ローエンドマイコンで実現できる高機能なブラシレスDCモータ制御:センサレスでロータ初期位置検出やベクトル制御に対応
白物家電やFA機器など幅広い用途で利用されるブラシレスDCモータ(BLDCモータ)。そのBLDCモータの用途をより一層、拡大させる可能性を秘めたマイコン「RL78/G1F」(ルネサス エレクトロニクス製)が登場した。ローエンドマイコンながら、高速なプログラマブルゲインアンプ(PGA)やコンパレータを内蔵し、ロータ初期位置検出やベクトル制御といった機能を実現できるという。
ブラシレスDCモータを手ごろなマイコンで、より手軽に、そして、より高度に制御したい――。こうしたニーズに応えるマイコンが登場した。ルネサス エレクトロニクスの低消費電力マイコン「RL78ファミリ」の新製品「RL78/G1F」だ。
ブラシレスDCモータ(以下、BLDCモータ)は、冷蔵庫やエアコン、洗濯機などの白物家電をはじめ、電動工具、ロボット、搬送装置、ファンやポンプといったFA機器などで使用され、その用途は今も拡大を続けている。
BLDCモータの裾野を広げたマイコン
BLDCモータの用途が拡大を続けている背景には、ブラシ付きDCモータに比べ効率が良く、耐久性に優れるといったBLDCモータ自体の特長だけでなく、ブラシ付きDCモータに比べて複雑な制御を、より手軽に、より低コストで実現するマイコンが登場したことが挙げられる。これまでBLDCモータの裾野を広げてきたマイコンの一例が、ルネサス エレクトロニクスの「RL78/G14」だ。
RL78/G14は、ルネサス エレクトロニクスのマイコン製品ファミリの中で最もエントリークラスに位置するRL78ファミリの1製品グループ。“低消費電力でありながら多彩な機能を備える”というRL78ファミリの特長そのままに、小規模ながらBLDCモータ制御を低消費電力で実現するマイコンで、「BLDCモータ制御の基本を押さえた手ごろなマイコンとして、多くのユーザー、機器に使用されてきた」という。
しかし、その一方で、「さらなるシステムの低コスト化、高性能化が求められる中、“より高度な制御を”“より手軽に”実現したいというニーズが高まってきた」とする。
エントリークラスにも求められる高機能を手軽に実現する
そこで、ルネサス エレクトロニクスは「より一層、BLDCモータ制御を手軽なものにし、BLDCモータの適用範囲を拡大するマイコンを実現する」というコンセプトの下、さまざまなBLDCモータ制御機能を強化した「RL78/G1F」を開発した。
RL78/G1Fで強化されたBLDCモータ制御機能は、主に次の3つだ。1つ目は、システムレベルの安全性向上などに貢献する「過電流検出/出力強制遮断機能」の強化。2つ目は、高効率なモータ駆動を低コストで実現する「1シャント電流検出によるセンサレスベクトル制御」への対応。3つ目が、センサレスで低コストながらも高度な制御を実現可能とする「センサレスロータ位置検出機能」の拡張だ。今後、さらにBLDCモータの利用シーンを拡大していくであろう、RL78/G1Fで強化された3つのBLDCモータ制御機能を詳しく紹介していこう。
より高速になった過電流検出機能
過負荷などに伴い発生し、モータの焼損、故障につながる過電流状態を検出する過電流検出機能。RL78/G1Fでは、この過電流検出を高速で行うとともに、検出後、CPUでの処理を介さずにすばやくモータ制御出力信号(PWM出力)を強制遮断する機能を内蔵した。
従来のRL78/G14は、このような過電流検出機能を内蔵しておらず、外部に過電流検出回路を形成し、その信号を入力することが必要であった。これに対し、RL78/G1Fは、過電流検出を高速に実施するためのハードウェアを内蔵した。具体的には、高スルーレートの「プログラマブルゲインアンプ」(以下、PGA)と、高速応答の「コンパレータ」である。また、これら機能による過電流検出信号によって、インバータに制御信号として供給されるI/OポートからのPWM信号出力を強制遮断する「PWMオプションユニット」(以下、PWMOP)を新たに搭載し、迅速な遮断、多様な解除方法に対応した。
