1ダイ/1パッケージでASIL-D対応、究極の冗長性を備えたリニアホールセンサー:ASIL-C対応版も投入し自動車以外の用途へも
先進運転システム(ADAS)、自動運転システムを搭載する自動車のステアリングやブレーキ/アクセルなどで要求される自動車安全水準「ASIL-D」。このASIL-Dでは、構成部品1つ1つに冗長性が要求されるが、1ダイ、1パッケージながらASIL-Dを満たす冗長性を備えたリニアホールセンサー「TLE4999」が登場した。TLE4999は、どのようなリニアホールセンサーで、なぜ1ダイでASIL-D対応を実現できたのか。TLE4999を紹介していこう。
電子制御化の進展で必要性が高まる「ASIL-D」対応
自動車の電子制御化が進んでいる。そして、先進運転システム(ADAS)、自動運転システムを搭載する自動車では、それまでの人に代わって電子制御システムが運転の一部または大部分を操作しつつある。自動車の運転操作は人命に直結するものであり、電子制御システムが担う役割はとても大きくなる。
人命を預かる自動車の電子制御システムには当然、多くのことが要求される。これまで以上に高度な機能をリアルタイムに処理する高機能化、高性能化などが求められるが、最も実現しなければならないのが「高い安全性」だ。いかなる状況でも電子制御システムは、人命を優先し安全を担保しなければならないからだ。
安全を確保するには、絶対に誤動作や故障しない電子制御システムを実現することが理想だが、それは不可能だ。そこで電子制御システムには、誤動作や故障した場合でも可能な限り危険を低減して安全を担保する「機能安全」を備えることが求められている。ご存じの通り、自動車業界では既に機能安全についての標準規格「ISO 26262」が策定されており、電子制御システムはこの規格に基づいた機能安全を備える必要が生じつつある。
特に、より人命に直結するアクセルやブレーキ、パワーステアリング(EPS)といった車両制御領域の電子制御システムでは、ISO 26262で定義されている最も高いレベルの自動車安全水準「ASIL-D」を満たすことが求められている。
ASIL-Dでは、万が一、故障した場合でも「システムを動かし続ける」ということが要求される。すなわち、万が一に備えた予備のシステムを用意しておく『冗長化』がASIL-Dでは不可欠になるわけだ。
2つ以上のシステムを用意するという『冗長化』は分かりやすい考え方ではあるが、いざ実現しようとすると簡単ではない。システムが2つになれば、コストも2倍になり、サイズや重量も2倍になる。電子制御化が進み、サイズ、コストなどさまざまな面で既に余裕がない中で、どのように冗長化を実現するかは、自動車の設計開発において大きな課題である。
この課題を解決するには、電子制御システムを構成する部品1つ1つの進化が必要になってくる。構成部品が小型、軽量になれば、それだけ冗長化が図りやすくなるからだ。
そうした中で、EPS、アクセル/ブレーキといったASIL-Dへの対応がより求められつつある車両制御領域のキーパーツであるリニアホールセンサーでASIL-D対応の製品が登場した。インフィニオン テクノロジーズの「TLE4999」だ。
双子ではない2つの回路を1つのダイに
ステアリングの回転角や、ブレーキ/アクセルペダルの位置検知に使用されるリニアホールセンサーも、これまでASIL-D対応、冗長化を実現するためには、2個以上のセンサーを実装することが不可欠だった。1つのパッケージに、2つのセンサー回路チップを備えた製品も存在したが、リニアホールセンサー単体としてはASIL-Dを満たすことが難しく、2つの回路が入ったパッケージを2つ実装することで、EPS/ブレーキ・アクセルシステムとして、ASIL-Dを満たすなどの対応が採られてきた。
これに対し、インフィニオンのTLE4999はそれ自体でASIL-Dを満たし、TLE4999ワンパッケージでASIL-Dを満たすことができるリニアホールセンサーになっている。しかも、TLE4999のパッケージ内部は、1枚のシリコンダイで構成されている。なぜ、1ダイで、冗長化が不可欠なASIL-Dを満たすことができたのだろうか。
インフィニオン テクノロジーズ ジャパンのオートモーティブ事業本部 セーフティ&ヴィークル・ダイナミクス セグメントでリージョナルマーケティングマネージャーを務める近藤貴光氏は「リニアホールセンサーは、磁力を検知するホールセンサー部、検知した信号をデジタル変換するA-Dコンバーター、デジタル信号を処理するDSPなどの回路ブロックで構成される。TLE4999では、この回路構成を2系統持っているのだが、それぞれの系統は、異なる回路ブロックで構成している。各系統で電源も異なり、1つのダイ上ではあるが2つの全く異なるリニアホールセンサーが別々に分離され、動作するようになっている」と説明する。
