データセンター向けAI半導体のEsperantoが事業縮小、技術売却を模索:Rapidusとも協業のRISC-V新興
AIチップのスタートアップ企業であるEsperanto Technologiesが半導体事業を縮小していることが、米国EE Timesの取材で分かった。RISC-Vデータセンターチップを手掛ける同社では既に従業員の大半が退職。技術の売却先またはIP(Intellectual Property)のライセンス供与先を探しているという。
最近のUntether AIの市場撤退に続き、AIチップのスタートアップ企業であるEsperanto Technologies(以下、Esperanto)が、半導体事業を縮小していることが米国EE Timesの取材で分かった。RISC-Vデータセンターチップを手掛ける同社は、技術の売却先またはIP(Intellectual Property)のライセンス供与先を探しているところだ。従業員の大半が、既に退職しているという。
EsperantoのCEOであるArt Swift氏は、欧州の子会社を閉鎖することを明らかにした。同社は、スペインに大規模なエンジニアチームを保有し、セルビアには小規模な拠点を置いていた。
「競合企業から、驚異的な引き抜き攻撃」
Swift氏は「われわれは、当社のような小規模企業が提供できるものより2〜3倍、あるいは4倍も高い条件を提示可能な資金力のある競合企業から、驚異的な引き抜き攻撃を受けた。われわれのチームは事実上壊滅した。非常に残念だが、対抗できなかった」と述べる。
Esperantoは、米国カリフォルニア州マウンテンビューの本社でも、従業員を90%削減した。現在はSwift氏と、数名のエンジニアを含む少人数のチームが、同社の技術の売却またはライセンス供与や、潜在的な技術移転を支援するために残っているという。
Swift氏は「複数社が、技術買収や非独占的なライセンス供与に強い関心を寄せている」と述べる。
Esperantoは、データセンターAI推論向けに1000コアのRISC-Vチップを開発していた。当初はレコメンデーションワークロードに焦点を絞っていたが、2023年に高性能コンピューティング(HPC)および生成AIへと軸足を移した。同社は130億パラメータ規模の大規模言語モデル(LLM)を単一チップ上で実行でき、消費電力量は約25Wだったという。
Swift氏は「われわれは非常に強力な大手顧客を確保し、パイプラインも構築していたため、非常に楽観的な見方をしている。今後もその状況が続いていくだろう」と述べる。
同氏は「データセンターチップ向けのRISC-Vに対する市場の関心は依然として強い。特に欧州では、EUがRISC-Vべースの新しい半導体設計エコシステムに投資をしていることから、その傾向が顕著だ。しかし一方で、Esperantoの重要な利点であるエネルギー効率は、売りにすることが難しい」と述べる。
「誰もデータセンターの電力に関心を持っていない」
「われわれが市場で目の当たりにしたのは、信じられないことに誰もデータセンターの電力に関心を持っていないという事実だった。エネルギー効率はもともと、アピールすることが難しい。電力予算に制限がなければ、エネルギー効率はそれほど重要ではないからだ」(Swift氏)
Esperantoのロードマップに含まれている第2世代のチップレットは、2026年にSamsung Electronicsの4nmプロセスで製造を開始する予定で、15〜60Wの電力エンベロープでHPCワークロード向けにFP64の精度で最大16TFLOPSの演算性能(またはAI向けに最大256TFLOPSの8ビット演算)の実現を目指している。最大8個のチップレットをコパッケージ化するという。
将来的に第3世代の技術では、チップレット当たりの演算性能が2倍に向上する見込みだ。Swift氏は「この技術を獲得することに高い関心が寄せられている」と述べている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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