電流センシングに「もう1つの選択肢」 進化した電流センサーICで省スペース、高効率な電流測定を:帯域幅向上でモーターやEVにも使える
さまざまな電子機器の制御や保護に使われる電流センサー。古くから使われているデバイスだが、近年、需要が高まっているのが電流センサーICだ。簡単に電流を測定でき、絶縁性も確保されている電流センサーICは、小型で使いやすいという大きなメリットがある。MPS(Monolithic Power Systems)は、コアレス電流センサーICのラインアップ拡充を強化し、市場投入を本格化させている。
需要が増え始めた電流センサーIC
回路を流れる電流を測定する電流センサーは、モーター制御、電力測定/監視、電子機器の保護などに欠かせないデバイスだ。電源装置や太陽光発電システム、無人搬送システムやロボットなどの産業機器、電気自動車(EV)などで数多く使用されている。
既存の電流センサーには、古くから使われている電流検出トランスや、シャント抵抗+アンプで構成される電流センサーがある。前者は、数十キロワット級の電源を使うような産業機器で用いられることが多い。後者も、シンプルな方式であることから幅広いアプリケーションで使われている。特に、シャント抵抗+アンプは「測定精度を高める場合は高性能アンプを選択する」といった具合に、電流センシングの性能を柔軟に調整しやすいという利点がある。アンプはサプライヤーも品種も豊富なので、目的に合った性能の製品を選べる。従って使い勝手もよい。そうした中、近年需要が高まっているのが、小型の絶縁型コアレス電流センサーIC(以下、電流センサーIC)だ。
電流センサーICの構造は非常にシンプルだ。一次導体(パッケージのリードフレーム)に電流を流し、それによって発生した磁場をホールセンサーで捉え、アンプ回路で増幅、補正して出力する。小型な上に、直流と交流の両方で使用できる。磁気コアがないので小型かつ磁気ヒステリシスがない、一次側と二次側でしっかり絶縁されているので絶縁性を確保しやすいといった利点もある。
米国のアナログ半導体メーカーMPS(Monolithic Power Systems)の日本法人、MPSジャパンでシニアFAEマネージャーを務める岩本純一氏は、電流センサーICのニーズが高まっている背景について、まずは機器の大電流化を挙げる。「測定する電流が大きくなると、より大きなサイズの抵抗が必要になる。そのため、シャント抵抗+アンプの構成だと、アプリケーションによっては基板面積がかなり大きくなってしまう」。これを電流センサーICに置き換えることで、より小型のシステムを実現できるようになる。
さらに、帯域幅が増加して高速な応答が可能になるなど、電流センサーIC自体の進化も挙げる。「高い絶縁電圧が必要な用途では従来の電流センサーが適している場合もあるが、それほど高くなくてもよい用途では、簡単に電流を測定できる小型な電流センサーICが使われ始めている」(岩本氏)。こうした背景を受け、MPSは電流センサーICの投入を本格化し、ラインアップ拡充を強化している。
“ひと昔前”の電流センサーICとはもう別物、帯域幅の課題も解消
MPSの電流センサーICは、量産中の第1世代とサンプル出荷中の第2世代があり、第3世代品も開発中だ。
第1世代品は、最大±50Aまで測定できる「MCS180x」「MCQ180x」シリーズなどをそろえる。「MCQ」は車載用のシリーズで、いずれの品種もAEC-Q100に準拠している。第1世代品の絶縁は最大3kVで、帯域幅は100kHzまたは120kHz。パッケージはシンプルなSOIC-8を採用した。基礎絶縁(100kV)対応の「MCS/MCQ182x」については、3×3mmと小型のQFNパッケージを用意している。
電流センサーICの登場は意外に古く、約20年にわたり複数の半導体メーカーが市販している。ただし、当初は帯域幅が10kHzや50kHzなどと非常に低く応答が遅かったことから、使用できるアプリケーションが限られていた。だが、搭載するホール素子や信号処理技術などが進化することで、電流センサーICの性能は大きく改善している。帯域幅の向上はその一例ともいえる。「100kHzや120kHzまで帯域幅を向上させたことで、ようやくモーターなどにも使える性能になってきた。ファンモーターやロボットなど、スペースが限られているアプリケーションでは、部品点数を少なくできる電流センサーICの採用が増えている」(岩本氏)
第2世代品の「MCS181x」「MCQ181x」シリーズは、最大±100Aまで計測可能だ。高い電流値を測定できるよう、0.3mΩという極めて低い抵抗の一次導体を使用している。さらに、帯域幅を上げるため、ホールセンサーをTMR(トンネル磁気抵抗効果)ベースに変更した。それにより、帯域幅は350kHzと高速になっている。「ここまで帯域幅が上がれば、使用できるアプリケーションもだいぶ広がるのではないか」と岩本氏は指摘する。絶縁電圧は5kVで、ユーザーが設定可能な過電流検出機能も搭載した。大電流を測定できるようパッケージも変更し、バスバーの幅が広いSOIC-16WB(ワイドボディ)パッケージを採用した。
