GaNで魅力をプラス! GaNパワートランジスタで差異化を図った製品が続々登場:AEC-Q101準拠GaNでいよいよ自動車にも
GaNパワーデバイスを用いた機器の製品化が相次いでいる。先日開催された展示会「TECHNO-FRONTIER 2017」でも、GaNのメリットを生かした革新的な製品が披露され大きな注目を集めた。そこで本稿では、車載向け信頼性基準AEC-Q101準拠品なども登場しているGaNパワートランジスタを搭載した製品を詳しく見ていきながら、GaNの魅力や、GaNは本当に使えるデバイスなのかを確かめていく。
TECHNO-FRONTIER 2017で注目集めたGaN搭載製品
GaN(ガリウムナイトライド/窒化ガリウム)パワートランジスタを搭載した機器の製品化が相次いでいる。GaNパワーデバイスは車載向け信頼性基準「AEC-Q101」に準拠したデバイスも登場し、もはや「次世代パワーデバイス」という認識は過去のもの。「GaNパワーデバイスは“使えるデバイス”」としてさまざまな機器メーカーが採用し、GaNの特長を生かした製品作りを進めている。
2017年4月19〜21日に千葉市・幕張メッセで開かれた電源やモータ関連技術などに関する展示会「TECHNO-FRONTIER 2017」(テクノフロンティア2017)でも、GaNパワーデバイスを駆使した電源製品などが数多く出品され、同展示会の話題となった。特に、2015年からGaNパワートランジスタの量産を手掛け、このほどAEC-Q101準拠品をリリースしたGaNパワーデバイス専業メーカー・Transphorm(トランスフォーム)のブースには、GaNパワートランジスタを搭載して、これまでにないユニークな価値を実現した機器が勢ぞろいし、多くの来場者を集めた。
そこで、Transphormブースに展示されたGaN搭載製品を見ていきながら、GaNの魅力や、GaNは本当に使えるデバイスなのか確認していこう。
ダイオードを使わないPFC回路で実現した超小型&超高効率電源
まず、紹介するのは、大手電源メーカーが間もなく製品化する予定の3.3kWのサーバー用PFC(力率改善)ユニットだ。特長は、250×100×70mmという小型サイズと、最大99%(230VAC入力時)という驚異的な変換効率にある。
もちろんこうした特長はGaNパワートランジスタを採用したことにあるのだが、単に従来のシリコン(Si)パワートランジスタをGaNパワートランジスタに置き換えただけではない。GaNだからこそのPFC回路である“トーテムポール型PFC回路”を用いたからこそ実現されたのだ。
トーテムポール型PFC回路とは、ブリッジレスPFC回路とも呼ばれ、ブリッジダイオードを使用しない極めてシンプルな回路だ。トーテムポール型PFC回路をSiパワートランジスタに用いて実現すると、逆回復時間が長いため、逆回復損失が大きくなってしまう。GaNパワートランジスタは逆回復時間がSiの100分の1と極めて短いため、逆回復損失も非常に小さいためトーテムポール型PFC回路に適したデバイスである。
ブリッジダイオードを取り除けば、回路がシンプル、小型になるだけでなく、ブリッジダイオードで生じる順方向損失がなくなり、損失改善が図れるのだ。その結果、従来の整流ブリッジ回路を使用したPFC回路の変換効率はせいぜい96%程度だったが、これを一気に製品レベルで変換効率99%まで引き上げることが可能になったのだ。
Transphormブースで展示されたオリジン電気製の通信機器用AC-DC電源(2kW容量/120×44×370mmサイズ/開発中)もトーテムポール型PFCを用いた製品。AC-DC-DCと電力変換を行う同電源全体での変換効率は95%以上(200VAC入力時)を実現している。
利用が広がるトーテムポール型PFC回路だが、スイッチングノイズ(伝導ノイズ)が大きくなるという課題があり、フィルター設計にノウハウが必要になるのも事実だ。これに対しTransphormでは「高性能なフィルター設計を容易に行うための情報提供はもちろんのこと、充実したサポート体制も敷いている。ブリッジレスPFC導入に関心のある方は相談してほしい」と呼び掛ける。
高速スイッチング性能でサーボモータとアンプを一体化
GaNパワートランジスタの利点といえば、SiやSiC(炭化ケイ素)などと比べ、高速スイッチング、高周波数動作が行える点も広く知られるところだ。実際、ある研究機関では、Transphormが量産中のGaNパワートランジスタを40MHzという超高周波でスイッチングさせて実験に取り組んでいるというほどだ。
この高速スイッチングに優れ電源回路を小型化しやすいGaNの利点によって、大きな進化を遂げた製品が安川電機のアンプ内蔵サーボモータだ。
