スピード感を重視しアナログ・デバイセズの高い技術力を日本にいち早く届ける:アナログ・デバイセズ 代表取締役社長 中村勝史氏
2020年11月、アナログ・デバイセズの日本法人代表取締役社長に中村勝史氏が就任した。「アナログ・デバイセズは高い技術力を企業価値とする会社。その高い技術力を日本の皆さんに素早く届けることが使命」と新社長としての抱負を語る中村氏に2021年の事業戦略などについて聞いた。
技術と営業の橋渡し
――2020年11月に日本法人社長に就任されました。これまでの経歴をご紹介いただけますか。
中村勝史氏 大学院を卒業後、1994年にADI米国事業部にエンジニアとして入社し技術畑中心に歩んできた。そして、2019年から日本法人に赴任し、産業・医療・通信セールス本部の統括を担当し、2020年11月1日付で社長に就任した。
――米国本社でエンジニアとして長く勤められてきた中で、日本法人そして営業職への異動になりましたが、戸惑いはありませんか。
中村氏 戸惑いのようなものはない。ADIでは昔から技術職であっても顧客と接することを重要視してきたし、営業職であっても高い技術力を顧客に提供することが求められてきた。特にVincent RocheがCEOに就任して以来、よりカスタマーファースト(顧客第一)という方向性を強く打ち出し、営業職、技術職問わず、顧客と接する機会を増やす取り組みを行っており、営業職と技術職の間での異動もアナログ・デバイセズにおいては決して珍しいものではない。
また日本での勤務についても、日本の顧客とともに仕事をする機会はとても多かったので、その点についても戸惑いのようなものはない。
――日本法人社長としての抱負をお聞かせください。
中村氏 アナログ・デバイセズは高い技術力を企業価値としている会社であり、その高い技術力から生まれる新しい技術を素早く日本の顧客の皆さんに届けることが、重要な役割だと認識している。幸い私には事業部との人脈がある。そうした人脈も生かしつつ、しっかりと技術と営業の橋渡しを行いながら、新技術をいち早く日本の顧客の皆さんに提供していきたい。
システムレベルでの問題解決にこだわる
――スピード感を持って新技術を提供するために取り組んでいることはありますか。
中村氏 アナログ・デバイセズでは営業組織をアプリケーション別に構成している。その狙いは、顧客の手掛けるアプリケーションについて、顧客と同じレベルの技術的知識を身につけ、顧客システムの問題解決に向けたソリューションを素早く提供するためだ。いくらスペックの優れたアナログICを提供しても、アプリケーションレベル、システムレベルで問題解決できるとは限らない。この部分の問題解決こそが我々が顧客に提供する価値であると考えている。
また、これからの取り組みになるが、激しく変化する市場ニーズや技術トレンドにより素早く対応できるよう、グローバルなエコシステムとのつながりを日本の顧客の皆さんに提供していこうと考えている。その一例が、アナログ・デバイセズが中国に置いている開発部門の活用だ。
中国の開発部門は企画/開発から、製造までを一貫して実施できる機能を有している。この中国の開発部門は、貿易摩擦対応で設立したわけではなく、速いスピードで変化する中国の市場トレンドにいち早く対応することも目的に立ち上げたものだ。そのため、中国の開発部門が開発する新製品は、自ずと世界的にも最もスピード感がある中国市場のトレンドを取り入れた製品になる。われわれ日本法人としては、これらの製品と日本の顧客の持つ強みが組み合わさり、他に類をみないような競争力のある製品を世に出すことを目的として活動をしていく方針だ。
他にもアナログ・デバイセズが持つグローバルなネットワークを生かして、日本の顧客に有益なさまざまなエコシステムとのつながりを提供していく。
2021年10月期は「過去に類をみない好調な滑り出し」
――2020年のビジネスを振り返っていただけますか。
中村氏 2020年は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が起こり、これまで誰も経験したことのないような1年になった。われわれアナログ・デバイセズとしても、後工程製造拠点が集中する東南アジア地域でのロックダウンの影響で2020年3月から5月末ごろまで一部生産をストップせざるを得なかった。5月末になって、ようやくフル稼働での生産を再開し、8月までに(稼働停止による生産の遅れを)取り戻すことができ、いったんは落ち着くことができたが、すぐにさまざまな半導体需要が急回復し、需要増に対応するような展開になった。
その結果、2020年10月期通期の売上高は56億米ドルで前年度比6%減になった。減収になったものの、業界全体を見渡せば前年比20〜30%減の大幅なマイナスを来しているところもある中での6%の減収であり、比較的良い結果だったのではないか。これは、アナログ・デバイセズが、産業、自動車、通信、医療などに向けて多様な事業をバランス良く展開できているという証でもあると考えている。
