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周波数の総合メーカーとしての高付加価値開発戦略日本電波工業 執行役員 赤池和男氏

日本電波工業は、“周波数の制御・選択・検出”に関する独自技術を軸に高付加価値製品開発を加速させている。これまで水晶では達成が困難だった精度、安定性を独自技術でクリアし、水晶の適用範囲を広げるとともに、水晶など発振デバイスを駆使したまったく新しいデバイス/モジュールの開発にも積極的だ。同社で最も高付加価値製品比率の高い産業用製品/技術開発を統括する執行役員の赤池和男氏に、高付加価値製品開発戦略について聞いた。

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高付加価値製品の売り上げ・利益に貢献

――製品開発戦略を教えてください。

赤池和男氏 高い付加価値を持った新商品開発を強化しています。当社は水晶を中心に周波数に関連したデバイスを提供しており、数量ベースでは、スマートフォンをはじめとした量産規模の大きい民生機器向けビジネスが主力だといえます。ただ、スマートフォン向けは数量こそ大きく伸びていますが、ご存じの通り、価格下落が著しくなっています。

 そこで、もともと当社が得意としている高精度、高信頼など高付加価値品をあらためて強化し、中間期には高付加価値品の売り上げ比率を5割程度にまで引き上げようとしています。

用途/製品別の開発体制へ移行

――高付加価値品を投入する用途市場としては、どの領域をターゲットにしているのですか。

赤池氏 民生用途とともに、ビジネス規模が大きくなっている車載用途、そして、医療なども含めた幅広い産業用途を想定しています。製品セグメントとしては、産業用製品、車載用高信頼性製品、一般量産品、SAWデバイス、センサ製品の5つでそれぞれ、高付加価値品を開発投入するイメージです。

 こうした事業戦略、製品開発戦略に沿って、それまで一元的だった製品開発体制を、2014年11月から、用途/製品別セグメントごとに分けて、執行役員がそれぞれ統括する体制へと変更しました。各セグメントでの意思決定を迅速化し、製品開発を加速させる狙いがあります。

高付加価値戦略の中心を担う産業向け

――5つの製品セグメントの中でも、赤池さんが担当される産業用途向けは、より付加価値の高い製品セグメントになりますね。

赤池氏 はい。全ての製品が高付加価値品に分類されていますので、今後売上を伸ばし高付加価値品戦略の中心となるように進めています。

――産業用高付加価値品としてはどのような製品を展開されるのですか。

赤池氏 主力製品として、恒温槽付き発振器(OCXO)など高安定発振器や低雑音発振器、シンセサイザモジュールなどになります。こうした製品、技術をベースに、幅広い産業用途の中でも、「周波数の制御・選択・検出」へのニーズが高まっている領域に展開していく方針です。

 その1つが、通信インフラの領域です。

 スマートフォンの普及などにより、通信トラフィックは急増し、新たな通信方式が次々と登場し、基地局などの設備更新も盛んです。LTE/LTE-Advanceなど第4世代移動通信(4G)、さらに将来の5Gと、新しい周波数帯の利用や、MIMOの高次化が見込まれ、クロックに対しても新たなニーズが生まれています。

 直近では、局所的な通信トラフィック増大に対応するため、TDD(時間分割多重)多重方式の無線利用が主流になりつつあります。TDDでは、各基地局が、正確なクロックを安定的に刻み、時間同期しなければなりません。TDD-LTE規格では、GPSなどによる補正なしに、発振器単独で24時間1.5μ秒以内の誤差での動作が規定されています。こうした要件を満たす、高い安定性を誇る独自の「Twin技術」を応用したLTE-TDD基地局用OCXOのサンプル出荷を開始しました。

水晶の適用範囲を広げる独自の「Twin技術」

――Twin技術を用いたOCXOとはどのような製品なのですか。

赤池氏 LTE-TDD基地局用の製品では、0.03ppbという精度を実現しています。これは、ルビジウム発振器に匹敵する、OCXOとして世界最高水準の精度だと自負しています。

