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次世代自動車の開発に欠かせない「仮想化手法」と「セキュリティ対策」イータス 代表取締役社長 横山崇幸氏

「コネクテッドカー」や「自動運転車」が登場し、次世代自動車の開発を取り巻く環境は大きく変化する。自動車に搭載されるソフトウェアは膨大で複雑となり開発工数は一段と増える。さまざまなモビリティサービスも登場し、サイバーセキュリティ対策は必須になる。ETAS(イータス)は、仮想化(バーチャライゼーション)やサイバーセキュリティに対して包括的なソリューションを提供、自動車業界が抱える課題解決に貢献する。そのイータスの日本法人で社長を務める横山崇幸氏に2020年事業戦略を聞いた。

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サイバーセキュリティ対策、いよいよ本格化

――2019年の事業環境はいかがでしたか。

横山崇幸氏 2019年は自動車業界も世界的に厳しい1年であった。中国市場における自動車の出荷台数が前年実績を下回った。このため世界でもリーマンショック時の落ち込みに次ぐ低レベルの伸びにとどまったと聞いている。

 こうした市場の影響もあり、ETAS(イータス)の業績も全体的に見れば厳しい状況ではあった。その中で、セキュリティ部門の2019年売上高は、前年の3倍に増えるなど大きく伸びた。この背景にはコネクテッドカーの登場がある。加えてサイバーセキュリティに対する法令化、標準化が着々と進んでいる背景もあり、セキュリティ対策への投資が拡大した。

――短期的に市況が厳しくても、中長期的にみると開発効率の改善やセキュリティ対策に関して、顧客の投資は継続されるというわけですね。

横山氏 出荷台数が減少すると、自動車メーカーの投資意欲は一時的に減退するかもしれない。しかし、衝突防止や自動運転といった新たな機能が追加され、自動車1台当たりに搭載されるECU数は年々増加する。これに応じてソフトウェアの開発工数も増え続けている。

 限られた技術者の規模で需要増に対応するために、自動車関連メーカーは開発効率を高めていくことが重要になる。当社のツール製品を活用すれば、開発の効率改善につながる。このため、中長期的なスパンでみると、大きな需要の減退はないと確信している。

 セキュリティ関連は、ETASの子会社ESCRYPT(エスクリプト)が、自動車向けの包括的なソリューションを提供している。この中で、Bosch HSM(ハードウェアセキュリティモジュール)実装に適合したソフトウェアスタック「CycurHSM」の採用が2019年より本格的に始まり、正式受注の件数が増大した。

――車載用ソフトウェア開発向けツールの動きはいかがでしょうか。

横山氏 モデルベース適合ツール「ASCMO」の需要が大きく伸びた。エンジンの制御が複雑で高度化する中、制御パラメーターをいかに効率よくキャリブレーションするかが課題になっている。そこで、実験データをベースに作成した統計モデルを用いる適合手法(MBC)が広く採用されるようになった。

 ASCMOを用いると、柔軟なDOE(実験計画法)作成機能により、要求精度を満たすモデルの作成に必要なデータ採取ポイントを効率よく決めることができ、計測工数を大幅に削減することが可能になる。


モデルベース適合ツール「ASCMO」機能のイメージ。モデルの作成に必要なデータ採取ポイントを効率よく決められる (クリックで拡大)

 これで出力した高精度の統計モデルをエンジン開発に適用すれば、同一エンジンでも仕向け地や自動車の形態によって異なる制御パラメーターの調整を、効率良く行える。多くの採用メーカーから『調整のための時間を劇的に短縮できた』という報告を聞いている。ASCMOは日本市場でも採用が増えている。

――AUTOSAR関連のビジネスも期待されています。

横山氏 Adaptive AUTOSARに向けて「RTA-VRTEスターターキット」を用意した。自動車に搭載された多数のECUをドメイン単位に管理するドメインコントローラや、ビークルコンピュータなどが新たに登場するなど、車載ECUのアーキテクチャも変わりつつある。そこで、主要な顧客にRTA-VRTEスターターキットを導入してもらい、評価をしていただいているところだ。

 BlackBerryの事業部門であるBlackBerry QNXとの協業も2019年11月に発表した。Adaptive AUTOSARのOS部分にQNX製品を搭載し、一緒に提供することが可能になる。リアルタイムOSやミドルウェアといったソフトウェア開発に付随する技術に加え、導入支援やコンサルティングまでパッケージにして提供できるのが当社の強みでもある。

NIやKPMGとも提携し、ビジネス領域を拡大

――National Instruments(NI)と合弁会社「ETAS NI Systems」を設立すると発表されました。

横山氏 合弁会社は2020年1月1日までに業務を開始する予定である。ETASが有するHiL(Hardware in the Loop)ソリューションを開発し統合する技術と、NI製のソフトウェア定義プラットフォームや包括的なI/Oを組み合わせることで、コストパフォーマンスに優れた、さまざまな検証システムを提供していくことができる。ETASにとっては、これまで参入できなかったADASの領域にも、NIと手を組むことで踏み込める。合弁会社の具体的な事業戦略などについては、今後明らかになるだろう。

――ESCRYPTは自動車向けサイバーセキュリティ分野で、KPMGと提携しました。

横山氏 国連欧州経済委員会(UNECE)傘下の自動車基準調和世界フォーラム(WP.29)や、車両サイバーセキュリティに関する国際標準規格「ISO/SAE 21434」などで、車両サイバーセキュリティに対する指針やガイドラインが公開されている。WP.29が正式に法令化されれば、サイバー攻撃に対する防御手段を車両に実装し、サイバーセキュリティマネジメントシステム(CSMS)認証と車両の型式認証を取得する必要がある。

