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「iCoupler」の生みの親が語る「デジタルアイソレータ」のこれまでと未来20年で出荷実績50億チャンネル超

アナログ・デバイセズのデジタルアイソレータ「iCoupler」。絶縁素子といえばフォトカプラ以外に選択肢がほぼ存在しなかった2001年に産声を上げ、今やフォトカプラに並ぶ絶縁素子として当たり前の存在になったデジタルアイソレータの市場を創り出してきた製品の1つだ。機器の安全性を維持しながら、高性能化、小型化、低消費電力化に大きく貢献してきたデジタルアイソレータ・iCouplerの生みの親で、アナログ・デバイセズ フェローを務めるBaoxing Chen氏に、これまでのデジタルアイソレータの歩みを振り返ってもらうとともに、これからのデジタルアイソレータの可能性についてインタビューした。

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 累計50億チャンネル超――。今から約20年前の2001年にアナログ・デバイセズが量産出荷を開始したデジタルアイソレータ製品ファミリ「iCoupler」の累計出荷実績だ。

 2001年当時は、絶縁素子/アイソレータといえばフォトカプラばかりだったころ。そのような中、経年劣化がなくCMTI(コモンモード過渡耐性)が高い上に、信号伝送速度も速いという多くの特長を持ち合わせた新しい絶縁素子としてiCouplerは産声を上げた。産業機器分野から普及が進み出し、2008年には高い品質レベルが要求される自動車への搭載が始まり、画像診断装置などの医療機器でも欠かすことのできないデバイスへと成長。iCouplerはデジタルアイソレータ市場を作り出し、市場規模拡大をリードしてきた。

 絶縁素子の在り方を大きく変えたデジタルアイソレータだが「まだまだ進化の余地は大きい。フォトカプラをさらに置き換えていくことになるだろう」と話すのは、iCouplerの発明者で、現在、アナログ・デバイセズのフェローを務めるBaoxing Chen氏だ。


iCouplerアイソレーション技術の発明者でアナログ・デバイセズのフェローを務めるBaoxing Chen氏

 iCouplerの生みの親であるChen氏は、これまでのデジタルアイソレータの歩みをどのように評価し、今後どのようにデジタルアイソレータは進化していくとみているのだろうか。Chen氏にインタビューした。

デジタルアイソレータ市場を生みだしたiCoupler

――アナログ・デバイセズのデジタルアイソレーション製品事業のこれまでの実績をお聞かせください。

Baoxing Chen氏 今から20年以上前の2001年に独自のデジタルアイソレータ製品「iCoupler」の第1弾製品「ADuM1100」の量産出荷を開始した。当時は、他にデジタルアイソレータの量産事例はほとんどなく、ADuM1100はデジタルアイソレータの草分け的存在だった。

 それ以来、多チャンネル化や、RS-485やI2C、CAN、USBなど各種インタフェースへの対応、A/Dコンバータやゲートドライバーなど周辺回路を集積した統合型デバイスなど、ラインアップ拡充を進めてきた。現状のiCouplerシリーズの品種数は200種を超えるまでに至っている。

 iCouplerが採用されるアプリケーションも、インダストリアル市場を皮切りに、医療機器市場、自動車市場など広範な市場に広がってきた。その結果、出荷数も順調に拡大し、チャンネル数ベースで累計50億チャンネル出荷を達成するなど、デジタルアイソレータ製品としてトップシェアを維持している。アナログ・デバイセズは、デジタルアイソレータのパイオニア、ビジネスリーダーとして20年以上歩んできたと自負している。


デジタルアイソレータ「iCoupler」の歩みと累計出荷チャンネル数の推移[クリックで拡大] 出所:アナログ・デバイセズ

速度は1チャンネル当たり2.5Gbpsに

――iCouplerの特長について教えてください。

Chen氏 iCouplerは、優れた絶縁材料であるポリイミドを半導体製造技術を応用した微細なトランス(マイクロトランス)で挟み込んだ構造で、電気的に絶縁しながらも信号、データを送受信できる磁気絶縁型デジタルアイソレーション技術/製品になっている。

