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コストパフォーマンスの良い“高効率/低損失”で躍進するサンケン電気のモータードライバ事業“QCDD”を徹底して世界白物家電市場で年率30%成長!

サンケン電気は、白物家電向けモータードライバ市場で過去10年の年平均売上高成長率30%という急成長を遂げてきた。国内外の競合がひしめく同市場で、なぜこれほどの躍進を遂げることができたのか――。サンケン電気モータードライバ事業の強さの秘訣に迫る。

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主力半導体事業の柱の1つに成長

 パワーエレクトロニクスの総合メーカーとして、社会のエコ/省エネへの貢献を図るサンケン電気の主力事業といえるのが、パワー半導体事業だ。高効率電源を実現するパワーデバイスや車載用半導体など、さまざまなパワー半導体を展開している。

 そうしたパワー半導体事業の中で、最も急速にビジネス規模を拡大させているのが、モータードライバ分野だ。過去10年近く、世界の白物家電市場で年率30%超のハイペースで売り上げ規模を増やし続け、電源用半導体、車載用半導体に並ぶパワー半導体事業の主力製品にまで成長した。今回は、急成長を遂げたサンケン電気のモータードライバ製品について、紹介していこう。


サンケン電気のモータードライバ事業の基本戦略と白物家電向けモータードライバ製品売上高の推移 (クリックで拡大)

白物家電向けは“後発”だった……


技術本部MCBD事業統括部長 高橋広氏

 サンケン電気のモータードライバへの取り組みは、長い歴史を持つ。OA機器やFA機器向けの製品を古くから手掛け、「安定したビジネスを獲得してきた」。ただ、「逆を言えば、落ち込むこともなければ、大きな成長も期待できない状況だった」(技術本部MCBD事業統括部長 高橋広氏)という。

 しかし、転機が訪れる。それまで、主力だったOA機器/FA機器に向けた耐圧100V以下の低耐圧モータードライバに加えて、2000年ごろから耐圧200V以上の高耐圧モータードライバへの参入に着手したのだ。

 高橋氏は「当時、白物家電分野で、省エネ化ニーズが急速に高まり、国内だけでなく海外でもインバータ化の流れが加速しようとしていた。それまで、耐圧50〜100Vクラスで培ってきた技術を応用することで、そうした白物家電市場の省エネニーズを取り込めると考えた」と振り返る。

 ただ、白物家電のモータードライバ市場は当時から競争の厳しい市場だ。国内外のパワー半導体数社による寡占状態にあり、それでいて価格競争も激しい過酷な市場環境だ。後発メーカーにとって高い参入障壁が存在した。

 だが、サンケン電気は、過酷な市場にあえて参入するだけの“勝算”があった。

小電流に強い“MOSFET-IPM”をいち早く製品化

 当時、家庭用エアコンのファンモーターや冷蔵庫のコンプレッサを駆動する定格5Aまでの比較的小電流用途も含め、白物家電のモータードライバは、内蔵のパワースイッチング素子にIGBTを使用したIPM(インテリジェントパワーモジュール)が主流だった。IGBTは、大電流を扱うことに向くパワー素子であり、ファンモーターなど小電流用途では、「理論的にはMOSFETの方が低損失になるということは、当時から広く知られていた」(高橋氏)。しかし、IGBTでは、ワンチップで、小さくIPMを構成でき、MOSFETよりも低価格を実現できることから、主流の位置を占めていた。


サンケン電気が展開する白物家電向けの高圧IPM製品イメージ (クリックで拡大)

 これに対し、サンケン電気は、低耐圧モータードライバで培った技術をベースにマルチチップ構成となるMOSFETでも、小型パッケージに封止できる技術を確立。MOSFETながら価格を抑えつつ、低損失、高効率駆動を実現できるモータードライバを製品化し、競争の激しい白物家電市場への参入に踏み切った。高橋氏は「価格はIGBTには及ばないものの、省エネ化を実現できるIPMとの評価を受け急速に市場に受け入れられた」とし、参入10年足らずで、家庭用エアコンのファンモータードライバで「5割に迫る世界シェア」(同氏)を獲得するに至った。