 KPMGは情報セキュリティ管理システムの分析や計画、設計、実装および、監視を含めて幅広い専門知識を有する。車載セキュリティ分野で強みを持つESCRYPTは、今回の提携によって、車両サイバーセキュリティの要件を満たす総合的なツールセットを顧客に提供することが可能になる。

開発効率の改善を可能にするバーチャルテスト環境

――2020年の市場環境について、どのようにみられていますか。

横山氏 経済成長率は2019年が底で、2020年は微増との予測が調査会社などから発表されている。自動車の出荷台数について当社は、『2019〜2020年は横ばいで、それ以降もフラットな出荷台数で推移する』と予測している。

 出荷台数の大きな伸びを期待するのは極めて難しいと思うが、自動運転やADAS(先進運転支援システム)など、次世代自動車に対する開発投資は今後も継続して行われる可能性が高い。搭載される機能がより高度で複雑になるため、開発効率の改善に対する要求は一段と高まる。こうした動きが、当社のビジネスをけん引していくことになるだろう。

――バーチャルテスト環境「COSYM」が注目されている理由もそこにあるわけですね。

横山氏 自動運転車のシステム検証を行うためには、10億kmの試験走行が必要だといわれている。これら全てを実車でテストするのは現実的ではない。そこで自動車メーカーは、システム検証の大部分をバーチャルテストで行い、実車による試験工数を大幅に軽減しようと考えているようだ。

 COSYMは、コンポーネントモデル「MiL(Model in the Loop)」やソフトウェア「SiL(Software in the Loop)」、ECUテスト装置「HiL(Hardware in the Loop)」をシームレスに接続し、これらが混在した状態で動作検証を行うことができる。

 「Vehicle Network HiL」を用いて車両1台分のECUを同時に検証したり、ECUサプライヤーの制御モデルやOEMのプラントモデルなど、第三者が提供するモデルも組み込んで、高速にシミュレーションしたりすることができる。


バーチャルテスト環境「COSYM」によるモデル利用効率化イメージ (クリックで拡大)

 2019年はCOSYM導入に向けて複数社が評価を行い、ライセンス契約に至った。2020年は、契約件数もさらに拡大する見通しだ。製品の開発工程において、下流のテスト、検証工程ではなく、より上流になるソフトウェアモデル開発やソフトウェア開発の工程で、完成度を高めようとする動きが高まっているからだ。

 クラウドコンピューティングを活用できるCOSYMも近くリリースされる予定である。強力なコンピューティングパワーを利用することで、従来に比べ極めて高速なデータ処理ができる。ESCRYPTのセキュリティ技術を用いてデータの機密性も確保していく。

一層の拡大を見込むセキュリティ対策ビジネス

――セキュリティ対策も、より高度なシステムが必要になります。

横山氏 「CycurHSM」を搭載したECUの数が、2020年は飛躍的に拡大するだろう。現状では、クルマ1台当たりのCycurHSM搭載ECU数は数個にとどまっているが、今後7〜8個のECUに実装される見通しである。

 これに加え、車両ネットワーク上の異常な通信やメッセージなどを検知する「CycurIDS」、セントラルゲートウェイ向けのIPファイアウォール「CycurGATE」、バックエンド側でサイバー攻撃の内容を分析、対策、対応を講じるためのアシストツール「CycurGUARD」などを用意している。モビリティサービスに向けては、スマートフォンで車両へのアクセスを可能にするスマートキーソリューション「CycuACCESS」も提供している。


ESCRYPT(エスクリプト)が提供する自動車向けセキュリティソリューション (クリックで拡大)

 さらに、自動車メーカーでもIT部門や工場部門、開発部門など複数組織でバラバラに管理されていた暗号鍵を、単一システムに集約できる「キーマネジメントソリューション」の提供も始まった。

 自動車メーカーにとってセキュリティの担保は、ADASの開発やブランディングのために投資しているのと同様に、極めて重要な案件になっている。「CycurHSM」の導入はその第一弾であり、「CycurIDS」や「CycurGATE」「CycurGUARD」などを組み合わせた、多層防御をワンストップで実現できる包括的セキュリティ対策を提案できるのが当社の強みである。

 ESCRYPTは、WP.29、ISO/SAE 21434に関する「コンサルティングサービス」も提供している。認証の早期取得に向けて、コンセプト/仕様設計や実装、テスト、資料作成のサポートやアドバイスなどを一貫して行える体制を整えている。既に欧州では採用実績もあり、日本市場でもこのサービスを始めたところだ。

――自動運転など走行中に発生する大量のデータを同期して収集する計測ソリューションにも期待されていました。

横山氏 最新の車載向けECUアーキテクチャは、複数ドメインのECUが密接に連係して動作している。このためシステムを構成する全てのECUや計測モジュールから同時に、データを漏れなく収集し、システム全体の動きを検証する必要がある。


ECU/バスインタフェースモジュール「ES891/ES892」

 計測・適合・プロトタイピングハードウェアモジュール「ES800製品ファミリー」としてECU/バスインタフェースモジュール「ES891/ES892」やドライブレコーダーモジュール「ES820」などを提供している。これらのモジュールを用いた「Measure allソリューション」により、最大5万6000ラベルの計測データを、システム内において最大1マイクロ秒の誤差で同期をとりながら同時に計測することができる。

 実走行時の排出ガス(RDE:Real Driving Emission)規制に対しては、統合型の計測・適合・診断ツール「INCA」をベースとしたRDE計測ソリューションを活用すれば、走行時のECUデータを記録することができる。日本でもこれから導入が本格化する見通しだ。


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提供:イータス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2020年2月14日

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