一般的なサーボモータは、電力変換やモータ制御を行うアンプ部とサーボモータ部が分かれているのが通常の構成だ。サーボモータとアンプは少なくとも2本の配線(電源配線とエンコーダー配線)が必要で、複数のサーボモータを駆動させるには配線本数が多くなり取り扱いが煩雑で、多くのスペースを要した。
このアンプをサーボモータと一体化すれば取り扱いは容易になるのだが、これまではアンプを小型化できなかった他、モータから伝わる熱や振動の問題もあり実現できなかった。
こうした課題を解決したのが、GaNパワートランジスタだった。まず、電力損失の小さなGaNパワートランジスタによる発熱の抑制により冷却機構を小型化(自然空冷化)。さらに、GaNの高周波スイッチング特性により、各種受動部品を振動、熱に強い小型サイズ品に置き換えることを可能にした。これにより、アンプを耐振動性、耐熱性を高めつつ、サーボモータと一体にできるまでのサイズ(従来比4分の1)まで小型化することに成功したという。なお、GaNの可聴音を超えた高周波駆動は、耳障りなスイッチング騒音も削減するという効果も生んでいる。
最新ワイヤレス充電システムにもGaN
Transphormブースでひときわ注目を集めていた展示が、IoTを活用したシェアサイクルを手掛けるベルニクス社製品の実物展示だ。ワイヤレス充電システムを活用したレンタルサイクルの送電ポートにGaNパワートランジスタが使われている。
昨今、電動自転車を貸し出すレンタサイクルサービスが各地で実施されているが、サービス運営上、電動自転車のバッテリー充電管理は1つの課題だ。ユーザーにバッテリーの取り外し、充電作業を行わせるには、安全面、利便性、セキュリティ面で課題があり難しい。そのため、サービス提供側の人員がバッテリーの充電、交換を行っている場合がほとんどだ。
一方、ベルニクスのシステムでは、利用者がサイクルポートで自らバッテリー充電を行う。というのも、電動自転車に“充電ケーブルを差し込むだけ”でバッテリー充電が行える最新システムを導入しているからだ。この充電ケーブルの先端は、キャラメル箱ほどの大きさの四角い樹脂になっていて、この四角い樹脂部分を自転車前方のコネクターに差し込むだけで無接点(ワイヤレス)で充電できる。金属などの接点がないため、力を入れずに誰でも充電作業を行える他、接点摩耗なども起こらずメンテナンスフリーとなる。
このワイヤレス充電システムで、GaNが使用されているのは細長い充電器本体の先端部分に内蔵されたAC-DC変換部分。省スペースで設置でき、ファンレスでメンテナンスフリーの充電器を実現するため、高周波動作、低損失のGaNパワートランジスタが採用され、ユーザーにもサービス事業者にも優しい充電システムが実現されたのだ。
さあ、次は自動車。普及加速するGaNパワートランジスタ
トランスフォーム・ジャパン副社長を務める入山鋭士氏は、「過去、GaNパワートランジスタは、電流コラプス*)など実用化を阻む課題が存在したが、すでにそうした課題は解決済み。TECHNO-FRONTIER 2017で紹介したように、さまざまなアプリケーションでGaNパワートランジスタは活用され、実績を積んでいる。いよいよ市販車への搭載が始まる見込まれるところまできた」と語る。
Transphormは、車載用半導体向け信頼性規格「AEC-Q101」に準拠したGaNパワートランジスタ(650V耐圧35A品/型番:TPH3205WSBQA)の量産体制を2017年3月に整えた。これにより、高いレベルでの品質、信頼性が求められる自動車分野でのGaN採用が可能になり、GaNの普及は一層加速する見通しだ。
今後のGaNパワートランジスタの開発方針などについて入山氏は「耐圧600V品、650V品に加え、このほど、耐圧900V品のサンプル出荷を開始し、間もなく量産出荷を開始する予定。パッケージも引き続き、バリエーションを増やしていく。加えて、GaNパワートランジスタは、スイッチング速度が高速なため『モジュールとして提供してほしい』との要望も多い。そこで、新電元工業と共同で、ハーフブリッジモジュールを開発中だ」と明かす。
「ハーフブリッジモジュールを製品化できるとGaNパワートランジスタはより使いやすくなり、一層GaNの普及が加速すると期待している。ハーフブリッジモジュールの提供だけでなく、ハーフブリッジモジュールを使ったトーテムポール型PFC回路のリファレンスボードなどの製品化も計画している」(入山氏)
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アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2017年5月23日