インフラ不要の地磁気による屋内測位技術/超薄型の無線給電用コイル ―― 未来を変えるTDKのテクノロジー:自動車工場やオフィス、車内空間を変える!
わずかな初期投資で屋内の人やモノの動きを捉えることのできる屋内測位技術と、広い充電エリアをカバーする薄さ0.76mmの無線給電用コイル――。未来をより良いものに変えると期待される、TDKの最新テクノロジーを紹介する。
100年に1度の変革期を迎えているとされる自動車業界を代表に、社会全体が変革期を迎えつつある。その背景には、より豊かで、より安心・安全な社会の実現に向けた技術の登場がある。1935年に磁性材料「フェライト」を工業化するなど社会発展に貢献してきたTDKは、未来の社会をより良いものに変えるべく、さまざまな新技術の開発を進めている。
本記事では、未来をより良く変えていくであろうTDKの新技術の中から、2023年5月24〜26日に横浜市のパシフィコ横浜で開催される展示会「人とくるまのテクノロジー展 2023 YOKOHAMA」で公開される2つの注目技術を紹介しよう。
人やモノの動きを可視化! 地磁気を応用した屋内測位技術「VENUE」
さまざまな情報をデジタル化し、事業や社会を変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)を目指す動きが加速している。DX実現の前提になるのが、さまざまな現実世界の情報をデジタル化することだが、簡単ではない。デジタル化が困難なものは多くあり、その一つが「人やモノの動き」だ。
人やモノの動きはGPSなど衛星測位システム(GNSS)を使用すれば簡単に把握、デジタルデータ化できる。だが、それはGNSSの電波が届く屋外に限ったことだ。屋内で、正確に人やモノの位置、動きを捉えることは難しい。
Wi-FiやBluetoothの電波を活用した屋内測位システムが実用化されて久しいが、Wi-FiやBluetoothを使うシステムには多くの課題がある。まず、Bluetoothビーコンなど測位するための電波を発信する端末を屋内に配置しなければならない。測位精度を上げるためには、発信端末を高密度で配置する必要があり、初期のインフラ投資が膨大になる。Bluetoothビーコンなどは電池駆動がほとんどなのでメンテナンスの手間も掛かる。電波を利用するため干渉などが生じやすく、肝心の測位情報が狂うことも少なからず発生する。装置レイアウトを頻繁に変更する工場では、レイアウト変更のたびに屋内測位用インフラの再設計、再配置を強いられる。初期費用だけでなく、ランニングコストも大きな負担になる。
屋外のGNSSのような決定的な屋内測位システムが存在しない中で、TDKが開発・提案するのが地磁気を活用した屋内測位ソリューション「VENUE」(ベニュー)だ。
VENUEが測位する仕組みはこうだ。測位したいところで地磁気データをあらかじめ測定して「磁気マップ」を作成する。そして、一般的なスマートフォンに搭載されている地磁気センサーで取得した地磁気データを磁気マップに照らし合わせることで絶対位置を割り出す。そのため測位信号発信端末などのインフラは不要だ。磁気マップをあらかじめ作成する必要はあるが「広い工場でも、2〜3日程度で地磁気を測定してマップを作成できる。より早く、正確に地磁気を測定できる測定ロボットも開発中」(TDK)だ。
VENUEは、地磁気による絶対位置を一般的なスマートフォンで測位できるだけではない。さまざまなセンサーや測位システムと連携して測位精度を高められる点も大きな特長だ。地磁気センサーと同様、多くのスマートフォンに搭載されているモーションセンサーのデータとカーナビで実績のある慣性航法システムによって1〜3mという測位精度を実現し、動きも正確に捉える。
Wi-FiやBluetoothの受信レベルから測位精度の補完も可能で、「絶対に入ってはいけないエリアの入り口にBluetoothビーコンを配置して確実に警告するといった使い方ができる」とする。
2020年に登場したVENUEはコロナ禍で生活様式が変わる中、屋内で人の動きをモニタリングする用途を中心に活用が進んできた。さらに、DXに向けた動きが加速する中で人だけではなくモノの動きや位置も把握したいというニーズも増えてきた。それに応えるべく、フォークリフトなどのモビリティー用に地磁気/モーションセンサーを搭載した専用端末を用意した。一般的なRFIDタグなどを資材などに貼り付けることで、単独では測位できない資材が、RFIDスキャナーと連携したスマートフォンやモビリティーの専用端末が近づくことで自動でタグを検出して位置や動きを把握できる。
人だけでなくモノに対応するようになったVENUEは、すでに工場や倉庫、病院、建設現場などへの実証導入が始まっている。「ある工場では、勤務時間の約3割がモノを探す時間に消費されていたことが可視化されたというケースもあった」という。
