デルタ電子とロームがHVDCに本腰を入れる理由:深刻化するデータセンターの電力問題
AIの世界的な普及を背景に、爆増するデータセンターの消費電力。これによって現在、2つの深刻な問題が引き起こされている。それは、電力が足りなくなっていることと、データセンター内での電力供給が困難になっていることだ。デルタ電子(Delta Electronics/以下、デルタ)とロームは、これらの問題を解決すべく協業体制を強化した。デルタのPower and System Business Groupの責任者を務めるAres Chen氏と、ロームでパワーデバイス事業担当の常務執行役員を務める伊野和英氏が、両社の目指す未来を議論した。
―――現在、データセンターに高電圧送電/給電(HVDC:High Voltage Direct Current)の導入が検討されている理由を教えてほしい。
Chen氏 最大の理由は、AIサーバに搭載するGPUの消費電力が急増しており、データセンターに設置するパワーラックの出力電力をさらに大きくしなければならないことが見えてきたからです(図1)
CPUを搭載する一般的なサーバの場合、パワーラックに求められる出力電力は10kW程度でした。しかし、最新のGPUを搭載したAIサーバラックは120k〜130kWの電力を必要とし、さらに先を見据えると、次世代プラットフォームを基盤とするAIサーバラックは300kW、600kW、あるいは1MWもの電力を消費すると予想されます。
つまり今後、パワーラックに求められる出力電力は10kWから1MWに増えます。その差は100倍。一般に消費電力は電圧と電流の積で求まるので、サーバラックに今まで通り直流(DC)50Vの電圧で給電すると、電流が100倍になる。その結果、銅ケーブルでの発熱量が極めて大きくなり、最悪の場合は溶断してしまいかねません。この問題を解決するには電圧を高めて、電流を減らすしかない。こうした背景からHVDCの導入検討が始まりました。
伊野氏 「大きな電力を送るとき、電圧は高い方がいい」。これは電力伝送の分野では当たり前の理屈です。ただし、電圧は1000Vなのか、800Vなのか、400Vなのか。重要なのは、どの電圧に収斂(しゅうれん)するかです。つまりデファクトスタンダード(事実上の標準規格)は何ボルトになるのか。これが大事であって、それをきちんと探り、デファクトスタンダードの陣営に入ることが大切です。
デルタは、世界の電源市場をけん引する企業です。デファクトスタンダードの決定に対して影響力があるメーカーと密接な関係にあり、現状を把握できています。
「±800VDC」への移行も視野に
―――現在、「800VDC」と「±400VDC」という2つの方式が提案されている。それぞれのメリットとデメリットは何か?
Chen氏 3つの観点からメリットとデメリットを説明しましょう。
1つ目は電力システム構成です(図2)。800VDCは、+800Vとグラウンドという2本の電源ラインから成ります。システム構成は単純です。一方、±400VDCは+400V、−400V、グラウンドの3本の電源ラインが必要になり、いささか複雑になります。
2つ目は安全性です。800VDCの場合、GNDに対して最大800Vの電位差が存在します。これに人間が触れれば、極めて重大な事態を招きます。危険性はより高いと言えるでしょう。±400VDCは800VDCに比べれば危険性は低いと言えます。
3つ目は電力システムに使う各種部品の普及状況です。次世代のシステムでは、窒化ガリウム(GaN) HEMTや炭化ケイ素(SiC) MOSFETなどの半導体が欠かせません。±400VDCではシリコン(Si)材料によるパワーMOSFETなどが使えますが、800VDCでは耐圧が高いSiCパワーMOSFETなどが必要になります。このため、±400VDCに使用する各種部品の方が普及していると言えます。
―――「800VDC」と「±400VDC」のどちらが有力か?
Chen氏 ±400VDCも800VDCも、電位差は最大800Vであるため、供給できる電力量は同じです。ただしGPUの技術動向を見ると、将来的には800VDCでも供給電力が足らなくなる可能性が高い。そのときは「±800VDC」の出番になるでしょう。800VDCに比べると供給電力量を2倍に増やせるからです。将来的には±800VDCに進むと見ています。
一方で、電気自動車(EV)では、かつては400Vのバッテリーシステムが搭載されていましたが、現在では800Vのバッテリーシステムに変わりつつあります。充電速度を高めることが目的です。EVとAIサーバの両方で800VDCが主流になれば、その電源システムを構成するエコシステムが徐々に完成していくでしょう。そして、いずれは±800VDCに移行する道筋が見えてくるはずです。
―――±800VDCは、いつごろ実用化される見込みか?
Chen氏 GPUの消費電力が急増している現状を見れば、10年以内には実現するでしょう。移行しなければ、データセンターが抱える消費電力の問題を解決できないからです。
―――800VDCや±400VDCに対応した電源システムの量産開始はいつ頃になるのか?
Chen氏 現在は、800VDCと±400VDCと対応した電源システムの開発を進めているところです。量産開始は2026年第2〜第3四半期を予定しています。800VDCと±400VDCの量産はほぼ同じ時期になるでしょう。ただし出荷台数がピークに達するのは、2027年に入ってからだと考えています。
―――GPUメーカーもデータセンター事業者も、デルタだけでなく、さまざまな電源メーカーと800VDCと±400VDCに対応した電源システムの開発を進めているはず。競合する電源メーカーと比較した場合、デルタの優位性はどこにあるのか?
