不揮発性RAMで、社会に新たな価値を提供し続ける富士通セミコンダクター:富士通セミコンダクター システムメモリカンパニー長 松宮正人氏
富士通セミコンダクターは、省電力、高速動作を特長とするFRAMを扱うシステムメモリ事業で、IoT(モノのインターネット)時代のニーズに応じたソリューションの提案を加速させる。2018年は、RFIDによる無線給電技術とFRAM技術を組み合わせた“バッテリーレスソリューション”が実用化される見通し。「省電力の不揮発性RAMへの期待はますます大きくなっている。新製品開発やソリューション開発で、それらの期待に応えたい」という富士通セミコンダクター システムメモリカンパニー長の松宮正人氏に事業戦略を聞いた。
社会に必要とされるメモリを提供
――富士通セミコンダクターは、2008年に富士通からLSI事業が分社化されてからも継続して新しいメモリの開発を続けています。
松宮正人氏 大昔から紙でメモをとることが続けられてきたように、メモリも社会で必要とされ続ける普遍的なデバイスだ。我々は、日常生活に不可欠なメモリの供給を続け、社会に貢献することが使命だと考えて、システムメモリ事業を継続し、強化している。
また、安定して収益を生みだしている事業であり、今後も成長が期待できる事業領域であると判断している。
――メモリといえば、DRAM、NAND型フラッシュメモリが一般的ですが、富士通セミコンダクターでは扱っていません。どのようなメモリにターゲットを置いているのですか。
松宮氏 社会が必要とするメモリの全てを、DRAMやNANDフラッシュだけでは賄えない。セキュリティに強いメモリであったり、小さな電力で動作できるメモリであったり、さまざまなメモリが求められている。
当社がターゲットにしているのは、省電力で動作するメモリだ。具体的には、不揮発性RAMである「FRAM」(強誘電体メモリ)を中心に展開している。
高まる“省電力、高速動作、高セキュリティへのニーズ”に応えるFRAM
――FRAMの特長を教えてください。
松宮氏 電源を切ってもデータが消えない不揮発性と、ランダムアクセスによる高速動作という2つの性質を合わせ持つうえ、書き込み時の消費電力がEEPROMより大幅に少ない低消費電力動作が大きな特長だ。他にも、保持しているデータが不正解析されにくい高いセキュリティ性や、高い書き換え耐性といった特長がある。
富士通セミコンダクターのFRAMは、約20年の量産実績がある不揮発性RAMとして、スマートメーターなどデータログを取得する用途や、認証システムのメモリとして採用され、堅調にビジネス規模を拡大してきている。動作温度範囲を125℃まで拡張したことで、車載用途での利用も広がっている。
――自動車ではどのような使われ方をしていますか。
松宮氏 これまではカーナビゲーションシステムなどインフォテイメントシステムが中心だったが、昨今では、ドライブレコーダーやタイヤ空気圧監視システムなどさまざまな部分で使用されている。
FRAMは、フラッシュメモリと違い電源遮断時の“電源降下シーケンス”が不要で、電源が遮断される最後の最後までデータを記録できる。アクシデントの原因を究明する上で重要なデータを取得できるメモリとして利用が広がっている。
IoT時代を捉えた新しいソリューション
――2018年以降に期待される新しいFRAMの用途、使い方はありますか。
松宮氏 IoT化の流れに伴いFRAMの用途はさらに大きく拡大すると期待している。ご存じの通り、IoTの世界では、身の回りに多くのエッジデバイスが動作するようになる。これら多くのエッジデバイスは、頻繁に電池交換を行うわけにもいかず、低電力動作が不可欠になる。メモリもより消費電力の小さいものが必要になるので、必然的にFRAMへのニーズは高くなる。
そうした中で、当社はFRAMの特長を生かした“バッテリーレス”のソリューションを提案してきたのだが、2018年はいよいよ、このバッテリーレスソリューションの実用化が始まると期待している。
――バッテリーレスソリューションはどのようなものですか。
松宮氏 数メートルの距離で無線給電が行えるRFID技術と、FRAMを組み合わせることで、キーボードやリモコン、電子ペーパータグをバッテリーレスで動作させることのできるシステムを提案している。
「Embedded Technology 2017(ET2017)/IoT Technology 2017」で披露されたバッテリーレスキーボードのデモの様子。写真奥、青色の矢印で示した部分がタブレットPCと接続された給電端末。キーボードに受電用モジュール(赤色の矢印)を取り付け、受電している。キーボードの信号もUHF帯RFIDを介して行っている