第2世代でも100Vの基礎絶縁に対応した品種「MCS1880/MCQ1880」を用意している。MCS1880/MCQ1880は最大±200Aを測定でき、帯域幅は300kHz。パッケージは、より小型の7端子SMTである。
開発を進める第3世代品「MCS1834/MCQ1834」は、大電流をより正確にセンシングするための製品で、強磁性コアとの使用に適している。一次導体となる電流線(配線)をドーナツ状の強磁性コアで囲み、そのコアに挟むような形でMCS1834/MCQ1834を設置し、磁場の変化を捉える。この電流検出形式だと、既設の配線を活用できるのでシャント抵抗を追加する必要がない。「MCS1834/MCQ1834は、まずは絶縁電圧が3kV以上と高い品種からそろえる。電流定格については100A、200Aを投入後、将来的には400A、500Aを狙う」(岩本氏)
同じく第3世代品となる「MCS1809/MCQ1809」は、絶縁電圧を3kVとやや低くし、SOIC-8パッケージを採用したものだ。最大±50Aまで測定でき、帯域幅は300kHz。こちらは磁性コアなしで使える。
このようにMPSは、絶縁電圧、電流定格、帯域幅が異なるさまざまな品種を増やし、ラインアップの充実を図っている。
優れたコストパフォーマンスを発揮する電流センサーIC
MPSは、モータードライバー/インバーター、太陽光発電システム、EVなどの分野で勝機があると見ている。
モーターアプリケーションは、IGBTなどが多く使われている分野だ。一般的にIGBTのスイッチング周波数は20kHzや30kHzなので、その10倍の帯域幅を持つMPSの電流センサーICは十分に電流を測定できる。「IGBTを使っているモーターアプリケーションでシャント抵抗+アンプを使う場合、大電流にすると、シャント抵抗のサイズが大きくなる。システムサイズに制約がある場合、電流センサーICを用いれば省スペースになるだけでなく、損失も抑えられて測定も簡単になる。100Aくらいの測定電流が、電流センサーICへの置き換えの目安になるのではないか」(岩本氏)
太陽光発電システムでは、インバーターや電源での電流検出に活用できる。直流、交流、いずれの電流も検出できる点は、電流センサーICを使う利点の一つになるだろう。さらに、太陽光発電システムのインバーターのような比較的低い電流の検出では、電流センサーICを用いる方がコストと性能のバランスを取りやすいと岩本氏は指摘する。
MCS1810の一次導体の抵抗値は0.3mΩだが、これを0.3mΩのシャント抵抗+アンプで測定する場合、電流が低いときは極めて低い電圧しか発生せず、検出が難しい。そのため、アンプの性能を上げる必要があるが、温度ドリフトやノイズが小さい、応答が速いといった高性能アンプは、当然価格も高い。「例えば0.1mΩの抵抗を使って、1Aを精度よく検出しようとすると、アンプだけで数米ドルかかる場合もある」と岩本氏は述べる。「電流センサーICは、高性能アンプほど低い電流を検出できない。だが、標準電流定格が100Aの電流センサーICであれば、5Aは問題なく検出できる。電流センサーICは、コストパフォーマンスに優れた電流検出を行える」
EVではOBCやトラクションインバーター、バッテリーマネジメントシステムでの活用を想定する。「最大1000Aくらいまでは、ラインアップをそろえる計画だ」(岩本氏)
MPSの強み
MPSは、大電流/大電力アプリケーションへの電力供給(電源IC)を得意とするメーカーだ。電源IC以外でも、大電力アプリケーションで必要になるであろう半導体のラインアップを少しずつ拡充していて、電流センサーICもそのうちの1つだ。「電流センサーICについては後発となるが、モータードライバー/インバーター周りで必要になる大電流/大電力対応の半導体をいずれはMPSでそろえたい」と岩本氏は語る。
電流センサーICは、感度エラーやオフセットエラーなどを含むトータルエラーを下げていく方向でも開発を進める。岩本氏は「ホール効果センサーから出力される信号を、いかに精度よく取り出し、増幅できるか。ここはアナログ半導体メーカーとしての技術力を発揮したいところだ」と力を込める。製品や設計に関するサポートは「MPS Now」で、日本語で展開している。
帯域幅の向上などにより、アプリケーションが広がり始めた電流センサーIC。MPSは堅調な成長が期待できる市場だとみている。従来の電流センサーとの置き換えもスムーズで、設計工数やコストの面でメリットも大きい。電流センサーICのラインアップが拡充し、電流検知の選択肢が増えることは、設計者にとって心強い味方になるはずだ。
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提供:MPSジャパン合同会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2025年9月30日