ウェアラブル機器の電池問題は“電池レス”で解決:エネルギーハーベスト技術応用
ウェアラブル機器の開発が加速するなかで、後れを取っているのがバッテリー技術だ。バッテリー寿命の短さがウェアラブル機器普及の足かせになることが懸念される。そこで注目を集めているのが、エネルギーハーベスティング技術だ。既に“バッテリーレスで動く位置検出シューズ”などのバッテリー寿命を気にしないウェアラブル機器の開発が始まっているという。
はじめに
近年、スマートウオッチやスマートグラスなどに代表される新しいウェアラブルデバイスが次々に登場している。これらの背景として、スマートフォン市場において先進国を中心に一定の普及期を迎えたことにより、その端末に接続可能な周辺機器として、新たなトレンドデバイスを各社が模索している姿勢がうかがえる。また半導体技術の進展により小型化・高性能化が可能になったことと、ビックデータ、Internet of Things(IoT)、Machine to Machine(M2M)といわれる、全ての“モノ”、“機器”を無線でインターネットにつなげる取り組みなどがウェアラブルデバイスの開発を後押ししている。ウェアラブルデバイスの種類として、腕時計やメガネといった手首や頭部に装着する端末が全体の3分の2程を占め、その他では指輪型や靴・衣類・バックなどに装着するタイプなどがある。近年では、人体に直接埋め込み脳に直結したデバイスなどの実用化も議論されている。
ウェアラブルデバイスの展望として、世界市場において2013年度560万台だったものが2020年度には1億2400万台に成長すると予想されている(MM総研)。今後ウェアラブルデバイスはSF映画などで描かれているような未来の世界を現実のものにするデバイスとして期待されていくであろう。
バッテリー問題
しかし、このような新たなデバイスのイノベーションスピードが上がっていく一方で、バッテリー技術のみが後れを取っている。特に気になるのがバッテリー寿命の問題である。現在の私たちの生活で、スマートフォンは毎日充電するが、メガネ、時計、靴、衣類などは毎日充電しない。これが何もかも充電をする世界になった場合に、自然に身に着けているものを取り外して充電するという行為がとても不便に感じられるようになってくるであろう。普段の生活にとけこみ、着けていることを忘れるぐらいのバッテリー寿命が、ウェアラブルデバイスには求められてくる。
しかし、現在のバッテリーには根本的なルールがある。サイズが小さいほどエネルギー密度が小さくなるという性質だ。半導体の方はいまだにムーアの法則を維持し、毎年およそ2倍の割合で微細化が進んでいるが、Li-ion 2次電池などのバッテリーは、20年程前に実用化が開始されてから現在に至るまでで、わずか3.5倍程(体積エネルギー密度の場合)の性能向上にとどまっている。半導体の微細化のスピードと比べるとわずか1/10にすぎない。
エナジーハーベスト技術を活用
バッテリー技術の進化が遅いのであれば、他の手段を模索するということは自然の流れだ。そこで現在注目されているエネルギーハーベスティング技術(身の回りの小さな光、振動、熱などの環境エネルギーを電気エネルギーに変換し、有効利用するという技術)を使用して、ウェアラブルデバイスのバッテリー寿命の延命、もしくはバッテリーレスで駆動可能な仕組みを検討してみる。ただし、エネルギーハーベスト技術もまだ万能ではなく、腕時計型のウェアラブルデバイスなどを全てバッテリーレスで駆動させるといったことまでは現時点ではできない。センサー情報のみの単純なデータをスマートフォンに送信し生活ログを取るといったデバイスなどに最適である。
バッテリーレスで動くBluetooth Smart(Low Energy) Beacon スタータキット
スパンションは、エナジーハーベスト向けの電源ICを搭載したバッテリーレスで動くBluetooth Smart Beaconのスタータキット(MB39C811-EVBSK-02)を用意している。キットにはスパンション社電源ICのMB39C811が標準搭載されており、ユーザー領域プログラムの書き換え可能なBluetooth Smartモジュールや、動作確認用の屋内向けソーラーパネルなどが付属されている。別途、圧電素子などの振動発電デバイスを接続すれば、振動エネルギーと屋内光エネルギーでのハイブリッド動作も実現可能だ。
付属の基板にはBluetooth Beacon動作を行うサンプルプログラムが書き込まれており、基板をオフィスの照度下(一般的にデスクの上で400〜500lux程度)に配置するとソーラーパネルのエネルギーのみで、自動でBluetooth Beaconパケットをスマートフォンに送信する。送信間隔は500luxの環境下で約1秒に1回で送信を行う。
応用事例
今回はこのキットを使用し、“バッテリーレスで動く位置検出シューズ”の作成と実証実験を試みてみる。基板と発電デバイスを子ども靴に組み込み、実際に子どもに歩いてもらい位置データの取得が可能かを試みてみる。位置検出にはiBeacon規格で使用しているRSSIといった電波強度の値をスマートフォンで測定を行い、以下の計算式よりスマートフォンと子ども靴との距離を導きだす。
r=10^((RSSI-Tx)/20)
r :距離(計算値)
RSSI:1m受信強度(固定値)
Tx :実際の受信強度(実測値)
振動発電デバイスには電磁誘導タイプを使用し、子どもの歩く振動パワーを電気エネルギーに変換し、そのエネルギーのみで電波を送信できるようにする。また、子どもが止まっている環境下でも位置検出を可能にするため、ソーラーパネルとのハイブリッド動作を可能にし、振動もしくは光のどちらかのエネルギーが得られる環境下であれば動作できるような仕組みにする。
結果として、子どもの歩く振動エネルギーのみで十分Bluetooth Smart (Low Energy)のBeaconデータをスマートフォンに送信し、位置検出ができることが確認できた。今後このような取り組みを通じて、ウェアラブルデバイスで抱えているバッテリー問題の解決を、スパンションのエネルギーハーベスト技術を使用して手助けができればと考えている。
最後に
最後に、Spansionのエナジーハーベスティング用電源ICを使った実際の機器開発が各地で進められている。主にM2Mなどの無線センサー端末の電池レス化をターゲットにしたものであるが、今後、無線センサー端末と同様にウェアラブルデバイスでも抱えているバッテリー問題の解決に特化した電源IC、低消費電力のMCUなどを提供していきたいと考える。
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提供:Spansion Inc.(スパンション)
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2015年3月11日