拡張メモリの決定版「HyperRAM 2.0」が登場:Octal SPIに対応し、より使いやすく
自動車のクラスタシステムなどで拡張メモリとして採用が広がっている「HyperRAM」。このほど、Octal SPIをサポートするなど新たに進化した第2世代のHyperRAMである「HyperRAM 2.0」が登場した。本稿では、第2世代の登場で、より使いやすくなったHyperRAMを紹介していこう。
深層学習/機械学習といった人工知能(AI)技術の登場などを背景に、さまざまなアプリケーションで画像や音声を扱う機器が増えている。産業市場では、画像認識を使用する機器が増え、大きな液晶ディスプレイによるユーザーインタフェースを備えた機器も珍しくなくなった。民生市場では、IoT(モノのインターネット)デバイスの多くがカメラを搭載したり、音声認識機能を搭載したりしている。自動車に目を向けても、メーター/インフォメーションクラスタのグラフィックス化が顕著で、ヘッドアップディスプレイなど新たに画像を扱うシステムも登場している。
このようにさまざまな機器で画像や音声を扱うケースが増えており、かつ、扱う画像/音声の高精細化も進んでいる。より高精細な画像/音声の扱いが増えると、おのずと必要性が増すものがある。それがメモリだ。
必要性高まる拡張メモリだが、コスト/サイズ増大を招く要因に
処理する画像や音声が高精細化すれば、より多くのデータを扱う必要が生じ大容量のメモリが必要になる。これまでのようにMPUやMCUの内蔵メモリでは賄えず、MPU/MCUとは別に、外付けで“拡張メモリ”を搭載せざるを得ないケースがとても多くなっている。しかし、拡張メモリを搭載することは、簡単なことではない。システムコストの増大を招き、システムサイズも大きくなってしまう。さらには、内蔵メモリと遜色のないような速い書き込み/読み出し性能が必要であり、使用できるメモリも限定されてしまうためだ。
一般的に拡張メモリと使用できる可能性のあるメモリは、DRAM、SRAM、疑似SRAM(以下、pSRAM)といったメモリだろう。まずDRAMは、比較的安価なメモリで大容量、高速ではあるものの、ピン数が30本以上あり、システムサイズが大きくなりやすく、回路も複雑になりやすい。消費電力が大きい点も欠点として挙げられる。SRAMはDRAMに比べるとピン数は少なく済み複雑性は小さいものの、高価である上、容量が限られてしまう欠点を持ち、拡張メモリとしての使用用途はかなり限定される。SRAMのインタフェースを備えたDRAMで両メモリの長所を併せ持つように開発されたpSRAMについては安価で、小型化しやすいものの、データ転送速度が遅いという欠点があり、SRAM同様、拡張メモリとして応用できる範囲が限られてしまった。このように拡張メモリとしては、一部用途でSRAM、pSRAMが用いられつつも、その多くがDRAMを使用せざるを得ない状況であり、小ピンながら高速転送速度を持ちより大容量にも対応する安価な拡張メモリが求められてきた。
そうした中で2015年に、拡張メモリに最適な新しいメモリ“HyperRAM”がインフィニオン テクノロジーズ(旧 サイプレス セミコンダクタ)から発売された。
小ピンで高速、大容量の「HyperRAM」
このHyperRAMはpSRAMの進化版であり、インフィニオンが開発したデータ転送速度最大333Mバイト/秒の高速メモリインタフェース「HyperBus」によりpSRAMの欠点であったデータ転送速度の遅さを解消した革新的な拡張用メモリだ。
HyperRAMは、HyperBusの採用によりMPU/MCUなどのホストプロセッサとの接続に必要な配線数がわずか12本で済むようになった。同じくHyperBusに対応するNOR型フラッシュメモリ「HyperFlash」と、ホストプロセッサのピンを共有することも可能(データ転送用の12ピンとは別にチップセレクト用に1ピン割り当て計13ピン必要)。ホストプロセッサのわずか13ピンだけを使って、プログラムコード格納用のNORフラッシュと、拡張用メモリを接続できるわけだ。31本のホストプロセッサのピンを占有する必要があるDRAM(DDR SDRAM)に比べ、大幅に占有ピン数が少なく、シンプルかつ小サイズで拡張メモリを実装できるようになったわけだ。
従来はDDR SDRAMによる拡張メモリとNOR型フラッシュを接続する場合、41ピンが必要だったが、HyperBusに対応する「HyperRAM」と「HyperFlash」であればわずか13ピン(データ伝送用12ピン、チップセレクト用1ピン)で済む
HyperRAMは、JEDECの「eXpanded SPI」(xSPI)標準規格にもなったHyperBusがさまざまなマイコンなどのデバイスに採用されるに従い、普及が拡大。特に「“Traveo Auto MCUファミリ”などHyperBus対応マイコンがいち早く普及した車載クラスタ用途では、HyperRAMが拡張メモリの標準的な存在になるなど、自動車市場を中心に普及していった」(インフィニオン テクノロジーズ メモリー ソリューションズ, An Infineon Technologies Company リージョナル マーケティング シニアマネージャー 早瀬昭司氏)とする。その一方で、産業機器市場や民生機器市場では、HyperBus対応マイコン/プロセッサの数が少なく、小ピンで小型かつ、シンプルに実装できるHyperRAMを拡張メモリに採用することが難しかった。
こうした状況に対し、2020年にインフィニオンは、より多くのアプリケーションでHyperRAMを使用できるようになった第2世代のHyperRAM「HyperRAM 2.0」を製品化した。
Octal SPIサポートで使いやすくなった「HyperRAM 2.0」
HyperRAM 2.0は、データ転送速度400Mバイト/秒に進化した第2世代HyperBusに加え、HyperBusと同じxSPI標準規格である「Octal SPI」をサポート。「Octal SPIは、より多くのマイコン、プロセッサに採用されるインタフェースであり、産業分野、民生分野を中心にこれまで以上にHyperRAMを使用できる場面が増える」(早瀬氏)とする。実際、HyperRAMをサポートするデバイスメーカー/IPメーカーは拡大の一途をたどり、現状では主要マイコンメーカーのほとんどがHyperRAMをサポートするエコシステムパートナーに名を連ねている。
標準的な拡張メモリへの歩みを進めるHyperRAM自体も、生みの親であるインフィニオンだけでなく、さまざまなメモリベンダーから提供が始まり、マルチソースでの調達も可能になっている。
インフィニオンにとっては、他のメモリメーカーとの競争にさらされるわけだが「今後も、低消費電力や高信頼性などメモリとしての性能/パフォーマンス部分や、大容量化などで引き続きHyperRAM市場をリードしていく」(早瀬氏)とし、2021年には256Mビット/512Mビット容量のHyperRAMの提供を開始する予定だ。
さらに早瀬氏は「インフィニオンには、HyperRAMだけでなく各種SRAM、フラッシュメモリ、F-RAMなどの不揮発RAMなど、DRAM単体を除いたあらゆる組み込み向けメモリのラインアップがある。こうした品ぞろえを生かした総合的なメモリの提案ができる唯一のベンダーとして、組み込みメモリ市場全体をリードしていきたい」と語っている。
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提供:サイプレス セミコンダクタ, An Infineon Technologies Company
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2020年12月18日