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エネルギーハーベスティング設計入門電池レス無線センサー端末のための

Internet of Things(IoT)の世界が広がっていく中で、無線センサー端末は数え切れないほど、設置されていく。そこで問題になるのがセンサー端末のメンテナンスだ。無数の端末の電池交換を行うのはほぼ不可能であり、電池レスの無線センサー端末の実用化が急務だ。ここでは、無線センサー端末の電池レス、メンテナンスフリーを実現する「エナジーハーベスティング」(環境発電)を導入する場合に、留意したいいくつかの設計ポイントを中心に、電池レス/メンテナンスフリーの無線センサー端末の開発例などを紹介する。

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 近年、Internet of Things(IoT)、Machine to Machine(M2M)の市場/技術が期待、注目されている。IoT、M2Mとは、従来インターネットに接続されていたPCや携帯電話機だけでなく、全ての“モノ”、“機器”を無線でインターネット、またはローカルネットワークに接続し、より効果的に活用しようという試みである。


【図1】インターネットに接続される端末の総数の予測。単位は10億台。2020年には、PCやスマートフォン、タブレット端末など従来インターネットに接続されている端末を大幅に上回る数の端末がインターネットに接続される見込みだ 出典:ガートナー(2013年11月資料)

 その“モノ”、“機器”の中には、センサーを搭載した無線端末も含まれる。無線センサー端末をネットワークに接続することで、センサー端末の周囲環境/情報をネットワーク経由で収集することができるからである。この無線センサー端末で使用されるセンサーの種類としては、温度、照度、湿度、人感、圧力、応力、歪み、位置、流量、ガスなどさまざまである。無線センサー端末は、設置するセンサー端末が多ければ多いほど、多種多様で、正確なデータを収集することが可能である。これらをビックデータとして活用することで、今まで実現できなかった機器の制御や監視、予測が行えるようになったり、さらには新たなクラウドサービスやビジネスが生まれたりすることが期待されている。


【図2】想定される無線センサー端末の利用例

 このようなIoT、M2Mの流れは、半導体デバイスの進化と、無線技術の発達によるところが大きい。機器の無線化、小型化、低消費電力化が可能になり、電池を搭載すれば、配線不要でさまざまな場所への設置が容易になったからである。

1つの課題

 IoT、M2Mの1つのキーポイントは、無線センサー端末を至る所に設置し、データを収集することである。しかし、そこには1つの大きな課題がある。電源配線の工事、もしくは電池使用の場合必ず電池寿命、交換メンテナンスの時期があるということである。10〜20個であれば、誰も問題視をしないが、それが1万個、100万個、1億個となった場合は、電池コストもさることながら、電池交換などのメンテナンス費用は莫大になる。この点が、無線センサー端末の普及の課題になっている理由である。

 これを解決する技術として注目されているのが、エネルギーハーベスティングである。

エネルギーハーベスティングとは、太陽電池、圧電素子、熱電素子などの発電素子を使い、身の回りの光、振動、熱などのエネルギーを電気に変換し、有効利用する技術である。

 年々、向上してきた発電素子の発電特性と、低消費電力化が進む半導体製品のバランスがちょうど釣り合った今だからこそ実現可能であり、このIoTにおける無線センサー端末の普及課題を解決する、1つのキーテクノロジーとして注目を浴びている理由である。

エネルギーハーベスティングを使用した無線センサー端末の構成

 エネルギーハーベスティングを使用した無線センサー端末のブロック図は、図3のような構成になる。従来、コイン電池や乾電池が使用されていた部分を、発電素子と発電素子にマッチした電源ICで置き換えることになる。


【図3】エネルギーハーベスティングを使用した無線センサー端末のブロック図

 発電素子は、周囲環境から振動、光、熱など、どのようなエネルギーを取り出せるか考慮した上で選択が必要である。一般的には、圧電素子や、熱電素子、太陽電池などが使用される。その発電素子から、発電電力を損失することなく効率よく取り出し、かつ後段のICへ安定した電力を供給する発電素子用の電源ICも重要である。そして、周囲環境をセンシングするセンサー、取得データの処理やシステム制御を行うマイコン(MCU)、無線送信を行う無線チップという構成になる。

エネルギーハーベスティング用電源IC

 スパンション(Spansion)は、これら発電素子にマッチした電源IC2製品をラインアップしている。光・振動発電素子に対応した超低消費電力の降圧型DC/DCコンバータ「MB39C811」、光・熱発電素子に対応した超低入力電圧対応の昇圧型DC/DCコンバータ「MB39C831」だ。これら製品は、発電素子から電力を効率良く取り出し、かつ後段へ安定した電力供給を行うための機能が各種盛り込まれている。


【図4】光・振動発電素子に対応した超低消費電力の降圧型DC/DCコンバータ「MB39C811」と、光・熱発電素子に対応した超低入力電圧対応の昇圧型DC/DCコンバータ「MB39C831」の概要 (クリックで拡大)

発電素子の種類と発電電力

 図5に、太陽電池、圧電素子、熱電素子について、それぞれの発電電力、出力電圧、発電環境を示す。


【図5】太陽電池、圧電素子、熱電素子それぞれの発電電力、出力電圧、発電環境

 各発電素子の発電電力は、サイズや発電環境によって変わる。機器に組み込む場合、どのようなエネルギーソースが得られるか、実際に機器に組み込めるサイズはどれくらいか、そして機器の消費電力と発電電力とのバランスが取れるかを総合的に検討する必要がある。

