高品質なGaAsによるRFフロントエンドデバイスで自動車の進化を支える日清紡マイクロデバイス:マルチGNSSやWi-Fi 7、UWBなど新たな無線トレンドに対応
BluetoothやWi-Fi、GNSS(衛星測位システム)、UWB(超広帯域)無線など、自動車に多彩な無線通信が用いられるようになった。そうした無線通信を実現する上で欠かせないのが、RF(高周波)フロントエンドデバイスだ。日清紡マイクロデバイスは、RF特性に優れるGaAs(ガリウムヒ素)を用いたRFフロントエンドデバイスを約30年前から手掛け、自動車向けに高い特性と信頼性を兼ね備えたRFフロントエンドデバイス製品を展開している。
無線通信に不可欠なRFフロントエンド
IoT(モノのインターネット)という言葉に代表されるように、モノとインターネット、モノとモノがつながり相互に通信することが当たり前になりつつある。そして、それらをつなぐ手段として無線/ワイヤレス通信が主流になりつつある。広帯域/高速通信を得意とする携帯電話通信やWi-Fi、低消費電力が特長のBluetooth Low EnergyやZigBeeなど無線通信技術は多種多様に広がり、さまざまな方向に進化してIoTの実現を支えてきた。
IoT社会のさらなる発展に向けて無線技術の進化は不可欠であり、より広帯域/高速通信を実現するだけでなく、デバイスの消費電力を抑えたり信号の遅延を縮めたり、無線通信の接続を切れにくくしたりする必要がある。多様な無線が存在する昨今では、互いの電波の干渉という課題の対策も欠かせない。
無線技術の進化を実現する上で鍵を握るのが、「RF(高周波)フロントエンド」に使用するデバイスだ。
RFフロントエンドは、アンテナとベースバンド間で、RF信号を処理しやすいように整える回路だ。アンテナで受信した微弱な信号からノイズを取り除き、信号を増幅してベースバンドに出力する。また、ベースバンドの出力信号を増幅してアンテナに送信する。無線通信の送受信に欠かすことのできない回路だ。RFフロントエンドの性能が良ければ、微弱な信号でも安定した通信が行える。逆に性能が劣ると無線は不安定になる。RFフロントエンドは、無線通信の基本である“つながる”を実現するための重要な基盤なのだ。
RF特性に優れる半導体材料「ガリウムヒ素」
RFフロントエンドを構成する主なデバイスは、送受信などを切り替えるRFスイッチ、必要な信号以外の信号(ノイズ)を取り除くSAW(表面弾性波)フィルター、ノイズを抑えつつ必要な信号のみを増幅するローノイズアンプ(LNA)、送信信号を増幅するパワーアンプ(PA)などだ。こうしたデバイスはいずれもRF信号を扱うために優れたRF特性が求められる。
そこで、古くからRFフロントエンドデバイスの材料として用いられてきたのがガリウムヒ素(ヒ化ガリウム/GaAs)だ。複数の元素を組み合わせた化合物からなるGaAsは高速信号処理が可能で電子の移動速度が高いことからRF信号を処理するRFフロントエンドで優れた特性を実現するのに適している。
GaAsでRFフロントエンドをリードする日清紡マイクロデバイス
Siに先行して無線技術の進化を支えてきたRFデバイスメーカーの一つに日清紡マイクロデバイスがある。同社は、1990年代から優れた高周波特性を持つGaAsによる半導体プロセスを早くから手掛けてきた新日本無線とリコー電子デバイスが2022年に統合して誕生した半導体メーカーであり、5G、Wi-Fi 6Eなど高速大容量通信に向けたお客様の製品開発を支える通信用デバイスを幅広く提供しているRFデバイスの老舗でもある。また、SOIプロセスを用いた製品開発もスタートし、さまざまな顧客のニーズに対してRFデバイスの選択の幅が今後さらに広がる見込みだ。
日清紡マイクロデバイス 商品企画部SP商品企画三課 課長の宮司啓貴氏は「1990年代半ばに、当時普及し始めていた移動体通信サービス『PHS』の端末向けにRFスイッチでGaAs-RFデバイス市場に参入した。以来、携帯電話やデジタルテレビなどの民生機器、産業機器の用途にGaAsを使用したさまざまなRFデバイスを供給し続けてきた」という。参入から約30年の歴史を持つ日清紡マイクロデバイスのRFデバイス事業において、携帯電話を含む民生機器市場に並ぶ主力市場が自動車市場だ。
「以前は、カーナビぐらいでしかRFデバイスを使わなかった自動車だが、ADAS(先進運転支援システム)やV2X(Vehicle to Everything)技術の進展で多種多様な無線通信システムを用いるようになり、数多くのRFデバイスを搭載するようになった。ただ、無線通信システムが増えると電波の干渉が起こりやすくなる。その為、RFデバイスには優れたRF特性が求められる上に、自動車に適した高い品質/信頼性も要求される。RFデバイスにとって、自動車市場は規模が大きく、かつ高度な技術が試される」(宮司氏)
マルチGNSS対応の車載向けLNA「NJG1187」
自動車におけるRFデバイスの用途は幅広い。カーナビや車両緊急通報システム、BluetoothやWi-Fi機能を持つ車載情報機器、スマートキーなどだ。日清紡マイクロデバイスは、これらの用途の車載品質を満たすRFデバイスを開発/提供し、多くの採用実績を積んでいる。その中でも近年、特に採用実績を伸ばしている製品の一つにGNSS(衛星測位システム)向けLNA「NJG1187」がある。
