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使いやすいSiCの到来――放熱設計と高速駆動の課題に応えるCoolSiC G2×Q-DPAK上面放熱パッケージで性能を引き出す

自動車の電動化や再生可能エネルギー産業の成長を背景に、炭化ケイ素(SiC)パワー半導体の活用が広がっている。かつては高価格/高性能な用途に限られていたが、現在ではウエハー生産量が増加して価格が手ごろになり、幅広い用途での採用が現実的になっている。ここで立ちはだかるのが信頼性や放熱設計、インダクタンス低減といった“使い勝手”の壁だ。インフィニオン テクノロジーズの「CoolSiC MOSFET G2」と表面実装/上面放熱に対応したパッケージ「Q-DPAK」は、こうした設計課題への現実的な解決策を提示する製品だ。

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需要広がるSiC、その一方で残る“設計の壁”

 カーボンニュートラルの実現に向けた再生可能エネルギー産業の成長や電気自動車(EV)の普及から、炭化ケイ素(SiC)パワーデバイスの採用が拡大している。シリコン(Si)パワーデバイスよりも高耐圧かつ高効率なSiCパワーデバイスは、電力変換システムの小型化や高性能化に大きく貢献する。

 2024年はEV需要が低迷したことでSiCパワーデバイス市場も足踏み状態となったものの、長期的には今後も需要が増加していくことが見込まれる。フランスの市場調査会社であるYole Groupは、2025年後半から同市場がさらに拡大すると予想している。

 現在はさまざまなパワーデバイスメーカーの大規模投資によって、SiCウエハーの生産量が拡大している。それにより、SiCウエハー価格は下落しており、これまでコスト的にSiC導入が見送られていた用途でも急速に導入検討が広がりつつある。

 だがSiCパワーデバイスには特有の課題も多く、それが採用の障壁にもなっている。「SiCパワーデバイスは従来のSiパワーデバイスとは異なる技術ノウハウが必要で不安だ」「製品ラインアップが限られていて、設計に合わせて自由に選べない」といった声は多い。性能と信頼性を兼ね備え、かつ“使い勝手のよい”SiCパワーデバイスが求められているのだ。

 そうした中でSiCパワーデバイスの開発に力を入れているのが、インフィニオン テクノロジーズ(以下、インフィニオン)だ。150mm SiCウエハーから200mm SiCウエハーへの移行も順調で、2025年2月には、200mmウエハープロセスで製造した最初のSiCパワーデバイスの供給を開始した。

 製造拠点への投資も積極的で、2024年8月には、20億ユーロを投じたマレーシア・クリムの200mm SiCパワー半導体工場を開所。同工場をさらに拡張する計画も発表し、2023年からの5年間で最大50億ユーロを投じると明らかにしている。

 世界シェアでも上位を保ち、確固たる地位を獲得している。米国の市場調査会社であるOmdiaの発表によると、2023年のインフィニオンの世界シェアはSiCパワーデバイス全体で3位、SiCモジュールでは2位になっている。

信頼性と性能を両立する「CoolSiC MOSFET G2」

 インフィニオンはSiC MOSFETの製品群として「CoolSiC MOSFET」を展開する。CoolSiC MOSFETは、SiC基板上の溝(トレンチ)にゲート電極を作り込むトレンチ構造を採用していて、縦方向のゲート界面の欠陥密度を低減できることから、高信頼性を実現しているのが特徴だ。

 2024年3月に発表された第2世代品の「CoolSiC MOSFET Generation 2(G2)」は、2017年発売の第1世代品である「CoolSiC MOSFET Generation 1(G1)」と比べて、高信頼性を実現する構造はそのままに、さらに性能を向上させた。

 CoolSiC MOSFETの信頼性の高さはG1の実績からも伺える。G1の100万個当たりの欠陥数を示すdpm(defects per million)は、Siベースのパワー半導体を下回っているのだ。G2でもG1の実績レベルを維持しているという。

 性能面では、電力損失に直結するオン抵抗の低さが重視される。CoolSiC MOSFET G2のドレイン-ソース間オン抵抗は1200V品で8mΩと低く、G1の30mΩから大幅に低減している。これによって電力損失を5〜20%削減した。


CoolSiC MOSFET G1と同G2の特徴[クリックで拡大] 提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン

 熱抵抗の小ささも重要だ。熱抵抗が大きいと放熱がうまく行われず、オン抵抗が増加して損失が大きくなるほか、高温動作が続いてデバイスの故障の原因になりかねない。G2では、熱抵抗もG1と比べて12%低減している。これはインフィニオン独自の相互接合技術「.XT」の改良によるものだ。.XTはチップとパッケージリードフレームを拡散はんだ付けによって接続する技術で、はんだ層の厚さを一般的なはんだ付けの約5分の1にまで減らし、熱抵抗の低減に貢献する。

 さらに、G2の新しい特性として、最大200℃の過負荷動作時のアバランシェ耐量を実現している。G1の過負荷動作時のアバランシェ耐量は最大150℃だった。G2では最大200℃まで過負荷条件での動作が保証されるため、過負荷動作に備えてより定格の大きい製品を選ぶなど冗長性を持たせる工夫が不要になるケースが増える見込みだ。短絡耐量も2マイクロ秒確保している。高温時の最大ドレイン-ソース間オン抵抗も新たにデータシートに記載した。

表面実装/上面放熱で性能を引き出す「Q-DPAK」

 こうしたチップの性能と信頼性を生かすにはパッケージも重要だ。インフィニオンは、産業グレード/車載グレード共にCoolSiC MOSFETのポートフォリオ拡大を続けていて、2025年4月にはG2では初めて「Q-DPAK」パッケージの1200V品をリリースした。産業用ドライブやEV充電、太陽光発電、無停電電源装置などの産業用アプリケーションで幅広い使用を想定する。