Chen氏 当社の優位性は、3つあると考えています。第1に技術開発力です。当社は先行開発を重視しており、毎年売上高の8%〜10%を継続的に投じています。このため、さまざまな技術や知見が社内に積みあがっています。これが競合メーカーに対する優位性になっています。
第2にスピードです。特にAIサーバ市場は、変化のスピードが非常に速い。そこで電源メーカーには2つの側面でのスピードアップが求められています。1つは電源製品の開発スピードです。AIサーバ市場では、極めて短納期での電源製品開発が要求されます。これに対応できなければ顧客の注文を獲得できません。もう1つは、供給のスピードです。AIサーバ市場は、変化のスピードが速いと同時に、必要とする物量の規模が大きい。いかに短い期間で顧客に対して大量納入できるかが重要なポイントになります。
第3に品質です。開発期間が短く、さらに製品の生産リードタイムも短い中で、どうやって品質を確保して顧客に高品質な製品を提供するのか。この点について当社は工夫を凝らしています。
アジアのパートナーとして選択
―――なぜデルタは、ロームをパートナー企業に選んだのか?
Chen氏 ロームを選んだ理由は3つあります。1つ目は、信頼できる企業であること。当社とロームは、企業文化やポリシーが非常によく似ています。企業間の信頼関係が築きやすく、今では強固な関係が出来上がっています。
2つ目は、物理的な距離が近いアジアの企業であること。当社は、複数の半導体メーカーとパートナー関係を構築しています。しかし、それらの多くは欧州もしくは米国の企業です。そこで、SiC、Si、GaNといった各種パワーデバイスから制御ICに至るまでサーバの構成部品である半導体を全て有しているロームに白羽の矢が立ったわけです。
3つ目は、企業としての戦略が同じ方向であること。例えば、ロームは、EVや車載機器を重要なアプリケーションと位置付けています。このアプリケーション戦略は当社もまったく同じです。戦略が同じであれば、歩調を合わせて仕事に取り組めます。
今後、ロームには先行開発段階から積極的な関与を期待しています。早い段階から一緒に開発に取り組むことで、より良い技術を開発できるはずです。その結果、新しい製品を顧客に提供するまでの時間を大幅に短縮できるでしょう。
―――ロームにとってデルタと協業するメリットは何か?
伊野氏 デルタは普通の電源メーカーではありません。取り扱っている製品は幅広く、データセンター向けであれば電源ユニットだけでなく、ラックや冷却ユニットなども製品化しています。電源についても、データセンター電力の入口に位置する高電圧対応のSST(Solid State Transformer)などから、GPUに1V以下の低電圧で大電流を供給する最終段の電源回路までを一貫して対応しています。言い換えれば、「デルタは電源システムをトータルで最適化できるメーカー」です。こうしたメーカーと一緒に新しい分野の技術開発に取り組めば、技術開発の先頭を走ることができ、この分野の発展に貢献できる。これがデルタと協業するメリットの1つです。
メリットはもう1つあります。それは当社がAIサーバ向け電源市場に参入するきっかけにすることです。残念ながら当社は、この市場では後発組。しかしAIサーバ向け電源市場は非常に変化が激しいため、後発組にもチャンスがあると考えています。それをつかむため、AIサーバ向け電源分野において技術的に先行するデルタと協業関係を結びました。
「民芸調IC」で差別化へ
―――ロームがデルタに提供できる価値は何か?
伊野氏 当社のパワー半導体やアナログICは、競合他社と比べて技術的に優れていると自負しています。例えば、SiCパワーMOSFETであれば業界最高性能のデバイスを常に開発しています(図3)
図3:SiCパワーMOSFETの性能向上の歴史 提供:ローム
ロームが製品化するSiCパワーMOSFETの性能向上の歴史。世代ごとにSiCパワーMOSFETのオン抵抗は削減されていて、これを採用する電源の電力損失低減に貢献している。
また、パワー半導体とゲートドライバーを1つのパッケージに収めた「DrMOS」も性能的に競合他社品を上回るものを市場投入していきます(図4)。これらをデルタに提供することが価値だと考えています。
さらに当社のアナログICは、顧客の要望に合わせた「かゆいところに手が届くIC」であり、その特徴を表し「民芸調IC」とも呼んでいました。特にGaNのような高速なパワーデバイスは、「テーラーメイド」の考え方をドライバーとの組合せに持ち込めば、競合他社品に差をつけられるはずです。そこでデルタと密接な関係を作って要望に応える電源関連ICを提供する。これも当社が提供できる価値です。
―――2026年第2〜第3四半期に量産される800VDCや±400VDCに向けた電源システムにはローム製品を採用するのか?
Chen氏 2026年第2〜第3四半期に量産する電源ユニットはAC-DCコンバーターであり、力率改善回路(PFC)とDC-DCコンバーターによる2ステージ構成です。この中に、SiパワーMOSFET、SiCパワーMOSFETなどのローム製品を採用する予定です。さらにAIサーバに向けたトータルの電源ソリューションも用意する予定で、これには電源グリッドから最後のチップ(GPU)への電源供給までを含みます。このソリューションにはパワー半導体のほか、電源制御ICやDrMOSなどのローム製品を採用する計画です。
※本稿は、ローム株式会社より寄稿された記事を再構成したものです。
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提供:ローム株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2026年3月17日