 その上で、それぞれの発電素子にマッチした電源ICを選択する必要がある。特に、発電素子の出力の電圧/電流/出力特性(ACまたはDC)は素子によって異なり、最適な電源ICを選択する必要がある。スパンションの電源ICはこれら発電素子にマッチした電源ICを製品化している。

無線の種類と特徴

 無線センサーネットワーク端末に必要な無線の選択に当たっては、発電素子と同様に、目的に応じた選択が必要である。通信距離、構築したいネットワークの種類、データ送信量、アプリケーション、消費電力などを考慮する必要がある。エネルギーハーベスティングと組み合わせて使用する上では、低消費電力がやはりキーポイントであり、注目されている無線はEnOcean、Zigbee、Bluetooth Low Energy(Bluetooth LE)などである。図6に無線の種類と特徴について示す。


【図6】センサーネットワーク端末で注目される主な無線とその特徴 (クリックで拡大)

発電電力、消費電力の把握とバランス

 エネルギーハーベスティングを適用する場合、考慮する点がもう1つある。それは、発電電力と消費電力のバランスを取ることである。機器が消費する電力よりも、発電電力が小さい場合、機器は動作できないからだ。発電素子の発電特性は年々、向上しているものの、機器の消費電力を常に賄うことは難しい。それを解決する手段として、発電電力を一度キャパシタなどに蓄電し、機器の動作を間欠動作とすることで、発電電力量と消費電力量のバランスをとる方法がある。

 このためには、発電素子の発電環境、発電電力、発電時間と、機器の消費電力、消費時間の正確な把握が必要である。

 図7に示すように、発電、蓄電、消費のバランスを、発電時間、蓄電時間、消費時間で解決することが大切な点である。


【図7】発電、蓄電、消費のバランスの重要性を示すイメージ。常に端末を動作させるのではなく、発電時間、蓄電時間、消費時間をうまくバランスさせることが必要だ

エネルギー収支(エネルギーバジェット)計算

 これまで述べてきた、発電電力、消費電力のバランスを取るために、蓄電素子(キャパシタ)の蓄電時間、使用可能な電荷量などを計算し、最適なキャパシタサイズを導き出す必要がある。この作業は発電電力、消費電力の見積もりが正確にできていたとしても、試行錯誤が必要である。また、発電電力、消費電力の見積もりが正確でない場合、その都度、最適な値を計算、もしくは実機で確認する必要がある。

 スパンションは、これらのエネルギーバジェットの計算・検討が誰でも簡単に行えるように、Web上でシミュレーション可能な“EasyDesignSim”を用意している。簡単な登録だけで使用できるので、ぜひ活用してほしい。

 エネルギーバジェットのシミュレーション方法はこちらに紹介されている。

エネルギーハーベスティング 無線センサー端末 スターターキット

 ここまで述べてきた開発・検討をイチから行うことは、なかなか難しい。そのため、スパンションはエネルギーハーベスティングを使った無線センサー端末を手軽に体験でき、開発を加速するためのエネルギーハーベスティングスターターキットを用意している。スタータキットが搭載する無線は、低消費電力に最適化されたオリジナルプロトコルを使用した2.4GHz帯無線だが、無線回路をZigBeeや、Bluetooth LEのチップ/モジュールに変更することで、それぞれの無線プロトコルを使用することが可能である。MCUはスパンションのARM Coretex-M3コアベースのマイコン「FM3」を使用しており、ARMの開発環境があれば、さまざまなカスタマイズが可能である。図8にエネルギーハーベスティングスターターキットの概要を示す。


【図8】エネルギーハーベスティングスターターキットの概要 (クリックで拡大)

エネルギーハーベスティング Bluetooth LE Beacon

 また、徐々に注目を集めているBluetooth LE Beaconをエネルギーハーベスティングで駆動するキットも用意している(図9)。

 接続可能な発電素子は太陽電池、圧電素子であり、その他AC入力、USB給電、アンテナ接続でワイヤレス給電なども可能である。


【図9】Bluetooth LE Beaconをエネルギーハーベスティングで駆動するキットのイメージ

応用事例

 最後に、スパンションのエネルギーハーベスティング用電源ICを使った実際の機器開発がさまざまなところで進められており、いくつかの例を図10〜13に示す。

左=【図10】開発事例1:農場向けバッテリーレス端末 / 右=【図11】開発事例2:工場プラント向けバッテリーレス端末 (クリックで拡大)
左=【図12】開発事例3:鉄道向け一次電池併用型端末 / 右=【図13】開発事例4:環境監視向け一次電池、二次電池併用型端末 (クリックで拡大)

 これらの例は、エネルギーハーベスティング技術を使うことで無線センサー端末の電池レス化を実現している。また、電池とエネルギーハーベスティング技術を併用することで、電池寿命の延命を実現している。このように、エネルギーハーベスティング技術を取り込んだ無線センサー端末の開発は加速している。今後数年以内には、ありとあらゆる場所に、エネルギーハーベスティング技術を使用した無線センサー端末の設置がされていくことだろう。スパンションは今後も、発電素子によりマッチした電源ICや、より低消費電力のMCUの開発、提供を行っていく。



提供:Spansion Inc.(スパンション)
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2014年11月17日

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