生成AIの普及でデータ量が爆発的に増える中、AIデータセンターではストレージの重要性が増している。キオクシアは次世代「BiCS FLASH」をベースに、大容量や広帯域光SSD、1億IOPSのSSDなど、新しいAIストレージ基盤を見据えた革新技術を次々に提案している。
AI技術の進化と普及はとどまるところを知らない。演算量やデータ量は飛躍的に増え、より高速なプロセッサ、より大容量のストレージへの要求はかつてないほど高まっている。そうした要求の高まりは、GPUや広帯域メモリ(HBM)の需要を押し上げる一方で、AIデータセンターのコンピューティングアーキテクチャやAIストレージの面で課題も浮き彫りにしている。そうした中、データセンター用ストレージソリューションで攻勢をかけているのがキオクシアだ。次世代のAIストレージ基盤においてSSDはどうあるべきなのか。キオクシア 先端技術研究所 研究戦略企画室 技監の高橋真史氏と、半導体システム設計の研究に長く携わる東京大学 大学院工学系研究科 教授の池田誠氏が対談した。
データセンターのストレージでは、大容量かつ低コストのHDDが長く使われてきた。特にデータを長期間保存するアーカイブの用途では、HDDが採用されることが多かった。だがその状況は、生成AIの爆発的な普及により変わりつつある。AIデータセンターでは、読み込み性能や耐久性、電力効率に優れるSSDの採用が増えているのだ。池田氏は「データ量が加速度的に増えていることで、HDDかSSDのどちらかという話ではなくどちらも増設しなければならない段階になっています」と語る。そうした中で、AIストレージ基盤はアーキテクチャ面で大きな変革を迫られている。
その背景にあるのがHBMの存在だ。非常に高い帯域幅を持つHBMは、大量のデータを高速に演算するGPUの性能を引き出せる。そのためGPUでは、HBMの搭載数を増やし大容量化することで高性能化を図っている。池田氏は「NVIDIAのGPUはHBMの容量が増えた分だけ性能も上がっています。それを見ても、AI処理において容量の増加はやはり正義なのです」と語る。
一方でHBMには大きな課題もある。その筆頭がコストだ。DRAMを積層しシリコン貫通電極(TSV)で高密度に集積するHBMはとにかく高い。高橋氏は「GPUの性能を最大限に引き出すメモリは、現時点ではHBMが最適解なのは間違いありません」としつつ、さらなる大容量化においてはコストの高さが一番のボトルネックになると述べる。他にも、DRAMを積み上げることによる発熱の問題や、定期的なリフレッシュが必要になるので消費電力の問題もある。
池田氏はメモリサイズの問題も指摘する。一般的に半導体はプロセスの微細化が進むと小型化するが、DRAMはプロセスに対して既にスケールしなくなっているからだ。「DRAMは原理上、一定のキャパシタンスを持っていなければメモリとして機能しないので、どうしても小型化が難しくなります」(池田氏)。ハイパースケーラーもサーバベンダーの投資が盛んに行われているが、無限の投資ができるわけではない。コスト的な制約がある以上、HBMの大容量化のみに依存するAI処理の高速化/高性能化にはやがて限界がくる。それでも“待ったなし”で増え続けるデータ量に対応するには、ストレージの役割がますます重要になるのだ。
こうした背景の中、キオクシアは2025年8月に米国で開催されたメモリ/ストレージのカンファレンス「the Future of Memory and Storage(FMS)」で、AIストレージの要件に応え得るフラッシュメモリとストレージの進化の方向性を示し、大きな注目を集めた。基調講演には約3000人が集まったほどだ。
キオクシアは、学習や推論、RAG(検索拡張生成)/グラウンディングなどのAIワークフローではSSDの要件が異なると説明。それぞれの要件を満たすべく、大容量、広帯域に加えて、低レイテンシ化による高IOPSの実現に向けてSSDを開発していく。
そうしたSSDの根幹を支えるのがキオクシアの3次元NAND型フラッシュメモリ「BiCS FLASH」だ。FMSでは、BiCS FLASHの進化について、さまざまなアプリケーションに対応するため、コストパフォーマンスの追求と、大容量/高性能の追求という2つの方向性を示した。第9世代では、第8世代でも量産化に入っている積層技術と独自のプロセス技術「CBA(CMOS directly Bonded to Array)」を適用し、コストを抑えつつ性能/電力効率の向上を図る。第10世代では新たな積層技術を適用し、332層の高積層と大幅なビット密度増を実現する計画だ。
大容量SSDとしては、現在開発中の「KIOXIA LC9シリーズ」に、245.76テラバイトのモデルを追加した。生成AI向けに膨大な量のベクターデータベースの保存を見据えたものだ。こちらもFMSで大きな注目を集め、Best of Show Awardを受賞した。
高IOPS SSDに向けては、SCM(ストレージクラスメモリ)である第3世代「XL-FLASH」の開発を進めている。レイテンシは現行のBiCS FLASHに比べて10%以下に短縮される。注目すべきは、NVIDIAと協力して開発中の「Super High IOPS SSD」だ。XL-FLASHと新しいコントローラーを組み合わせ、1000万以上のIOPSを目指す。生成AIの普及によって、SSDでは従来比で10倍、100倍など文字通り桁違いのIOPSが求められるようになっている。「かなり高いハードル」(高橋氏)とするが、2026年には第2世代XL-FLASHとPCIe 6.0のインタフェースで1000万IOPSを、2027年には第3世代XL-FLASHとPCIe 7.0で1億IOPSを実現する計画だ。過去からXL-FLASHを展開してきたキオクシアは、生成AI時代の到来によってSCMに大きなビジネスチャンスが訪れているとみる。「この流れを一気につかみたいと考えています」と高橋氏は語る。