――2021年の業績予想について教えてください。
中村氏 業績予想については開示前であり、詳しくはお教えできない。ただ、すでに開示している2021年第1四半期(2020年11月〜2021年1月期)売上高予想は、2020年第4四半期(2020年8〜10月期)比ほぼ横ばいとした。例年、第1四半期は季節的要因から第4四半期に比べて大きく売り上げが落ち込むのだが、今期に限っては落ち込むことなく“横ばい”という過去に例がないような、大変良い滑り出しになっている。そのため2021年の業績には期待している。恐らく、2021年は2020年後半以降の回復基調、需要増が続くと期待し、しっかり供給責任を果たしていきたいと考えている。
センシング、シグナルチェーンからクラウドに至るトータルな製品群
――2021年に、提案に注力される技術/製品をご紹介ください。
中村氏 自動車市場では、引き続き、電動化、安心/安全、軽量化といったニーズに対応する技術、製品を展開する。電動化に対しては、高いシェアを持つバッテリーマネジメントシステム(BMS)用ICを中心に、新製品を相次いで投入していく計画だ。
軽量化のニーズに対しては、本格的な量産が始まった車載オーディオバス「A2B」トランシーバー製品が好評だ。A2Bはシールドなしツイストペアケーブル1本で複数本のシールドケーブルを置き換えでき、オーディオ系のケーブル重量を従来の4分の1に削減できる。軽量化が走行距離の延長に直結する電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)を中心に採用が相次いでいる。さらに、カメラ/画像系のケーブルを削減するバス技術「C2B」の提案も強化していく。
民生機器市場では、昨年買収したINVECASのHDMI技術部門が設計開発したHDMI2.1準拠のインタフェース新製品が量産を迎える。これにより注力してきた業務用オーディオ/ビデオ機器および、8K対応の高級オーディオ/ビデオ機器に新たなビジネスが広がる年になると考えている。好評を得ているオーディオDSPについても新製品の投入を予定している。
――産業機器市場に向けて提案する技術、製品については。
中村氏 産業機器市場については、センシングからシグナルチェーン、プロセッシング、コネクティビティ、クラウドに至るまでがトータルにそろう品ぞろえを生かした提案を実施していく。その一例が、2019年に買収したTest Motors社のモーター、発電機の予知保全アルゴリズムや、2018年に買収したOtoSense社の音や振動をAI学習し機器の故障を検知するアルゴリズムなどを生かした故障予測/予知保全ソリューションだ。
また、マイクロソフトと戦略的提携を締結して展開するTime-of-Flight(ToF)センサー技術ソリューションもある。マイクロソフトのAzure Kinect技術をベースにアナログ・デバイセズの専門的な技術知識を組み合わせ、産業機器市場をはじめ、車載、ゲーム機などに広く展開する方針だ。今後、需要が伸びるであろう人間共存型ロボットなどにも有益な技術であり、提案を強化していく。
産業機器市場向けの新製品としては、ソフトウェアで設定可能な産業用I/Oソリューション「AD74412R/AD74413R」などが期待する製品として挙げられる。AD74412R/AD74413Rは、古い固定機能I/Oモジュールを置き換えられたり、システムごとにI/Oが動的に変化する複数のカスタマー・アプリケーションに対応可能なプラットフォームを開発できたりする。さらに10BASE-T1L産業用イーサネットシステムへの更新を必要としている既存ネットワークにも応用できるため、イーサネットベースの制御ネットワークへのブリッジとしても機能する特長がある。
――通信機器市場、医療機器市場に向けてはいかがでしょうか。
中村氏 通信機器市場では、市場が立ち上がってきた第5世代移動通信(5G)に対して引き続き、高いシェアを持っているトランシーバー製品を中心に展開していく。2020年に発表したようにNECと協業して、楽天モバイル向け5G基地局装置無線機のMassive MIMOアンテナを開発するなど日本国内でもさまざまな実績が生まれており、2021年も取り組みを強化していく。
医療機器市場に対しては、画像診断装置や超音波診断装置など医療機関向け機器でのビジネスを強化するとともに、ホームヘルスケア機器やウェアラブル機器に向けた新製品を相次いで投入する予定になっている。
提供:アナログ・デバイセズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2021年2月12日
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