リニアホールセンサー「TLE4999」のブロックダイヤグラム。異なる回路ブロックで構成される2つのホールセンサー回路を1つのダイ上に実装。EEPROMやインタフェース部についてもメイン回路用とサブ回路用は分離され、ASIL-Dを満たす冗長性を確保している[クリックで拡大] 出所:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン
従来の1パッケージ、2ダイ構成のリニアホールセンサーは、全く同じ回路構成の“双子のダイ”で冗長化を図っており、特定の外来ノイズで両回路が同時に誤動作するなどの可能性が否定しにくいなどの要因で1パッケージでASIL-D対応が難しかった。これに対し、TLE4999は、全く異なる2つの回路で構成されているため、高度な冗長化が図られ、結果、TLE4999としてASIL-Dを満たすことを実現した。しかも、製造コストを最も抑制できる1ダイで実現したわけだ。
優れた性能、広がるラインアップ
1ダイ、1パッケージと最小の構成ながら、ASIL-Dを満たすという究極の冗長性を備えたTLE4999は2018年に、出力インタフェースとして「PSI5」を備えた「TLE4999i」(3端子PGーSSOパッケージ品)から量産を開始。その後、2020年末には独自インタフェース「SPC(Short PWM Code)」を備え、表面実装パッケージ(8端子PGーTDSO)を採用した「TLE4999C8」の出荷を開始。ASIL-D対応が不可欠なADAS搭載車のEPSやアクセル/ブレーキシステムを中心に、量産実績を伸ばしている。そして、2022年春には、TLE4999C8と同様、出力インタフェースとしてSPIを採用した4端子PGーSSOパッケージ品「TLE4999C4」の出荷を開始し、さまざまな実装ニーズに対応するラインアップが揃った。
TLE4999C4、TLE4999C8が採用するSPCは、センサーのインタフェースとして一般的な通信方式「SENT」を応用したインフィニオン独自通信方式。通信開始時MCUなどホスト側からセンサーにマスタートリガーパルスをかけ通信を開始することが特長の1線シリアル通信方式になっている。これによって1線で最大4つのSENT接続が可能になる。「一般的なEPSでは、リニアホールセンサーで1つ、ポジションセンサーで2つ、合計3つのSENT接続が必要になる。SPCでは、この3つのSENT接続を1本に集約できる」(近藤氏)というメリットがある。TLE4999C4、TLE4999C8が対応するSPCはユニットタイムが0.25マイクロ秒と、SENTよりも10倍程度の通信速度を誇る最新の高速版SPCになっている。
TLE4999シリーズはリニアホールセンサーの基本的スペックも従来品から進化している。磁束密度検知範囲は、従来品では50〜200mT程度であったのに対し、TLE4999iで12.5〜25mT、TLE4999C4/8で25〜50mTとより小さな磁束密度の検知が可能になっている。これにより、より磁力の弱い安価な磁石を使用することができる。オフセット誤差についても、メインチャンネルで±100μT、サブチャンネルで±200μTと従来比2分の1〜4分の1に低減している。
さらにTLE4999C4/8では、出力補正機能を大幅に強化。これまで2点だったリニア校正ポイント数を最大9点にまで拡張。非線形な特性曲線を限りなく直線的に補正できるようになっている。
ASIL-C対応版投入で自動車以外へも
このようにTLE4999シリーズは、高い安全性とともに、高い性能/検知精度を合わせ持ち、ASIL-D対応が要求される自動車に最適なリニアホールセンサーだが、その用途はさらに広がろうとしている。2022年春、TLE4999C4/8のASIL-C対応版になる「TLE4999C4ーS0001」および「同C8ーS0001」が発売された。
TLE4999C4ーS0001、同C8ーS0001は、ASIL-D対応のTLE4999C4/8と全く同じデバイスながら、一部テスト工程を省略し低価格化を図った製品。とはいえ、ASIL-Dに次ぐ自動車安全水準「ASIL-C」を満たしている。「新興国向けの自動車などでは、ASIL-C対応のリニアホールセンサーが求められており、そうした需要に応えた。加えて、高い信頼性を求める産業機器や電動工具、白物家電など工業/民生用途でも利用が広がるとみている」(近藤氏)
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提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2022年8月19日