ADASや自動運転システムの進展で、自動車の正確な位置を割り出すGNSSの重要性が増している。その測位精度向上のために、さまざまなGNSSが各国で実用化されている。米国のGPS、欧州のGalileo、ロシアのGLONASS、中国のBeiDouといったGNSSに加え、日本の準天頂衛星システム「みちびき」なども登場している。
NJG1187は、1.1GHz〜1.5GHz帯の各バンドに対応する「マルチGNSS対応」を実現。外部整合回路の定数を変更することで、1.5GHz帯または1.1GHz〜1.2GHz帯の周波数に対応することができる。宮司氏は「GNSS向けLNAは15〜20dBの利得、0.6〜1.0dBの雑音指数の製品がほとんどとなるがNJG1187は2段LNAにする事で30dB以上の高利得、0.6dBの低雑音指数(低NF)を実現している。また、採用例の一つとして車載アンテナをあげ、NJG1187の高利得は受信感度の改善および車両内でのケーブル引き回し時のケーブルロスの補償にも貢献している」と、性能の高さを強調する。
NJG1187は一般仕様版および車載仕様版があり、車載向けのパッケージは、「自動車や車載機器メーカーからの要望が多い」(日清紡マイクロデバイス 営業企画課 石田考広氏)という自動外観検査/目視検査でハンダぬれ性を確認できるウェッタブルフランクパッケージを採用している。「車載向けRFデバイスのほとんどでウェッタブルフランクパッケージ品を用意している」(石田氏)
そして「NJG1187を含めて車載向けRFデバイスのほとんどで車載部品の信頼性試験規格『AEC-Q100』に準拠している。RFデバイスでAEC-Q100を取得している製品は少ない。そういった面でも日清紡マイクロデバイスのRFデバイスが自動車用途で採用が拡大しているという背景がある」と話す。
日清紡マイクロデバイスは、NJG1187以外にもさまざまなGNSS向けLNA製品をそろえている。LNAにSAWフィルターも内蔵したフロントエンドモジュール(FEM)では、1.5GHz対応品の「NJG1159」や1.1G〜1.2GHz帯対応品の「NJG1186」などを用意している。
Wi-Fi 6E/7やUWBに対応するRFスイッチ
自動車に搭載されようとしている新たな通信規格に対応するRFデバイスも積極的に開発している。AEC-Q100の取得は今後の対応となるがWi-Fi向け単極双投(SPDT)スイッチ「NJG1818K75」もその一つだ。高速、広帯域化に向かって進化するWi-Fiは、これまでの2.4GHz帯、5GHz帯に加えて6GHz帯という、より高い周波数帯を使用する新規格Wi-Fi 6E、Wi-Fi 7が登場し、自動車でもWi-Fi 6E/7への対応が始まる見込みだ。新たな周波数を使用するWi-Fiの登場で、Wi-Fi用SPDTスイッチも対応周波数を広げる必要がある。高周波に強いGaAsを用いたRFデバイスを手掛ける日清紡マイクロデバイスは、Wi-Fi 6Eに対応するSPDTスイッチとしてNJG1818K75を投入。2.4GHzから高周波帯域の7.125GHzまでの範囲で挿入損失0.50〜0.55dBという低挿入損失特性を実現した。動作電圧範囲も1.6〜5.0Vと広く、多様な給電電圧に対応する仕様になっている。
「Wi-Fi市場向けにこれまで展開してきたRFスイッチ製品は、低挿入損失などの特性が評価されて複数のリファレンスデザインメーカーに採用されてきた。高周波に強いGaAsの特徴を生かし、さらにRF特性に優れた製品でRFスイッチ市場をリードしていく」(宮司氏)とする。
日清紡マイクロデバイスは、300MHz帯から8.5GHz帯までという広帯域で0.35〜0.60dBの低挿入損失を実現し、制御電圧範囲も1.8〜5.0Vと広いSPDTスイッチ「NJG1801シリーズ」も製品化している。AEC-Q100グレード1準拠でウェッタブルフランクパッケージを採用した車載版(型番:NJG1801BKGC-A)も量産中だ。宮司氏は「BluetoothやWi-Fiだけでなく、8.5GHz帯のUWB(超広帯域無線)まで1つのスイッチで対応できる。UWBはスマートキーでの使用が広がっており引き合いが増えている」とする。
「Si-CMOSを用いたRFデバイスも数多く開発されているが、GaAsには特性面で優位性がある。30年近く生産し続けてきたことで、信頼性においても優位性があると自負している。生産効率を高めることでコスト面でも高い競争力を発揮できている。今後も、RF特性に優れるGaAsを用いたRFデバイスで自動車やモバイル機器、家電、産業機器などのニーズに応えていく」(宮司氏)
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提供:日清紡マイクロデバイス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2023年12月6日