これからはデジタル制御、鍵は「マイコン」:電気自動車のDC/DCコンバータ制御技術 最新動向
ハイブリッド車や電気自動車といった電気駆動車両では、駆動用の数百V系電源と、メーターやライト制御といったECUの12V系電源の間に電圧変換制御システムが必要になる。本稿では、電気駆動車両の電圧変換制御システムで新たに採用されるであろうデジタル制御技術と、デジタル制御を実現するマイコン製品を紹介する。
近年、地球温暖化の抑制に向けて、環境に配慮した自動車であるハイブリットカー(以下、HEV)や電気自動車(以下、EV)など電気駆動車両の普及拡大が進んでいます。電気駆動車両の場合、駆動用のモータを使用する関係から、一般的に数百Vの電圧を発生する必要があり、リチウムイオン電池などの蓄電池(メインバッテリー)を使用しています。しかしながら、メーターやライト制御などのECUは従来の内燃機関車と同じECUを使用しているため、鉛電池で動作する12V系の電圧となっています。このため、電気駆動車両ではECU用の12Vをメインバッテリーから電圧変換し供給しています。ここに電圧変換制御システムが必要となります。図1はEV/HEVの電源制御図です。
DC/DCコンバータで必要とされる要素
DC/DCコンバータでは、以下の点を考慮する必要があります。
- バッテリーの電圧変動に対応した電圧の安定供給
- 高精度な電源回路設計
- 部品点数削減
- ECUの電源に見合う高信頼性設計
- 電源の仕様に最適な制御方式の選択
従来技術と今後の技術
従来技術は、アナログ部品を中心とした個別部品の組み合わせにより構築していたため、最適化を行うことは出来ましたが、システムの要件によって組み合わせを変更する必要がありました。
また、アナログ部品では、故障検出が複雑であり、自動車向け機能安全規格のISO26262を満たすためには、部品点数を更に増やす必要があります。
今後の技術は、マイコンを使用したデジタル処理も搭載することで、回路部品点数を削除して、かつ、ソフトウェアの変更により、柔軟にシステム要件による制御方式の変更などにも対応できます。また、マイコンによる故障検出が可能となるため、車載ネットワークを経由して、ドライバーに故障通知を行うことができるようになります。
キー技術
今後のデジタル制御によるDC/DCコンバータを行うために、スパンションでは以下のキー技術をスイッチング電源制御用マイコン「MB91F552」に搭載しています。
- 高速CPU動作、浮動小数点演算ユニット(FPU)による追従性の高い制御が可能
- DC/DCコンバータからのフィードバックに応じて演算を行い、PWM制御に反映することが出来ます。これにより、バッテリーの電圧変動に対しても、安定した電圧を供給するための制御が可能となります。
- 高分解能PWM出力 最大動作周波数200MHzのデジタルPWMタイマ
- 高精度な電源回路設計を行うために、きめ細かに制御可能な高速/高精度のPWMタイマを搭載しています。
- スロープ補償回路およびコンパレータ搭載による部品点数削減
- 従来、アナログ部品で構成していた機能を内蔵することで、部品点数の削減、ノイズの影響度を下げることができます。
- 安全機能の搭載
- ECU電源向けの安全機能システムの異常検知に最適な安全機能および自動車の機能安全向け安全機能を搭載しています。
- 電圧モード/電流モードのいずれの制御にも対応が可能
- 電圧モード制御、電流モード制御に適応できる周辺機能を搭載しており、一般的にDC/DCコンバータ制御で採用されているピーク電流モード制御に対応できます。
スロープ補償回路内蔵 スイッチング電源制御用マイコン「MB91F552」
MB91F552は、12ビットA/Dコンバータを2ユニット(1ユニットは4ch sampling hold可)、PWM出力制御に連携したコンパレータを3チャネルとそれぞれに比較基準電圧設定用10ビットD/Aコンバータ、スロープ補償回路を搭載し、PWM出力回路にはデットタイムや位相シフトなど波形制御機能を搭載しています。
DC/DCコンバータ制御において、出力電圧は12ビットA/Dコンバータで受け取り、デジタル化し、CPU/FPUによりPID制御を行い、コンパレータのリファレンス値やPWM出力を制御します。また、インダクタ電流はスロープ補償回路によりスロープ電流を付加し、コンパレータで電流レベルを目標値と比較し、結果によりダイレクトにPWM出力を制御します。図2はMCUの主要回路を表した図になります。
PWM周波数やDuty、コンパレータのリファレンス値、スロープ補償値など、ソフトウェアでプログラマブルに変更が可能であり、MCUにより制御電源仕様にあわせたデジタル電源制御が行えます。
アプリケーション例
図3は、MB91F552のDC/DCコンバータ制御適用例です。ピーク電流モード制御によりフェーズシフト・フルブリッジDC/DCコンバータを制御します。
PWM0H/0L、PWM1H/1Lにより入力側電圧を、PWM2H/2Lにより出力側の整流を行います。
入力側の電流をコンパレータで監視し、出力電圧を12ビットA/Dコンバータで監視します。A/Dコンバータによって変換された出力電圧をCPUにて判定し、コンパレータのリファレンス値、スロープ補償回路の補償値、PWM出力のDUTY値、位相値を次のスイッチング周期に向け反映させます。コンパレータによって監視している電流が目標値のリファレンスを超えた場合、その時点でPWMの出力を反転させスイッチオフにします。この反転は次周期を待たずそのスイッチング周期中に行われるため、入出力電圧の変動に対し追従性が高く、安定した出力電圧供給に貢献します。また、コンパレータでは過電流監視も同時に行えるため、過電流発生時には、その時点でPWM出力を全てオフさせることができます。
今後の動向
今後のプラグインハイブリットカーや電気自動車では、コネクティビティ化が進み、V2H(Vehicle to Home)やV2G(Vehicle to Grid)などを利用したエネルギーシェアの実現検討が進んでいます。また、さらなる自動車の低燃費化、自動車システムのコストダウンが求められています。そのために、スパンションは以下の技術開発の検討を進めています。
- セキュリティ
- モデルベース開発
- システム統合化
<英語版の記事はこちら>
提供:Spansion Inc.(スパンション)
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2014年11月17日
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