 この精度を実現できた背景には、5年ほど前から開発してきたTwin技術によるところが大きいわけです。

 通常、OCXOは、サーミスタなどの温度検出素子の温度情報を元に、補正をかけることで発振周波数を安定させます。そのため、温度検出素子自体の精度が、発振器自体の精度を決定します。

 Twin技術は、水晶を使ってより高精度な温度検出を実現しようとしたものです。温度特性の異なる2つの水晶を使うことで、温度変化で生じる周波数差量から高精度に温度を割り出す技術です。この技術により、24時間動作しても、ズレは1.5μ秒未満という高精度の安定性が実現できたのです。


Twin技術により、OCXO並みの安定性を持つTCXO、ルビジウム発振器並みの安定性を持つOCXOを実現し、水晶の適用範囲が拡大している

 ちなみにTwin技術は、OCXOに限った技術ではなく、恒温槽のないTCXO(温度補償水晶発振器)でも応用可能な技術です。既に、−40〜+85℃の高温度範囲でも、50ppb以下という従来のOCXO並みの高精度を実現するTwin技術応用TCXO「DCXO」を製品化し、小型基地局向けなどに販売しています。

放送分野へシンセサイザモジュールを展開

――地上デジタル放送の更新も迫っていますが対応はいかがですか。

赤池氏 これから2000年代に整備された地上デジタル中継局の設備更新時期に差し掛かるため、地上デジタル放送用に500MHz〜800MHzを0.1Hzステップで設定できるシンセサイザモジュールを開発しています。大手の放送機器メーカーで基準信号源として採用が決まり、高いシェアの獲得を見込んでいます。

 従来、地上デジタル放送のシンセサイザは当社独自の信号処理方式で高シェアを持っており、今回の更新に合わせて、設計もリニューアルして製品を準備しています。

 また、ルビジウムに匹敵するTwin技術を用いたGPS制御のOCXOも基準発振器として製品を準備しています。

 シンセサイザとしては、当社独自のダイレクトデジタルシンセサイザ(DDS)技術もあり、低雑音、低スプリアス、高速切り替えなどの性能に優れたモジュールで、基地局、宇宙/防衛分野でもカスタムモジュールを提供できます。今後は、マイクロ波、ミリ波など対応できる周波数帯への展開も行い、国内外での売り上げ増を図っていきます。

徹底して性能を追い求めたハイレゾ発振器

――低雑音が特長のユニークな発振器を開発されたと聞きました。

赤池氏 ハイレゾリューション(ハイレゾ)対応機器用の超低雑音発振器「DuCULoN」(デュカロン)ですね。プロ用音響機器、ハイエンドオーディオ機器向けに特化した発振器であり、われわれの高付加価値戦略を象徴するような製品です。

 もともと当社は、純度の極めて高い、High-Qの低雑音OCXOを、人工衛星など宇宙用途向けに展開してきました。こうした超低雑音OCXOは、国内では唯一のメーカーと自負しており、計測器やレーダー、製造装置メーカーからも多くの引き合いを得てビジネスを広げてきていました。

 そうした中で、ハイレゾ音源が登場したことで、この低雑音技術をオーディオ向けにも生かしてほしいとの要望が寄せられるようになりました。デジタル化された音をできる限り音源に忠実に再現するために、正確で雑音の少ないクロック源が必要となったのです。そのクロック源としてハイレゾ対応のスマートフォンやモバイル機器向けに2520サイズ(2.5×2.0mm)の小型発振器「SPXOシリーズ」の製品化に至りました。今やSPXOは、高品質な音にこだわるデジタル機器の特長の1つにも挙げられるほど、オーディオメーカーを初めとし、数多くのメーカーから高い評価をいただいております。

 さらにその延長で、オーディオ愛好家の皆さんから、価格は二の次として、オーディオ用に低雑音特性を追求した発振器をぜひ作ってほしいとの要望を受けて開発したのが、DuCULoNです。

