高速、高分解能――常に先行くオシロスコープを実現へ:テレダイン・レクロイ・ジャパン ビジネスデベロップメントマネージャ 辻嘉樹氏
テレダイン・レクロイは、業界リードする高性能オシロスコープの提供を続けている。ミドルエンド製品も含め12ビットという高分解能製品をラインアップするとともに、将来の周波数帯域100GHzクラスオシロを目指して、InP(インジウムリン)系デバイスの研究開発も手掛けているという。常に新しいハイスペックオシロ開発を進めるテレダイン・レクロイの日本法人でビジネスデベロップメントマネージャを辻嘉樹氏に技術/製品戦略を聞いた。
最先端技術の開発が加速
――2012年8月にテレダイン・テクノロジーズがレクロイを吸収合併し、テレダイン・レクロイとして再スタートしました。変化はありますか。
辻氏 少なくとも日本市場で大きな変化はありません。
旧レクロイグループは、新体制となってもテスト/計測部門の中核事業となっています。旧レクロイ以外の製品は米国内での販売が主です。いずれは旧レクロイの販売網を活用して、グローバルに拡販していこうと考えているようです。今のところ、テレダイン・レクロイ・ジャパンとしては、旧レクロイ製品のみを販売しています。
――先端技術の開発では、合併のシナジー効果が期待できそうですね
辻氏 ハイエンド製品の開発では協業しています。例えばテレダイン・レクロイのR&D部門であるテレダイン・サイエンティフィック・カンパニーは、InP(インジウムリン)系デバイスの研究開発で先行しています。次世代のハイエンドオシロスコープには、このInP系デバイスを搭載していくことも検討されています。
――これまでは、SiGe(シリコンゲルマニウム)系デバイスを搭載されてきました。
辻氏 3年前にSiGe系で「8HP」と呼ばれるプロセス技術を適用したトランジスタを開発し、現行の65GHz帯域オシロスコープに搭載しています。次世代のオシロスコープ開発に向けて、搭載する高速トランジスタを検討した結果、「9HP」と呼ばれるSiGe系の次世代プロセス技術を選択する方法もありました。しかし、微細化していくとトランジスタの耐圧も下がり、素子を保護するための回路設計に多大な労力を必要とすることが判明し、次世代の素子開発としてInP系デバイスを選択しました。
――将来的に、InP系デバイスがSiGe系より技術進化が期待できるということですか。
辻氏 はい。10年程前に旧レクロイはInP系でデバイスを開発した経験がありますので、SiGe系とInP系の双方の技術について長所や短所が分かっています。これらの経験も踏まえ、現行のInPプロセスの微細化のレベルが低いので将来的な高速化の余地が大きいためハイエンドオシロスコープのコア技術ともいえるアナログフロントエンドに必要なデバイスをInP系で開発することを決めました。しかし、InP系デバイスを研究している企業は世界的にも限られています。その1社がテレダインで、製造ラインも保有していました。
――InP系デバイスが接点となって両社の関係が深まったのですね。
辻氏 テレダインは米政府からの委託でさまざまな研究開発を行っています。InP系デバイスの研究もその1つです。ただ、テレダインは具体的な応用製品をイメージして開発していたわけではなく、デバイスを量産するところまでは考えていなかったようです。それが、旧レクロイとの協業によって、先端InP系デバイスがオシロスコープに応用できることが分かり、共同開発しようということになりました。そこから、テレダインがレクロイを吸収合併することに発展していったようです。レクロイ側からすれば、テレダインの先端技術を活用することができます。テレダインにとっても、開発した技術/デバイスを量産することでビジネスにできる、というメリットがありました。
100GHz帯域オシロスコープを実証
――次世代ハイエンドオシロスコープの開発で新たな動きはありますか。
辻氏 レクロイは2013年7月に、100GHz帯域オシロスコープの動作実証に成功したと発表しています。2014年に開催されたOFCなどの展示会にも参考展示しました。このオシロスコープは36GHz帯域のSiGe系デバイスを搭載した製品で、DBI 技術で3チャンネルを結合して約3倍の帯域を実現したものです。これとは別に、テレダインのファブで製造されたInP系デバイスの開発も発表しています。InP系デバイスを搭載したオシロスコープが製品化される予定は明らかにされていませんが、一般的にデバイス開発から最低でも2年は必要となるようです。個人的な考えですが、2015年にも参考品として登場すればいいと思っています。もちろん、オシロスコープとして完成させるには、アナログフロントエンドの部分だけでなく、A-Dコンバータやメモリ回路など、他の技術についても十分な特性を実現するための課題を解決していかなければなりません。
――次世代ハイエンドオシロスコープで狙っている仕様は。
辻氏 インタリーブ技術を使わずに60〜70GHz帯域の4チャネルオシロスコープを実現することが当面の目標です。100GHz帯域の2チャネル機も考えられます。現在、開発しているInP系デバイスの遮断周波数(fT)は350GHz程度と聞いています。fTは競合メーカーが搭載しているInP系デバイスに比べて1.5倍となっています。テレダインのR&D部門の開発担当者によれば、テレダインはInP系デバイスでfTを1THzまで高める技術を保有しているとのことです。そういう意味で、ハイエンドオシロスコープ市場において、次に登場する製品が1つの試金石となりそうです。
――ハイエンド市場で注目している用途はどこですか。
辻氏 超高速オシロスコープのターゲットは光通信分野です。100Gビットイーサネットの要素技術は固まっています。次世代の400Gビット/秒やそれ以降の高速通信技術の開発動向に注目しているところです。現在はレーン当たりの通信速度は最大32Gビット/秒です。このため、オシロスコープの帯域として、『50GHzは必要だが70〜80GHzはいらない』という顧客の声もあります。400Gビット/秒の通信速度を実現する方法として、多重化技術や多値変調技術などのアプローチがなされています。いずれは新たなブレークスルーがあるかもしれません。レクロイは、オシロスコープの多チャネル技術などで他社より優位な立場にあると思っています。InP系デバイスの研究も含めて、これから必要と思われるさまざまな技術開発に着手しています。
