大型光エンコーダが3mm角のICで置き換え可能に ―― 角度検知の用途を広げる高性能な磁気角度センサー:「メカ的構造」の悩みに応えるもう一つの選択肢
産業機器から民生機器まで、角度センサーの用途が広がる中、角度センサーには新たなニーズが生まれている。小型化、低消費電力化、耐久性の向上だ。こうした中、機械的な構造を持つ既存の角度センサーの課題が浮き彫りになってきた。そこで、MPSが「もう一つの選択肢」として提案するのが、同社の磁気角度センサー「MagAlpha」だ。
自動車やロボットを支える「角度検知」
モーターを高精度に制御する。ロボットアームの関節の角度を調節する。ダイヤルやつまみの回転量を検知する――。これらの用途に欠かせないのが角度センサーだ。角度を検出する角度センサーは、自動車やロボット、製造装置、加工装置などさまざまなところで使われている。特に、モーターの駆動やロボットアームの角度調整など、高精度な制御が必要になるアプリケーションでは、非常に高い精度で位置を検出することが欠かせないため、角度センサーが担う役割は大きい。
近年、その角度センサーの用途がさまざまな分野に広がっている。ハイエンドの産業用ロボットではない小型のサービスロボットや、スマートロック、折り畳みスマートフォン、電動工具などだ。スマートロックでは、つまみ部分の回転角の検出、折り畳みスマートフォンではディスプレイの角度の検知などに使われる。このような新しいアプリケーションでは、小型化、信頼性や耐久性の向上、低消費電力化などが、角度センサーに求められるようになっている。
メカニカルな構造が多い既存の角度センサー
だが、ここで課題になっているのが、既存の角度センサーの構造やサイズだ。既存の角度センサーは、機械的な可動部を持つことが多く、サイズが大きいものも多い。
例えば、モーターの回転角度の検出に使われる光学式エンコーダは、主にLEDやレンズ、コードホイール、受光ICで構成されていて、かなり大型になる。検出精度に比例して大型になる傾向があり、その分コストも高くなっていく。ほこりや油分が多い環境で使用すると、コードホイールに汚れが付着し、角度検出の精度が落ちたり、検出そのものができなくなったりする。ボリュームコントロールなど古くから活用されている機械式ポテンショメーターには、ワイパーと呼ばれる機械的な可動部があり、使い続けていると摩耗し劣化する。
一方で、既存の角度センサーには多くの市場実績があり、安価に入手できる製品も多い。そのため、設計者は、「本当はシステムをもっと小型化したい」「角度センサーを搭載したいが、スペースに制約があり、入れられない」といった課題を抱えつつ、既存の角度センサーを使い続けたり、あるいは角度センサーの搭載を諦めたりしているのが実情だ。
そうした中、既存の角度センサーを置き換える選択肢の一つとしてMPS(Monolithic Power Systems)が提案するのが、磁気角度センサー「MagAlpha」だ。磁界の変化量や大きさを電気信号に変換し、角度情報としてデジタル出力するセンサーである。
モータードライバICの“補助”として開発した磁気角度センサー
MPSは、ファブレスながら前工程/後工程の製造プロセスを自社で開発する、ユニークなアナログ半導体メーカーだ。部品の高密度集積技術を得意とし、大電流や低消費電力など、さまざまな要求に応えたアナログ/パワー半導体を提供している。近年は、その高い集積技術と電源IC技術を生かし、プリドライバやパワートランジスタ、保護機能を1チップ化したモータードライバIC関連の事業も強化している。
磁気角度センサーのMagAlphaは、モータードライバICと併せて使用できるように開発した製品だ。角度検出は、特にブラシレスDCモーターの制御で非常に重要になる。回転子(永久磁石)の位置(角度)を検出し、コイルに流す電流を制御することで、回転子を回すからだ。高精度なモーター制御には、高精度な角度検知が必要になる。そこでMPSは、高い精度で角度を検出できる磁気角度センサーも自社で開発。モータードライバICと併せてトータルソリューションとして提供してきた。
MPSジャパンのシニアFAE(フィールドアプリケーションエンジニア)である竹村興氏は、「MagAlphaが小型かつ高精度なので、モーター制御だけでなく、角度検知が必要な新たなアプリケーションにも展開できると考えた」と話す。
MPSは、既に多くのMagAlphaシリーズをそろえているが、今回は、広帯域幅を実現したハイエンドの「MA600」と、小型かつ低消費電力が特長の「MA782」を紹介しよう。
光学式エンコーダの置き換えも可能に
ハイエンドのMA600は産業機器での用途を想定している。パッケージは3×3mmのQFNを採用した。
MA600は、広帯域幅を実現するために、センサー素子の種類を変更した。既存品ではホール効果を応用したホール素子を用いていたが、それを、磁界が変化すると抵抗値が変化するMR(磁気抵抗)効果を応用したMRセンサー素子に変更したのである。
ホール素子はLSIとの相性がよく、シリコンチップに搭載できるという利点がある。MagAlphaの既存品も、ホール素子とLSIを1チップに統合したものだ。ただ、ホール素子は磁気感度に限界があるので、磁気角度センサーとしての性能向上も、ある一定レベルに達したあとは難しくなってしまう。そこで、MA600ではMRセンサー素子を採用することで、センサー素子自体の性能を上げた。これにより、ホール素子を使った既存品の「MA732」に比べ、MA600は、同じ応答速度(カットオフ周波数)の場合に分解能が1桁以上向上する場合もある。