PGAは、電流検出用シャント抵抗の微小な電圧変化を、4倍・8倍・16倍・32倍の増幅率から選択して増幅可能。スルーレートも3.5V/μs以上(VDD≧4Vのとき/増幅率32倍時は3.0V/μs以上)と高速で、専用グランド入力(PGAGND端子)によりマイコン内部のノイズ影響を受けない増幅が可能だ。
増幅された電圧信号を、基準電圧と比較し、過電流状態を判断するコンパレータは、反応時間が0.07μsとRL78/G14が搭載したコンパレータよりも8倍高速。比較基準電圧は、外部入力や内蔵基準電圧(1.45V)以外にも、コンパレータ付属のD-Aコンバータにより内部生成し利用できる。
1シャント方式のベクトル制御機能も実現可能に
BLDCモータをより高効率、低騒音で制御する手法として、常にロータ(回転子)の位置を把握し、ロータ位置に応じて最適な制御を行うベクトル制御方式がある。ベクトル制御方式、特にセンサレスベクトル制御は、演算量が多いことや電流を検出するタイミングに制約があるなど、エントリークラスのマイコンでは、対応が難しい制御方式だった。
これに対しRL78/G1Fでは、エントリークラスとしては元々高い処理能力を有している上に、高速なPGAを搭載したことで、1本のシャント抵抗で電流を検出しセンサレスで制御する「1シャント電流検出によるベクトル制御」も実現が容易になった。少ない外付け部品で低コストに、ベクトル制御を実現できるようになり、BLDCモータの適用範囲を広げる可能性を秘める。
センサレスロータ検出拡張機能
BLDCモータの制御方式としては、比較的容易な「120度通電制御」(矩形波制御)が広く用いられてきた。中でも、「センサレス120度通電制御」は、ロータ位置検出用のホール素子やエンコーダーといったセンサを使わず、モータの逆起電力からロータ位置を推定するため、部品コストを低減できる。
これまでのRL78/G14などのローエンドのモータ制御用マイコンでは、モータ回転時の三相それぞれの電圧を内蔵A-Dコンバータを用いて取得し、各相電圧の平均値(中点電圧)と電圧を印加していない相に生じている逆起電圧値とを、ソフトウェア処理によって計算・比較することでロータ位置(ゼロクロス点)を検出する方式に対応していた。
これに対し、RL78/G1Fは、高速過電流検出用と同性能の高速コンパレータをロータ位置検出用としても内蔵。比較基準の三相中点電圧と、三相それぞれの電圧とを選択的にこのコンパレータで高速に比較して、ゼロクロス点を検出することが、3つのコンパレータを外付けすること無しに可能になった。RL78/G1Fは、G14同様に内蔵A-Dコンバータによるロータ位置検出にも対応するが、このコンパレータでのハードウェアによるゼロクロス検出方式の方がCPUの処理が少ない分、ソフトウェアの負荷が減り、また、A-Dコンバータの変換時間を考慮する必要が無いなど、高速モータ対応にも優れる。
ロータ初期位置検出機能にも対応
さらにRL78/G1Fは内蔵した高速コンパレータを使用して、ロータ初期位置を短時間かつ、低消費電流で行える機能も実現した。
逆起電力を利用してロータ位置を検出するBLDCモータのセンサレス制御では、モータが停止していて逆起電力が発生しない状態ではロータ位置(=初期位置)の検出は行えない。ロータ位置が分からずにモータを強制的に始動させると、逆回転を起こすなどしてスムーズな始動が行えず、強いトルクでの始動も行えない、また、無駄な電流を流してしまうなどの課題も存在する。初期位置検出ができ、その位置情報を始動制御に反映できれば、これら課題の解消が可能だ。
RL78/G1Fのロータ初期位置検出は、効率を考えて、2種類の処理で行う。1つ目は、相間電圧の上昇挙動を比較して判断する処理だ。
この処理は、モータの相端子間インダクタンスがロータ位置によって違い、その影響によって、ある相に電圧を印加したときの他の相の電圧上昇が異なることを利用するもの。具体的には、U、V、Wの3つの相のある相から電圧を印加し、別の相の相電圧検出入力がある一定値に達するまでの時間を、内蔵するコンパレータとタイマRXを使用して計測する。これを、3つの経路(U→V、V→W、W→U)で実施し、その大小関係からロータ位置を決定するものだ。以下に、相間電圧が一定値に達するまでの時間(=タイマRXのカウント値)の変化を一例として示したグラフを示す。
