度が低く、長時間の電力供給はできないものの、電力密度が高いので、瞬間的に大きな電力を供給したい場合に向いている。
※)表1に記載されている値は代表値であり、デバイスの化学的構成、構造、静電容量、定格電圧、温度、および測定条件によって異なります。
コンデンサをはじめ、多様な電子部品を提供するVishay Intertechnology(以下、Vishay)が「ENYCAP®(エネキャップ)」というブランドの下で展開する電気二重層キャパシタ(EDLC:Electric Double Layer Capacitor)も、バックアップ用デバイスに適している製品の一つだ。
EDLCは、バッテリーやハイブリッドアルミ電解コンデンサよりもエネルギー密度は低いが、電力密度が高いという特徴を持つ。最大約50万回の充放電が可能で、充放電を繰り返しても特性劣化が極めて少ないので寿命も長い。ビシェイジャパン アジア地域マーケティングマネージャー(コンデンサ担当)の高田修嗣氏は「EDLCは大電力を瞬間的に供給する用途に適している」と語る。
高田氏は、一例として自動車のドアロックシステムを挙げる。事故や何らかの不具合で電力が遮断された場合、ドアのロックが開かなければ中に人が閉じ込められてしまう。そのため、ロックを解除するための電力を瞬間的に供給し、ドアを開けられるようにする必要がある。「こうしたシステムはシート下に搭載されることが多く、そこにEDLCが採用されている」と高田氏は述べる。ロボットアームのバックアップ用電源としても用いられている。瞬停や停電が起きた際、安全のために定位置まで戻ってから停止するための電力を供給する。
Vishayは約8年前からENYCAP®を展開してきた。ENYCAP®の特徴の一つは、自動車用の部品規格であるAEC-Q200と、安全規格(外部からの燃焼に対する耐性)であるUL810Aの両方に準拠している点だ。「この2つの認証をどちらも取得しているEDLCは、それほど多くない。特に、UL810A準拠に必要となる熱耐性の実現には多くのノウハウが必要になる。そのため両方に準拠するのは簡単ではない」と高田氏は説明する。
さらに、高い耐久性を持つENYCAP®は、85℃、湿度85%という極端な環境下で1000時間試験を行う、85℃/85% RH 試験(85/85試験)にも合格している。「特に車載分野では85/85試験が重視されるので、これに合格していることは顧客が使いやすい“実力値”を備えた製品になっていることを意味する」(高田氏)
ENYCAP®は4つのシリーズがある。標準品となるのは「220 EDLC」で、より耐久性の高い「225 EDLC-R」、より耐圧の高い「230 EDLC-HV」があり、高耐久性かつ高耐圧の「235 EDLC-HVR」を用意している。高耐久性シリーズとなる225 EDLC-R/235 EDLC-HVRは85/85試験に合格し、高耐圧シリーズとなる230 EDLC-HV/235 EDLC-HVRは最大定格電圧が3.0Vである。
いずれのシリーズにも、容量5F/サイズ10×20mmから容量60F/サイズ18×40mmの範囲で、複数の品種があり、それ以上の容量が必要な場合にはカスタムでの対応も可能だ。一例として、端子を変更した100FのEDLCをカスタム品として提供している。あるいは60Fの製品を複数個接続して容量を増やす方法もある。耐圧を上げたい場合も、直列に接続すれば対応可能だ。「顧客の設計方針や用途に応じ、複数個を直列・並列接続することで、より大容量かつ高耐圧のバックアップシステムを構成できる。実際、そのような採用例も多い」(高田氏)
Vishayは、EDLC(電気二重層キャパシタ)を実用的なバックアップ電源システムに組み込む方法を実証するリファレンスデザインも提供している。
「EDLCBU-12V」は、VishayのEDLCスーパーキャパシタを採用した大電流対応の12VライドスルーUPS(無停電電源装置)であり、12V車載システムなどの用途に適した電圧しきい値の設定が可能だ。
より低電圧のシステム向けには、「EDLCBU-3V3」リファレンスデザインが3.3VマイクロUPS機能を提供する。これは、EDLCによる蓄電と可逆型バックス/ブーストレギュレータを組み合わせ、電源瞬断時にも電力供給を維持するものだ。EDLCを追加することで蓄電容量を拡大することも可能になっている。
ENYCAP®においてVishayの強みが最も生かされているのが、85℃/85%の温湿度環境への対応だ。EDLCもバッテリーと同様、使用環境によって寿命が左右されるデバイスだ。印加電圧や周囲温度が高いほど寿命は短くなるので、高温環境でも長寿命を維持できるかどうかが、バックアップ用デバイスとしての価値にも直結する。
「当社は外装ケースのゴムの材質やかしめの構造にノウハウを持っていて、ENYCAP®は85℃/85%の環境に1000時間以上さらされても、封止部のゴムが膨張しない。ゴムが膨張するとケースに隙間が発生し、気化したものも含め、電解液が漏れ出すことになる。それによって容量が減少してしまうので、EDLCではこの部分のノウハウが極めて重要になる」(高田氏)。動作環境が高温多湿になるほど、水分がケース内部に入ろうとする力が強くなる。「最も厳しい動作試験の一つ」ともいわれる85/85試験をクリアしていることは、顧客にとって『過酷な環境下で瞬停が起きてもバックアップシステムが確実に使用できる』という安心感につながる。
将来的には、既存製品よりも大容量の製品を目指して開発を進める。さまざまなアプリケーションにおいて、特に大容量化へのニーズが高いからだ。ただし、容量を増やすことで製品サイズも大きくなると、使い勝手や実装スペースの面で課題が生じる。「できるだけ小型で大容量、というのがENYCAP®の開発コンセプトだ。やみくもに大容量品のラインアップを増やしていくのではなく、直列や並列に接続する際の使いやすさも考慮して、製品展開を進める。さらに、一般に容量を増やすほど高温多湿環境への対応も難しくなるため、容量に対するニーズとのバランスを見ながら製品群の拡張を図る」(高田氏)
ENYCAP®シリーズは現在、産業機器や自動車向けの無停電電源装置(UPS)などでシェアを伸ばしている。海外では、医療機器用のバックアップ用デバイスとしても採用されている。「日本では、特に自動車向けを狙う。ドアロックシステムを含め、それ以外の用途でも採用を増やすべく、積極的に働きかけているところだ」と高田氏は述べる。
高田氏は「一部のアプリケーションでは、バックアップ用デバイスをバッテリーからEDLCに置き換える動きがあるとみている」と語る。「実際、ハイブリッドアルミ電解コンデンサからEDLCへ置き換える動きがあった。コストだけを見ればアルミ電解コンデンサに優位性がある。しかし、小型で大容量というEDLCの利点が、コスト面でのメリットを上回ると評価される用途が増えている。バッテリーの価格は材料に大きく依存するので、コストの単純な比較はできないが、EDLC、つまりENYCAP®のターゲット市場は着実に広がると考えている」
バックアップ電源は、システムの信頼性を維持し、安全に運用するために欠かせない要素だ。小型で大容量というだけでなく、85/85試験をクリアする高い耐久性を備えたENYCAP®は、バックアップ用デバイスとして現実的な選択肢の一つになるはずだ。
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アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2026年11月27日