さらにMA600では、チップ内部の処理を最適化することで、磁気角度センサーで原理的に生じる角度誤差を、MA732の約±1.5度から、±0.5度程度まで低減した。
これにより、光学式エンコーダを、1個のMA600で置き換えられるアプリケーションも出てきた。
光学式エンコーダは、冒頭で述べたように、角度検出の精度は高いが、サイズ、コスト、使用環境への耐性といった点で課題がある。だがMA600を使えば、光学式エンコーダが丸ごと不要になるのだ。これまでは、光学式エンコーダだと大きすぎて入れられなかった場所にも、高精度な角度センサーを搭載できるようになる。
MA600は、ユーザーキャリブレーション機能も搭載している。「±0.5度の角度誤差というのは、周辺部品(受動部品)や機械的な応力による基板実装時の影響で、すぐに変動してしまうほどシビアな値だ。そこで、ユーザーがその変動を補正できるよう、キャリブレーション機能を追加した」(竹村氏)。これは、基板実装が完了したあとに、ユーザーが角度誤差を正確な値に合わせ込むことができる機能だ。「この機能を使うと、実装後の角度誤差を±0.1度まで低減することも可能だ。角度誤差をこのあたりまで小さくできると、産業用ロボットのアームの制御や、搬送用ベルトの制御など、高精度な光学式エンコーダを必要とする用途にも使うことができる」と竹村氏は述べる。ファクトリーオートメーション向けの装置や、高性能なサーボモータシステムなどに使えるケースもある。
「光学式エンコーダの精度も幅が広いので、MA600への置き換えが適したアプリケーションと、そうでないものは、もちろんある。ただ、既存品よりも大幅に性能を向上したMA600の登場により、光学式エンコーダから置き換えられるアプリケーションは、かなり増えるのではないか」(竹村氏)
独自の動作モードで超低消費電力を実現
MA782は主にモバイルなど、低消費電力が求められる用途に向ける。先述したような折り畳みスマートフォンやスマートロック、自転車のハンドル、電動工具などが挙げられる。2×2mmのQFNパッケージに収められていて、「同等クラスの磁気角度センサーとしては世界最小クラス」(竹村氏)とする。
MA782には、「アイドルモード」「アクティブモード」の2つがあり、マイコンで切り替えを行う。アイドルモードの時には角度検知を停止するので、消費電力が抑えられる。消費電力はアクティブモード時が33mW(標準値)、アイドルモード時はわずか0.005mW以下になっている。
これら2つのモードに加え、「ASC(Automatic Sampling Cycle)モード」も搭載する。アイドルモードとアクティブモードを、センサー側で自動的に繰り返す機能だ。角度が事前に設定したしきい値を超えて変化した時にのみ、センサー側からマイコン側に角度情報が送信される。ASCモードにより、マイコンもスリープモードに移行できるので、システム全体の消費電力を削減できることになる。「ASCモードは、かなり特徴的な機能だ」(竹村氏)
「MA782」では3つの動作モードにより、消費電力を抑えている。ASCモードでは、角度がしきい値を大きく外れたときに、MA782からコントローラ(マイコン)にデータが送信される(図版右側の2と3) 提供:MPSジャパン
シミュレーションツールでセンサー配置の“最適解”が分かる
MPSは、磁気角度センサーの最適な配置位置が分かるシミュレーションツール「Magnetic Simulation Tool」も提供している。Webブラウザ上で使用できるツールだ。
「小型なMagAlphaは、エンドシャフト、サイドシャフトのいずれでも配置できるが、磁界の変化を検知するという原理上、どこに配置するかが、性能を引き出すためには重要になる。柔軟に配置できる製品故に、どこが最適なのか悩むという声も、顧客からよく聞かれる」(竹村氏)。Magnetic Simulation Toolは、それを解決するためのツールだ。エンドシャフト、サイドシャフトの配置と、使用する磁石、MagAlphaの品種を選ぶだけで、最適な配置位置が分かるようになっている。
「Magnetic Simulation Tool」を使ったシミュレーション結果の一例。縦軸は磁界の強度、横軸は磁石とチップ(MagAlpha)の距離である。X軸とY軸、両方の磁界強度を見ながら、どこに配置するのが最適なのかが一目で分かる 提供:MPSジャパン
Magnetic Simulation Toolには、「Advanced Parameters」という機能もある。実装時のずれ、磁石のゆがみといったパラメーターを入力できる機能だ。MagAlphaを使ってシステムや装置を構築する際に、どんな影響があるのかを確認できるので、設計開発がよりしやすくなる。
角度センサーやMagAlphaについての質問は、MPSのサポート専用サイト「MPS Now」で受け付けている。MPSのエンジニアに日本語で相談できるので、ぜひ気軽に使ってほしい。
MPSのモータードライバICのビジネスで既に多くの市場実績を持つMagAlphaは、既存の角度センサーに課題を抱える設計者にとって、もう一つの選択肢になるはずだ。
なおMPSは、MagAlphaの技術をベースに、絶縁型電流センサー「MCS1800」ファミリを展開している他、新しいブランドの磁気センサーも開発中だ。
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提供:MPSジャパン合同会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2023年7月28日