グラフを見ると、電気角0〜30度辺りまでは「V-W>U-V>W-U」という大小関係になり、30〜60度の範囲では「U-V>V-W>W-U」という関係になっている。こうした、大小関係を比較することで、おおよそ30度分解能でロータ位置を把握できるわけだ。しかし、グラフの180〜210度の範囲を見てほしい。0〜30度範囲と同じく、V-W>U-V>W-Uという大小関係になっている。実は、この大小関係の1サイクルは、180度であり、1回転(360度)で2サイクル繰り返すことになり、0〜30度位置にあるのか、180〜210度位置にあるのかは、分からない。
そこで、180度離れたどちらにロータがあるのかを特定するため、2つ目の処理として、ロータの永久磁石の極性を判定する処理を行う。
電磁石には、磁気飽和という現象があり、コイルに電圧を加え電流が増加していくときに、その電流によってコア材の磁束密度がある値を超えると、急激にインダクタンスが低下しコイルに電流が流れ易くなる。この処理では、その磁束密度にロータの永久磁石が与える影響を利用する。永久磁石の磁束とコイルに電流が流れて生じる磁束が強め合う関係にあれば、コア材は短い時間で磁気飽和し、コイルのインダクタンスが低下し、電流が流れやすくなる。逆に弱め合う関係であれば、コア材が磁気飽和に至るまでに時間を要し、電流の上昇に時間がかかる。この磁極の向きで変化する磁気飽和に至るまでの時間の違いを利用し、正負の電流をコイルに流し、計測すれば、磁極の向きを特定、すなわち、ロータ位置が180度離れたどちらに存在するかが特定できるのだ。
ローエンドマイコンであるRL78/G1Fの初期位置検出対応により、これまで部品を追加したり高価なマイコンを使用したりして、初期位置検出を実現していたアプリケーションにおいて、設計の負担、コストの負担を軽減するばかりではなく、これまで初期位置検出機能の搭載を見送っていたアプリケーションでの初期位置検出機能の普及が見込まれるという。換気扇などある程度の逆回転が許容される用途でも強制始動時の消費電流は大きく、システムの消費電流低減という観点から初期位置検出機能が求められてきた。ただ、これまでは、コスト増や設計の手間が原因で、機能搭載を諦めてきたというユーザーは結構、多い。RL78/G1Fにより初期位置検出機能搭載のハードルは、かなり低くなるはずだ。
[参考情報]
より詳しく「ロータ初期位置検出」を知りたい方は以下の資料をご覧下さい。
新機能を活用したアプリケーションノートも提供
ルネサス エレクトロニクスでは、RL78/G1Fを使用したBDLCモータ制御システム開発を支援する各種ソリューションを用意。RL78/G1Fの開発、評価を行うためのCPUボード/カードはもとより、CPUボード/カードと接続可能なインバータボードも用意し、すぐにモータを制御できる環境を整える。また、RL78/G1Fで新たに対応した初期位置検出機能や1シャント方式ベクトル制御機能などの活用を支援するアプリケーションノートも提供している。
なお、RL78/G1Fは、電源電圧1.6〜5.5Vで最大動作周波数は32MHz(タイマRDとタイマRXは、内部発振クロックにより最大64MHz動作可能)。RL78/G14とピン互換の32ピン〜64ピン、および、より小さな24ピンパッケージがあり、フラッシュROMサイズは32Kバイト品と64Kバイト品の2タイプある。また、動作周囲温度−40〜85℃対応の民生用途向けと、同−40〜105℃対応の産業用途向けの2つのグレードが存在する。
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提供:ルネサス エレクトロニクス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2018年6月30日