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半導体の原版を刻む「50万本の電子ビーム」――描画と検査、両輪の革新半導体製造の源流を担う

日常生活や社会の発展に不可欠な半導体。その半導体を「源流」で支えるのがニューフレアテクノロジーだ。同社は、ガラス基板上に微細な回路パターンを超高速で描画する電子ビームマスク描画装置の世界市場で高いシェアを持つ。何事も諦めないエンジニアたちが電子工学や機械工学、情報処理技術、光学、化学といったあらゆる高度な技術を結集し、半導体の進化を加速する半導体製造装置の開発に挑み続けている。

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50万本の電子ビームを高速制御 半導体の「原版」を作る

 あらゆる電子機器に搭載され、人々の日常生活に欠かせない半導体。近年はAIの台頭などでもその重要性はさらに増し、半導体のニュースを見ない日が少ないほどだ。半導体は設計から製造まで、多くの年月を要する。サプライチェーンも広く、複雑だ。その半導体サプライチェーンの「源流」をしっかりと支える日本企業がある。ニューフレアテクノロジーだ。

 ニューフレアテクノロジーは、2002年に東芝機械の半導体製造装置事業部を分社化して誕生した。2007年のJASDAQ上場を経て、2020年には非上場化し東芝グループの完全子会社になっている。

 同社の中核製品は電子ビームマスク描画装置だ。1998年に、電子ビームマスク描画装置として高加速電圧50kVの商用機「EBM-3000」を発売して以来、10世代以上にわたり開発を重ね、半導体デバイスの進化を支え続けている。さらに、マスク描画装置で作成したフォトマスクのパターン検査を行うマスク検査装置、またパワー半導体の材料である炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などの薄膜を成長させるエピタキシャル成長装置も手掛ける。

 半導体の製造では、まず回路パターンを設計し、それを石英基板上に製膜されたクロム薄膜層に描画する。これがフォトマスクだ。露光機に搭載されたフォトマスクを通過した光がシリコンウエハー上に次々と回路を転写することで半導体が量産されていく。フォトマスクは、半導体のリソグラフィー工程に用いる回路パターンの「原版」であり、半導体の製造工程において不可欠な役割を担っている。そのフォトマスクを製造するうえでパターン生成という重要な役割を担っているのが電子ビームマスク描画装置であり、それを作っているのがニューフレアテクノロジーだ。

 電子ビームマスク描画装置は、ナノメートルオーダーという高性能なパターニング技術を持つ精密な装置であり、微細な回路パターンを極めて高い精度で描画することが可能だ。この高い精度について、ニューフレアテクノロジー 代表取締役社長の高松潤氏は「月面から地球上のゴルフ場へ、毎秒2000万回以上ホールインワンさせる動作を10〜20時間続ける程」と例える。最新のマスク描画装置「MBM-4000」は、A14ノード(ナノの10分の1となるオングストローム世代)のフォトマスク量産に対応し、50万本以上もの電子ビーム(マルチビーム)を、一本一本、高速かつ高精度に制御して、回路パターンを描画する。

※「MBM」はニューフレアテクノロジーの登録商標です。

ニューフレアテクノロジー 代表取締役社長 高松潤氏
ニューフレアテクノロジー 代表取締役社長 高松潤氏

 ニューフレアテクノロジーの取締役 描画装置統括部長である齊藤匡人氏は「フォトマスクはとにかく間違いのないように作る必要がある」と述べる。フォトマスクの回路パターンに欠陥があると、それはそのまま半導体デバイスの欠陥につながるからだ。非常に責任が重く、影響も大きい装置といえる。

 一方のマスク検査装置は、その名の通り、フォトマスクに描画された回路パターンに欠陥がないかどうかを高精度かつ高速に検査する装置である。マスクの透過像と反射像を同時に取得する高解像光学系と、取得した画像から欠陥をリアルタイムで検出する並列検査処理システムを導入し、高感度化と検査時間の短縮を実現している。上述した通り、フォトマスクの欠陥は半導体の欠陥に直結する。そのため高精度に検査することが重要だが、半導体の性能や品質を左右する「真の欠陥」であるかどうかを判断する必要もある。ニューフレアテクノロジー 検査装置技術部長の礒部学氏は「高精度に検出した『違い』を適切な判定基準で欠陥判定する処理が重要。そのためにディープラーニングなどの新しい技術が必要となってくる」と説明する。フォトマスクの「真の欠陥」は確実に検出し、「真の欠陥」にはならない、「最終製品にとっては無視できる欠陥」は排除することで、フォトマスク製造の歩留まりを低下させない、というバランスが不可欠なのだ。

