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二極化した半導体市場――日本はどうするべきか?大山聡の業界スコープ(90)(1/3 ページ)

AI需要を背景にロジックとメモリへ集中する半導体市場で、MCUやアナログ主体の日本は取り残されつつある。先端分野への投資不足が続く中、DRAMメーカーの誘致や強い企業への支援、設計力強化が急務だ。今こそ実効性ある政策が求められる。

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 世界半導体市場規模統計(WSTS)によれば、2024年の世界半導体市場は前年比19.7%と好調に推移した。この成長はメモリとロジックのけん引によるものであり、それ以外の半導体分野は低調な伸びに終わった。そしてこの状況は現時点でも継続しており、MCU、アナログ、ディスクリートなどを主力製品に持つ日系半導体メーカーの多くは厳しい状況下にあえいでいる。この状態を放置するとどうなってしまうのか。そして日本政府が目指している目標に対して、現状との乖離(かいり)はどれほどあるのか。本連載では2025年2月に「日本の半導体誘致戦略のあるべき姿」について触れたが、今回は、現在の半導体市況を踏まえながら「日本として何をすべきか」について考えてみたいと思う。

世界市場はロジックとメモリの二極化へ

 図1は、世界半導体市場の推移を製品別に示したものである。現在急成長しているのがロジックIC市場で、これを好不況の変化が激しいながらもメモリ市場が追いかけるような構図になっている。そして、それ以外の半導体製品の状況は、何とか横ばいを維持している、あるいはマイナス成長に落ち込んでいるような状態で、ロジックおよびメモリの市況とは大きな格差が開いている。そしてこの格差は、2024年以降から拡大しているように見える。


図1:製品別半導体市場規模(世界)の推移[クリックで拡大] 出所:世界半導体市場統計(WSTS)

 これはデータセンター向けの半導体需要が伸びていることと強く関係している。もう少し言えば、PC、スマホ、車載機器など、われわれの身近にあるアプリケーションはいずれも活性化しているとは言い難い。いずれも「横ばい」で推移している。中には電気自動車(EV)のように需要が下振れている分野もある。アプリケーション側がこのような状況では、本来なら半導体需要が伸びるはずがないのである。本連載2025年5月の記事で書いた通り、データセンター向けの需要増加の波に乗れている「勝ち組」は大手10社の中でも半分しかいない。「勝ち組」の中でも「絶好調」といえるのはNVIDIA、TSMC、SK hynixの3社だけだ。このような状況は今後も続くのだろうか。

 現在の状況は、Microsoft、Google、Amazon、Metaなど大手ITベンダーがデータセンターを“AI武装”していることが大きなインパクトを生んでいる。AIにおける「学習」機能の実現には大量のデータを高速に処理することが必要で、そのためにロジックとメモリに需要が集中しているのである。大手ITベンダー各社の決算を見ていると、設備投資は年々増加傾向にあるので、データセンター向けのロジック(特にGPU)およびメモリ(特にHBM)の需要は今後も増え続けそうだ。

AIの「推論」普及が市場構造を変える可能性

 そして今後は、PCやスマホにAI機能を搭載する動きが加速しようとしている。AIには「学習」の他に「推論」という機能があり、AIで学習した結果を出力する役割を果たす。これには必ずしも「学習」に使われているGPUが必要なわけではなく、もっと安価で低消費電力のプロセッサが出てくるだろう。例えばデータセンターに「学習」を任せて、PCやスマホでは「推論」機能を充実させることで、われわれはAI機能をより身近に活用できる可能性が高まる。

 このような動きでPCやスマホへの需要が活性化すれば、半導体市場全体の活性化にもつながる。当然、クルマへのAI機能搭載も期待できるので、今は伸び悩んでいるMCU、アナログ、ディスクリートなどの需要増加も期待できるだろう。それでも、やっぱり相対的に高い伸びが期待できるのはロジックとメモリではないだろうか。AIが普及するということは、より多くのデータが収集され、処理されることを意味する。その全てにGPUとHBMが使われるわけではないが、データ処理に最も必要なのはロジックとメモリであることは間違いない。これからの半導体需要はAIと密接なつながりがあること、そしてAIの実現に特に重要なのがロジックとメモリであること、と筆者は確信している。

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