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東芝に聞く、データセンター向けニアラインHDDの最新技術動向とこれから需要拡大、そして容量拡大はまだまだ続く!

インターネット上のデータ量が爆発的に伸びる中、データセンターで使用されるニアラインHDDはさまざまな技術進化を遂げ、大容量化が一層進んでいます。そこで、ニアラインHDDの大容量化をリードする東芝デバイス&ストレージに、最新のニアラインHDDテクノロジーについてお聞きしました。

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 IoT(モノのインターネット)に象徴されるように、インターネット/クラウドサービスに接続される機器は増え続けています。それに伴いインターネット上のデータ量は爆発的に増え、データを格納するハードディスクドライブ(HDD)の需要も継続して拡大しています。データセンターなどで使用されるニアライン向けHDDもその一つで、より大きな容量のデータを記録できるHDDを目指し、技術革新が目覚ましく起こっています。今回は、ニアラインHDDを手掛ける東芝デバイス&ストレージ(以下、東芝)のHDD営業推進部長 藤森将文氏と、HDD製品の設計開発を担当する佐藤巧氏に、ニアラインHDDの最先端技術について、今後の展望を交えて聞きました。

ニアラインHDDで常に求められる『容量』

――クラウドサービスが普及する中で、HDDの需要はどれくらい拡大していくのでしょうか。データセンター向けHDDで求められている技術要件とはどのようなものでしょうか?


東芝デバイス&ストレージ
ストレージプロダクツ事業部
ストレージプロダクツ営業推進統括部
HDD営業推進部 部長 藤森将文氏

藤森氏 クラウドサービスの普及などにより生成・蓄積されたデータが保管されるのがデータセンターです。データセンター向けニアラインHDDの総容量は、2017〜2023年にかけて年平均約30%の割合で増加し、2023年には2017年の4倍近い1,200エクサバイト(EB)に達すると予想しています。同時に、データセンターの拠点数も増えていくものと予想しています。

 そうした中で、ニアラインHDDに強く求められているのが「大容量化」です。サーバ/ストレージ機器に用いられるエンタープライズHDDでは高速データ転送や信頼性が評価ポイントになりますが、ニアラインHDDでは常に最大容量が問われます。なぜなら、HDD1台当たりの記憶容量が大きければ、消費電力やサイズが効率化でき、データセンターのTCO(トータルコストオーナーシップ:総保有コスト)の削減につながるためです。

 東芝も含め、ニアラインHDDを提供するメーカーは、より大きな容量を実現するための技術開発を進め、大容量ニアラインHDDを展開しています。

いち早く14TB容量のCMR方式ニアラインHDDを製品化

――最新のニアラインHDD製品はどのようなものがありますか。またどのような技術を使っているのですか?

藤森氏 東芝では2017年12月に、業界に先駆けて14テラバイト(TB)の記憶容量を実現した3.5型ニアラインHDD「MG07ACAシリーズ」を発売しました。正直にお話すると、これまで東芝は競合メーカーに比べ記憶容量の面で後れを取った時期もありました。ただ、さまざまな先端技術を新たに適用した「MG07ACAシリーズ」により、ニアラインHDDの記憶容量競争をリードする立場になったと自負しています。

 MG07ACAシリーズは、「東芝初のヘリウム充填技術を採用したこと」の他、「従来は7枚だった搭載ディスク枚数を9枚に増やしたこと」、「ランダムライト時の速度低下がない従来型磁気記録(CMR)方式で14TBの大容量を実現したこと」などが技術的特長として挙げられます。

「MG07ACAシリーズ」の主な特長

低消費電力、静音化にもつながる「ヘリウム充填」

――ヘリウムを充填するメリットを教えてください。また、ヘリウムが漏れるような心配はないのでしょうか?

