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短距離と長距離の低消費電力ネットワークをおさえて、IoT市場に攻勢をかけるNordic Semiconductor エンジニアリングマネジャー Sebastien Mackaie-Blanchi氏

Bluetooth Low Energy(BLE) RF回路とCPUコアを1チップに搭載したSoC(System on Chip)が好調のNordic Semiconductor。ここ数年注力してきたBLEが同社のけん引力となっているが、今後は近距離無線通信だけでなく、低消費電力かつ長距離無線通信技術であるセルラーIoT(モノのインターネット)にも力を入れる。IoT市場では、近距離だけではカバーできないユースケースも出てくるからだ。同社でアジア太平洋地区FAE(フィールドアプリケーションエンジニア)兼カスタマーエンジニアリングマネジャーを務めるSebastien Mackaie-Blanchi氏に、今後の技術面での戦略を聞いた。

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Bluetooth Low Energy SoCが大きなけん引力に

――最近のビジネスの概況を教えてください。

Sebastien Mackaie-Blanchi氏 2015年の売上高は1億9310万米ドルで、2014年に比べて16%増加した。利益は2015年が9570万米ドルで、2014年の8230万米ドルに比べてわずかに増加した。この成長をけん引したのは、Bluetooth Low Energy(BLE) SoCなどBLE向けの製品群だ。BLE向け製品群の売上高は、2014年6290万米ドルから、2015年は1億1080万米ドルと76.3%の成長を達成している。

――やはりBLEがけん引要素となっているのですね。

Mackaie-Blanchi氏 ここ2年ほどは、BLEの分野に特に力を入れてきた。この分野は非常に幅が広く、最近は医療/ヘルスケア製品やおもちゃへの採用も増えている。さらに、ここ最近は、成長が期待されるVR(仮想現実)にも注目している。例えばOculusの「Oculus Rift」などのVRヘッドマウントディスプレイには、当社のBLE+2.4GHzのマルチプロトコルSoCが採用されている。

 2015年には、「nRF52シリーズ」を発表した。BLE用RF回路をARMのCPUコアを1チップ化した「nRF51シリーズ」の次世代シリーズで、コアに「Cortex-M4F」を採用したのが最大の特長だ。Cortex-M4Fは、DSP命令、浮動小数点演算に対応するCPUコアであり、マイコン分野では主にハイエンド製品に適用されている。nRF51シリーズでは「Cortex-M0」を搭載していた。


Nordic SemiconductorのBLE SoC売上高(百万米ドル)の推移

IoTでは、短距離無線通信だけでは不十分

――BLE SoCで成功しているという印象が強いですが、2016年7月にはセルラーIoT(モノのインターネット)向けのSoC「nRF91シリーズ」を発表しました。

Mackaie-Blanchi氏 これまで、BLEに代表されるような近距離無線通信にフォーカスしてきたNordicにとって、長距離無線通信であるセルラーIoTは新しい市場になる。だが、今後大きな成長が見込まれるIoT市場でトップを狙うためには、近距離だけでなく長距離の無線通信も手掛ける必要があると考えた。モニタリングなどの用途では、短距離通信ではカバーできないユースケースも出てくるからだ。短距離と長距離の低消費電力ネットワークをどちらも押さえてこそ、IoT市場での存在感を強化できる。

 IoT向けの長距離無線通信については現在、複数の規格がある。例えば欧州では、SigfoxやLoRaなど免許不要の帯域で構築されるIoT向けネットワーク規格が普及し始めている。だが当社は、その中でも「LTE Cat M」と「NB(Narrow Band)-IoT」が鍵になると見込んでいる。どちらもLTEをベースにした技術で、3GPPが規格化を進めてきた。既存のLTEネットワークがベースになっていることから、基地局などを総入れ替えする必要がなく、キャリアにとって、LTE Cat MやNB-IoTは低コストで導入しやすいものだ。従って、これらに対応した製品も多く出てくると予想される。これら2つの接続数は、2021年には15億を突破するとみられている。

 詳細は明かせないが、nRF91シリーズは、LTE Cat MとNB-IoTの両方をサポートする予定だ。2017年下期に一部の顧客を対象にサンプル出荷を開始し、2018年中には量産を開始する見込みだ。

 Nordicが注力するのは、あくまで低消費電力の無線通信技術だ。それ故、Bluetoothでも、電力消費量の大きいClassic Bluetoothではなく、低消費電力のBLEにフォーカスしてきた。セルラーネットワーク向けでも考え方は同じで、スマートフォンに搭載されるLTEベースバンドICのように消費電力が大きいチップではなく、セルラーIoTのような極めて低消費電力のネットワーク向けのチップに開発リソースを使っている。

――セルラーIoT向け製品のロードマップを教えてください。

 nRF91シリーズを発表したばかりで、現在のところそれ以外に公表できる情報はない。ただ、当社のロードマップではなく市場の動向について予測を述べると、将来的には、セルラーIoTと近距離無線通信を組み合わせたいというニーズが出てくるのではないか。例えば、基地局と通信するためのLTE Cat Mチップと、スマートフォンなどと通信するためのBLEチップを組み合わせたチップセットをデバイスに搭載する、といった具合だ。

