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DC遮断を次世代へ導く――インフィニオンが「CoolSiC」ブランド初のJFETを投入DCグリッドの安全性を担う

エネルギー損失が少ない送電/配電網として、注目度が高まっている直流(DC)グリッド。この次世代のグリッドではDC電流をいかに高速に遮断できるかが重要になる。そこで脚光を浴び始めているのが炭化ケイ素(SiC)JFETだ。なぜSiC JFETがDC電流遮断に向くのか。SiCデバイスを長年手掛けるインフィニオン テクノロジーズが解説する。

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直流電流の遮断でSiC半導体に脚光

 カーボンニュートラルが声高にうたわれる一方で、世界の電力需要は右肩上がりで増加している。産業機器市場で電動化や大電流化が進んでいることに加え、生成AIの登場によってAI技術の普及が一気に加速し、データセンターの電力消費量は急増している。省エネ対策が焦眉の急となる中で、注目度が高まっているのが、直流(DC)配電システム(DCグリッド)だ。

 現在の電力システムには、直流と交流(AC)が混在している。発電所から会社や家庭のコンセントを経て、PCやスマートフォン、装置や電気自動車などに電力が供給されるまでに、いくつものAC/DC変換やDC/DC変換が繰り返される。変換効率は100%ではないため、変換のたびに電力損失が発生する。DCグリッドは、この電力変換をできるだけ減らし、DC電流のまま配電して、さまざまな負荷に供給する方式だ。変換の回数が減れば、それだけ電力損失が減ることになる。

 そうした中で求められているのが、DC電流を高速に遮断する遮断器(DC遮断)だ。DC遮断において最も大きな課題の一つはアークの発生である。アークが発生すると、遮断器の劣化や、接点の溶着などによる損傷を引き起こす。接点が溶着すると電流が流れ続けてしまう上に、場合によっては作業員に危険が及ぶ可能性もある。そのため、DC電流を確実かつ高速に遮断する装置が必要になる。そこでDC遮断器として注目されているのが、半導体だ。半導体を使うと高速なDC遮断が可能になることに加え、メカニカルリレーやヒューズなどとは異なり、機械的な接点を持たないので、DC遮断器の寿命が長くなる。インフィニオン テクノロジーズ ジャパンの藤森正然氏は「現在は、メカニカルリレーやヒューズなど機械式の遮断器が圧倒的多数を占めている。電力系統から切り離された、解列したということが分かりやすく、種類も豊富で安価だからだ。だがDCグリッドでは、より高速に電流のオンオフをスイッチングできる半導体を使わなければ、DC遮断器としての要件を満たせない。これまで半導体がDC遮断器に使われてこなかった要因だ」と説明する。

 こうした背景の下、インフィニオンがDC遮断用途の拡大を見据えて開発したのが、炭化ケイ素(SiC)JFET、「CoolSiC JFET」だ。

低オン抵抗で堅ろう、DC遮断に向くSiC JFET

 半導体をDC遮断に用いるというコンセプトは以前から考えられていた。ただし、シリコン(Si)/SiC MOSFETはオン抵抗が高いので遮断性能が十分ではなく、MOSFETの発熱も大きいので放熱対策も必要になる。

インフィニオン テクノロジーズ ジャパン インダストリアル&インフラストラクチャー事業本部 マーケティング部 部長 藤森正然氏
インフィニオン テクノロジーズ ジャパン インダストリアル&インフラストラクチャー事業本部 マーケティング部 部長 藤森正然氏

 そうした中で、DC遮断への応用が期待されているのがSiC JFETだ。そもそもSiCは、絶縁破壊電界強度が高く、バンドギャップが広いなど、半導体として優れた特性を持つ。SiCを用いたパワー半導体は、Siパワー半導体よりも高耐圧かつ低損失で、高速スイッチングも可能になる。そのため、大電流、高電圧が求められる太陽光発電システムのパワーコンディショナーや鉄道車両のインバーターなどでは早い段階から、IGBTからSiC MOSFETへの置き換えが進んできた。インフィニオンも長年にわたり、「CoolSiC」のブランドでSiC MOSFETなどを展開している。そして今回、CoolSiCとしては初となるSiC JFETを投入する。