佐藤氏 ヘリウムは、空気よりも分子の質量が小さく「風乱」を起こしにくいという特性があります。この風乱が少なければ、ディスクを高速で回転させてもヘッドを支えるサスペンションやディスク自体の揺れが抑えられます。ヘッドとディスクが安定することで、記録密度を高めることが可能になる他、ディスクとディスクのすき間も狭めることが可能になります。加えて、ヘリウムはディスクが回転するときの抵抗が空気よりも小さくモーターの省電力化が行え、静音化にもつながるという利点があります。


機密性が求められるトップカバーの溶接には、リチウムイオン電池製造で実績のある東芝グループ独自のレーザー溶接技術を応用した

 ヘリウムを充填するためには、もちろん、HDD内にヘリウムを閉じ込めておくための気密封止が必要になります。東芝グループでは、高い密封性が要求されるリチウムイオン電池を開発、製造しています。そのリチウムイオン電池で培ったレーザー溶接技術をMG07ACAシリーズのトップカバー溶接に応用し、ヘリウム密封性能を実現しました。従来のHDDと同様に取り扱ってもらえれば、ヘリウムが漏れるという心配はありません。

「ディスク9枚」を可能にした高密度設計技術&製造技術

――ディスクを9枚搭載したことで、衝撃に弱くなったりしていませんか? 取り扱いで注意すべきことはありませんか?

佐藤氏 MG07ACAシリーズは、9枚のディスクを搭載しましたが、耐衝撃性は従来のHDDと同じで、取り扱いもこれまでと全く同じで構いません。

 ディスク枚数を増やせば記憶容量を増やすのは簡単ですが、18本のヘッドを搭載するアクチュエータなど、様々な部品の精度を向上させ、ばらつきを抑える高密度設計技術と製造技術が重要です。さらに、製品性能として耐衝撃性を保つことは容易ではありません。

 今回、東芝が9枚のディスクを搭載できた背景には、2005年版ギネス世界記録™に世界最小HDDと認定された0.85型HDDをはじめ、小型HDDの設計・製造を手掛けてきたという歴史があります。小型HDDで培ったノウハウを生かして、従来よりも薄い部品を精度良く安定して組み立てる設計・製造技術を確立し、業界に先駆けて、ディスク9枚搭載を実現できました。

 ディスク搭載枚数が増えれば、ディスク1枚当たりの記録密度に余裕ができるので、書き込み/読み取り精度の向上につながります。さらにディスクの厚みが薄くしたことなどにより、HDDとして軽量化、低消費電力化されます。

 MG07ACAシリーズは、10TB容量で搭載ディスク数7枚だった従来製品(MG06ACA10T)に比べ、記憶容量が40%増えたにもかかわらず、消費電力は7.3Wから4.22Wへと42%低減されています。重さも770gから720gへと10%ほど軽くなっています。これは、ディスクの薄型化を主に、ヘリウム充填の利点が生かされた結果といえます。


14TB ヘリウム9枚ディスク(右)と10TB 7枚ディスクの断面比較。3.5型HDDの標準である26.1mmというわずかな高さの中で、9枚の記録ディスクを搭載。7枚ディスクでは0.8mmだったディスクの厚みを0.635mmまで薄くした。その他、ヘッドやコネクター、プリント基板なども薄型化、小型化しつつ、小型HDDの製造ノウハウを生かして精度良く組み立てることに成功している

ハイパースケールデータセンターなどで評価、採用が進む

――14TBのニアラインHDD「MG07ACAシリーズ」は既に量産されているのですか? ハイパースケールデータセンターでの採用事例などはありますか?