RAG/グラウンディング向けSSDでは、KIOXIA LC9シリーズのようなハードウェアだけでなくソフトウェア「KIOXIA AiSAQ(アイザック)」の提案に力を入れる。AiSAQはRAGでSSDを活用するためのソフトだ。RAGは、大規模言語モデルに企業のデータベースなどの外部情報を組み合わせることで、生成AIの回答の精度を高める技術である。RAGではインデックス化したデータをDRAM上に展開して検索する。AiSAQを使うとDRAM上にデータを展開することなく、SSDにデータを保存したままで検索できるようになる。「RAGはデータ量が非常に多いので、われわれとしてはSSDを使うのが効果的で、ビジネスチャンスだとみています。DRAMは搭載できる容量が限られるので、AiSAQを使うことで、CPUがDRAMを占有しなくなることは重要です」(高橋氏)。キオクシアはAiSAQをオープンソースで公開し、RAGの普及とともにSSDの重要性を高めることも狙う。
キオクシアがFMSで発表したBiCS FLASHやSSDの技術からみえてくるのは、容量を拡張しやすい柔軟で多様な次世代AIストレージ基盤の姿だ。キオクシアは例として「GPUメモリ拡張」「GPU近傍キャッシュ」を挙げる。GPUメモリ拡張は、SSDとGPUが直接データをやり取りすることで、拡張が難しいというHBMの課題に応えるものだ。GPU近傍キャッシュは、GPUのそばにSSDを配置し、データレイクからある程度まとめてデータをSSDに格納しておく使い方である。GPUがネットワークを介してデータレイクにアクセスする回数を減らし、データアクセスの効率性を高められる。
こうしたアーキテクチャは、SSDが持つ本来の良さを生かせるのではないかと池田氏は述べる。「GPUベンダーも、GPUの次世代アーキテクチャをどうすべきかを考えていると思います。GPUを高速に動かすためには、必要なデータがジャストタイミングで来てくれるかどうかが鍵になります。ただ、AIの計算はやるべきことが決まっているので、あらかじめスケジューリングしておけば、DRAMに比べて多少レイテンシがあっても、SSDは十分にカバーできるのではないでしょうか。データがアクセスする場所をあらかじめプログラマが把握し、プログラミングする作業さえできれば、CPUにSSDを接続するよりもGPUにSSDを接続する方が圧倒的に使いやすいと思います。SSDの大容量や省電力というメリットをかえって生かせると考えられます」
データセンターストレージでは、SSDは当初、HDDのキャッシュとして使われることが多かった。池田氏は「SSDはDRAMよりもはるかに大容量なので、原理上最適とはいえないキャッシュとして使うよりも、大容量のデータを保存しておくというSSDのメリットを素直に生かす方向になっているのではないでしょうか」と付け足した。
「AIの利用がなくなることは、もうほぼあり得ないでしょう。今後は“AIを賢く使うためのAI”が登場するかもしれないほどです。そうなれば電力の問題はさらに深刻になります。AIストレージ基盤は、省電力に向けて進化し続ける必要があると考えます」(池田氏)
半導体はこれまで、スケーリング則で成長してきた。DRAMの容量の増加も、CPUに集積されているトランジスタ数の増加も、スケーリング則によって支えられてきた。だがそのスケーリング則による成長は、近年はほぼ止まっている。池田氏は「そうした中でフラッシュメモリは伸びています。つまりSSDは、スケーリング則による進化を続けている分野ではないでしょうか。半導体業界に身を置く人間としては頼もしい限りです」と語る。半導体業界では『ムーアの法則』が終わったといわれて久しい。だが、「経済原理的にはまだ止まっておらず、唯一気を吐いているのがGPUのトランジスタ数とフラッシュメモリの進化です」と池田氏が続ける通り、キオクシアはその時々の先端トレンドを支えながら常に進化し続けている。
そうしたフラッシュメモリ/SSDメーカーが日本にあることは、半導体の健全な競争環境を維持する一助であり、半導体人材、特にデジタル回路設計に携わる人材を育てるためにも必要だと池田氏は強調する。
「キオクシアは、NAND型フラッシュメモリの発明のみならず、2001年に多値化技術をフラッシュメモリに導入し、2007年には3Dフラッシュメモリ技術を発表するなど、世界のメモリ技術をけん引してきました。現在、メモリメーカーはメモリセルの高積層化技術などで競っている状況ですが、そうした技術の革新こそが今後の膨大なデータ需要に応える鍵になることだけは間違いありません。これらの革新は、今後のAI進化の大きな力になると考えています」(池田氏)
データ量の爆発的な増加を背景に、AIストレージ基盤は大きく変わろうとしている。容量拡張においてコスト的な制約がある中、「SSDを導入することでわずかな投資で性能向上を図れることが認知されれば、SSDの採用はさらに広がるかもしれません」と高橋氏は期待する。キオクシアが手掛ける大容量、広帯域、高IOPSのストレージソリューションは、データセンターにおけるSSDの重要性をさらに引き上げ、新たなユースケースを切り開き、AI時代の発展を支えていくはずだ。
※「BiCS FLASH」「KIOXIA AiSAQ」はキオクシア株式会社の登録商標です。
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提供:キオクシア株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2025年12月13日