 「インフィニオンはSiC MOSFETを長年提供し、太陽光、車載インバーターといったさまざまなアプリケーションで使用されているが、基本はスイッチング用途になる。CoolSiC JFETは、リレーやサーキットブレーカーなど、基本的にはDCの遮断という用途を想定している」(藤森氏)

 藤森氏は、DCの遮断ではMOSFETではなくJFETの方が適していると強調する。JFETはオン抵抗が低く、堅ろうなデバイスだからだ。

 JFETは、接合型電界効果トランジスタ(Junction Field Effect Transistor)の名が示す通り、半導体を接合して作るFETである。N型JFETの場合、N型半導体を土台としてゲート部分にウェルを形成し、P型半導体を埋め込んでPN接合を作る。ソースとドレイン部分にP型/N型半導体を埋め込み、ゲート金属の直下に酸化膜を作るMOSFETに比べて単純な構造になっている。このシンプルな構造によって、低オン抵抗や堅ろう性といったJFETならではのメリットが生まれる。

SiC JFETとSi MOSFETの構造の違いと、それぞれの利点 提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン
SiC JFETとSi MOSFETの構造の違いと、それぞれの利点 提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン
インフィニオン テクノロジーズ ジャパン インダストリアル&インフラストラクチャー事業本部 フィールドアプリケーションエンジニアリング部 プリンシパルエンジニア 李Q烈氏
インフィニオン テクノロジーズ ジャパン インダストリアル&インフラストラクチャー事業本部 フィールドアプリケーションエンジニアリング部 プリンシパルエンジニア 李Q烈氏

 JFETでは、ドレインからソースにバルクをつたって電流が流れる。一方のMOSFETは、MOS周辺に形成されたチャネルを通って電流が流れる。そのため、MOSFETはどうしてもチャネル抵抗成分が大きくなり、オン抵抗を小さくすることが難しい。「現時点のテクノロジーでは、Si MOSFETやSiC MOSFETに比べて、SiC JFETの方がはるかにオン抵抗の低いデバイスを作れる」と藤森氏は説明する。

 インフィニオン テクノロジーズ ジャパンの李Q烈(Li Kyongyul)氏は「SiC JFETは一般的にSiC MOSFETより35%程度、抵抗成分が小さい」と説明する。オン抵抗が小さくなることで、同じフォームファクターでリレーを構成した際に扱える電流が大幅に増える。「Si MOSFETでは負荷電流が16Aだったものが、SiC MOSFETを採用すると2倍の32Aになり、SiC JFETを採用すると、さらに約2倍の63Aまで増える」(李氏)。これは設備投資費の低減に大きく貢献するだろう。

SiC JFETの採用によりリレーの負荷電流は増える 提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン
SiC JFETの採用によりリレーの負荷電流は増える 提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン

 さらに、JFETはリニア領域で使えることに加え、アバランシェ耐量が非常に大きい。これも、JFETが持つ構造面での特徴になる。「デバイスの弱い部分は、基本的に酸化膜周辺に存在する。JFETの場合、そもそも酸化膜が存在しないのでアバランシェ耐量が大きい。これはJFETの大きな特徴だ」(藤森氏)。MOSFETは、電流が集中して局所的に熱くなるホットスポットが発生するなど、安全動作領域(SOA)が狭くなるケースがある。JFETは構造的にホットスポットができないのでSOAは広い。つまり、JFETは構造的にMOSFETよりも壊れにくいのだ。

 李氏は「SiC MOSFETもアバランシェ耐量は備えているが、基本的には最大定格電圧までの範囲でしか使用を推奨していない」と付け加える。そのため、サージ電圧からSiC MOSFETを保護するために、MOV(メタル酸化バリスタ)やTVS(過電圧抑制)ダイオード、スナバ回路などを追加する必要があるので部品点数も多くなる。一方でSiC JFETの場合は、アバランシェモードを本格的に使用できると提案していると李氏は述べる。