藤森氏 2017年12月のサンプル出荷開始直後から、“容量の大きいニアラインHDD”ということで多くのお客さまにご評価いただき、2018年7月から一部データセンター向けに量産出荷を開始しました。

 またストレージサーバなどのメーカーであるSupermicro(スーパーマイクロ)社にもMG07ACAシリーズを採用いただき、良い反響をいただいています。

 複数のハイパースケールデータセンターでの評価も進んでおり、2018年10〜12月から出荷が始まる見込みです。その他にも、原子力研究施設や自動運転に特化したデータセンターなど信頼性が求められる応用分野でも、評価が順調に進んでいます。

 なお、SATAインタフェースのMG07ACAシリーズに加えて、2018年8月から転送速度12Gビット/秒のデュアルポートSASインタフェース品「MG07SCAシリーズ」のサンプル出荷も開始しています。デュアルポートによりホストとHDDの通信を二重化でき、より信頼性を求める用途での要望に応える製品で、こちらも順次量産出荷を行います。

2018年度中に16TB出荷を目指し、将来的には18TB、20TBへ

――さらに大きな記憶容量のHDDの製品化予定はありますか?

佐藤氏 2018年度中にサンプル出荷開始目指して、容量16TBのニアラインHDDの開発を進めています。16TBという大容量をCMR方式で実現するため、ヘリウム充填、ディスク9枚搭載という技術に加え、「TDMR」(Two Dimensional Magnetic Recording:二次元記録技術)という新規技術を導入します。


TDMRのイメージ。2つのリーダーが隣接する記録トラックにも跨がる形で配置され、隣接トラックとの干渉具合も読み取りながら、二次元的に読み取り信号を補正処理し、従来よりも精度の高い読み取りを実現する

 TDMRとは、従来、1つずつだったヘッド素子のライターとリーダーのうち、リーダーを2つに増やし、読み取り信号の品質改善を行う技術です。記録密度が高くなると、記録トラック同士の間隔が狭くなり、隣接する記録トラック間で干渉し合い、読み取り精度が悪化するという課題がありました。TDMRでは、2つのリーダーを、隣接する記録トラックにもまたがるように配置し、記録トラック間の干渉具合も読み取り、補正することで読み取り精度を高める技術です。これにより、記録トラック間の間隔を狭め記録密度を高めることができます。

 16TB以降についても、18TB、20TBと容量を増やしていく製品開発ロードマップを描いています。18〜20TB世代では、MAMR(マイクロ波アシスト磁気記録)やHAMR(熱アシスト磁気記録)といったアシスト記録技術を導入する予定で研究開発を進めています。

 TDMRなど大容量化に向けた最新技術開発は、ヘッド素子、ディスクメーカーとの連携が重要です。東芝HDDの製造拠点はフィリピンにありますが、その製造拠点を中心に、ヘッド素子メーカーであるTDK株式会社、ディスクメーカーである昭和電工株式会社の2社から技術者が集結しており、密接な連携が図りやすい環境が整っています。こうした新技術開発が迅速に行いやすい環境を活かして、東芝はパートナーとともにニアラインHDDの大容量化をリードしていきます。


東芝が描くニアラインHDDの製品開発ロードマップ。最新技術を適用し、ニアラインHDD市場の要求である大容量化にいち早く応えていく (クリックで拡大)

SMR方式ニアラインHDDの製品化計画は?

――ニアラインHDDの大容量化技術では、SMR(Shingled Magnetic Recording:瓦記録)方式も登場していますね。SMR方式のニアラインHDDの製品化予定はありませんか?


東芝デバイス&ストレージ
ストレージプロダクツ設計生産統括部
HDD製品技術部
HDD製品技術第二担当 参事 佐藤巧氏

佐藤氏 SMR方式は、記録トラックを屋根瓦のように重ね書きすることで、記録密度を高めることができる技術です。その半面、データの書き換えは複雑になりますが、SMR方式の特性を活かした用途での普及が見込まれています。一部のデータセンターはホストシステム側の改修が始まっており、2019年以降にSMR方式が本格的に普及する見込みです。

 東芝では、CMR方式のHDDと並行して、SMR方式のHDDの開発も行っており、SMR方式が本格普及に合わせて、製品提供を行う計画になっています。

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提供:東芝デバイス&ストレージ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2018年9月30日

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