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次世代磁気メモリにつながる材料を開発、東京科学大ら磁気メモリのデータ安定性を改善

東京科学大学らの研究グループは、ペロブスカイト型酸化物鉄酸ビスマスのビスマス(Bi)と鉄(Fe)を異種元素に置換することで、「強磁性」と「強誘電性」を併せ持ちながら、温度上昇で収縮する「負の熱膨張」を示す材料を開発した。消費電力が小さく高速アクセスが可能な磁気メモリの開発につながるとみている。

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強誘電性と強磁性が共存し、温度上昇で収縮する負熱膨張を発現

 東京科学大学らの研究グループは2025年11月、ペロブスカイト型酸化物鉄酸ビスマスのビスマス(Bi)と鉄(Fe)を異種元素に置換することで、「強磁性」と「強誘電性」を併せ持ちながら、温度上昇で収縮する「負の熱膨張」を示す材料を開発したと発表した。消費電力が小さく高速アクセスが可能な磁気メモリの開発につながるとみている。

 次世代メモリデバイスに向けた材料として、磁性と強誘電性を併せ持つ「マルチフェロイック物質」が注目されている。研究グループはこれまで、反強磁性強誘電体の酸鉄ビスマス(BiFeO3)を用い、鉄を一部コバルト(Co)に置換し、電場によって磁化方向の反転が可能なことを示してきた。ただ、保磁力が低いため磁気情報の安定性に課題があったという。

 また、光通信や半導体製造などの用途で用いられる材料は、わずかな熱膨張でも許されない。そこで、負熱膨張材料「BiNi1-xFexO3」を開発、日本材料技研が「BNFO」として販売している。ただ、合成を行うために高圧プロセスが必要で、コスト高の要因となっていた。

 そこで今回は、高圧合成の手法を用いBiFeO3のAサイトにあるBiをカルシウム(Ca)に、BサイトのFeをルテニウム(Ru)やイリジウム(Ir)に、それぞれ同量置換した。これにより、スピンサイクロイド変調構造が消失し、自発磁化が出現することを確認した。FeをCoに置換した場合に比べ、今回は保磁力が約4倍に上昇しており、データの安定性を改善できるとみている。

 さらに研究グループは、大型放射光施設「Spring-8」で実験を行い、結晶構造の変化を調べた。この結果、体積の小さい常誘電相への転移温度がBiFeO3に比べ大幅に低下。例えば、Bi0.85Ca0.15Fe0.85Ir0.15O3では室温近傍で1.77%という体積負熱膨張を示した。ジルコニウム(Zr)を用いたBi0.85Ca0.15Fe0.85Zr0.15O3においても負熱膨張を観測できたという。

 なお、新たに開発した材料の母物質であるBiFeO3は、常圧下で合成ができる。合成方法を改善していけば、安価で高性能な負熱膨張材料になるとみている。さらに今後は、半導体製造工程で用いられる微細加工技術を活用して、素子の作製に取り組む予定だ。


左はBiFeO3、右はA-Bサイト元素置換したBiFeO3の磁気構造を示す模式図[クリックで拡大] 出所:東京科学大学

A-Bサイト元素置換鉄酸ビスマス「Bi1-xCaxFe1-xMxO3」の低温相、高温相、平均の格子体積、高温相の分率[クリックで拡大] 出所:東京科学大学

 今回の研究成果は、東京科学大学物質理工学院材料系の畑山華野大学院生、三宅潤大学院生、総合研究院の東正樹教授、西久保匠特定助教(兼神奈川県立産業技術総合研究所常任研究員)、重松圭助教らの研究グループによるものである。

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