――セルラーIoTは新しい市場ですが、LTE Cat MやNB-IoTに準拠したチップセットやモジュールも既に発表されています。

Mackaie-Blanchi氏 確かに複数のメーカーが開発を手掛けている。これらのメーカーに対するNordicの強みは、低消費電力を実現できるという点だ。当社には、マウスやキーボードなどのHID(Human Interface Device)、センサーなど、コイン電池で動作するような極めて低消費電力のデバイス向けにワイヤレスチップを開発してきた歴史がある。

 それはnRF52シリーズの開発にも生かされている。nRF52シリーズは動作モードが「オンモード」「オフモード」のたった2つしかない。オンモードでは全ての回路ブロックがスタンバイ状態となり、オフモードでは全ての回路ブロックへのクロック供給が停止する。処理に応じて動作モードを選択するという複雑なプログラミングなしに、最低限の消費電力を自動的に実現できるようになっている。

 nRF91シリーズでも、こうした低消費電力の技術を生かしていく。低消費電力のワイヤレスチップを開発することは、NordicのDNAであると言ってもよい。

Bluetooth 5対応品も

――2016年末〜2017年初めに、Bluetoothの最新バージョンとなるBluetooth 5がリリースされる予定です。Bluetooth 5に対応する製品の開発状況はいかがですか。

Mackaie-Blanchi氏 現在、BLE SoCの主力製品群として冒頭で紹介したnRF52シリーズを展開している。2016年3月には、同シリーズの第1弾として、現時点での最新仕様であるBluetooth 4.2に対応した「nRF52832」の量産を開始した。EEMBCベンチマークテストCoreMarkでは「215」という高い演算性能を実現し、競合製品に比べると処理能力は最大60%も高い。さらに、Bluetoothソフトウェアスタックに、暗号化された無線通信をサポートする「LE Secure Connections」機能を追加し、通信のセキュリティ機能を強化した。


「nRF52シリーズ」のブロック図(クリックで拡大)

 2017年には、nRF52シリーズの新製品を2種類リリースする予定だ。現在、市場に投入しているnRF52シリーズはnRF52832のみだが、「機能が多すぎる」「少なすぎる」という声が既に顧客から寄せられている。そうしたニーズに応え、搭載する機能やメモリの容量を調節して、ハイエンド版とローエンド版を用意する。nRF52シリーズはいずれもBluetooth 5対応の予定で、ハイエンド版ではさらにさまざまなIoT用途をカバーし、ローエンド版では、より低価格の品種にする。これら2つの新製品を投入することで、カバーできる用途の範囲がより広がると確信している。

 もちろん、「nRF53」シリーズの開発も進めていて、これは2018年の発表を目指している。

2.4GHz帯も引き続き強化

――ANT+やサブギガヘルツ帯向けとしては、どのような取り組みを行ってきましたか。

Mackaie-Blanchi氏 ANT+向けは、当社は長い間、手掛けてきた。2012年に発表したSoC「nRF51」シリーズは業界で唯一、ANT+とBLEを同時にサポートできるSoCだ。例えばスマートウォッチに同SoCを搭載し、心拍センサーとの通信はANT+で、スマートフォンとの通信はBLEで行うといったことが可能になる。

 サブギガヘルツ帯向けについては、以前は1GHz帯向けのチップセットを手掛けていた。だが、多くの市場で2.4GHz帯が使われている現状から、当社の注力分野とはなっていない。サブギガヘルツ帯を使うと長距離通信が可能だが、やはり当社が最も注力するのは、BLEをはじめ、ZigBeeやThreadなど2.4GHz帯を使用する短距離無線通信だ。ただし、ニーズが高まってくれば、サブギガヘルツ帯向けを本格的に再開するという可能性は、ある。

ソフトウェアのカスタマイズで、きめ細かい対応が可能に

――デバイスの低消費電力化と小型化が進み、さまざまな無線規格が登場するなど、無線機能を搭載する機器の開発は複雑になる一方です。開発者の課題にはどのように応えているのですか。

Mackaie-Blanchi氏 APAC(アジア太平洋地域)では2年前に「Customer Engineering」という小規模のチームを立ち上げ、ソフトウェアのカスタマイズを行うという取り組みを開始している。Nordicの製品はSoCとSDK(ソフトウェア開発キット)で構成されているが、ソフトウェアの方をカスタマイズすることで、顧客のニーズにより近いものを提供できるようになる。SoCのカスタマイズはコストが非常に高くなるので対応が難しいが、ソフトウェアのカスタマイズなら可能だ。

 当社はnRF51シリーズの投入によって、「無線通信の知識を十分に持っていなくてもBLE機器を作ることができるようになる」という新たな流れを生み出した。今度はソフトウェアのカスタマイズまで当社で行うことで、より一層、「開発リソースを十分に持っていなくてもBLE機器を作ることができるようになる」だろう。

 ソフトウェアをカスタマイズしてほしいという要求は実際に増えており、Customer Engineeringの重要性が高まっている。現在、アジア地区には4人のCustomer Engineeringのメンバーがおり、今後数年間で増やしていく予定だ。



提供:Nordic Semiconductor ASA
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2016年9月21日

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