胃酸で発電し充電、腸内環境をモニタリングできるデジタル錠剤:京大と大塚製薬が開発
京都大学と大塚製薬の研究グループは、胃酸充電機能を備えた半導体集積回路と薬剤で構成される「デジタル錠剤」を開発した。試作したデジタル錠剤が腸内環境のモニタリングに適用できることを実証した。
充電電圧を工夫、電圧スタック技術でトランジスタを安定動作
京都大学と大塚製薬の研究グループは2025年10月、胃酸充電機能を備えた半導体集積回路と薬剤で構成される「デジタル錠剤」を開発したと発表した。試作したデジタル錠剤が腸内環境のモニタリングに適用できることを実証した。
健康状態を把握する上で、腸内環境をモニタリングすることは有効な手法の1つとなっている。既に服薬管理機能付きデジタル錠剤は実用化されている。ただ、胃酸発電で得られた電力は充電にまで至らず、胃内のみで消費されていた。このため、腸内の温度や酸度(pH)をモニタリングしようとすれば、デジタル錠剤を動作させるための電力を確保する必要があった。
そこで研究グループは、胃酸発電用電極を搭載した約1mm角の半導体集積回路と錠剤からなるデジタル錠剤を開発した。今回は、胃酸で発電した電力を集積回路内に充電する時の電圧を工夫した。それは、容量が限られる集積回路上のコンデンサーに対し、十分な電力容量を蓄電するための「高電圧充電技術」だ。
さらに、高い充電電圧においても低電圧耐圧のトランジスタを安定して動作させられる「電圧スタッキング技術」も開発した。1段当たりの印加電圧を段数分の1に分割して加えることにより、安定した動作を実現できるという。また、スタッキングされた回路間で電流を再利用し、電力利用効率を高めることにも成功した。
研究グループは、65nmCMOSプロセスを用いて半導体集積回路を試作し、考案した回路の有効性を実証した。
今回の研究成果は、京都大学大学院情報学研究科の新津葵一教授やWu You修士課程学生、大塚製薬ポートフォリオマネージメント室の大西弘二プリンシパル、同デジタル事業室の山根育郎課長らによるものだ。
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