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パワーエレクトロニクスの領域でイノベーションを推進するサンケン電気サンケン電気 デバイス事業本部 技術本部 プロセス技術統括部長 八木一良氏

サンケン電気は、半導体素子から機器に至るまでを扱う総合パワーエレクトロニクスメーカーのリーディングカンパニーを目指す中で、新たな時代に向けたパワーデバイス開発を積極的に進めている。サンケン電気で、主にパワーデバイスやパワーIC関連のプロセス技術開発を担当するデバイス事業本部技術本部プロセス技術統括部長の八木一良氏にプロセス技術領域を中心にサンケン電気の技術/製品開発戦略を聞いた。

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白物家電向け売上高は前年比30%増の大幅伸長

――2017年度(2018年3月期)業績について振り返ってください。

八木一良氏 2017年度の全社売上高は1752億円で前年度比10%増になり、デバイス事業単独でも、売上高1438億円で前年度比11%増と好調だった。

 市場別に見ると自動車向けについては、引き続き堅調を維持した。白物家電向けは、中国市場をはじめとした海外市場におけるインバータ化伸長という追い風の中で、モーター駆動用IPM(インテリジェントパワーモジュール)を中心にシェアを高めることができ、前年度比30%増と大きく伸長したことが、好調の要因だと分析している。

――パワーデバイス市場では、一部で品薄感が広がっています。

八木氏 旺盛な需要に対応するため、2017年度は前年比60%増と積極的な設備投資を実施した。特に需要の増加が著しい白物家電向けパワーデバイスの前工程製造拠点である山形サンケン、ポーラー セミコンダクター(米国ミネソタ州)の増産投資を重点的に行った。2018年度も、150億円程度の投資を実施していく予定だ。主に後工程製造拠点でパッケージング、テスト工程の能力増強などを行い、市場要求に応えていきたい。

『Power Electronics For Your Innovation』を掲げる新中期計画

――2018年度から、新たな3カ年中期経営計画がスタートしました。

八木氏 新中期経営計画(以下、新中計)は、2020年度全社売上高2000億円、営業利益率10%の達成という数値目標を掲げている。デバイス事業売上高としては、2017年度比20%増に相当する1720億円を目指している。

 新中計では、あらためてサンケン電気の事業領域を「パワー半導体」「パワーエレクトロニクス」「パワーマネジメント」の3つと定義して、各事業領域で深掘していく。そしてパワーエレクトロニクスのリーディングカンパニーとして、パワーエレクトロニクスを通じて、顧客や社会にイノベーションをもたらす『Power Electronics For Your Innovation』(会社スローガン)を実現していきたい。

 そのための具体的施策の1つとして2018年度から事業組織を、それまでの用途別組織から製品別の事業部制へと改め、事業責任をより明確にした。そして、事業部と横並びでウエハプロセス/アセンブリ技術部門を配置し、用途や製品を横断した形での技術開発に取り組んでいる。

――用途をまたがった共通の技術基盤づくりを進めているということですね。

八木氏 共通基盤づくりは、技術に限ったことではない。現在、開発技術、生産技術、製造、資材調達、そしてマーケティングまでを含めた包括的な共通基盤「Sanken Power-electronics Platform(SPP)」を構築するための取り組みを進めている。いろいろな工程設計においてコンセプトを共通化し、より効率性を高めること、製品開発や事業スピードを速めることが目的だ。


「Sanken Power-electronics Platform(SPP)」のイメージ

――3つの「パワー」領域に重点を置きながら、どのような用途市場に注力されるのですか。

八木氏 自動車、白物家電については、まだまだ成長機会が残されており、注力を続ける。新たに成長を狙う市場としては、デジタル電源制御技術を軸に産業機器市場、民生機器市場などでの実績を上積みしていく方針だ。IoT(モノのインターネット)化の中で、「PowerIoT」を掲げ、デジタル電源制御技術をベースにした電源のIoT化を進めていきたい。デジタル電源については、既にLED照明市場、POL電源市場で採用実績があり、新中計期間中には、有機ELテレビや高速負荷応答を追求したDC/DCコンバータ用途などでの採用を見込み、事業規模を50億円程度まで拡大させる計画だ。


デバイス事業で注力する市場

高耐圧、大電流に向けた技術開発を加速

――自動車、白物家電などの市場に向けたパワー半導体の開発方針を教えてください。

八木氏 より高耐圧、より大電流に対応するパワー半導体の開発を進め、製品のカバーエリアを広げていくことに重点を置いている。

 具体的には、低耐圧から中耐圧領域で大電流に対応するVertical Field Plate構造のMOSFET(以下、VFP-MOSFET)、IGBTをより高耐圧、大電流化できるField Stop構造のIGBT(以下、FS-IGBT)、そして、さらに高耐圧、大電流領域をカバーできるSiC(炭化ケイ素)を用いたMOSFETという3つの領域に注力している。


サンケン電気の主要パワーデバイスとターゲットアプリケーション (クリックで拡大)