Q-DPAKおよび、Q-DPAKの2分の1サイズのDDPAKの特徴[クリックで拡大] 提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン

インフィニオン テクノロジーズ ジャパン インダストリアル&インフラストラクチャー事業本部 マーケティング部 マネージャー 金志R氏

 Q-DPAKは、パワーデバイスの表面実装パッケージとして標準的に利用されている「DPAK」の4倍のサイズがあるパッケージで最大20Wまで対応する。インフィニオンの日本法人で産業/インフラ向け製品のマーケティングを担当する金志R氏は「表面実装(SMT)ではスルーホール実装(THT)と比べて製造工程を自動化しやすいので、品質が安定するという利点がある。品質が重視され小型化要求も強い車載用途では、Q-DPAKなど表面実装パッケージが既に主流になっている」と説明する。

 こうしたDPAKと共通する利点に加えて、Q-DPAKならではの最大の特徴が、上面放熱(TSC)に対応していることだ。従来の表面実装デバイスはチップに直接ヒートシンクを取り付けるのではなく、プリント基板(PCB)越しに取り付ける底面放熱(BSC)だ。それに対し、上面放熱はPCB上にチップを実装し、その上にヒートシンクを設けるので、放熱効率を高められる。上面放熱パッケージでは底面放熱パッケージに比べてチップ温度が上がりにくい分、オン抵抗が低く保たれるので電力損失を低減でき、効率が向上する。


上面放熱と下面放熱との違い[クリックで拡大] 提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン

インダクタンス抑制と高周波対応

 上面放熱には、電流経路をデバイスの上側に通せるというメリットもある。これによって電流経路を最短にできるので、システム全体のインダクタンス低減に貢献する。

 さらに、Q-DPAKはスルーホール実装用パッケージと比べてピン本数がシングルスイッチ品で22本、ハーフブリッジ品で16本と多く、かつ短い。インダクタンスはピンの幅に反比例し、長さに比例するので、Q-DPAKはスルーホール実装用パッケージよりもインダクタンスを抑えられる。

藤森正然氏
インフィニオン テクノロジーズ ジャパン インダストリアル&インフラストラクチャー事業本部 マーケティング部 部長 藤森正然氏

 インフィニオンの日本法人で産業/インフラ向け製品のマーケティングを担当する藤森正然氏は「高周波の用途ではインダクタンスの抑制が肝になる。Q-DPAKは従来のパッケージよりも高速スイッチング用途に適している」と説明する。

 「パワーデバイスでは『TO-3P』のような3ピンのスルーホール実装用パッケージが広く普及していて、使い慣れた設計者も多い。しかし、電力効率を向上させるために、SiCパワーデバイスなどのチップとともに、パッケージにも進化が求められるようになった」(藤森氏)

 サプライチェーンリスクの観点からもQ-DPAKは有効だ。「Q-DPAKは、半導体デバイスの標準化を行う業界団体であるJEDECの標準規格として登録されている汎用的なパッケージになっている。今後、他ベンダーからの供給が進めば、さらなる安定供給が期待される」(藤森氏)

 こうした放熱性やインダクタンス抑制の工夫は、設計の現場では“使いやすさ”として実感される要素だ。放熱が難しい高密度基板や、スイッチングノイズ対策が重要な高周波アプリケーションにおいて、G2×Q-DPAKの組み合わせはヒートシンク設計や周辺回路の設計負荷を大幅に軽減する。


1.2kVサーボモーター駆動システムでの採用イメージ。従来の下面放熱パッケージ(左)では、MOSFETの裏面にヒートシンクを設置する必要があり、ドライバICなどは別基板に配置せざるを得なかった。一方、Q-DPAKでは裏面にドライバICを配置でき1枚の基板で高密度実装が可能になる。配線長も短く済む他、製造コストも抑制できる[クリックで拡大] 提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン

ラインアップ拡充で設計自由度がさらに向上

 1200V CoolSiC MOSFET G2 Q-DPAKパッケージでは、シングルスイッチ品とデュアルハーフブリッジ品を用意している。2025年4月時点でのラインアップは、シングルスイッチ品がオン抵抗25.4mΩから78.1mΩ、デュアルハーフブリッジ品がオン抵抗12mΩから53mΩだ。2025年9月にさらにラインアップを拡充する予定で、シングルスイッチ品では同社SiC製品群で最小オン抵抗となる4mΩ品が加わる。従来は選択肢が限られていたSiC MOSFETだが、CoolSiC G2ではシングルスイッチ・ハーフブリッジそれぞれに幅広いオン抵抗バリエーションが用意され、開発初期段階からSiC導入を前提とした設計がしやすくなる。


CoolSiC の製品ラインアップ[クリックで拡大] 提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン

 なお、デュアルハーフブリッジ品はパッケージ上にS字の溝を形成していて、絶縁距離を最大限に確保する工夫も施されている。

高信頼性/高効率のシステムに!

 「Siよりも高性能だが信頼性を確保するための設計が難しい」という印象が強かったSiCパワーデバイス。新たに1200V耐圧品をQ-DPAKパッケージで展開するインフィニオンのCoolSiC MOSFET G2は、性能と信頼性を兼ね備え、表面実装と上面放熱で設計の課題を解決し、高周波用途にも対応している。高信頼性/高効率の電力変換システムを構築したいエンジニアの強い味方となり、SiCパワーデバイスのさらなる普及を支えるだろう。

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提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2025年9月3日

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