蓄積した水晶技術で狭帯域フィルタを実現

――DuCULoNについてもう少し詳しく教えていただけますか。


音質を徹底追求した水晶発振器として高級感ある外観を採用した超低雑音発振器「DuCULoN」

赤池氏 開発着手時から、オーディオ用途に特化し、100Hz〜数百kHzの可聴域での雑音を可能な限り低減しています。具体的には、振動子自体の高Q化、すなわち純度の高い水晶を宇宙用途向けに培った技術をベースに実現しました。さらに、可聴域でのフロアノイズを極限まで低減するために、水晶フィルタを併用しました。

この場合の水晶フィルタは、雑音低減が必要な通過帯域は狭帯域の可聴域であり、通過特性を狭帯域化したフィルタが必要になります。ただ、狭帯域フィルタは、温度変化で中心周波数がシフトしてしまいます。そこで、周囲温度が変化しても通過帯域範囲を安定に維持できるよう発振用水晶振動子とフィルタ用水晶共振子を、同一の温度特性に保ち、かつ、同一の温度制御を行うようにしました。

 そうした工夫の結果、雑音特性は175dBc/10kHz以下の計測限界レベルを達成しました。この値は、ハイレゾ用発振器としては、世界ナンバーワンといい切れると思っています。

 また、外気温度変動や音声振動を軽減するダブルカバー構造になっており、低い周波数変動を軽減しています。デザインも今までと異なる斬新的なものを採用しました。


「DuCULoN」と従来品との位相雑音比較

 技術的には極限まで性能を追い求めた製品ではありましたが、一般のユーザーの方々に実際に音を聴いてもらうまでは正直、不安に思う部分もあったのですが愛好家からは「より微細な音が聞き取れ、理想とするアナログ音源に近い」と好評を得ています。

 DuCULoNやSPXOは産業用途向けではなく、民生機器向けですが、価格競争とは一線を画した高い付加価値を認められた製品であり理想的な製品です。こうした製品を1つでも多く開発していきたいですね。

水晶を応用して、ピコグラムの重さ検知を可能に

――注力する5つのセグメントの1つに、センサを掲げておられますが、日本電波工業のセンサとはどのようなものなのでしょうか。

赤池氏 1つは、水晶を活用したセンサです。水晶振動子には、電極に物質が付着するとその質量に応じて、発振周波数が低下するという性質があります。この性質を使って、ピコグラム単位の重さを検知できるセンサデバイス「QCM(Quartz Crystal Microbalance)センサ」を商品化しています。

 水晶は、重さ検出以外にも重力測定などにも応用できる性質があり、今後もさまざまなセンサを開発していく予定です。

Gunnダイオードでシンプルなミリ波レーダーを開発中

――水晶以外のセンサも手掛けられるのですか。

赤池氏 当社のコア技術である「周波数の制御・選択・検出」を生かしたセンサ開発も進めています。それが独自のGunnダイオードを使用したGunn-VCOによるミリ波レーダーセンサモジュールです。自動車の前方検知用ミリ波レーダーに使用されるICデバイスを使ったミリ波レーダーセンサよりも、小型で、シンプルな構造を実現できる特長があります。物体との距離測定や、物体の速度計測が行えるセンサであり、その用途は広く、期待している製品の1つです。

競争力ある技術がそろった

――独自色の強いユニークな製品がそろいました。

赤池氏 5年ほど前から、より付加価値の高い製品作りを進めてきた結果、Twin技術採用OCXO/TCXOや超低雑音発振器、新型センサなどビジネス拡大の可能性を秘めた競争力のある製品をそろえられたと考えています。基本的な技術の土台は構築できた段階であり、当面は、これら新製品の普及拡大を実現すべく、市場ニーズに合わせて改良、カスタマイズしていき、高付加価値製品で売り上げを伸ばす予定です。


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提供:日本電波工業 株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2015年9月30日

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