地道な“QCDD”の徹底で、信頼を獲得

 その間、競合他社もMOSFETを内蔵したIPMを製品化し、競争は激しさを増していったが、サンケン電気ではMOSFETベースのIPMを足がかりにIGBTを使った大電流IPMでも顧客を獲得していった。「QCDD*)を徹底することで、顧客からの信頼を得ることができ、年率30%という高い成長をキープし、ファンモータードライバのシェアを維持するとともに、エアコンのコンプレッサ用ドライバ、洗濯機ドラム駆動用、冷蔵庫コンプレッサ用でもシェアを拡大している」(高橋氏)という。

*)QCDD=Q:クオリティー(品質)、C:コスト(価格)、D:デリバリー(納期)、D:デベロップメント(開発)。

 そして、高橋氏は「売り上げ規模が大きくなり、今後年率30%成長の維持は難しいが、少なくとも年率10%成長を維持していく」とし、その成長のカギは「QCDDをさらに徹底すること」と言い切る。

 厳しいテスト項目を課し維持向上を図る品質管理や、季節により需給変動の大きい白物家電に対応した生産/在庫管理の維持向上を図りつつ、重視するのが開発だ。微細プロセスや新たな低損失化技術という価値を生み出し、強いては、システムレベルでのコスト削減を図るためだ。「デバイス単体では、少々、値が張っても、効率を高め、システムコストを低減できるという付加価値が認められる製品開発を継続、強化する」(同氏)という。

低損失を追求した次なる一手は「リカバリ特性改善MOSFET」

 付加価値の高い製品作りの一例が、次期冷凍年度からの量産を目指しサンプル出荷中の「リカバリ特性改善MOSFET」だ。


リカバリ特性改善MOSFETの開発に至った経緯 (クリックで拡大)

 小電流用途ではIGBTよりも損失を抑えられるMOSFETを使ったIPMだが、さらなる低損失化に向け改善の余地は多い。その1つがリカバリ損失だ。リカバリ損失は、キャリア周波数が高く、動作電流領域が非常に小さいファンモーター駆動用途で特に影響が大きく、IPMとしての損失の多くを占める。リカバリ損失を低減するには、MOSFETのボディーダイオードに流れるリカバリ電流を抑制する必要がある。

 開発を担当する技術本部MCBDの鈴木直仁氏は「通常の開発では、もう1つの損失の主因であるMOSFETのオン抵抗低減を重視しがちだが、開発したリカバリ特性改善技術は、オン抵抗をあまり損なわず、ダイオードの特性を向上させることのできる技術だ」と語る。

 既にサンプル出荷済みの定格3A、500V耐圧のリカバリ特性改善MOSFETはリカバリ電流を従来比最大44%削減。負荷0.6Aという定常動作時でも、従来比40%以上、スイッチング損失を低減することに成功したという。

リカバリ特性改善MOSFETと従来MOSFETとの特性比較。左がスイッチング波形でのリカバリ電流の違い。右が、スイッチング損失における比較 (クリックで拡大)

リカバリ特性改善MOSFETと従来MOSFETとの損失比較 (クリックで拡大)

鈴木直仁氏

 鈴木氏は「競合他社の低オン抵抗を重視したMOSFET-IPMと比べ、オン抵抗こそわずかながら劣るが、スイッチング損失などを含めたトータル損失は、リカバリ特性改善MOSFETが低い。そのため、発熱も小さく、従来よりも1クラス下の製品を使えるようになるため、システムコスト低減にも貢献できる製品だ」と胸を張る。

 リカバリ特性改善技術は、さまざまな電流定格のMOSFETに適用できる技術であり、「キャリア周波数の高いファンモータードライバに広く展開する方針」(鈴木氏)という。さらに、「現在開発中の低オン抵抗を狙ったスーパージャンクション構造MOSFETにも応用し、一層の低損失化を実現する予定だ」。(鈴木氏)

