アナログ半導体メーカーの日清紡マイクロデバイスが2023年春に発売した“使いやすさ”にこだわった新製品3種を紹介しよう。
産業機器や民生機器など電子機器は日々、目覚ましく進化している。それに伴って、電子機器開発現場はより高度な技術力が求められている。だが電子機器設計を手掛けるエンジニアは慢性的な不足傾向にある。昨今の半導体不足を受けて、開発現場は半導体/電子部品の調達リスクなどを考慮した機器設計も要求されている。
こうした電子機器設計開発現場の悩み・課題を解消すべく、日清紡マイクロデバイスは2023年春、“使いやすさ”を追求したユニークなアナログ半導体製品を相次いで投入した。
同社は、2022年1月に新日本無線とリコー電子デバイスが統合して誕生した半導体メーカーだ。両社が得意にしたオペアンプなどの信号系アナログ半導体と電源ICを主力に、アナログ半導体を通じて開発現場の課題を解決する「アナログソリューションプロバイダー」を目指している。
この春に相次いで発表した新製品はいずれもアナログソリューションプロバイダーにふさわしい、開発現場の課題解決につながるものだ。本稿では新製品の中からオススメの3製品を紹介する。
FPGAやマイコンの高性能化、搭載センサーの多様化などで、さまざまな電源電圧を生成する必要性が増している。それに伴って、シンプルに必要な電圧を生成できるLDOレギュレータの搭載数が増加している。入力電圧、出力電圧に応じた多種多様なLDOレギュレータが機器に採用されている。だが、部品調達が不安定な昨今ではこのレギュレータの採用が大きなリスクになりつつある。部品管理が煩雑で、頻発している急な生産中止(EOL)で代替品探しに苦慮するというケースも多々ある。
特に、電圧系統ごとに立ち上げ順が定められておりシーケンス制御が要求されるLSIに電源を供給するLDOレギュレータは、代替品探しが困難を極める。「電源立ち上げ時間を決めるソフトスタート時間が合致すること」という制約があるためだ。しかも昨今の高性能LSIは出力電源が正常かどうかを監視し、信号としてLSIに出力するパワーグッド機能をLDOレギュレータに求めるケースが増えている。
1つのLDOレギュレータであらゆる入出力電圧とソフトスタート時間に対応でき、パワーグッド機能を搭載していれば悩みが解消するのに……。
LDOレギュレータ出荷数で国内トップ*1の日清紡マイクロデバイスは、開発現場のこうした声に応えるLDOレギュレータ「NR1600」シリーズを2023年春に発売した。1個の外部コンデンサの容量で自在にソフトスタート時間を変えられる「ソフトスタート時間可変機能」を搭載。入力電圧範囲は1.4〜5.5V(最大定格6.5V)と広い。出力電圧範囲は1.0〜3.6Vまで0.1V単位で取りそろえている他、抵抗器1本の抵抗値で出力電圧を1.0〜4.8Vの範囲で設定できる外部設定版もある。パッケージも小型のDFN(1.2×1.2×0.4mm)、実装が容易なSOT-23、高放熱のHSOP-8の3種類を用意している。
*1)出典:マーケティング・アイ「2021年世界LDOレギュレータ販売金額シェア」。
同社の神馬和宏氏は「出力電流は500mAで、パワーグッド機能も搭載している。NR1600シリーズだけでほとんどのLDOレギュレータの用途を網羅できる」と言う。
NR1600シリーズは、同社の電源IC製品では初の0.18μmプロセスを採用し、自己消費電流は80μAを実現。価格も「一般的なLDOレギュレータと同水準であり、十分競争力がある」(神馬氏)とする。
神馬氏は「まずは代替品探しに特に苦労されているシーケンス制御が必要な用途での採用を見込んでいる。ただ、NR1600シリーズはそうした用途以外でも活用できるLDOレギュレータ。あらゆる用途に使えるので、調達面で多大なメリットを提供できる。『極めて低い自己消費電流が必要』『出力雑音やノイズにシビア』などといった特殊用途を除いて、幅広くNR1600シリーズを提案していく」とし、“LDOレギュレータの決定版”という位置付けで展開する方針だ。
日清紡マイクロデバイスは、スイッチングレギュレータでも使いやすさを追求し、設計現場の悩みを解消する製品を発売した。それが降圧スイッチングレギュレータモジュール「NC2700MA」「NC2701MA」「NC2702MA」シリーズだ。
最新のSoCやFPGAは低電圧/大電流駆動がより顕著になっている。これに伴い、電源ICはより高精度な電圧を高効率に生成・供給することが不可欠になる。電源設計の難易度はとても高くなっている。優れた部品を選べばよいというわけではなく、基板レイアウトや部品同士の相性も考慮する必要がある。優れた電源システムの設計には、豊富な経験があっても試行錯誤が必要で、工数も多くなる。
それにもかかわらず、電源回路設計エンジニアは不足傾向だ。少量多品種生産を行う機器の設計現場は特にエンジニア不足が目立ち、手間の掛かる電源設計が機器開発のボトルネックになっていることが多い。
誰でも手軽に高精度/高効率の電源システムを実現できれば……。
