トレックス・セミコンダクターと日本ガイシは、低消費電力ICと次世代二次電池「EnerCera」を組み合わせたソリューションにより、環境発電を活用したメンテナンスフリーのIoT実現を目指す。2025年には太陽電池搭載の新デモ機を共同開発。名古屋市に常設ラボも開設し、普及加速と業界横断の連携強化を図る。トレックス・セミコンダクター 取締役 執行役員 営業・マーケティング本部本部長 山本智晴氏と日本ガイシ 執行役員 NV推進本部 DS事業開発 大和田巌氏に聞いた。
――トレックス セミコンダクターと日本ガイシの協業は5年以上、続いています。改めて協業の狙いとこれまでの実績を教えてください。
トレックス 山本智晴氏 トレックスの小型、低消費電力ICと小型/薄型で低リークの新しい二次電池で半固体電池とも呼ばれる日本ガイシの「EnerCera」(エナセラ)の組み合わせは双方の特徴を生かせると考え協業してきた。電源ICとEnerCeraを搭載した評価ボードを共同開発し提案を進めてきた。特に環境発電素子を使用したメンテナンスフリーのアンビエントIoTを実現できる可能性を感じ、環境発電に向けた提案に注力してきた。
日本ガイシ 大和田巌氏 指紋認証機能などを搭載するスマートカードやウエアラブル機器などで、EnerCeraとトレックスの電源ICが共に採用されるなど確実に実績を積み上げているところだ。0.5mm以下を実現するパウチタイプのEnerCeraと低背の電源ICの組み合わせによって、小型で薄いという特徴の他、折り曲げても発火しないという安全性が評価されている。
協業の目的の一つでもあるアンビエントIoTの普及促進という面でも、2024年に低消費電力無線技術を持つイーアールアイと連携し、わずかな消費電力でセンシング、無線通信できるデモボードを開発するなど提案できるソリューションの幅が広がってきた。
――――2025年6月には太陽電池を搭載したEnerCera充電モジュールのデモ機を開発しました。
大和田氏 2024年のデモボードは、EnerCeraにためた電力を有効に使用するためのものだったが、今回開発したデモ機はより効率的にEnerCeraに蓄電するためのもの。アンビエントIoTの実現には、発電能力の高い環境発電素子が必要だが、昨今、ペロブスカイト太陽電池や有機薄膜太陽電池などの開発が活発で、そうした優れた太陽電池を生かせるソリューションとして開発した。
山本氏 デモ機は、自己消費の小さい電源ICを使用し100μWというわずかな発電量でも充電を開始でき、100μWのうち70%程度の電力をEnerCeraにためられる。100μWの発電は、ペロブスカイト太陽電池などであれば100lx程度という薄暗い室内光でも可能で、アンビエントIoTの実現可能性がより高まったと考えている。
――IoT端末は厳しい環境条件にさらされることが多いです。
大和田氏 EnerCeraはタイプを選択することで動作温度範囲−40〜105℃まで対応可能で、また85℃環境に50日以上さらされても95%以上の容量を保てるタイプもある。一般的なリチウムイオン電池は、容量が尽き過放電状態になると急速に劣化し数日で電池としての機能を失ってしまう。一方で、EnerCeraは正極、負極ともにセラミックス素材を使用し劣化原因になる有機バインダーを使用しないため、過放電状態で100日放置してもほとんど劣化しない。一週間操業を停止する工場などでも過放電を気にせずIoT端末を設置できる他、長期間にわたり倉庫に保管しておくことも可能だ。
――充電回路の特徴を教えてください。
山本氏 小さな電力でも充電できるように低消費LDOを充電ICに採用しているほか、発電素子からの電力を昇圧するDC-DCコンバーターにはコイル一体型の「XCLシリーズ」を使っている。回路を小さくできるだけでなく、スイッチング回路をコイルで覆うので、無線通信機能を搭載する際の懸念点になる輻射ノイズを軽減できる。太陽電池に応じて変更する必要がある最大電力点制御(MPPT)は抵抗で設定できるようになっている。
搭載するICはいずれも1mm角や2.5×2.0mmと小さく、高さも1mm以下だ。わずかなスペースで回路を構成でき、EnerCeraと太陽電池のサイズで、充電回路を含んだ「自己発電する電池パック」が実現できる。
――デモ機は今後どのように展開されていくのですか。
山本氏 デモ機はさまざまな太陽電池が接続でき、手軽に試すことができる。すでに複数の太陽電池メーカーで評価、活用いただいている。展示会などの機会に積極的に紹介していく他、アンビエントIoT端末の開発を検討しているユーザーの皆さんに提供することも検討していきたい。
大和田氏 日本ガイシは2025年7月15日に名古屋市に共創施設「NGK Collaboration Square DIVERS」をオープンした。社員の誇りと挑戦マインドの醸成と社内外との協働の推進を目的に設置したもので、施設の一画にEnerCeraの応用拡大を目指したラボを設けた。ラボでは、デモ機などトレックスと共同開発したアンビエントIoT向けソリューションも展示し、試せる環境を用意した。
――常設ラボの開設で、アンビエントIoTの普及拡大に向けた取り組みがさらに加速しそうですね。
山本氏 近年は太陽電池や電源IC、センサー、通信技術といった周辺要素の進化により、アンビエントIoTの実現可能性は着実に高まっている。ただ、普及にはまだいくつかの壁がある。特に、ペロブスカイトや有機薄膜太陽電池などの環境発電素子は研究開発段階から量産段階へと進む過程で、エネルギーハーベスティング用途への適用や接点づくりが十分とはいえない状況だ。
業界横断的な連携の必要性も強く感じている。各要素技術が個別に進化しても、システムとして統合されなければ実装には至らない。その意味で、われわれはいわば“仲介役”として、太陽電池ベンダーやセンサーメーカー、通信モジュール開発企業などと密に連携しながら、ネットワーク形成を進めていきたい。
大和田氏 共創施設は“仲間づくり”の場としての意図がある。われわれはこれまで、実装に至らないまま研究段階にとどまっている技術と、実用化を目指す企業とを結び付ける役割を担ってきた。DIVERSでは、そうした接点を創出し、製品評価や実証実験を通じた連携強化を図っていく。
今後は、標準化やモジュール化を進めることで、評価や実装のハードルを下げ、より多くのプレイヤーが参画できる環境を整えていきたい。アンビエントIoTは、ひとつの企業で成し遂げられるものではない。だからこそ、このラボを起点に業界全体で共創の輪を広げていく――それがわれわれの目指す姿だ。
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提供:トレックス・セミコンダクター株式会社、日本ガイシ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2025年9月19日