「CMOS/スピントロニクス融合AI半導体」 エネルギー効率が50倍:MRAM集積の実証チップ
東北大学とアイシンは、大容量の磁気抵抗メモリ(MRAM)を集積したエッジAI向け実証チップとして「CMOS/スピントロニクス融合AI半導体」を開発した。従来チップに比べ、エネルギー効率を50倍以上に、起動時間を30分の1以下に、それぞれ改善できることを確認した。
TSMCの16nmFinFETプロセスを用いて試作
東北大学とアイシンは2025年7月、大容量の磁気抵抗メモリ(MRAM)を集積したエッジAI向け実証チップとして「CMOS/スピントロニクス融合AI半導体」を開発したと発表した。従来に比べ、エネルギー効率を50倍以上に、起動時間を30分の1以下に、それぞれ改善できることを確認した。
今回の研究は、エッジ領域に適したAI半導体デバイスの早期実現を目指して、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が取り組んでいる、「省エネAI半導体及びシステムに関する技術開発事業」の一環として行った。
今回の研究では、東北大学がMRAMを用いた自動設計環境の構築や設計ツールの高度化に取り組み、重みメモリとしてMRAMを搭載したAIアクセラレーターを開発した。アイシンは、このAIアクセラレーターやアプリケーションプロセッサ、大容量MRAMおよび、周辺回路を集積して、画像認識などの機能を持つエッジAI向け実証チップを開発した。
MRAM混載に対応したTSMCの16nmFinFETプロセスを用いて試作したこの実証チップには、アプリケーションプロセッサとして「Arm Cortex-A53デュアルコア」の他、AIアクセラレーターや内部メモリと重みメモリに合計32MバイトのMRAMなどを集積している。また、高速起動を可能にするコンパクトOSも同時に開発し、内部のMRAMに内蔵した。
大容量MRAMをチップに内蔵したことで、電源をオンしてからOSを起動するまでの時間が、BOOTメモリやメインメモリを外付けしている場合に比べ、30分の1以下に短縮できた。また、電源オンからOSを起動し最初のAI処理完了までのエネルギー効率は、50倍以上も改善されることを確認した。
実験では、開発した実証チップとメモリを外付けした従来チップを用い、それぞれの特性を評価した。この結果、エネルギー効率は従来チップの4.7624Jに対し、開発チップは0.0942Jであった。同様にOS起動時間は従来チップの2535.3ミリ秒に対し、開発チップは65.7ミリ秒で起動することを確認した。
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