 ポリイミドは、最大20kVのサージ電圧にも耐えるという優れた絶縁材料であり、絶縁素子で最も重要な絶縁分離を高いレベルで実現できる。そのため、iCouplerのコモンモード過渡耐圧(CMTI)は300kV/マイクロ秒を誇るなど、堅ろうで信頼性が高いという点が第1の特長として挙げられる。

 ただ、他にも機能、性能、サイズ、消費電力といったさまざまな利点、特長がある。

 機能では、さまざまな周辺回路を集積でき、マルチファンクションを実現できる。そのため、RS-485をはじめCAN、USBといったさまざまな通信トランシーバープロトコルを統合でき、マルチインタフェースの製品ラインアップが実現できている。通信トランシーバープロトコル以外にも、A/Dコンバータなど各種アナログフロントエンド(AFE)を統合することもでき、システムサイズの小型化できるという利点も発揮している。

 また、信号、データの送受信だけでなく、絶縁型DC/DCコンバータとしての機能も発揮できる点もiCouplerの大きな特長だ。一般的に絶縁型DC/DCコンバータはディスクリートのトランスとダイオードで構成されるが、これをiCoupler1つで、しかも信号の絶縁分離と同時に実現できる。その利点はとても大きい。

――性能についてはいかがですか。

Chen氏 優れた電磁両立性(EMC)特性を持ち、低ジッタという特長がある。デジタルアイソレータは、フォトカプラに比べ高速という特長を持つが、iCouplerはその中でも、特に高速性能に優れる。2021年に量産を開始した4チャンネル品の「ADN4624」は、1チャンネル当たりのデータレートは2.5Gbpsを誇り、4チャンネル全体で10Gbpsという、従来比10倍という圧倒的なスピードを実現している。ちなみにADN4624のジッタは、0.82ピコ秒rms(ランダム)と非常に低くなっている。


10Gbpsという高速伝送速度を実現した「ADN4624」の概要[クリックで拡大] 出所:アナログ・デバイセズ

iCouplerを補完する存在

――2021年8月に買収を完了したマキシム・インテグレーテッドもデジタルアイソレータ製品を展開していました。

Chen氏 その通りで、マキシム・インテグレーテッドは、絶縁材料に酸化シリコン(SiO2)を用いた容量性絶縁型アイソレータ製品を展開してきた。買収により、ポリイミドによる磁気絶縁型と、SiO2による容量性絶縁型というデジタルアイソレータの代表的な2つの構造が両方そろい、ポートフォリオが強化されたと捉えている。

――iCouplerとマキシム・インテグレーテッド製品は競合しないのでしょうか?

Chen氏 競合関係ではなく、補完関係にあると考えている。iCouplerは広い用途に適用できる優れた堅ろう性、機能、性能を有している。一方で、マキシム・インテグレーテッドの製品は、超低消費電力品や超低ジッタ品など特色のある製品構成になっている。

 例えば、10Mbps対応品の「MAX2242x」は、1Mbps時の消費電流はわずか50μAで、突出した低消費電力性能を有している。iCouplerにはない性能であり、消費電力性能を重視する用途に対し、より良い選択肢を提供できるようになった。

左図=マキシムが展開してきた酸化シリコン(SiO2)を用いた容量性絶縁型アイソレータ(左)とポリイミドによる磁気絶縁型アイソレータである「iCoupler」の構造[クリックで拡大] 出所:アナログ・デバイセズ
右図=iCouplerおよび、マキシムのデジタルアイソレータ製品それぞれの主な特長[クリックで拡大] 出所:アナログ・デバイセズ

デジタルアイソレータの必然性は高まりフォトカプラをしのぐ存在へ

――従来のフォトカプラからの置き換えを目指してこられたと思います。iCouplerの量産からこれまでの約20年間を振り返って、フォトカプラからの置き換えは思うように進みましたか。

Chen氏 個人的な見解になるが、現時点でデジタルアイソレータとフォトカプラの市場シェアは半々程度になったと考えている。iCouplerの量産を始めた20年前のデジタルアイソレータのシェアはほぼゼロだったところから50%程度まできたということであり、順調に普及してきたといえるだろう。

――今後のデジタルアイソレータの普及見通しについてはどのようにみていますか?

