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“タブレットサイズ”の10kW 48V電源、サーバの電力課題に答える最適解にかつてない勢いで増え続ける消費電力

クラウドコンピューティングやAI(人工知能)など、データ集約型アプリケーションの拡大によって、データセンターにおける消費電力は急激に増加している。それに伴い、サーバラックでは、従来の空冷よりも高度な冷却方式の導入や、電力密度や効率のさらなる向上が、これまで以上に求められている。ここで鍵を握るのが電源システムだ。Vicorが発表したタブレットサイズの10kW AC-DC電源ユニットは、データセンターが抱える新たな課題に答え得る解の一つとなりそうだ。

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かつてないほどの消費電力増加に直面するデータセンター

 ビッグデータやクラウドコンピューティング、機械学習などのAI(人工知能)。このような、いわゆるデータ集約型アプリケーションの普及加速によって、データセンターは新たな課題に直面している。

 それが、サーバラックの消費電力と発熱量の増加だ。2000年から2010年あたりまでは、ほぼ横ばいだったサーバラックの消費電力の増加量は2010年以降、急激な増加傾向にある。


Vicor Power SystemsのProduct Marketing Directorを務めるIan Mazsa氏

 パワーコンポーネント製品を専門に手掛けるVicorのパワーシステムズ部門でProduct Marketing Directorを務めるIan Mazsa氏は、「われわれはパワーコンポーネントの専業メーカーであり、電源に関して顧客が抱える新しい課題に気付きやすい。サーバラックでは、消費電力の最大値が、特にここ5年から10年で増加の一途をたどっているというのが大きな課題となっている」と述べる。

 Mazsa氏は、「サーバベンダーは、より汎用的なIntelアーキテクチャベースのプロセッサから、AI/機械学習に特化したアクセラレーターへと移行する傾向にある」と続ける。ただし、例えばGPUを見れば分かるように、こうしたアクセラレーターというのは高性能な一方で、従来のIntelアーキテクチャベースよりも消費電力が非常に大きい。そのため、発熱量も多く、現在主流となっている空冷方式では冷却が追い付かなくなっているのだ。

 DataCenter Knowledgeが2018年7月に掲載した記事によれば、GoogleのData Centersでバイスプレジデントを務めるJoe Kava氏は、GoogleのAI向けアクセラレーターチップ「TPU(Tensor Processing Unit)」を使ったシステムの冷却について、第1世代と第2世代は従来の空冷方式で対応できるが、処理能力が100ペタFLOPSに達する第3世代の「TPU 3.0」については、空冷では対応できないと述べている。

 Mazsa氏は、「これは、サーバそのものにとってのみならず、データセンターインフラ全体にとって重要な課題だ」と述べる。そこで、空冷よりも冷却能力が高い水冷や浸漬液冷、伝導冷却などが求められるようになっている。

 もう一つ、冷却技術と並んで鍵となるのが電源システムだ。ACラインからサーバに供給される全ての電力は、当然ながら電源システムによってDC電圧に変換される。そのため、電源システムの電力密度と効率を改善できれば、損失の低減、つまり発熱量の低減につながり、冷却の必要性も減る。

 このような、サーバラックにおける電力問題を解決できる電源には、3つの要素が必要だとMazsa氏は述べる。まず、3相電源を直接ラックに接続できること。ラック1台に何十台ものサーバが搭載され、電力消費も大きくなっている現在、単相電源では供給電流が大きすぎて、銅線のコストも高くつく。より小さい電流で効率よく大電力を供給できる3相電源は必須だ。

 2つ目が60V以下の電源システムであること。具体的には48V対応が重要になる。Mazsa氏は、「データセンターの分野では、Googleなどが12Vから48Vの電源システムへの移行について議論を重ねている」と述べる。48Vシステムでは、12Vシステムに比べて配電損失を16分の1にまで低減できる。

 3つ目が、モジュール型の電源ユニットであることだ。Mazsa氏は、「高い電力密度と高い効率、そして柔軟性。そのいずれも実現できるのが、モジュール型電源ユニットである」と強調する。

タブレット形状が生み出す利点

 これら3つの要素を詰め込んだVicorの新製品が、10kWを出力する「10kW Power Tablet AC-DC電源ユニット RFM(以下、RFM)」だ。3相AC入力、48VDC出力のAC-DC電源ユニットである。入力電圧範囲は170〜264Vrmsとなっている。AC200Vのデルタ結線のL-L間、もしくは、スター結線のL-N間(この場合L-L間はAC400V)の両方に対応していることが特長だ。

 RFMの最大の特長は、そのサイズだ。10kWもの大電力を供給できるにもかかわらず、外形寸法は24×15×1.5cmと、まさに“タブレットサイズ”である。Mazsa氏は「このサイズで10kWを出力できる電源ユニットは、他にはない」と述べる。