マルチ電子ビームマスク描画装置「MBM-4000」 提供:ニューフレアテクノロジー
マルチ電子ビームマスク描画装置「MBM-4000」 提供:ニューフレアテクノロジー
マスク検査装置「NPI-8000」 提供:ニューフレアテクノロジー
マスク検査装置「NPI-8000」 提供:ニューフレアテクノロジー

半導体産業の競争力を支える要

 ニューフレアテクノロジーの電子ビームマスク描画装置は世界市場において高いシェアを誇る。半導体製造の「心臓部」に相当する装置で高い世界シェアを持っていることは、日本にとって極めて重要だ。高松氏は「地政学リスクや経済安全保障を担保する存在として、半導体は今や重要かつ不可欠な存在になっている。日本がマスク描画装置分野で高い技術力を持っているということは、産業競争力の維持にとどまらず、サプライチェーンの安定性や技術主権の確保にもつながる」と強調する。

 「さらに、日本で装置を開発し、製造していることにも価値がある。日本には優れた部品メーカーが多い。マスク描画装置には、高精度のメカニカル機械制御、アナログ的電気制御や電子光学系技術、テラバイト級の膨大な回路パターンデータを処理する技術など、難易度の高いさまざまな技術が必要になる。高い要求に応える優れた部品メーカーがある日本だからこそ、その技術の粋を結集し、装置を開発し製造できる」(高松氏)

描画装置と検査装置、「両輪」を活かす

 半導体産業における競争力の源を支えるニューフレアテクノロジーには、もう一つ大きな強みがある。それが、マスク描画装置とマスク検査装置の両方を手掛けていることだ。実は、このようなメーカーは世界にほとんどない。だが両方の技術を持つメリットは大きい。

ニューフレアテクノロジー 取締役 描画装置統括部長 齊藤匡人氏
ニューフレアテクノロジー 取締役 描画装置統括部長 齊藤匡人氏

 開発面では、描画精度と検査能力のバランスを追求しやすい。マスク描画装置は高精度な装置だが、回路パターンを100%正確に描くことは非常に難しい。繊細な装置なので、振動や室温など外部要因から影響を受けることもある。「マスク(原版)を作ることは浮世絵の版木を彫るようなもの。微細な回路パターンを描く中、線を彫りすぎたり線がずれたりすることがある。時折発生するそうした“間違い”を、自社のマスク検査装置ですぐに検証できることは大きなメリットだ」(齊藤氏)。描画装置統括部 描画装置企画室長の西村理恵子氏は「描画装置開発を担当するわれわれも、検査装置開発チームと議論することで初めて得られる情報や知見がある。描画装置だけの開発だと、どうしても仕様のみに着目しがちだが、両方の開発チームがいることで、検査まで見据えた、より広い視野を持てる。大いに刺激を受けている」と付け加える。

 加えて、どちらも精密な制御が必要になるので、マスク搬送用ステージなど共通で使える技術もある。共通の技術を装置のプラットフォームとして活用すれば、装置開発の効率を高められる。さらに、保守要員の人数も抑えられるというメリットもある。

 顧客視点の利点としてはデータフォーマットの共通化など使い勝手の向上やコストダウンが挙げられる。「マスクはデータをベースに作っていくので、同じフォーマットのデータで描画も検査もできる。コストを抑えつつマスク製造に進める。装置の付加価値は精度だけではない。顧客にとっての使いやすさも非常に重要な要素だ。こうした使いやすさも、描画と検査、両方のチームが議論することで深く追求できる」(齊藤氏)