SiC JFET+MOSFETのカスコード構成で「ノーマリーオフ」に

 一方で、JFETはやや扱いにくい点もある。それがノーマリーオンだ。JFETでは、P型半導体とN型半導体の境界面でホールと電子が結合し、空乏層が生じる。ゲート電圧を印加すると、この空乏層が広がってチャネルをふさぎ、ドレイン電流を遮断する。つまり、ゲート電圧をかけていない状態では常にドレイン電流が流れるので、JFETはノーマリーオン特性を持っていることになる。「エンジニアが使い慣れているのは、やはりMOSFETのように、ゲート電圧が0Vのときにはドレイン電流が流れないノーマリーオフのデバイスだ。スイッチング制御もしやすい」と藤森氏は述べる。

 これについては、SiC JFETと低耐圧MOSFET(LVMOS)をカスコード接続することで、ノーマリーオフの回路を構成できる。具体的には、SiC JFETのソース端にLVMOSを接続し、LVMOSのソース端はグラウンドに接続した上で、SiC JFETのゲートをLVMOSのソース端につなぐ。これにより、回路はノーマリーオフになる。「DC遮断のアプリケーションでは、基本的にはノーマリーオフが好まれる。最近のLVMOSはオン抵抗が0.4mΩや0.5mΩなど、非常に低い製品も多い。このようなLVMOSとSiC JFETを組み合わせれば、容易にノーマリーオフを実現できる」(李氏)

 インフィニオンは、ノーマリーオフを維持しつつ、抵抗成分をさらに下げられる「Adapted cascode」構成も提案する。Adapted cascodeでは、1個のゲートドライバで、LVMOSを制御しながら、SiC JFETにも+2Vを印加できるようにしている。SiC JFETのゲートに正電圧を印加すると、抵抗成分がさらに下がるからだ。「+2Vをかけると、オン抵抗を約15%低減できる」(李氏)

SiC JFETをノーマリーオフで使うための回路構成。右側2つの図版がカスコード構造で、ノーマリーオフとして使える 提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン
SiC JFETをノーマリーオフで使うための回路構成。右側2つの図版がカスコード構造で、ノーマリーオフとして使える 提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン

 インフィニオンは現在、第1世代のCoolSiC JFETのサンプルを出荷中だ。量産開始は2026年を予定する。定格電圧は750Vと1200Vの2種類で、オン抵抗の最小値は750V品では1.5mΩ、1200V品では2.3mΩと非常に低い。「メカニカルリレーよりはオン抵抗がまだ高いものの、CoolSiC JFETを並列接続して使えばオン抵抗は半分に減る。2.3mΩを2個並列で使うと、オン抵抗が1.15mΩになるといった具合だ」(李氏)次世代品ではオン抵抗がさらに低い品種も用意する予定だ。

 パッケージにはQ-DPAKを採用する。このパッケージでは片側に並ぶ端子が全てドレイン端子で、反対側に並ぶ端子のほとんどがソース端子になっている。「多くの端子を通って電流が流れることになるので、ここでも抵抗低分を減らせる。既存のSiC MOSFETでは3端子パッケージが多用されるが、そのパッケージだと電流が流れるルートが細くなるので抵抗成分を無視できなくなる」(李氏)。さらに、Q-DPAKの上面にはフレームがむき出しになっていて、放熱板を直接取り付けられる。そのため放熱性も向上させられる。現在はQ-DPAKのみだが、今後はパッケージの種類も増やしていく。

インフィニオンの第1世代CoolSiC JFETのラインアップ 提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン
インフィニオンの第1世代CoolSiC JFETのラインアップ 提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン

 耐圧1200VのCoolSiC JFETを搭載した評価ボードも用意している。ノーマリーオン、ノーマリーオフ両方のトポロジーがあり、LVMOSやカスコード構成用のゲートドライバICはインフィニオン製を使用している。

 李氏は「DC電流をとにかく高速に遮断したいという要求が強い。そうした中で、メカニカルリレーやヒューズなどに加えて、SiC JFETという選択肢もあることを知ってもらいたい」と語る。近年ではモーターのブレーカーとして、SiC JFETを使いたいという要望も増えてきたという。SiCパワー半導体の分野では長らく、SiC SBD(ショットキーバリアダイオード)やSiC MOSFETが注目を浴びてきた。今後はSiC JFETがDC遮断というアプリケーションで、その性能を発揮しようとしている。インフィニオンはそのトレンドをしっかりと捉え、CoolSiC JFETの製品群を拡充していく。

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提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2025年10月24日

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