RFIDの無線給電は、給電能力が限られ、不安定という課題を持つが、省電力で高速、不揮発性のFRAMがその課題を補うことで、電池不要の機器を実現できる。
例えば、キーボードの場合、無線給電が不安定であれば、キーを押した時に無線送信できるほどの電力が給電されていない場合もある。その時に、何度もキーを押し直しすると、キーボードとして機能しない。FRAMを使用すれば、最低限の電力で、押されたキーの情報を格納し、十分な電力を得られたタイミングでデータを送信できるようになり、結果的に、キーボードの動作を安定化できる。
既に技術的には実用レベルにあり、2017年11月に開催された展示会「Embedded Technology 2017(ET2017)/IoT Technology 2017」で、実際にさまざまなバッテリーレスソリューションの動作デモを披露した。同展示会のアワードでIoT Technology優秀賞を受賞するなど多くの引き合いを得て、キーボードや電子ペーパータグ以外でのバッテリーレス実現に向けた開発も始まっている。
バッテリーレスソリューションが、IoT時代の新たなFRAMの用途の1つになるだろう。
新しいテクノロジーをもつメモリ ― NRAM, ReRAM ― の開発
――用途が広がると、FRAMの容量拡大も求められてきそうですね。
松宮氏 容量を拡大してほしいとの声は、多くいただき、開発を進めている。
過去5年ほどで、FRAMはメモリ構造の見直しなどで、メモリセルを10分の1程度まで小型化し、現状、4Mビットまでの容量拡大を果たした。2018年早々には、8Mビット品のサンプル出荷を予定している。その先についても、16Mビット品も実現できる見通しで、開発を進めていく。
なお、16Mビットを上回るような容量への対応は、開発を進めているカーボンナノチューブ(CNT)を使用した不揮発メモリ「NRAM」でも対応していくことになるだろう。
――NRAMの開発状況、特長を教えてください。
松宮氏 NRAMの関連技術を持つNantero Inc.(ナンテロ社)からライセンスを受けて、グループ会社の三重富士通セミコンダクターとともに、2019年の商品化を目指して共同開発を進めている。
他の次世代不揮発性RAM技術と比べ、NRAMは消費電力が低く、高温対応や生産性という面でも優れているという特長があり、開発に着手した。RAMメーカーとしては、DRAMを不揮発性RAMで置き換えるということが“究極の夢”になるが、NRAMはその究極の夢を実現できる可能性のあるメモリだと考えている。
――2016年末には、ReRAM(抵抗変化型メモリ)も製品化されました。
松宮氏 ReRAMは、FRAMよりも書き換え耐性は低いが、読み出し時の電流は少ないという特長を持つ不揮発性RAM。書き換え回数は少なく読み出しがメインという用途、具体的にはウェアラブル端末などでのプログラム格納用メモリとしてFRAMよりも適している。
FRAM、ReRAM、そしてNRAMなどの多彩なメモリ製品をラインアップすることで、適材適所の省電力メモリを提供できる選択肢を提供していく。
社会への“価値の提供”によって、売上を拡大
――2018年の抱負をお聞かせください。
松宮氏 さまざまなパートナー企業との連携を深めながら、新しいソリューションを開発し、新たなFRAMの価値を提供し続ける1年としたい。
これからは、FRAM単体の提案だけではなく、バッテリーレスソリューションのように、システムレベルでの提案を強化していく必要性がある。IoT化など大きく時代が変化していく中で、省電力メモリの新たな利用シーンが次々と生まれており、これをチャンスと捉えて、新たなソリューションを提案していくことが重要になる。
一方で、FRAMは一部のユーザーではその特長をうまく使っていただいているが、よく知らない潜在顧客もまだまだ沢山いる。つまり、FRAMを知ってもらうことで、他のメモリからの置換えが進む余地は十分に残っていると考えており、さらにFRAMの認知度を高めていく必要がある。
これまでお話しした新たなソリューションによる価値の提供とFRAMの認知度向上を進めつつ、今年は、既存のFRAM製品群の売上げを伸ばすとともに、2017年に発表した車載向けFRAMや、バッテリーレスソリューションの売上げを更に伸ばしたい。
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提供:富士通セミコンダクター株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2018年2月15日