そうしたニーズに応える電源ソリューションがNC2700MA、NC2701MA、NC2702MAシリーズだ。スイッチングレギュレータの構成に必要なインダクタ、MOSFET、バイパスコンデンサ、コントローラICが一つのパッケージに収まっている。入出力コンデンサなどの簡単な部品を追加するだけで入力電圧範囲4.0〜28V、出力電圧範囲0.7〜5.3Vの電源を構築できる。出力電流は、6A(NC2702MA)、10A(NC2701MA)、20A(NC2700MA)の3種類から選べる。「3種類とも同じパッケージを採用した。負荷側の要件変更によって必要電流量が変わっても、基板の設計変更なしで対応できる」(神馬氏)という。
20Aの電流供給能力を持つ樹脂封止型電源モジュールは、電極がパッケージ裏面に配置されるLGAやBGAといったパッケージが主流になっている。こうしたパッケージは実装状況を目視できず、エックス線などを用いた高度な検査が必要だ。同シリーズは電極端子がパッケージ側面に露出するQFNパッケージを採用しており、従来の外観検査で済む。評価時にも特別なテストパットを準備する必要がなく、基板設計が容易になる。
神馬氏は「最大変換効率94.9%*2という高効率の電源が、まさに置くだけで実現できる。基板レイアウトやコイルのマッチングといったどうしても避けられない工数が掛かる設計を省略でき、大幅な設計負荷軽減を実現する。部品調達に関わる手間も省ける。設計頻度が多い少量多品種生産を行う産業機器用途で特に使いやすい高効率/高精度電源モジュールだ」とする。
*2)入力12V、出力5V、スイッチング周波数1000kHz時。
同社は使いやすさを追求した電源モジュールのラインアップを強化し、より高電圧入力・大電流に対応した製品を展開する方針だ。
信号処理用アナログICでも、“使いやすさ”にこだわった新製品を投入した。2023年6月に発表したオペアンプ「NL6012」もその一つ。NL6012は、オペアンプ出荷額シェアで国内メーカー2位*3を誇る日清紡マイクロデバイスが同社史上最高精度を実現した“ゼロドリフト”オペアンプ製品だ。
*3)出典:マーケティング・アイ「2021年世界のオペアンプ販売金額シェア」。
健康への関心の高まり、地球環境保護、IoT化などで電子機器への搭載が増えているセンサー類は、より事象を検知する高精度センシングが求められている。
高精度センシングを実現するには、センサーからの微小な電気信号を処理するアナログフロントエンド(AFE)回路を高精度化しなければならない。とりわけ、微小電気信号を増幅するオペアンプの精度がAFE回路の出来を大きく左右する。
手軽に使える高精度オペアンプがあれば、高精度センシングシステムを短期間、低コストで開発できるのだが……。
NL6012はこうした設計開発現場の求めに応じ、精度と使いやすさを両立させるオペアンプとして開発された。
オペアンプは、入力電圧に変化が生じると増幅特性も変わるので精度が安定しない。入力電圧の変化に伴う出力への影響は「入力オフセット電圧」で表現される。この入力オフセット電圧がゼロに近いことが高精度オペアンプの必須条件だ。
入力オフセット電圧は、周囲温度によって変化する。こうした温度変化の影響を補正してゼロに等しい入力オフセット電圧を維持するオペアンプのことを“ゼロドリフトオペアンプ”と呼ぶ。温度変化が厳しい環境で使われるセンサーシステムなどでは、ゼロドリフトオペアンプであることが重要になる。
NL6012は、入力オフセット電圧は最大でも10μVとゼロに限りなく近く、オフセット電圧ドリフトも最大で0.05μV/℃と、温度変化による入力オフセット電圧ばらつきがほぼないゼロドリフト性能を誇る。
同社の藤井友葵氏は「ゼロドリフトオペアンプの中でも、NL6012は特殊な選別を実施していないにもかかわらず極めて個体差が少ないのが特長。オフセット電圧ドリフトの実測結果として±0.01μV/℃という結果も出ている。そのため、ユーザー側での製造ラインの調整作業や測定器の自動校正作業が軽減され、使いやすいオペアンプになっている」とする。
NL6012の動作温度範囲は−40℃から125℃だが「125℃を超えても入力オフセット電圧は安定しており、全温度範囲で安定した特性を実現している。その他、入力オフセット電圧に影響する外来ノイズへの対策など、使いやすさにつながる工夫が施されている」と藤井氏は言う。
日清紡マイクロデバイスは使いやすい製品を提供する一環として製品の長期安定供給にも注力しており、「長期供給プログラム」を実施している。同プログラムは、毎年1月に今後10年間生産継続を維持する製品を定めて公表するというもの。2023年1月公表のプログラム対象製品は337品種に上る。紹介した新製品3種は、2024年1月公表のプログラム対象製品に選定される予定だ。「対象に選ばれるのは1度きりではなく、毎年対象に選ばれる製品も多い。対象から外れても、必ずしも10年後に生産を中止するわけではない。使いやすい製品を安心して長く使ってもらうための努力を最大限続けていく」(同社)
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提供:日清紡マイクロデバイス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2023年8月9日