駆動だけでなく、制御分野でも先進技術投入へ

 さらにサンケン電気は、モーターの低損失化に向け、制御面での技術開発も実施している。

 高効率、長寿命という特長から、エアコンや冷蔵庫、小型家電のモーターとして、需要が拡大している3相ブラシレスモーター。インバータ制御される3相ブラシレスモーターだが、その制御駆動方法には大きく2つの種類がある。1つは矩形波駆動であり、もう1つは正弦波駆動だ。前者は、単純な制御/駆動方式であり、制御回路が比較的簡易な半面、高調波成分を多く含んでしまい効率が劣る。正弦波駆動は、インバータ制御に最適なサインカーブの電流波形を出力するため効率に優れるが、制御が複雑で回路規模が大きくなるという欠点がある。


正弦波駆動における利点 (クリックで拡大)

 そうした中で、エコ/省エネを追求するサンケン電気は、高効率な正弦波駆動を行うためのベクトル制御をより簡単に、かつコンパクトな回路規模で実現するべく「ベクトル制御モーター駆動ソリューション」を開発した。


横川浩史氏

 これまでのベクトル制御方式のモーター駆動システムは、複雑なベクトル制御を行うマイコンベースのモーターコントローラ、モータードライバ、出力MOSFETの各単体デバイスで構成するいわゆるディスクリート構成が一般的だった。そのため、制御/駆動回路が大きくなった上、「設計するお客様にとっても、モーター駆動の仕組みを理解しつつ、複雑なベクトル制御用ソフトウェアを作成する高度な技術力を要した」(開発担当の技術本部MCBD 横川浩史氏)とし、ハードルの高い制御/駆動方式となっていた。

ベクトル制御のハードルを下げる独自ソリューション

 これに対し、サンケン電気の開発したベクトル制御モーター駆動ソリューションは、モーターコントローラ、モータードライバ、出力MOSFETを全て1パッケージに収め、IPM化した。

 さらに、サンケン電気子会社で制御回路技術を持つ米アレグロ マイクロシステムズと共同開発を行い、開発が難しいベクトル制御アルゴリズムについても、モーターコントローラに実装した。そのためユーザー側では、複雑なソフトウェア開発の必要がなく、モーター特性に応じたいくつかのパラメータをGUIベースの開発ツールで入力するだけで、ベクトル制御が実現できる。横川氏は「“パラメータ設定さえ難しい”というイメージを持たれるかもしれないが、入力項目は電流検出や位置検出の調整用パラメータやモーター定数の設定程度であり、モーターの動作を見ながら簡単に入力できる」と言い切る。

 加えてサンケン電気のベクトル制御モーター駆動ソリューションは、回路規模を極力、抑えるため、ホール素子不要のセンサーレス駆動を採用している点も特長だ。

 ホール素子によるモーター位置検出を行わないセンサーレス構成では、モーターを初期位置に戻す動作が必要で、モーター負荷が変動している状態や空転状態から再起動を行う場合、ロータ位置検出を失敗するなどの要因から、起動不良が生じる課題があった。サンケン電気では、この起動性の悪さを補うため、独自の起動シーケンスを開発。初期位置固定を確かとする独自のアルゴリズムを開発し、さまざまな初期状態への対応を可能とした。また、実使用上で発生する負荷状態の変化にも冗長性を持つアルゴリズムとし、起動性を高めている。横川氏は「負荷状態の変動する場合においても、弊社独自のシーケンスを採用したことで、従来よりも高い起動性を実現できた」とする。


従来のベクトル制御モーター駆動回路基板(左)と開発したベクトル制御モーター駆動回路基板の比較 (クリックで拡大)

 その結果、ベクトル制御によるモーター駆動回路を従来のディスクリート構成の場合に比べて、55%程度の部品点数、45%程度の基板サイズで実現できるようになったという。「ベクトル制御のハードルを大幅に下げるソリューションであり、高効率を重視する用途で、一気にベクトル制御採用の流れが加速する可能性がある」(高橋氏)と期待を寄せる。

産業機器から、車載機器、白物家電へ

 サンケン電気では、開発したベクトル制御モーターコントローラをさまざまなモータードライバ、出力MOSFETと組み合わせて、製品バリエーションを順次、広げていく考え。「当面は、特に効率を重視するような産業機器用途での採用が中心になる見込みだが、将来的には、エアコンなどの白物家電分野や自動車分野への展開も視野に入れ、さらに技術を進化させていく」(高橋氏)としている。



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提供:サンケン電気株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2015年12月15日

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