Chen氏 これまでデジタルアイソレータは、フォトカプラでは実現が難しいハイエンド、ハイパフォーマンス領域を中心に普及してきた。高速なデータレートが要求される領域や、より小さなサイズを求める領域などだ。こうしたハイエンド、ハイパフォーマンス領域がアイソレータ市場に占める割合はますます大きくなる見込みであり、デジタルアイソレータもおのずと普及していくことになる。

――これからのアイソレータ市場トレンドについてはどのようにみられていますか。

Chen氏 アイソレータの主な用途市場である産業分野、自動車分野、医療分野のいずれにおいても、アイソレータの必要性は増していく。その背景には「インテリジェントエッジ」というトレンドが共通して存在するからだ。

 ご存じの通り分野を問わず、さまざまな機器はクラウドコンピュータ(以下、クラウド)に接続されインテリジェント化が進んできた。その一方で、クラウドで処理するデータ量は膨大になり、通信量が増大し、処理に時間を要することなどが課題になっている。自動運転システムなどは、低遅延でリアルタイム処理が不可欠であり、クラウドだけに処理を頼るのではなく、エッジの機器自身が一定のコンピューティング能力を持つインテリジェント化していかなければならなくなってきている。こうしたエッジ機器のインテリジェント化、インテリジェントエッジが進んでいけば、さらに多くのセンサーでフィジカルデータを取り込み、処理ができるようになっていく。エッジ機器が搭載するセンサー数が増えれば、その分だけ絶縁、アイソレーションを行う必要性は高まる。集積性が高く省サイズで、消費電力が低く、高速性能に優れるデジタルアイソレータの重要性はますます高まるだろう。


インテリジェントエッジにおけるデバイス構成例。センサー/アクチュエータとエッジプロセッサ、エッジプロセッサと各種インタフェースの間には絶縁が不可欠であり、機器に使用されるデジタルアイソレータの数は増大する[クリックで拡大] 出所:アナログ・デバイセズ

目指すは「誰でも簡単に使えるデジタルアイソレータ」

――今後の開発方針について教えてください。

Chen氏 マルチインタフェースを実現しているものの、PCI Expressや、DisplayPort、USB3.0対応などはまだ実現できておらず、そのためにはさらなる高速化を実現する必要もある。産業や自動車などでは高耐圧化も進んでおり、堅ろう性を高めていく必要もあるだろう。機能、性能、堅ろう性などあらゆる面で進化する余地はあり、当然ながらそうした基本的な開発を継続していく。

 そして基本的な開発とともに「誰でも簡単に使えるデジタルアイソレータ」を実現していきたいと考えている。

 アナログ・デバイセズ全社のミッションとして、製品単体ではなく、さまざまな製品やソフトウェアを組み合わせて、お客さまが抱えるさまざまな課題を解決するソリューションを提供することを掲げている。そうしたソリューションの一つにソフトウェア無線(Software Defined Radio:SDR)がある。ソフトウェアでシステム機能を変更できるRFソリューションとして、定着している。仮にデジタルアイソレータでも、SDRのようにソフトウェアで機能や性能を調整できるようになれば、ソフトウェアエンジニアでもより簡単に扱えるようになるだろう。まだまだ開発中であり、詳細は申し上げられないが、ハード/ソフトを問わず柔軟な発想で、誰でも簡単に使えるデジタルアイソレータを目指していく。

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提供:アナログ・デバイセズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2023年1月23日

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