半導体の進化を支えるマスク描画/検査装置、中国やインドにもビジネスチャンス

ニューフレアテクノロジー 検査装置技術部長 礒部学氏
ニューフレアテクノロジー 検査装置技術部長 礒部学氏

 昨今は生成AIの爆発的な普及などにより、半導体にはさらなる進化が求められている。最先端の半導体製造には、極端紫外線(EUV)露光装置など、従来の露光機とは大きく異なる技術を用いた最新の装置が必要だ。EUV露光装置用のフォトマスクも、描画や検査はこれまでと大きく異なってくる。「最先端の半導体デバイス製造用フォトマスクに使われるマルチビーム描画装置で、性能をしっかりと出していく」(齊藤氏)。検査装置については「まずは実績を積みたい」と礒部氏は語る。「マスク検査装置に求められる機能は基本的に変わらないが、導入してもらうには市場実績がなければ難しいからだ」(同氏)

 そうした中で、ニューフレアテクノロジーが次なるビジネスチャンスととらえているのが中国やインドだ。近年、中国では半導体デバイスメーカーに加え、半導体製造装置メーカーも台頭し始めている。だが、マスク描画装置は、そもそもニッチ市場な上に、極めて高度な技術が必要になるので参入障壁が高いため、新たなプレイヤーが容易にシェアを獲得できる領域ではない。それ故、ニューフレアテクノロジーは新興市場に勝機があるとみる。高松氏は「どちらも国を挙げて半導体振興政策を強化しており、われわれもそのチャンスをなんとしても活かしていきたい」と言い切る。中国には現在、マスクショップ(フォトマスク製造メーカー)が多数誕生している。コロナ禍前はほんの数社だったが、現在は20社を超えるほどだ。高松氏はいずれインドでも同様の傾向になるとみている。こうした新興市場であれば、マスク描画装置と検査装置をパッケージとして提案しやすい。「特に、技術としては成熟しているシングルビーム描画装置が売れるのではないか」(高松氏)

「未来を止めない」ために開発を続ける

 ニューフレアテクノロジーは長年にわたり、売上高の10%以上を研究開発に投資してきた。これは製造業の平均を上回る割合だ。旺盛な投資意欲に支えられ、同社では数多くの開発プロジェクトが精力的に進められている。マスク描画装置開発チームと検査装置開発チームの間では、活発な議論もしばしば行われている。

ニューフレアテクノロジー 描画装置統括部 描画装置企画室長 西村理恵子氏
ニューフレアテクノロジー 描画装置統括部 描画装置企画室長 西村理恵子氏

 マスク描画装置や検査装置の開発には、電子工学や機械工学の他にも、レーザーなどの光学技術、真空技術、計測工学、化学、ソフトウェア開発、データ分析など、あらゆる分野の知識が必要だ。「好奇心で動くのがエンジニア」だと語る礒部氏は、「装置は無数の要素を組み合わせて作られる。既存技術の転用もあれば、世の中にはまだない技術を使わなければ実現できないこともある。あらゆる知識を融合し、さまざまな要素に触れられるのは技術者にとって魅力的だ」という。齊藤氏は「自分が開発したものが顧客にどう届いたか、その手応えを直に感じられる面白さがある」と続ける。

 ニューフレアテクノロジーでは若手やキャリア採用の技術者の活躍も多い。礒部氏は印象的な出来事として、検査装置のプロジェクトで、社歴が浅い技術者が提案した欠陥分類アルゴリズムが従来よりも高精度であることが判明し、正式に採用された例を挙げた。西村氏は「バックグラウンドにかかわらず、原因が何かを分析する思考を持っていればいい」と語る。「装置分野では未経験の技術者がデータに対して鋭い指摘を入れ、それが新たな知見につながることも多い」(西村氏)

 西村氏は「常に難問にぶつかり、くじけそうになることも多い。だがわれわれがそこで諦めると、最先端の半導体が作れなくなる。それは、先端半導体で実現できるはずの未来を止めてしまうということだ。未来の社会に向けた進化を止めないために、自分たちの仕事がある」と力を込める。高松氏は「大企業から分社したニューフレアテクノロジーは、ベンチャー的な良い気質、企業風土を持ち続けながら、20年以上たえまなく進化している。自らの活躍で価値を創造することに喜びを見いだせる方と、共に挑戦し続けていきたい」と強調した。

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提供:株式会社ニューフレアテクノロジー
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2025年12月19日

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