――重点を置いて開発している3つのパワーデバイスの特長をそれぞれ教えてください。

八木氏 まず、VFP-MOSFETは、自動車の電動パワーステアリング(EPS)やISG(Integrated Starter Generator)ハイブリッドシステムなど、数十ボルト耐圧ながら100A前後の大電流の扱いが必要になる用途をターゲットにしている。

 この領域では、オン抵抗の低減が重要になるが、当社ではゲートポリシリコン工程及び、レイアウトの工夫により、ゲート部分の抵抗と容量を低減させる事(旧世代プロセスの約2分の1)でトレードオフ関係の高速スイッチング特性を維持しつつ業界でトップクラスの低オン抵抗を実現できる第2世代VFP-MOSFETプロセスを開発した。例えば、従来はTO3Pパッケージが必要だったクラスのデバイスを、5×6mmサイズのDFNパッケージに封止でき、同時にオン抵抗を70%程度、削減した製品を実現できる。2019年には、この第2世代プロセスによる新製品の提供が開始できるだろう。


超低オン抵抗商品例

 FS-IGBTについては、既に量産を開始しているが、さらに特性を改善した新たなFS-IGBTプロセスの開発を進めている。IGBTの場合、飽和電圧(=Vce(sat))を下げて導通損失を抑えると、スイッチング損失が増大するというトレードオフ関係がある。導通損失とスイッチング損失の双方を低減させるために独自技術を適用し、業界最高クラスのFOM(IGBT性能指数)の実現を狙っている。

――独自技術とはどのようなものですか?

八木氏 一つは、導通損失、オン抵抗の低減に効くウエハの薄化技術がある。薄化技術は、MOSFET、IGBTに共通する基盤技術になるが、この薄化技術を自社内で保持し、安定生産できる点はサンケン電気の強みになっている。他にも、ゲートの表面積を最大化し低入力容量化させたトレンチ構造にして、導通損失を低減するトレンチゲートを均一に形成する技術も、サンケン電気が得意とする独自技術の一つに挙げられる。この構造を微調整することで、高周波機器向けには高速タイプ、インバーターなどのIPM製品や大電流製品には低Vce(sat)タイプなど、用途別に最善のIGBTを使い分ける事ができる。

 また、テスト/品質管理技術もサンケン電気の特長だと考えている。一般的に、チップに電流を流す試験は、試験装置の都合上、数十アンペア程度にとどまるが、サンケン電気では、ダイシング後のベアチップの状態で試験できる設備を立ち上げ、チップに100A以上の大電流を流す試験を実施でき、車載市場などで要求されることが多くなっているベアチップでの供給時も、高品質なチップ出荷を保証できる体制(KGD:Known Good Die)を整えている。ダイシング前のウエハでのテストが一般的な中で、このような試験設備を整えているメーカーは数少ないだろう。

トレンチゲート構造の第2世代SiC-MOSFETを開発

――SiCパワーデバイスの開発状況についてはいかがですか?

八木氏 SiCについては、既に、SiC-SBD(ショットキーバリアダイオード)を量産し、有機ELテレビなどのハイエンドテレビなどで採用実績がある。

 SiC-MOSFETについては、2018年中には、第2世代プロセスの開発が完了する見込みだ。第2世代SiC-MOSFETは、トレンチゲート構造を導入し、オン抵抗をさらに低減できるようになる。SiC-MOSFETは、FS-IGBTなどでカバーしにくい、高耐圧、大電流領域に向けたデバイスと位置付けている。まずは、1200V耐圧のSiC-MOSFETを製品化し、白物家電や民生機器などで実績を積みながら、Si-MOS開発で得られた各種ノウハウを活用しつつ、さらなる低オン抵抗化、高速化、高耐圧化を図り、この先の自動車向け新製品へのSiC-MOSFET採用に備えていきたい。


SiC-MOSFETの位置付け (クリックで拡大)

――ICの開発について教えてください。

八木氏 サンケン電気のICは、デジタル電源制御、電源管理に向けたミックスドシグナルICに集中している。現在は、フラッシュメモリを搭載可能なミックスドシグナルICや1200Vクラスのインバータモジュールの制御用高耐圧ICに向けたプロセス技術開発に注力している。

グローバル開発体制を拡充中

――多くの開発プロジェクトを進めるには、開発人員の増強も必要ですね。

八木氏 全社で進めているSPP活動などを通じた効率化を図るとともに、開発リソースの増強も進めている。ただ、チップ設計やプロセス開発技術者を日本国内だけで十分に確保することは、難しくなってきた。そこで、2017年秋から台湾、2018年春から韓国に設計開発拠点を新設し、プロセス開発や製品設計の一部を実施するようにした。

 同時に、子会社で、センサー関連技術に強みを持つAllegro MicroSystems(アレグロ・マイクロシステムズ)との共同開発も強化している。自動車向けパワーモジュールなどで、サンケン電気のパワー素子/パッケージ技術と、Allegroのシステム技術を融合させた共同開発を進める動きを強化している。

今後は「Sanken Power-electronics Platform(SPP)」を軸にして、グローバルな開発体制を強化していき、製品やソリューションを通して顧客や社会にイノベーションをもたらす企業を目指して努力していきたい。



提供:サンケン電気株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2018年9月20日

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