12ビット分解能をミドルレンジでも
――ミドルレンジの製品展開について教えてください。
辻氏 まず、ミドルレンジのオシロスコープでは、高分解能製品の展開を挙げることができます。レクロイは高分解能オシロスコープの開発で先行してきました。1990年半ばごろには、分解能が10ビットの製品を市場に投入しました。当時、ビデオ信号の波形観測用途でニーズがありました。分解能が12ビットの製品も当社が発表して3年以上が経過しました。顧客の要求に基づいて製品化しましたが、当時は8ビット製品に比べて高価なこともあり、R&D部門に限定して販売したこともありました。
――2014年6月には分解能が12ビットで、サンプリングレートが2.5Gサンプル/秒の8チャンネルオシロスコープ「HDO8000」を発表されました。
辻氏 2011年5月に業界初の12ビット製品を発表しましたが、2012年10月に発表したHDO4000/6000は、サンプリングレートが2.5Gサンプル/秒、12ビット製品でありながら、8ビット製品とほぼ同じ投資金額で済むため、受注は大きく伸びています。特に、HEV/EV向けのモータドライブ回路や空調用のインバータ回路などの設計者から高い評価を得ています。
一例ですが、HEVでは600Vでスイッチングしています。本来なら、オン時の電圧はゼロVとなり電流が流れずに、損失は「ゼロ」となるのが理想です。ところが実際にはわずかな電圧が残り電流が流れます。これが電力損失となりますので、システム設計者はできる限りオン時の電圧を下げようとします。しかし、例えばオン時の電圧が5V程度残り、これをさらに5%改善しようとしても、フルスケール800Vで、分解能が8ビットのオシロスコープを用いると、分解能が不足して5V以下の電圧を正しく測定することができません。分解能が12ビットのオシロスコープであれば、詳細に波形を観測することが可能となります。同様に、オーバーシュートの波形観測においても、12ビット製品は圧倒的優位です。
8チャンネル対応で3相モーターに対応
――新製品は分解能12ビットに加えて、アナログ入力8チャネル、周波数帯域は最大1GHzという特長を備えています。
辻氏 これまでレクロイが提供してきた12ビットオシロスコープは4チャネル製品でした。物性現象の波形観測など広いダイナミックレンジを必要とする用途で利用されています。ところが、パワーエレクトロニクス関連では、三相エネルギー変換の用途が増加しており、「4チャネルでは足りない。かといって2台使って拡張するのは面倒」という要望が強くなってきました。そこで、分解能が12ビットでアナログ入力8チャネル、周波数帯域は350MHz、500MHzそして1GHzの3モデルを用意しました。
パワーエレクトロニクス関連のモジュール開発/評価において、1GHzという周波数帯域は全ての用途に必要ではないかもしれません。しかし、SiC(シリコンカーバイト)やGaN(窒化ガリウム)をベースとしたパワー半導体の開発や、高性能プロセッサを搭載した制御回路基板の評価などには必要となります。
――ミドルレンジの製品戦略はこれまでと変わりますか。
レクロイのミドルレンジオシロスコープはこれから、分解能が12ビット製品に統一されることになります。また、アナログ入力8チャネルモデルは従来の汎用製品という位置付けから、三相モーターのドライブ回路などの用途に特化した展開となります。三相モーターの技術は従来の工業用途だけでなく、HDDのスピンドルモーターなど、複雑で安定した回転制御を必要とする機器に搭載され、その用途が拡大しているからです。
もう1つの用途として、スマートグリッドシステムがあります。メガソーラーなど大規模太陽光発電システムでは、発電した電力を直流から交流に変換して送電網に送ることになり、三相の電力に変換しなければなりません。これらの市場では、8チャネル機が必須になると思っています。
入門機も継続強化し、技術者育成も積極サポート
――ローエンド市場における製品戦略を教えてください。
辻氏 2014年7月に、「WaveSurfer 3000」シリーズを発表しました。これまでハイエンドモデルにしか搭載されていなかったMAUIアドバンスト・ユーザーインタフェース機能を、10.1型タッチスクリーンとして搭載しました。周波数帯域幅は200〜500MHzで、サンプリング速度は最大4Gサンプル/秒、チャネル当たり10Mポイントのロングメモリを搭載しています。さらに、ファンクションジェネレータやプロトコルアナライザ、ロジックアナライザなど複数の機能が搭載されています。A-Dコンバータの分解能は8ビットですが、安価で操作も容易な製品です。さらにコストを追求したエントリモデル「WaveAce 1000/2000」シリーズも用意しています。
――シグナル・インテグリティ(SI)に関して、技術者の育成にも注力されていますね。
辻氏 SI業界の第一人者であるエリック・ボガティン博士が、これまでのセミナーを動画とし、「SIアカデミ」と銘打ってレクロイのウェブ上で有料オンラインセミナーを始めました。ボガティン博士が、自らの講演で行った人気の高い内容を取り上げていきます。例えば、PCI Express 3.0(Gen3)など高速シリアルインタフェースを採用する際に、設計段階で取り組むべき手法など、コストを抑えて実現するための具体的事例を挙げながら解説しています。設計エンジニアにとって有益な情報を提供していきますので、英語ではありますがぜひ有効に活用してください。
提供:テレダイン・レクロイ・ジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2014年9月30日
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