「これまで全く見えなかったことを可視化できるVENUEによって、無駄の削減や安心・安全の確保など、さまざまなことが実現するきっかけになる。実際にVENUEに触れてもらえれば、“見えないものが見える”ということを実感し、測位データの価値、活用方法に気付いていただけるのではないか」(TDK)
TDKは、人とくるまのテクノロジー展 2023 YOKOHAMAの同社ブースでVENUEの体験デモを実施する予定だ。ぜひ“見えないものが見える”という感覚を体験してほしい。
1つで幅広い充電エリアをカバーする薄さ0.76mmの無線給電用コイル
スマートフォンやワイヤレスイヤフォンといったバッテリー駆動端末の充電方法の一つとして定着した無線給電/ワイヤレスチャージ。チャージャーに置くだけで充電できるという利便性もあって、専用充電器だけでなく無線給電機能を備えた机などの家具も登場している。センターコンソールにワイヤレス充電機能付きスマホホルダーを配置する自動車も増えてきた。
自動車のセンターコンソールや家具に無線給電機能を組み込む際に課題になるのが、無線給電システムのサイズだ。新たに追加する無線給電機能に許されるスペースは限られている。センターコンソールや家具などはデザイン性も重要であり、厚みを抑えることや形状の柔軟性も要求される。一方で、無線給電の利便性を確保するには充電エリアを広く取る必要もある。
現状、自動車のセンターコンソールに設けられるスマホホルダーには3つの巻き線コイルで構成した無線給電システムが搭載される場合が多い。TDKも、センターコンソール向けの無線給電用コイルとして3つの巻き線コイルで必要な充電エリアサイズをカバーする製品を展開してきた。
ただ、従来製品には幾つかの課題があった。3つのコイルごとに制御回路が必要であり、無線給電回路の大型化を招いた。また3つのコイルを使用する場合、長方形の充電エリアの中央付近に充電できないデッドエリアが生じ、スマートフォンを置く位置が少しずれると給電できないということが起こった。3つのコイルは一部を重ねて配置する必要があるのでコイル部の厚みが3.8mmとなり、「一部の用途で厚みが問題になって搭載できないというケースもあった」(TDK)という。
充電エリアの比較。左が巻き線コイル3つで構成した場合。右が開発したパターンコイル1つで構成した場合。巻き線コイル3つの場合、黄色い充電エリアが中央付近でくびれている。ここが、充電できないデッドエリアになってしまう。パターンコイルの場合、充電エリアは楕円(だえん)形を描いており、デッドスペースは四隅に寄っている[クリックで拡大] 提供:TDK
こうした従来コイルの課題を一挙に解決する、新たな無線給電用コイルが「人とくるまのテクノロジー展 2023 YOKOHAMA」に出展される。
新コイルは、1つのコイルで均一な充電エリアを実現する。従来コイルと同じエリアをくまなくカバーできるわけではないので実質的な充電エリアサイズは変わらないが、デッドエリアが生じる位置を四隅に追いやることでよりズレに強いエリアを構成できる。
シングルコイル構成によって制御回路も小型化できる。「あるケースでは、制御回路の部品点数、基板サイズが3つのコイルを使用した従来製品の3分の1程度になった」(TDK)とし、コスト、サイズ、重量の大幅削減が期待できる。部品点数減によって調達リスクや故障リスクの軽減も見込める。
従来品比約5分の1の0.76mmという薄さも大きな特長だ。シングルコイルのためコイルの重なりがなくなった上、コイル自体も巻き線ではなくめっき処理技術でコイルパターンを印刷する「パターンコイル」で製造した。フェライト板も薄型化し、コイル全体でクレジットカードの厚みとほぼ同じ薄さを実現している。
「0.76mmなので、これまで厚みが問題になった用途にも適用できる可能性が広がった。2つのコイルを貼り合わせて2台同時に充電できるブックエンドのような縦型の無線充電器など、新しいスタイルのワイヤレスチャージャーも実現できる」とする。
さらにTDKは、ワイヤレス充電規格の策定団体Wireless Power Consortium(WPC)から発表された次世代規格Qi2に対応するコイル開発も推進している。
開発したパターンコイル技術を用いた84×66mmコイルはすでに量産を開始している。84×66mm以外のサイズ、形状に対応するカスタム品の設計、製造も実施している。パターンコイルはTDK鳥海工場(秋田県)で製造しており、このほど完成したTDK稲倉工場(同)の新建屋での増産準備も進めている。
「自動車向けを中心に無線給電用コイルの需要は高まっている。安定供給体制を整えている点もTDKの強みだ。パターンコイルは薄型で広い充電エリアをカバーし、形状自由度も高いなど従来の巻き線コイルとは一線を画すコイル。幅広い用途に対して提案していきたい」(TDK)
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提供:TDK株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2023年6月21日