Vicorの「10kW Power Tablet AC-DC電源ユニット RFM」

 タブレットのような薄型の形状は、サーバラックを構築する上でさまざまな利点を生む。

 まずは設置の自由度が高まることだ。ラックに対して平行あるいは垂直に、より柔軟に設置できるようになる。


RFMの設置例 出典:Vicor

 上の図は、RFMの設置の一例を示したものだ。左側の図(AI-based rack)では、1Uの高さ(=44.45mm)のスペースにRFMを4台並べ、出力平滑コンデンサー、整流ダイオード、ヒューズといった回路をそれぞれ接続して、4台を並列動作させている。つまり、1Uで40kWを供給できるようになるわけだ。中央の図(Distributed rack)では、サーバラックの側面を取り囲むようにRFMを設置している。これにより、ラック内のスペース全てをプロセッサの搭載に割くことができるようになる。ラック密度を高めることも可能だ。右の図(Immersion cooled)のように、そのまま冷却液に浸し、浸漬冷却システムに統合することも可能だ。

 このように、サーバラックの熱分布を踏まえながら、電源システムをこれまでよりも高い自由度で構築できるようになる。

 さらに、タブレット型という形状は、体積に対して表面積が大きくなる。そのため、空冷以外の冷却方式に容易に対応できるようになる。部品ごとに高さが異なる従来のAC-DC電源ユニットは、表面形状がどうしても不規則になり、熱分布が不均一になってしまう。空冷システムではそれほど問題にはならないが、冷却能力の高いコールドプレートを取り付ける水冷方式や浸漬方式に適用しようとすると、不規則な表面形状が障壁になる。


RFMと従来のAC-DCコンバーター(右)の比較。従来品は部品の高さに差があり、表面形状が不規則になる 出典:Vicor

 Mazsa氏は、RFMの最も革新的な部分は、これだけ薄型にできた点だと述べる。「われわれのコア技術であるDC-DC変換あるいはAC-DC変換の他、周辺の回路や磁性材料を含め、非常に薄型でモジュール化するための設計技術と製造技術を駆使して生まれたのが、このRFMである」(Mazsa氏)

48V→1V直接変換と組み合わせたソリューションも

 Vicorは約5年前、事業戦略を大きく変換した。従来型の電源モジュールではなく、電源システムを構成する要素を最小化したモジュール(パワーコンポーネント)の提供に注力するようになったのだ。

 RFMも、モジュールを構成する一つの要素となる。例えばVicorには、48Vから1Vに直接変換するチップセットがある。RFMにこのチップセットを組み合わせれば、RFMから出力された48Vを、AI向けのCPUやGPUに必要な1V以下に直接変換するコンバーターモジュールを構成できる。このように、Vicorの既存製品である48V向けコンポーネントと組み合わせることで、高い電力密度と効率を備えた電源ユニットを実現できる。Mazsa氏によれば、RFMは、競合他社品に比べて約4倍の電力密度(W/cm3)を実現しているという。

 「Vicorは、絶縁型コンバーターや非絶縁型レギュレーター、非絶縁型バスコンバーターなどをそろえている。パワーコンポーネントに必要な、完全な製品群を提供できることがVicorの強みである。このように豊富な製品群から構成されるVicorのエコシステムは、データセンターにおける課題に直面する顧客にとって、非常に有益となるはずだ」(Mazsa氏)


Vicorが得意とするのは、必要な要素を組み合わせてモジュール化し、パワーコンポーネントとして提供することだ 出典:Vicor

 RFMの内部には3つの電力変換セルがあり、これらは独立して動作する。どれか一つのセルに不具合が生じても、残りのセルは動作し続けることができるので、3.33kW(=RFMの出力10kW/3)出力のN+1冗長を実現できる。

 Mazsa氏は、「消費電力の大きなアクセラレーターを使用するAIアプリケーションでは、これまでにないレベルの発熱量の増加問題に直面している。もちろん、データセンターの冷却システムが短期間で、空冷から水冷や浸漬などの冷却方式に移行するとは思っていない。だが、タブレット型のRFMを市場に投入することで、“空冷以外の先端の冷却方式”という選択肢が増えることになる」と述べる。

 データセンターにおいて、消費電力の増加に伴う発熱の問題を解消することは急務となっている。RFMの登場により、電源システムの配置と冷却方式の選択で自由度が高まり、サーバラック、ひいてはデータセンターの電力密度と効率を高めることに大いに貢献するはずだ。タブレットサイズのRFMは、データセンターが抱える新たな課題に対する最適解の一つとなるだろう。

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提供:Vicor KK
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2018年12月18日

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